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Confidential Strategy

 コーヒーを沸かすにしては長い時間キッチンにこもっていた女性陣が、YOUへの連絡を終えると同時にリビングへ戻って来た。

「二度もネイルを痛めつけられた借りは必ず返すから。覚えておきなさいよ」

 そんな挑発めいた言葉を口にしながらも、リザの手にしていたコーヒーがGINの頭上から降って来ることはなかった。彼女は床に膝をつき、GINの目の前にミルクの渦がまだ残っている淹れたてのコーヒーを置いた。マグカップがことりと優しい音色を響かせる。どうやらレインが彼女に状況を話したようだ。GINに対する細かな誤解は未だ拭えていないものの、彼女は一時休戦の打診に応じる素振りを見せた。

「ラストミッションのあと、無事に帰って来れたら返してもらうよ」

 おどけた口調でそう答えれば、彼女が意外と言いたげに大きく目を見開いた。

「帰って来たら、って? ウンディーネの話では、あたしも巻き込まれてるって聞いたんだけど?」

 応接テーブルの高さに合わせて膝を折っていた彼女が立ち上がり、GINに背を見せないまま数歩あとずさった。GINはいぶかる瞳を受けとめ、促すようにリザへ向けた視線をRIOへと流した。

「コイツがふたり分がんばってくれるらしいから。ミッションが終わったあとで、ご褒美に甘えさせてやってよ」

 とGINが返した直後、例えでなくGINの周囲だけ一気に温度が上がった。

「て、めッ、まだちゃかすかッ!」

 せっかく伸びた髪が、また縮れ出す。チリチリと焦げる臭いが鼻を突き、前髪に小さな赤がともった。

「ぅあッ、やめ、熱いっつの!」

「何やってるのよ、ふたりとも!」

 レインの怒声とともに、何もない宙から水の塊が現れた。リザは石のように固まって動かない。RIOがそんな彼女の身体を、すんでのところで引き寄せてGINから退かせた。《泡》で空気中から寄せ集められた水が、容赦なくGINの頭上からざばりと落ちる。

「うゎっぷ」

 RIOの放った《熱》をスポイルした水が、GINに情けない悲鳴を上げさせた。

「もう、火災報知器が鳴ったらどうするのよ。ここに何かあれば、本間さんに連絡が行くようになっている、って言ったのはGINでしょう」

 というレインの言葉に、RIOがはっとした顔をさせ、動揺で我を失っていたリザにも目力が戻った。

「取り敢えず着替えて来る。遼、ゆかりさんが着くまでに《熱》でその辺を乾かしておけよ」

 時計を見れば、正午をとうに過ぎていた。キースが零をごまかそうにも限界に近い時間が迫っている。

「タイムアップまでに、ラスト・ミッションの大筋を伝えておく」

 緊張のゆるんだひとときは、GINの告げたひと言が終了のゴングとなった。




 息を切らせたYOUが到着し、お約束のように泣いて抱きつかれ、そして案の定張り手を食らった。それからようやく本題へ話を進めることが出来た。

「――ということで、本間が当初考えていたミッションの全貌としては、リザにRIOの《熱》処理の支援、タイロンには破壊した地下層の地盤を固めて沈下を防ぐ、という予定だったらしい。でも、これはタイロンの返事が曖昧だったことと、リザが行方不明ということで修正を迫られた」

 アメリカから持ち帰ったメモをホワイトボードに転記しながら、全員に説明する。

「リザ、本間がお前を追っていたのは、由有の居場所を教えて欲しかったからなんだ。ニュークと《能力》者の関係が、サレンダーとは違って契約関係に過ぎないと知った段階で、本間をはじめ、俺たち全員がお前を敵とは見做してない」

 リザのここでの立ち位置を、改めてGINの口から説明した。彼女は相変わらずレインを抱きしめたまま、RIOの隣で縮こまるようにソファへ身を沈めている。そんな彼女に、少しだけ声を和らげて緊張の糸をほぐすよう促した。

