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世界樹の下のルル  作者: 井平カイ
第三幕 本国警備兵隊
16/21

誇りと驕り

 山林の頂上付近……そこには、一つの大き目なテントが設置されていた。そこにいるのは院長をはじめとした、学錬院の教官達。それと、警備兵隊の責任者であるグルモント、さらには戻って来たアサギの姿もあった。模擬戦術まで間もなくといったところか。開始は巨大な鐘で知らされることになっており、テント横では既に鐘を突く準備が整っていた。


「――どうやら、うちの連中が無礼を働いたみたいだな。許せよ」


 隣に立つアサギに、グルモントは謝罪した。それに対し、アサギはクスリと笑った。


「なんだ見てたのか……別に構わないよ。将官殿も大変だな。あんな連中を統率しないといけないとはな」


「返す言葉もない。奴らは“誇り”が高くてな。世界中から集められた精鋭だという“誇り”を常に持っているんだ」


「……だが、時にそれは“驕り”となる」


 アサギはさっきまでとは違い、険しい顔で言う。


「……その通りだ。自らの力に自信を持ち過ぎるあまり、向上心を失い他の者を見下してしまう。実戦経験が乏しいからこそ、それを矯正するのが難しくてな」


 それは将官であるグルモントの悩みだった。災厄が来ていない今は、日々鍛錬を積む毎日。その中では実践経験が培われるはずもなく、こうして遠征をするも、結局は自分達が優れていることを実感させてしまうだけに終わってしまう。訓練する意欲も失われ、士気も低下していく。

 平和であるが故のジレンマだった。


「何か、奴らにとってカンフル剤のようなものになり得ることがあればいいのだが……中々そういう機会もなくてな」


「なるほどな……しかし、今回の模擬戦術は、奴らにとって相当な“いい経験”になると思うぞ?」


 沈んだ表情をするグルモントに、アサギは笑いながら話す。それを聞いたグルモントは、すぐにピンと来た。


「……そういえば、さきほど言っていた“おもしろい奴”がいるんだったな」


「まあな。さっそくお前の部下達を挑発してたよ。普通本国警備兵隊を相手に挑発なんてしないだろ? 本当に、見てて飽きないよ」


「……そいつは、もしかして黒髪の少年か?」


 ふと、グルモントはそんなことを聞いてきた。


「ああそうだが……どうして知ってるんだ?」


「いや、おそらくあの少年じゃないかと思ってな……」


 グルモントは、山林の中を顎で指示した。アサギはその方向を注視する。


「……あれは……」


 よく見れば、警備兵隊本陣近くの木の間を飛び回る人物がいた。それに気付いたアサギは、思わず額に手を当てた。その様子を見たグルモントは、すぐにその人物がアサギの話していた“おもしろい奴”――蓮であることを理解した。

 何をしているのか、蓮は木々の間をひたすら飛び回っていた。時々木の枝の上で止まり、かと思えば忙しそうに飛び回る。まるでノミが飛び跳ねるかのように、ひたすらに動き回っていた。


「……確か模擬戦術では、開始前に相手の陣営に近付くことは禁止されていたな」


「あの…バカ……何やってんだか……」


 本来、模擬戦術では開始前に相手陣営を偵察することは禁止されている。平等な勝敗を決するためだった。だがそんなことを知らない蓮は、警備兵隊側の様子を窺うように飛び跳ねていた。

 グルモントは、思わず笑った。


「いやいや、本当におもしろい奴だな。まさか、そんな基本的なルールも知らないとはな」


「すまないグルモント。後で説教しておくよ」


「いやいいんだ。そもそも、注意事項の説明を遮ったのはうちの方だったからな。これもまた驕りの結果だろう」


 そう言いながら、グルモントは少し心が躍るのを実感していた。本当に、あの少年なら何かをしてしまうかもしれない――アサギの言葉を疑っていたわけではないが、無性に蓮に興味が湧いてきていた。


「……そろそろ時間だな。実に楽しみだ―――」




 ◆  ◆  ◆




 そのころ学錬院の各教室では、巨大なモニターが設置されていた。そこには、山林の大まかな地形図が表示されていた。それは全体の流れを見るためのモニター。索敵符により送られてくる情報をそこへ写し出し、参加者は〇点で表示される。間近で見ることなく、模擬戦術の様子を把握出来るものだった。

