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世界樹の下のルル  作者: 井平カイ
第二幕 学錬院にて
12/21

ルル

 それから、レディア達は教官から事情を聞かれた。いざこざの経緯、符術を使用した理由……様々な質問が飛び交った。だが最終的にケガ人は出ておらず、大事には至ってないことから、そこまで厳重な処分が下りることはなかった。ただ、無許可で学錬院内で符術を使用したレディアに対しては指導がされ、しばらくの間の謹慎処分が言い渡された。

 彼女はそれを受け入れた。下手をすれば死人が出るところだった……そのことは、彼女自身もよく分かっていた。だからこそ、彼女は教官室を出る際、アサギに問いかけた。


「――教官、あの蓮とかいう男はいったい……」


 それを受けたアサギは、笑いながら返す。


「アイツは修練クラスの蓮。――そして、“お前が見たままの奴”だよ」


「………」


 彼女は、それ以上何も言わなかった。聞きもしなかった。……聞きたくなかった。聞けば、彼女の中の常識が覆りそうな気がした。


 一方、処分なしの蓮であったが、アサギから厳しく怒鳴られていた。そして彼には、アサギの個人的な罰として、放課後の校内清掃を言い渡された。無論蓮は猛反発したが、そんなものがアサギに通じるはずもなく、渋々了承する。

 そしてその処分は、彼一人ではなかった―――


「――ああもう! 何で私までこんなことしなくちゃいけないのよ!」


 生徒達が続々と帰宅して行く中、外の草むしりをするアーシアは叫び声を上げた。


「うるせえなぁ……お前、上逸のくせに騒ぎを止めなかったからその罰だってアサギが言ってただろ?」


 気怠そうに草をブチブチと抜きながら蓮が呟く。その言葉にアーシアは立ち上がり、蓮を指さして更に叫んだ。


「またお姉ちゃんを呼び捨てにして!! だいたいアンタが、レディア達にケンカを吹っ掛けるから面倒なことになったんでしょ!?」


「俺はなんもしてねえだろ。ただ話しかけただけ。先に手を出してきたのは向こうだっただろ」


「それもアンタが挑発するからでしょ!?」


「ああもううるせえ……叫ぶ暇があるなら草むしれよ。終わらねえだろ……」


「……ホントムカつく!!」


 鼻息を荒くしながら、アーシアは蓮に背を向けてしゃがみ込む。それから二人して草をむしる。遠くからは他の生徒の談笑する声が聞こえる。黙り込む二人。アーシアは少しだけ気まずさを感じていた。

 その中で、少し落ち着きを取り戻したアーシアは、蓮に気になってたことを訊ねる。


「……ねえアンタ、どうやって爆炎符を避けたの?」


「ああ? 別に避けてねえよ?」


「何言ってんのよ。アンタ無傷だったじゃない」


「いやホントに。あのレディアって奴、かなり正確に俺に符を投げてきてたからな。見事直撃してたぞ」


「直撃したって……それで無傷なはずないでしょ?」


「実際俺は無傷だったろうに……避けたんじゃなくて防いだんだよ」


「防いだって……どうやって?」


「ああ、それはな………うん?」


 その時、蓮は何かに気付いた。そして彼は立ち上がり、右の方を見る。


「ちょっと、気になるじゃない。最後まで説明して………」


 後ろを振り返ったアーシアは、蓮の様子に気が付いた。彼女もまた、蓮が見る方向を見る。その方向には、緑髪の少女が立っていた。


「あの子……」


 二人の視線の中、少女はゆっくりと蓮の方に近付いて行く。そして彼の目の前に移動した時、優しく微笑みを浮かべた。蓮もまた少女に笑みを返す。


「……どうしたんだ? とっくに下校時間になってるぞ?」


「………」


 少女は何も言わずに首を横に振る。やはり言葉は出ない。


「なんだ? 帰らないのか?」


 その言葉に一度頷いた少女は、一人しゃがみ込み、草をむしりはじめた。慌てて蓮は彼女を止める。


「ああいいって。これは俺とアーシアが言われたことだから……だから……ええと……」


 蓮は言葉に詰まった。名前を言いたかったが、結局まだ少女の名前を知らないからだ。座ったまま蓮の様子を見た少女は、少し息を吸い込んだ。


「―――ルル!」


「……へ?」


「………!!」


 少女は、突然口を開いた。蓮は呆然とし、アーシアは驚愕する。


「ルル! ルル!」


 少女は自分の胸に手を当て、必死に蓮に訴えかけた。蓮は徐々に顔を綻ばせ、やがて喜びを隠すことなく現しながらしゃがみ込んだ。


「そっか! ルルって言うのか!」


 少女――ルルは、笑顔で何度も頷く。蓮は何度もルルの名前を呼んだ。

 その光景を見つめるアーシアは複雑な気持ちになっていた。これまで、ルルが自分から話すことなど一切なかった。もちろん、ルルはただ自分の名前を蓮に告げただけである。だとしても、やはりそれもこれまで一度もなかったこと。現にルルはこれまで教官にすら口を開かなかったため、誰一人彼女の名前を知らなかった。それなのに、今は自分の名前を教え、呼ばれながら嬉しそうにしている。それをしたのが蓮。クラスも選別試験も自分より格下の蓮。

 アーシアは蓮を見つめながら考えていた。そもそも、彼は何者なのだろうか。アルマ量を測定した時、確かに一時的にはかなりのアルマ量を計測したが、最終結果はD判定だった。普段はだらけ、やる気は微塵も感じられない。にも関わらず、彼は格上であるはずの上逸生徒の攻撃を躱し、かつ、爆炎符を受けても無傷だった。彼はそれを“防いだ”と言っていた。しかし、アーシアは当然爆炎符の威力を重々知っている。彼女の中の常識では、それを簡単に防ぐなど考えられなかった。それと、蓮のことについて気になることはまだある。それは彼女の姉、アサギの態度だった。アーシアにとってアサギとは、姉であるのはもちろん、尊敬できる教官であった。常に凛々しく、時に厳しく時に優しい。全ての生徒に対し、常に平等に接していた。だが、アサギは蓮を特別扱いしているように見える。……いや、蓮に絶対の信頼を置いている、と言った方がいいだろう。

 突然イークスに現れた少年、蓮。彼が来たことで、何かが起ころうとしている―――アーシアは、漠然とした不安を感じていた。

 そんなアーシアの胸騒ぎを知る由もない蓮は、ルルと並び機嫌が良さそうに草を取っていた。ルルもまた、蓮を何度か見ながら、楽しそうに蓮を手伝っていた。



第二幕 完

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