Last Mission 3
ミッションにおけるスラングとして“地点Bポイント”と称していた場所は、霞ヶ関駅の中にある。駅構内の中でも特に人目をはばかった場所で、駅員しか知らない“開かずの扉”と呼ばれて封印されている扉をBポイントとした。それは地下へ続く通路の導入口になっている。
時刻一二〇〇、キースの数歩前で、YOUが駅長に偽の警察手帳を掲示してその扉を開けさせた。
「極秘捜査へのご協力、ありがとうございます。検証が終わったら神田経路の担当へ開錠の指示を出すので、ここは施錠をお願いします」
キースは無言を保ちながら、心の中で流暢な日本語で語る中国人に舌を巻いた。YOUと違いキースの方は、ないものをあると見せ掛けるなどという神経を使うことが面倒くさくて、打ち合わせた“極秘任務”とやらの内容をひとつも覚えていなかった。
「はい。わかりました」
とYOUに答えた駅長は、彼女の後ろで終始無言を貫いているキースに不審を抱いたのだろう。何度もこちらをチラチラと盗み見ていた。
「さて」
YOUは駅長の靴音が施錠された扉から遠ざかったのを確認すると、ようやく扉に背を向けた。いかにも、という格好を隠すために纏っていたコートを邪魔そうに脱ぎ捨てる。黒のタートルネックに同色のノースリーブブルゾン。ブルゾンに見えるそれに詰められているのは、羽毛ではなく防弾繊維だ。そしてYOUだけは、レッグラインがはっきりと浮き出るスキニースタイルのパンツと、膝までを守るセミロングのブーツを着用していた。もちろん、靴底には鉄板が、すねの部分には形状記憶合板が仕込まれている。慰め程度の防御アイテムだ。
(絶対防御があるくせに、仰々しいヤツだな)
キースは呆れ混じりにそんな批評を思い浮かべながら、自分も動きを鈍らせるコートを脱いで腰に縛り付けた。うっとうしい黒髪のウィッグはもう不要なので不法投棄する。どうせここには、基本的に誰も入って来やしない。ウィッグの中が窮屈だったと誇示するように、銀の川が薄暗い空間に広がった。蒸れた頭にほどよい通気を促そうと数回頭を強く振ると、不快感がかなり軽減された。再び髪をヘアゴムで束ねる。気持ちも髪と一緒に引き締め、無駄な拡散で集中力を欠かないよう自分を戒めた。
「オーケイ。行くか」
「はい。急ぎましょう」
ふたつの靴音が足早に隠し扉の前から遠ざかっていった。
キースとYOUの実験室への突入は一三〇〇時。残り時間は五十分を切った。まずは東京湾に通じる道を辿った。キースは錐のように細い《流》の糸を作り、行き止まりになった壁に小さな孔を開けた。じわりと水が滲み出し、簡易で作られていた地下通路に細い道を作り始める。
「これ以上でかい孔にすると、水圧が壁を壊す。緊急時や仕上げのときにでかくするから、呼び水としてはこの程度でどうにかなりそうか?」
土が剥き出しになっている荒い路面に滲みた海水で遊んでいるかのように水の糸をもてあそんでいるYOUに問い掛けた。
「ええ。よく言うことを聞いてくれるわ。誘い水に充分よ。思っていた以上に時間が押しているわね。さっさと次へ移りましょうか」
第一任務、終了。すでに一二三〇を数分過ぎていた。
元来た道を途中から旧本庁方面へと急降下して、狭い通路を歩く。
「あ?」
キースは不意に鼻を突く異臭に気づき、思わずそんな声を漏らした。
「キース? 由有の思念をキャッチ出来たの?」
期待に満ちたYOUの瞳がキースの顔を見た途端、失望と不安の色に変わった。期待に添えないダメ押しの状況報告を口にする。
「いや。おとといと、この辺りの“気”が全然違う」
