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2/17

地下からの計画

ズターエ王国王都アスハレム。

そこから、遥か北。

ビビラという街に、ソフィアはいた。

より正確には、その地下に。


「まさか、これだけの規模の地下迷宮が拡がっているとはね……」


もしかしたら、街よりも広大なのではないか。


そして、地下迷宮に巣くう、異形の存在。


人ではないそれは無数にいて、様々な形態をしていた。


翼があるものもいれば、鋭い爪や牙があるものもいる。


複眼のものもいれば、角があるものもいる。


共通していることと言えば、戦闘向きにできているということか。


「……こいつらは?」


「聞かなくてもわかるだろう、死神ソフィア? 旧人類が作り出した生物兵器、現在では天使と悪魔と称されているそれだよ」


迷宮を先導するクロイツが言った。


彼が一歩踏み出す度、迫っていた異形の生物が、ただの無惨な肉片に変わる。


彼が痩せた腕を一振りすると、二十ほどの天使と悪魔が、灰燼と帰す。


「私が聞きたいのは」


悠然と進むクロイツの背中を、ソフィアは見つめた。


「なんでそれが、わたしたちを襲うのか、ということよ。勝ち目がないとわかっているくせに」


天使も悪魔も、人間程度の知能がある。


敵わない相手に挑むことは、普通はない。


「侵入者を排除するようプログラムされているのだよ。彼らは、この奥にある、制御装置のガーディアンだ。まあ、存在が消滅してしまう危険を冒してでも、守護しようとする価値は、あると思うよ」