「由有の居場所がある程度解った今、リザは完全に部外者だ。巻き込みやしないよ。ことが済みさえしたら、日本で普通に暮らしていくことも出来る」

 リザの腕がぱたりと落ちてレインを解放した。驚きでリザの唇がぽかりと開いてゆくのを最後まで見ることなく、GINはホワイトボードに視線を戻した。

「レインもリザとここで留守番をよろしく。それと、RAYや本間にオフレコの伝達事項が出来たときは、そのパイプ役もよろしく」

 レインはキースと空間を無視してダイレクトにコンタクトが取れる。互いに現場で何かがあれば、その情報をキースとレインに集中させることを共通認識として全員に通達した。

 誰ひとりとして口を挟まない。誰もGINに声を掛けもしない。そしてGINも、誰の顔も見ないまま、ここへ来るまでに構築したミッションの修正案を淡々と説明していくだけだった。

「RIOは本間の指示どおり、地下を《熱》で完全に消して欲しい。あくまでも本間やRAYじゃなく、俺のゴーサインを待つこと。必ずあいつらより先に俺が目的地に辿り着く」

 YOUが本間から手渡されていた首都地下水路のMAPに、赤い丸印で最地下層にある実験施設跡の位置を書き込んだ。

「キースには俺が移動の間に由有の思念を追って場所を伝えるから、彼女の確保を担当してもらう。YOUはキースから由有確保の連絡を受けたら、水の流れを利用して由有を外まで出してやって欲しい。キースはそのままターゲットのイレイズへ移行する」

 そしてMAPにはない道筋を青で書き加えた。

「由有の搬送先は、旧警視庁からちょっと離れてるけど。ここ、首相公邸の庭まで《流》で通路を作っておくから。あとで鷹野の秘書に真帆夫人とのアポイントを取る。急ぎの最優先事項だから、この一両中に時間を取ってくれるはずだ。YOUは真帆夫人と顔を合わせておいた方がいい。打ち合わせにもつき合って。時間の確保も頼む」

 リザ、レイン、RIO、キース、YOU、そして残る空欄が、紀由と零、GINの三人だけになった。

「ミッションに私情を挟むヤツは要らない」

 GINは紀由の任務項目に、大きな×印を書き殴った。

「当日、RAYが本間総監の協力で本間の足止めをする予定になっている。それをそのまま利用する」

 切り捨てるようにそれだけを伝え、零の欄にも×印を刻む。

「一番動きの利くRAYが厄介になると思う。本間もRAYも、最初に近づくのは俺を近づけさせたくない場所――実験施設跡のはずだ。職員不在の状態で、旧庁舎の水や電気がそれまで以上に消費されているらしい。ニューク・ケミカルの機材一式をすべてあそこに持ち込んでいる確率は、ほぼ百パーセントだ。こっちには俺が対処する。RAYに物理攻撃の《能力》はないから、《流》の副作用が出る前に彼女を押さえ込む。レイン、俺がコールしたら、キースを誘導して。ヤツにRAYを地上へ運んでもらう」

 告げ終えたあと、酸欠を感じた。最後に残った自分の名を見て、大きく息を吸う。そして、書き込む。自分のすべきこと。自分の胸にも刻むように、大きな文字でしたためた。


“GIN/由良消去”


「由良がもう一人の《風》らしい。実験内容はさっき話したとおり。施設と同じく、由良も表には出せない存在だ。彼女がなんらかの形で生存している可能性も高い。彼女の《能力》を引き継げるのは俺だけだから、こっちの対応を最優先でさせてもらう」

 マーカーを置く音が、やけに大きく響いた。GINはどんな顔をしていいのか戸惑いながらも、背にしていた皆の方へ向き直った。彼らが険しい表情でコピーした資料へ視線を落とす中、リザだけがGINの視線を真っ向から受けとめた。

「あのさ、一気に情報が入って来てこんがらがってるんだけど、訊いていい?」

 リザは燻らせていた煙草を揉み消し、由有のプロファイルデータを指で弾いた。

「ユラと同じように、データ漏れという理由で鷹野の娘も《風》候補だったわけでしょ? だから脳のすげ替え実験の被験者候補として拉致された、と。それなら取り敢えずユラとの《能力》の共有だけを先に済ませて、鷹野の娘の確保とターゲットを仕留めるのをシルフとタッグで同時進行したほうが確実じゃないの? ユラへの対応は、そのあとでもいいじゃない。消さずに済む方法だって、時間さえあれば見つけられるかも知れないでしょ?」