そう口にした声が重い。自然と目的地へ視線が向かう。同時に頬が引き攣れた。まだ誰の思念も《送》では感じられない。だが、キースの研ぎ澄まされた嗅覚と過酷な生い立ちで得た実経験が、その臭いを“ヤバい”と判断させた。
「ものすごい量の死臭がする」
「シシュウ?」
「血の臭いと腐った臭い」
「……死体」
「イエス」
そんな断片的なやり取りが交わされる間に、キースはYOUの身体を抱き上げる。
「跳んだ方が早い。頭ぶつけても我慢しろ」
狭いのでジャンプはかなり厳しいが、そうも言ってはいられない状況のようだ。YOUへ打診する一方で二跳躍、恐らくこれで三分の一は進むことが出来たと思われるが、焦る気持ちがキースに速度を遅く感じさせた。
「個人の特定は出来るの?」
振り落とされまいとするYOUから耳許へ届けられた問いに、小さく頷く。同時に大きく左へ迂回する。壁を蹴って、分岐をほぼ九十度角の下を目指し、更に遠く、そして深くまで跳んだ。
「きゃ」
「もうちっとだけ我慢しろ」
落とし穴のような急勾配に差し掛かったこのルートなら、跳躍よりも《流》に乗って滑降する方が早い。
「初めて感じるオーラを今確認した」
「オーラ?」
一気に数十メートル下降するに等しい中で、鼓膜に走る痛みを堪えながら、YOUに掻い摘んだ説明を試みる。
「ああ、それも、二種類」
実験室のある階層と同じ地盤レベルに辿り着き、ようやく平坦なルートまで進んで来れた。取り敢えず担ぎ上げていたYOUを地面に下ろす。
「どういうこと?」
と問うYOUの声は、すでに解っているようにさえ見えた。
「あったけえ、パステルカラーのピンクがひとつ。もうひとつが」
と言い掛けた言葉が途中でとまった。
(お……こいつは……やっべ!)
思ったときには、再びYOUを抱いて後退の跳躍を済ませていた。
「きゃっ、何」
真上から来た道を一瞬戻る格好だ。YOUの問いに答える必要はなかった。ふたりの足許を音速で深緑の《流》が走り抜けて行った。
「これは」
「GINの、《流》、よね」
――まさか。
元の場所に着地したふたりは、同時に不安な瞳をかち合わせた。キースがいち早く行動に移った。YOUを実験室方面とは逆の位置に退避させ、かまいたちで通路の壁に新たな壁を作る。GINのそれよりも少し青み掛かった《流》の閃光が間口の狭い簡易の小部屋を作った。
「これ、退避場所。次の《流》が来たら、ここへ逃げ込め。さっきの《流》が海まで届くことはないと思うけど、屈折して上の層を突き破るかも知れない」
「海水が」
「ああ。もし海水がなだれ込んで来たら、ここで食いとめろ。二分。それで来なけりゃ御の字だ。それから実験室へゴーだ。俺はひと足先に行ってGINをとめる」
キースはそう言ってYOUに背を向けジャンプの態勢を取ったが、不意に腰へ感じた振動がそれを阻んだ。腰のホルダーに収めていた携帯電話がキースにコールを知らせていた。
「タイロン。ノームのおっさんからだ」
携帯電話を手に取ったキースは、ディスプレイに記されたコール相手の名を口にした。YOUが声に弾かれキースの傍らに駆け寄った。彼女は周囲へ目を走らせながら、電話の向こうを窺うようにキースの背に自分の背をつけた。
「(ノームのおっさん。今、GINの《流》が目の前を走ってったぞ。そっちで何があった)」
久々の母国語で、同郷の同胞に問い質す。
『(保存されていた脳が《風》の半身ではなく、別人のものだった。隼の保護対象と思われる)』
そう知らせるタイロンの、そこまで憔悴した声を初めて聞いた。きつく奥歯の噛まれたキースの口角から、細くて赤い筋がわずかに滲んだ。