「制御装置?」


「飛空艇、という表現が適切かどうかわからないが。なにせ、島と見間違うほどの巨大な設備だからな。それの、制御装置だよ」


「……そんなもの、どうするつもり?」


「私たちの、新しい家にしようと思ってね。必要だろう?」


クロイツの声の調子が、いつもよりも少し明るい。

ソフィアは、それに気付いた。

足取りも軽やかだった。


「……機嫌いいわね」


「いい。ここにいる間は、雨に降られても影響ないからな」


「……」


地下迷宮は、透明な壁のような力場に囲まれていた。


それのお蔭で、雨水が流入することはない。


ビビラの街が壊滅しても、地下迷宮の天井が崩落することはないだろう。


ソフィアに原理は理解できないが、クロイツの解析によると、一般人では地下迷宮の存在を認識することもできないという。


「間もなく制御装置だ。……少しばかり、数が多いな」


天使と悪魔。

数え切れないほどの異形の群れ。


「手伝う?」


「必要ない」


クロイツが手を上げた。

呟くように、魔法を口にする。


「イ・グラン・イーツァ」


発生した闇が、影が、暗い地下で渦を巻くように蠢き、異形の存在を喰らい壊していく。


一分ほどか、闇は地下を蹂躙し続けた。

後に残るは、無惨な骸のみ。


さすがに疲れたのか、クロイツは肩を落とした。


「ようやく到着だ……」


異形の残骸を踏み砕き、制御装置の前へと立つ。


グランドピアノほどの大きさの、箱状の機械。


盤の上には、いくつもの突起が並んでいた。


そして、教室の黒板ほどの画面が、三枚宙に浮いている。


クロイツが、慣れた手つきで突起を叩いていく。


画面に、古代語が浮かび上がった。


「やはり……難解だな……」


クロイツは、少し息を切らしていた。


「……もしかして、魔力使い果たしちゃった?」


「ああ」


「帰り、どうするのよ?」


「何ヶ月も先の話だ」


ソフィアは、眉根を寄せた。


「……何ヶ月?」


「装置を解析するのに、半年はかかるだろう。実際に起動させるとなると、一年か二年か……」


「……」


「解析中、私はほぼ無防備になるだろう。その間も、天使と悪魔の妨害がある」


「……ねえ。まさかわたしを連れてきた理由って……」


「私の護衛をして欲しい」


なんてことを頼んでくるのか。

半年か、あるいは何年か、この陰気な地下迷宮で、この男を守れと。


「……頭痛くなってきたわ」


「君にしか頼めないことなのだよ」


「ザイアムがいるわ」


多くのメンバーを抱える『コミュニティ』の中でも、最強の男。

組織を束ねる三人の内の一人。


ソフィアとクロイツ、そしてザイアムが『コミュニティ』を掌握していた。


「確かにザイアムは、君と並んで、『コミュニティ』でも最強の存在だ。だが私は、彼のことをあまり信用していない」


「あら、そう……」


「頼むよ、ソフィア」


「……はぁ……」


肺が空っぽになるほど、ソフィアは深い溜息をついた。


「もっと事前に言ってくれれば、心の準備もできたのにね……」


「時間がなくてね。そして、今しかないのだよ」


「今しか?」


「ストラームに、次の器となるハウザードの存在を知らせた。彼は、ハウザードを消そうと躍起になっていることだろう。エスには、ズィニアの脅威を教えた。彼は、ズィニアを警戒している」


ハウザードもズィニアも、ズターエ王国王都アスハレムにいる。


「ストラームとエス。二人は今、私たちを注視していない。事を進めるなら、今だ」


話している間も、クロイツはずっと指を動かしていた。


突起が叩かれるたび、画面の文字列が流れていく。


「機を逸したくないわけね。用意周到なことで」


皮肉の一つくらい、口にしていいだろう。


又とない機会、そして、ソフィアにしかできないこと。


だから、クロイツの頼みを断ることはできない。


ふと、クロイツが指を止めた。


「……実は、不安要素がある。彼にも、手を打っておきたかった。だが、なにも思いつかなかった」


「彼?」


「ドラウ・パーター」


ソフィアにとっては意外な人物を、クロイツは上げた。


世界最高との呼び声が高い魔法使い。


だが、ソフィアは知っている。

真に最高の魔法使いは、クロイツであるということを。


ドラウ・パーターは、確かに素晴らしい魔法使いではあるが、所詮それまでの男だった。


ストラームなどと比べると、いかにも小さい。


「警戒するほどでもないと思うけどね……」


「それは、彼を過小評価しすぎだな」


クロイツは、強い口調で断言した。

真剣な面持ちである。


「彼は、どこにでもいる平凡な天才に過ぎないはずだった。ストラームのように、生まれながらにして、世界最強となることが決まっていたわけでも、エスのように人間をやめたわけでもない」


クロイツが、また指を働かし始めた。


「それにも拘わらず、彼は工夫と努力を重ね、ストラームと並ぶ高みまで昇った。だから私は、ストラームやエスよりも、ドラウ・パーターを評価している」


「……」


(そうかしら……?)


ソフィアには、いまいち同意できないことだった。


ストラームと戦うことになっても、おそらく勝てない。


だが、ドラウ・パーターが相手だとしたら、これは勝てる。


殺害手段がいくらでも思い浮かぶ。


「だが、幸いなことに、彼にとっては不幸なことに、彼は病を患っている。それほど長い時間は残っていまい」


「ふぅん……」


初耳だった。

ソフィアは、ドラウ・パーターに興味を持っていない。


「ま、いいわ」


ソフィアは、武器を転送させた。

長大な死神の鎌。


無数の気配が、ソフィアたちを包囲していた。


「お喋りはここまでね。守ってあげるわよ。これは、貸しだからね」


「感謝する」


ソフィアが作り出した結界が、クロイツと制御装置を覆った。


襲いくる、異形の生物。

大鎌を振るい、魔法を放ち、ソフィアは打ち倒していった。


一掃するが、三十分ほどすると、新たな気配が湧く。


(……これを、ずっと続けるわけ……)