 予想外の相手から意外なストロークを投げられ、GINのこめかみが引き攣った。

 ほかの面子が、次々と顔を上げ、GINに視線を集中させていく。誰もそこへは着目しないとたかを括っていた。より力のある者――キースがより重要な任務につき、生存者の救助を優先させるべき、そう考えるのが当然だと思っていたからだ。

「……ずっと由良を待たせたまんまだったんだ。もしまともなときの由良だったら、こんなときほかの誰かに介入されたくはない、はずだから」

 由良がまともな意識を保っている可能性は、ゼロだ。そう告げる言葉に信用させるだけの力を入れることが出来なかった。

「本人じゃないあんたが、どうしてそう言い切れるの? じゃあ、ユラはなんのために生まれて来たっていうの? 始末するだけが能じゃないでしょう。そんなことは、きっとあんたも解ってるんだよね。ホントは何を企んでるの? あんたもあのジャークやビッチの女と同じ?」

 リザの口振りは、明らかにGINを紀由や零と同じ位置づけ――仲間を道具扱いして独断行動に出るであろうと予測し、それを糾弾するものだった。RIOが胡散くさそうなものを見る目でGINを見据え、レインが強く眉根を寄せてGINをねめつける。

「この中で、GINの次に本間さんやRAYとつき合いが長いのは、私ね」

 YOUがリザに視線を移してそう呟いた。皆の視線が彼女に向かい、GINの上がり切った心拍が少しだけ落ち着きを取り戻す。

「私ね、本間さんやRAYの口から、由良さんのことを一度も聞いたことがないの。それは過去にGINの手を汚させたという罪悪感がそうさせている、と思っているわ。それがさっきGINの言っていた、私情という厄介なものかも知れない」

 そう語るYOUの声は、あくまでも穏やかで柔らかだった。声と同じ優しい視線が、GINに注がれる。

「GIN。危険な任務だと解った上で、なぜ義兄が私に日本へ戻ることを許してくれたと思う?」

 含みのある問い掛けが、彼女の訪れる前にRIOから聞いた“仄めかし程度なら聞いているらしい”と言っていたことを思い出させた。

「まさか紀由(あいつ)……YOUを借り受けるために、昔のことまで淘世に話したのか」

 GINの問い質した戸惑う声に、YOUは小さく頷いた。

「由良さんにとっての最善が、ミッションの目的そのものにとっても最善だと考えているのでしょう?」

 GINの思惑を見切ったと言わんばかりの苦笑が、言外にGINを諭す。李淘世のミッションで、YOUがよかれと思って起こした行動を諌めたと語っていた淘世の言葉を思い出す。

『正義、というものほど主観に満ちた定義はありませんよね。だけど、誰もが本当は知っている。客観的にひとつだけ共通する、理想というか、“こうあるべき”という定義がある、と僕は考えています』


 ――本当の正義は、誰かの犠牲の上に成り立つものじゃない。


 淘世の紡いだそれを聞いたとき、高木と海藤辰巳が強行した藤澤会事件以来、ずっとGINが疑問を抱いていた“正義”の定義について、思いがけず答えを得たような気にさせられた。その言葉が、今また蘇る。やることに変わりはない。ただ、その中でどれだけベストに近いベターを選べるか。構築しては壊す逡巡の中、ひたすらに願ったのは。

「由良さんの声を聴きに行くのでしょう? ちゃんと《送》で受けとめて、彼女が納得するまで付き合うつもりでいるのよね? 彼女が苦しんでいたら、《淨》を送るから。由有を送り届けたら、すぐにあなたの傍へ戻るわ」

 遠回しにGINの役割を上書きされた。先手を打たれた口惜しさに、GINはそれを隠すようにうな垂れた。

『風間由良に、なりたかったな』

 本当は、由良が最期に願ったその望みを叶えることであがなおうとしていた。一緒に逝ってやることで、彼女が世界を守るための人柱として嘆くのではなく笑って逝けるようにと強く願った。それをYOUが、やんわりと却下してしまった。

「なんのために生まれて来たのか。それは誰かに決められるものではないわ。自分がどう生きるかで、自ずと解ること。リザ、“生まれて来てよかった”と思える生涯であれば、生きた年数は問題じゃないと、私は思うわ」

 そう語るYOUの視線の先を、ほかの皆が一同に追う。ひと呼吸ほど遅れて、GINものろのろと顔を上げた。リザは何も言わずに固く唇を噛み締め、GINと入れ替わるようにうつむいた。