「(ターゲットが先に動いてたのか)」
『(是。我の同属、慈愛の兎も襲撃された模様。オーラが急速に弱まっている。嘆きの鷹よ、我は兎の娘に《癒》を施したい。高潔の隼を主に託してよいか)』
「(RAYが……わかった。こっちもそっちへ行くつもりでいた。ノーム、あんたはRAYの方へ。こっちは一分も掛からない。すぐにゴーだ)」
『(承知)』
用件を終え、通話を切る。待ち兼ねたようにYOUがキースを見上げて来た。
「ターゲットが先に動いた。GINが暴走、RAYがすでに襲撃されてやばいらしい。今、ノームのおっさんがRAYの救助に向かった」
「え」
YOUの顔色が一瞬にして青ざめる。
「私が……間違っていたの?」
唐突な問いにキースは戸惑った。みるみる瞳を潤ませていくYOUになんと答えていいのか解らない。
「何か、思い当たることでもあるのかよ」
逆にそう問い掛けるしかなかった。そう言いたくなるような目をしていた。YOUが何かを悔やんでいるのだけは、キースでもよく解った。キースはまだGINのレベルまで《送》を使いこなせていない。その後ろめたさが、YOUの思念を手加減もせず読む行為に罪悪感を抱かせた。結果的にYOUにその許可を打診してまで彼女の隠し事を暴く気になれなかった。
《キース! キース、聞こえる?》
突然こめかみに痛みが走ったかと思うと、レインの切迫した呼び声が脳へ直接伝わって来た。
「YOU、レインから思念が飛んで来た。ちょっと待て」
うな垂れた彼女からの返事はない。それが気掛かりではあったが、レインとのコンタクトが今は優先だ。割り切ってYOUから逃げるように瞳を閉じた。
《聞こえる。何かあったのか》
《総理夫人から連絡があったの。首相宛に本間さん、紀由さんの方から旧警視庁周辺五キロの緊急封鎖指令を出せという連絡があったって》
《封鎖?》
《紀由さんはノームが参戦したことを知らないでしょう。今さっきの揺れはGINだよね? 地震とは違うって、総理夫人でもわかったって言ってた。紀由さんにわからないわけないよね》
レインは本間がミッションの繰り上げを察し、すでに本庁の上階で本間の父が彼を足止めしていることも伝えて来た。
《タイム・アップだよ。夫人がこっちの手の内を紀由さんに知らせちゃった。ねえ、キース。あたしやっぱり、ここでじっとしてなんかいられない。何をすればいい?》
《ばかッ、俺をこれ以上オーバーフローさせること言うな! お前はそこで待機だ。ちょっと待て。考える》
キースは頭痛を堪え、意識をGINと本間に集中させた。彼らならば、どうするだろうか。生ぬるい日本人の中でも、笑えるほどぬるくて甘い考えの彼らなら、何を最優先するか。
(こっちの手の内を知ったというなら、本間はGINの最終目的も恐らく把握しているはずだ)
キースには摩訶不思議な関係に見える、赤の他人でしかないふたりの繋がり。少しだけ羨望を覚える、当人たちはまるで意識していない、深部における“全幅の信頼”関係。この土壇場で、本間がどちらへ傾くのか、賭けるしかない。
《レイン》
意を決してレインを呼ぶ。キースと出会ってからほんの九ヶ月の間でもめまぐるしい変化を見せたGIN。それと同じように本間もまた、同じところに留まってはいないだろう。
《お前は本間と合流だ。本間の指示のもと、周辺のヘタな目撃をしていそうなヤツら全部に《淨》を掛けまくれ。機動隊の件は本間に任せろ。あと十分から十五分で由有を誘導する。そっちへの配備もしろ、と鷹野夫人に連絡を頼む。確実に配備させろ》
キースは甘ったれなぬるい日本人の底力を信じる道に駒を進めた。GINが計画通り、由良の《能力》を取り込んで場を収めるほうに自分とレインの命運をベットした。