半年は長い。

どれほどの数を、相手することになるのか。


食事や排泄は、合間に済ませるしかないのか。


睡眠を取る暇があるか、疑わしい。


風呂はどうするか。

長距離転移で街の宿と地下迷宮を行き来するしかないのか。


とんでもない役目を与えられたものだ。


「まったく……」


ソフィアは大鎌を空振りさせてから、構え直した。


ゆっくり愚痴を言っている場合ではない。


死神として、ソフィアは天使と悪魔の命を刈っていった。


◇◆◇◆◇◆◇◆


七百年ほど前に、一年もの間、一切の戦争がなかった年があった。


その後六年間も、国同士の摩擦はあったが、本格的な戦争はなかった。


『フォンロッド・テスターの七年間』と呼ばれる時期。


長い人類の歴史からすると、束の間かもしれない。


だが確かに、その七年間は平和といえた。

平和を、みなが謳歌していた。


平和をもたらしたのが、フォンロッド・テスター。

彼は、ズターエ王国の宰相だった。


戦争が繰り返される大陸の有様を憂い、平和を望み、三年かけて各国を回り、王に謁見を求めた。


そして、当時は新興国であったズターエ王国に、各国の代表者が集い、平和条約が結ばれることになる。


この功績により、彼は今では神格化されて扱われていた。


ということは、現在行われているこれは、神を崇めるような行為となるのか。


(くだらないな……)


それが、ハウザードの率直な感想だった。


七年に一度、ここズターエ王国王都アスハレムに、大陸八王国の要人が集まり、平和のための講和が行われる。


大いに結構なことだろう。

いくらでも、『フォンロッド・テスター条約』と呼ばれる平和条約を結べばいいのだ。


だが、儀式張ったことは不要としか思えない。


フォンロッド・テスターは、世界中を回った。


その旅の行路を、アスハレムの街の規模に縮小し、準える。


アスハレムに設けられた要所を、二週間かけて回るのだ。


フォンロッド・テスターの思想に、万人が賛同したわけではなかった。


時に命を狙われ、馬を失い徒歩で移動することもあった。


そのため、現在の儀式でも、要所に徒歩で向かわなくてはならない時がある。


この真夏の炎天下を、無駄に飾り立てられた儀式用の礼服に身を包み、何キロと歩かされる。


(実にくだらない……)