 そのモニターを見つめる生徒達は、どこかざわついている。模擬戦術中は、だいたいの教官がそのサポートに回るため、担任教官が不在の場合が多い。教官がいない状況で、間もなく始まる模擬戦術を和気藹々と眺める生徒は多かった。

 だが、ここ上逸のとあるクラスでは、一人難しそうな顔でモニターを見つめる生徒がいた。


「………」


 アーシアは耳にかかる髪をかき上げながら、頬杖をついて開始直前のモニターをひたすら眺める。相手は本国警備兵隊。そして対戦するのは修練クラス。普通に考えれば勝ち目なぞない。だがそのクラスには、蓮がいる。アーシアは、以前見かけた蓮と上逸の生徒との喧嘩を思い出していた。

 圧倒的力の差があるはずだった。しかし蓮は、上逸の生徒の攻撃をあっさりと躱し、かつ、爆炎符の一撃を防いでいる。それこそ、傷一つ付くことなく、実に容易く。今回の下馬評では、当然ながら修練がズタボロに敗北することが濃厚視されている。いやむしろ、それが当然なのだろう。だがアーシアは、蓮が何かを仕出かさないかと考えていた。自分の常識が一切通じない未知の人物……アーシアの握る手には、いつの間にか汗が薄らと滲み出していた。




 ◆  ◆  ◆




「―――蓮! 蓮はどこだ!!」


 修練側の本陣側では、ダヴィーが声を上げる。彼は奇襲役である蓮と打ち合わせをするつもりだった。だが気が付けば、蓮の姿がなくなっている。当然その時は蓮は敵本陣の近くにいたのだが……ルールを知る他の生徒達は、まさか敵本陣近くにいるとは思わず、またどこかへサボりに行ったのだろうと半ば諦めかけていた。

 それでもダヴィーは声を上げる。


「蓮! どこに行った!」


「――そんな大声出さなくても、ちゃんといるって……」


 ふと、林の奥から蓮の声が響いてきた。その方向を見ると、草をかき分けながら蓮が歩いて来ていた。ダヴィーは少しばかり安堵する。


「どこに行ってた?」


 蓮はダヴィー達のところに着くなり、その場で肩を回す。


「トイレだよ。別にそれはいいだろ。……それより、開始はまだか?」


「まだだ。今の内にもう一度戦術を……」


「お前ってけっこう真面目なんだな……まあ、それもう必要ないと思うからいいよ」


 蓮の言葉に、ダヴィーは少し驚きを見せた。


「……どういうことだ?」


「別に。そのままの意味だって。――ルル! もう出てきていいぞ!」


 蓮の言葉に、草むらの陰からルルが顔を出す。近くにいた生徒は突然顔を出したルルに驚愕した。ルルはそんな生徒など気にも留めず、そのまま蓮の元へ駆け寄って行った。そして蓮の横に着くなり、くっ付くように横に立つ。


「……蓮くん、ルルさん大丈夫なの?」


 ケントは蓮に近付き、ルルの身を按じた。何しろ彼女は、見るからに動きが鈍い。警備兵隊が攻めてきた時、真っ先に倒されかねない。それならむしろ、どこかで隠れていた方がいいのではと考えていた。

 しかし蓮は、締りのない表情のまま話す。


「大丈夫大丈夫。まあ、ゆっくりしようぜ」


 間もなく警備兵隊が攻めてくるのにこの余裕……なんと緩い人だろう――ケントは呆れるように苦笑いした。しかし当の蓮は、余裕を持て余すように体を伸ばす。一切の心配も不安も見えない。ただ落ち着いて時を待つ。そこまでの余裕を見せられれば、自然と周囲の緊張も少しほぐれていった。


 ――その時、山林に鐘の音が鳴り響いた。


 カンカンカンカン……!!


 まるで警鐘のように断続的に続くそれは、模擬戦術開始の合図。瞬時に緊張が走る。


「――来るぞ! 全員構えろ!」


 ダヴィーの言葉に、生徒達はそれぞれの武器を握り締める。遠くからは、兵士達の雄叫びが聞こえていた。


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