《わかった! キース、グッドラック》
キースだけの勝利の女神が、幸運を祈ってくれる。知らずキースの面に自信を取り戻した笑みが浮かんだ。
レインとの交信を終えてYOUを見れば、すっかり表情の抜けた顔が少しだけ上がり、小さく唇を震わせている。
「待たせたな。さっきの続き。あんたが間違ってたって、何をだよ」
キースは急いた気持ちを抑え、それだけを口にした。YOUの震えた唇が開き、小さな声でとつとつと語り出した。
「私、知ってたの。由良がもうGINの知っている由良じゃなくなってるんだ、ってこと」
そう言った彼女は、両の手で口惜しげに髪を掻きむしった。
「シガツェに向かうセスナの中で、タオからそう聞いていたの」
「淘世が? なんであいつがそんなことを知ってるんだよ」
「タオの反対勢力から寝返ったヤツの情報よ。でも私、情報戦の陽動だと思って信じなかったの」
『本間さんとの取引は、日中だけの問題ではないんだよ』
という淘世の言葉を、彼女はずっと誤報だと自分に言い含めていたという。
「今思えばそうやって自分をごまかしていたのかも知れない。本間さんやGINにとって、由良がどんな存在だったのか知っていたから……ごめんなさい。結局、私の口からは、タオから聞いた由良の状態を言えなかった。こんな事態になるなんて、思ってもみなかったの」
GINに「自分の目で確かめろ」と告げたのは、由良が由良のままだと信じていたからだ。懺悔のように謝罪を繰り返すYOUに、いろんな意味で溜息が出た。
「あんたら東洋人は神さまを信じてるみたいだけどさ。神さまってのが本当にいるなら、懺悔したら現状を変えてくれてもいいんじゃね?」
辛らつな言葉と裏腹に、キースは苦笑を浮かべていた。震え続けるYOUの肩が、キースの言葉を受けて、びくりと上がる。こちらの言わんとすることが解っていないと感じたキースは、益々顔を隠した彼女の両頬を片手で乱暴に掴んで強引に顔を上げさせた。
「自分の運命を変えることが出来るのは、自分だけ。それが俺の持論だ。神さまなんてのは信じねえ」
押しつける勢いで断言すると、まともに目を合わせたYOUの瞳が大きく見開かれた。もう顔を伏せる心配はないと踏み、キースは彼女から手を離した。
「けどな、あんたは神の子だなんだと吹聴してるんだ。信じるなら信じるで、グダグダ懺悔してる暇があったら、今てめえがどう動くかを考えろ。動いた結果を神託だとでもまた吹聴すればいいじゃんか。まずは行動を起こせ。話はそのあとだ。そうだろ?」
それは、YOUへの問いというより、申し合わせに過ぎなかった。彼女の瞳に淡いブルーが漂い出す。表情に精気が戻り始めた。
「そう、ですね」
YOUがそれだけ口にすると、掌で目許を拭った。少し無理のある笑みはネガティブな発想を引きずっているというよりも、みっともない自分を晒した羞恥心からだろう。キースはYOUのほんのり染まった頬には気づかない振りをした。
「レインが幸運を、ってさ。あいつは昔っから手に入れたいものは手に入れなきゃ気が済まねえヤツなんだ。だから、この状況もどうにかするさ。でなきゃ俺、幸運を持ち帰れねえし」
彼女に背を向けながら、ついでのようにつけ加える。態勢はすでにクラウチングを取っていた。
「そうね。私は水を呼んで、あとから追いつくわ。それまで持ち堪えてね、シルフさん」
YOUのそれに「イエス」を返すと、キースは右足を思い切り踏み込んだ。
目的地、最下層を目指しながらキースは考える。
(由良はどうやってRAYに攻撃を仕掛けたんだ?)