とはいえ、ハウザードにとっては大して苦でもなかった。


自身の周囲に微弱な冷気を発生させて、暑さは和らげている。


魔法使いとして並程度の制御力があれば、温度の微調整は容易なことだった。


重たい礼服も、重力を中和しているので、肩が凝ることはない。


歩くことも、以前ドラウ・パーターに師事していた頃に、彼の旅に同行していたことにより、慣れている。


辛いのではない。

ただ、無駄なことだと思う。


そして、最もくだらないと感じさせるのが、平和について話し合われる場で、戦争の取り決めがなされることだ。


例えば、停戦となったら、捕虜がいかなる身分の者であれ必ず解放すること。


例えば、開戦宣言から百日間は、魔法使いを戦場に投入しない、といった取り決め。


戦争の犠牲を減らすため、泥沼化を避けるための約束事だとは理解できる。


だがそれが、平和条約が結ばれる場で決められるということは、平和が仮初めであると口外しているようなものではないか。


「怠いよなぁ……」


隣のズィニアが、汗を垂れ流しながら唸った。


儀式に参加している間、ズィニアの口からは不平ばかり出る。


ハウザードは、ドニック王国の宮廷魔術師の一人だった。


儀式には、もちろんドニック王国からの使節団の一員として参加している。


ズィニアは、ハウザードの護衛として側にいた。


嘘となるが、いかなる手練手管を用いて他の使節団メンバーを言いくるめたのか。


金でも握らせたのかもしれない。


みなが儀式用の礼服にも拘わらず、ズィニアだけは平服だった。


そのため、一人だけ異様に浮いている。


それでも、ズィニアはいつも通り堂々としていた。


クロイツやソフィアといった得体の知れない猛者の前でも、彼は萎縮することがない。


ズィニアのことは、よく知っている。


性格が合うわけではないが、友人と言っていいだろう。

そして、認め合っていた。


それはおそらく、置かれた境遇が似ているから。


ズィニアは、『コミュニティ』にとって重要な戦闘者であろうとしている。


そのために、七百年以上の戦闘の知識と技術を脳に刷り込ませた。

加えて、薬物による身体強化。


過度の強化実験により、その寿命はもう十年と残っていないはずだ。


それでも、悲壮感などは一切見せない。


ハウザードも、近い将来に、その身をルインクロードの器として捧げることが決まっていた。


肉体は残っても、ハウザードとしての精神は失われる。


それは、ハウザード個人の死に等しい。


ズィニアとは、組織のために死ぬ者同士。


だからこそ、分かち合えるものがある。


「なあ、ハウザード……」


「オーバ」


何度目の訂正となるのか。


オーバ・レセンブラ。

それが、ドニック王国宮廷魔術師としてのハウザードの名前だった。


何度告げても、ズィニアは覚えてくれない。


周囲の眼もお構いなしに、ハウザードと呼ぶ。


「言うの忘れてたんだけどよ、お前の妹にあったぜ」


「ユファは、妹ではない。世話になった人の孫だ」


「そうかい。まあ、知ってるけどよ」


言うと、ズィニアは左耳の古傷を弄りだした。


「近くで見てはいないが、それでもわかった。いい女だな。正直そそられた」


「ユファは、まだ子供だ」


そう、まだ子供なのだ。

それなのに、なぜ保護者であるドラウの元から離れたのか。


ハウザードのことを捜してくれていることは知っている。


危険すぎる旅だった。

ドラウは、止めなかったのだろうか。


ドラウの元にいれば、彼が生きている間は、一応は安全なはずだったのに。


(ユファ……)


師だった男の孫娘。

兄と呼んでくれた、妹のような存在。


いつも笑顔で、ハウザードに接してくれた。


「ズィニア。ユファは……」


言葉に詰まる。


なにかを言いたい。


だが、うまく言葉をまとめられない。


「……なんだ?」


「……いや。なんでもない」


なにも考えずに話すと、女々しいことを言ってしまいそうだった。


だから、ハウザードは口をつぐんだ。


厳かに、行列は進む。

だが、周囲は野次馬で騒がしかった。


七年に一度行われてきた平和のための儀式。

前回と前々回は中止となった。

今回、順調に平和条約が結ばれれば、実に二十一年ぶりとなる。


「……おい」


ズィニアが、ハウザードだけに聞こえるくらいの小声で、注意を促してきた。


休憩中だった。近付いてくる者がいる。

中肉中背、尖った顎を髭で隠した、中年の男だった。


ハウザードと同じく儀式用の礼服を着ている。


胸にある紋章は、湖畔を背後にした森。


ズターエ王国の紋章だった。


「ドニック王国宮廷魔術師、オーバ・レセンブラ殿」


掠れた声で、ハウザードの偽名を口にする。


「あなたは、ズターエ王国の……」


名前までは知らない。

ただ、ズターエ王国からの儀式の参加者だとは記憶にあった。


「申し遅れました。ズターエ王国宮廷魔術師が一人、ラシィ・マコルと申します。こうしてあなたと話すのは、初めてとなりますな」


穏やかな表情で、手を差し出す。

ハウザードは、その手を握り返した。


「それで、マコル殿。私に、なにか御用でしょうか?」


「いえいえ。休憩の最中に、みなさんの様子を見て回っておりましてね。なにしろ、ここは我らが国。みなさんになにか失礼がないかと、気が気ではありません」


「なにも問題はないでしょう。ズターエ王国は、条約の盟主として、立派に務めを果たしているかと」


「そうでしょうか?」


ラシィが薄く笑った。

どこか、暗い眼をしている。

ハウザードにはそう見えた。


「七年前と十四年前、何故『フォンロッド・テスター条約』が結ばれなかったか、ご存知でしょう?」


「それは……」


ズターエ王国の前王ミド・アラエルの在位は、わずか一年。

その間、悪政の限りを尽くした。


民を殺害して金品を奪い、若く美しい娘は城へと連れ去られた。


反乱を犯した地は焦土と化し、残虐な処刑が行われた。


諌言した臣下は捕らえられ、毎日冗談のように人が死に、血が流れたという。


魔王、暴君と呼ばれた王。


現国王、当時は将軍であったサバラ・ブルエスは、国民を憂い反乱を起こし、それに各地が呼応した。


ミド・アラエルは捕らえられ、処刑されることになる。


そして、サバラ・ブルエスが王に即位することになった。


以来その治世が、二十年続いている。


ここズターエ王国では、英雄とされている王。


だがブルエス王は、しばらく他国に認められることはなかった。


民衆に望まれて王位に即いたが、禅譲ではない。


反乱を起こし簒奪したと捉えることもできる。


と言うよりも、他国が簒奪したと言い募り、ズターエ王国に介入しようとした。


「二十一年ぶりに結ばれる、『フォンロッド・テスター条約』には、これまで以上の重要な意味があるのですよ」


「そうでしょうな」


ハウザードは同意した。


他国の要人が揃い平和条約が結ばれる。


それは、ブルエスがズターエ王国の王だと、世界中に認められることに他ならない。


「ところで、話は変わりますが、レセンブラ殿は『コミュニティ』という組織をご存知ですかな?」


不意の質問だった。

ラシィ・マコルが、眼を光らせたような気がする。


「多少は、存じ上げておりますよ。マコル殿」


平静は装えた。

不審には思われないはず。


「とてつもなく巨大な組織のようです。その全貌は見えません。そして、どの国家にも、構成員を潜り込ませているようです。このズターエ王国にも、あなた方のドニック王国にも……」


「興味深いお話ですな」


探るようなラシィの物言い。

ハウザードの正体を掴んでいるのか、疑っているのか。


「王は、『コミュニティ』を大変警戒されておりましてな。巨大な裏の組織らしく、大きなことを企んでいるのではないかと」


「……ほう。例えば?」


ラシィの意図が読めない。

探り合うつもりで、ハウザードは先を促した。


「そこまではわかりかねますな。なにしろ、謎の多い組織ですから。ただ……」


「ただ?」


「平和条約を結んだ後、ズターエは、『コミュニティ』についての対策を講じるべきだと提案するつもりです」


「……」


「謎の組織が、世界各国の政府に力を浸透させている。由々しき事態だとは思いませんか?」


「そうかもしれませんな」


ズィニアが、眼を細めていた。

さすがに、殺気は放っていないが。


「さて、もし『コミュニティ』が我々の思惑を知ったら、かの組織はなにか動きを見せますかな?」


そう言い残し、ラシィ・マコルは去っていった。


「……どう思う、ズィニア?」


「普通に考えれば探りだが、それにしては向こうの情報を知らせ過ぎな気がするな」


ハウザードが抱いた感想と同じだった。


「……もしかしたら、かなり深い所まで、俺たちのことを掴んでいるかもしれないぜ?」


「なぜ、そう思う?」


「『コミュニティ』が動くかどうか、気にしていただろ? 地下から指令だ」


「クロイツ?」


現在は、ここアスハレムの北、ビビラの街の地下迷宮で、ソフィアと共にいるはずだ。


「平和条約が結ばれるのを、阻止するために動いているメンバーがいる。頼まれたら、協力してやってくれだと。ハウザード、お前の力を借りてもいいってな」


「オーバ・レセンブラだ」


訂正して、ハウザードは地を見つめた。


大きな目的のために、小さな混乱を起こす。


クロイツやソフィアが好むやり方だった。


今回は、アスハレムで起きる出来事が小さな混乱に当たるのか。


それを、ラシィ・マコルは感付いているのか。


あるいは、クロイツのことを知っているのか。


いや、クロイツがそんな失敗を犯すはずがない。


(まさか……)


思い付くことがあった。


「気になるなら、ラシィって奴、消しとくか?」


飛躍したことを言うズィニアに、ハウザードは苦笑した。


「やめておこう」


ラシィ・マコルの正体が、わかった気がした。


ただし、まるっきり見当違いの可能性も高い。


そして、もし予想が当たっていたら、それはハウザードが、クロイツに信用されていないということだった。



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