タイロンの話し振りだと、GINや彼とRAYの居場所は離れていると推測される。そしてもうひとつ気になった言葉。
“保存されていた脳は、由良ではなく由有のものだった”
ふと浮かんだひとつの可能性に、嫌な汗が吹き出て来る。
「痛ッ」
頭痛に阻まれ、今ひとつ集中出来ない。《流》と《送》を同時に発動させているからだろうか。キースは《能力》の温存を優先し、《送》で由良の思念を探すのは諦めた。GINの意識を深層から引きずり上げる方が優先だ。
キースは跳躍での移動もやめ、地に足をついた。もう目的地まではかなり近い。それを知らせるかのように、キースの携帯電話が着信を告げた。走る足をとめることなく、ハンズフリーのオンボタンを押す。
『つ、繋がった!』
こちらがコールに応答の声を発する間もなく、RIOから悲鳴に近い声が届けられた。
「赤毛か」
すべてを語る時間はない。だがその必要がなさそうなほど、RIOの声もまた緊迫していた。
『今、資料室で応戦中。死体の山が半端ねえ! みんなGINやあんたのみたいな“かまいたち”で切り刻まれてる』
途切れていた考察の回路が再び稼動する。嫌な予感がRIOの言葉で確定されたに等しい。それが逆にRIOへ確認する言葉を出させなかった。
「GINはどうしてる」
RIOとリザが、すでにGINの間近にいる。それが唯一の救いだった。自分が到着するまではどうにか持ち堪えてくれるだろうと一瞬淡い期待を抱いたが。
『てめえで見に来い、バカヤロウ! 話が違うじゃねえか!』
いきり立つ声が、かなり上がっている。次の瞬間、ひどいハウリングがしたかと思うと、RIOからの言葉を妨害し始めた。
『由良――リザが――やられ――うすんだ――ッ!』
(窓もないのに、ここまで空気が乱れてる、ってことは……ガチで、これヤバい)
キースは慣れない連携プレイに頭をフル回転させようと、一度だけ深く息を吸い込んだ。深く吸った息を、動揺とともに吐き捨てる。
「一分、持ち堪えろ」
どうせ聞こえてはいないだろう。だから返事は待たなかった。告げると同時に通話をオフにし、《流》をアキレス腱に集約させた。
「はッ!」
ワンジャンプで、およそ五フィート。ためらうことなく一直線に実験室を目指す。GINをとめるだけでなく、追加の仕事がまたひとつ増えた。
(ウンディーネに偉そうな説教が出来る立場じゃねえ)
キースもまた、誰にも言えなかった。咄嗟に判断がつかなかった。そして皆が動揺していたために、誰にも聞かれずに済んだことで、キースが結論を導き出すことから無意識に逃げていたこと。
――鷹野由有は、もう保護対象外。彼女の身体の新たな主は、本間由良になっている。
漂う気の中、ひとつだけ必死に個を保とうと足掻いている魂を感じた。いちごみるく色をした、どこか優しく温かなオーラ。そのオーラが哀しげに揺れながら、深緑のオーラに溶け込もうとしては弾かれていた。
(あのベビーフェイス、引きこもるのも大概にしやがれ)
相変わらず肝心なところで腑抜けな“半人前の同属”に苛立ちを覚えた。一度もまみえたことのない少女が漏らす思念に先を急かされる。
《GIN、あたしはここにいるよ。ねえ、気がついて》
「うぉぁッ?!」
由有のものと思われる思念につい気を取られた。突然前から襲って来た《流》をよけ損ねてバランスを崩す。キースは固い粘土層へしたたかに頭をぶつけて転がった。
「ってえな、あのヤロウ!」
GINを罵りながらも、そのまま身を転がして壁のくぼみへと身を隠す。深緑の第二波が、間一髪で目の前を通り過ぎていった。
「くッそ……間に合えッ」
キースの碧眼に、再び濃いグリーンの光が宿った。束ねられていた銀色の髪が、《流》の力に負けたゴムから解き放たれる。狭く暗いトンネルに、深緑の閃光が走った。