「リザ」

 呼び掛けるGINの声が、穏やかな低い声で部屋に響いた。

「由良はお前にとって知らないヤツなのに、彼女の身になって考えてくれてありがとう」

 それは、心からの謝辞だった。GINは自分の中に守りたい存在がまた一人増えたのを自覚した。


「あ」

 と、レインが頓狂な声を上げた。

「RAYが、暴れてる」

 レインはそう言ったかと思うと、肩をすくめて固く目を閉じた。

「レイン? キースから《送》られて来たのか?」

 GINは呻きながら頬をさする彼女に素手で触れた。

《い……痛ぇなこのクソアマ! いきなり殴るか!》

 漏れ伝わって来たのはキースの思念。零にいきなり横っ面を張り飛ばされたようだ。GINの頬にまで痛みが《送》られて来た。レインの「解った」という思念を感じ取ると、痛みもキースの思念もぴたりととまった。

「タイムアップだ。RAYが完全に目を覚ました。十分前後で本間にオールスルーだ」

 零のやることだ、まずはキースからGINが先に帰国したことを聞き出し、すぐにそれを紀由に伝えると踏んだ。紀由がここへ踏み込んで来る確率は八割から九割。年末なので表仕事が多忙を極めているとは思いつつ、悪い予測は拭えない。

「ゆかりさん、ミッション当日までリザを華僑の人たちに預かってもらえるかな。紀由はうるさい上にしつこいから、見つかれば何かとうっとうしい。それから遼、お前の携帯、私物の方をリザに渡して。で、レインと二人分の連絡ツールを確保、すぐに行って来い」

 プライベートにシフトチェンジしつつ、慌ててそれぞれに打診を済ませて各自の了承をもらう。そんなやり取りをしている傍から、事務所の電話がけたたましく鳴った。

「はや」

 各自が資料を慌てて抱き込み、逃げる準備に奔走する。

「当日までは、あくまでも本間の指示に従っておけよ」

 口々に「了解」を告げて立ち去る声を確認し、彼らの足音が遠のいてから受話器を取った。

「はーい、風間事務」

『このバカモノ! 貴様はどれだけ俺を振り回せば気が済むんだッ』

 受話器を耳からかなり離す。それでもしっかり聞こえるほどの罵声がGINの鼓膜をぶち破る勢いで轟いた。

「や、悪い。由有が日本で監禁されてるらしいって聞いて、つい」

『つい、じゃないだろうが! 貴様、零からろくに話も聞かないまま逃げて来たのかっ』

 紀由が都合のいい話の振り方をしてくれたお陰で、零への弁解も成り立たせることが出来た。

「あ? あー、いや、俺はあっちでフルボッコされて使えないから軟禁って話?」

 ほどよく情報を得たと見せ掛け、紀由の関心をGINの手にしている情報を探ることからはぐらかす。

『解っていて、どうして俺の指示を無視した』

「無視はしないよ。あくまでもサブ。もう昔ほど青くないし、今回で実際に懲りたっす。キースメインで動く方が成功率が高いことくらい解ってるけど、何か出来ればとは思ったから帰って来た。お前、どうせ今はこっちに向かってるんだろう?」

『……逃げるなよ』

「逃げないっつの」

 そんな通話の中へ、割り込みを知らせるトーン信号が会話をぶつ切りにした。

「あ。割り込み。多分、零だ」

 紀由にそんな断りと待機了承の旨を伝えて通話を切り替える。

「はーい、こちら風間事」

『何を考えているんですか、あなたはッ』

 今度は最初から受話器を離しておいたので、耳の痛みを免れることが出来た。

「あのさー。俺、いつまでも十代、二十代のガキんときと違うから」

 代わりに胸が痛み、ぎしりと嫌な音を立てる。軽い口調と裏腹に、GINの眉間に深い皺が刻まれた。だが、零にそれは見えない。

「キースの負担がでか過ぎるだろ。少しくらい俺にも何かさせろよ。由有の確保なら問題ないだろ?」

 由良のことなど二の次と言わんばかりの明るい語り口で、由有の発見にことさらな希望を見出しているとアピールする。彼女の猜疑心を押し込めようと、必死に足掻いている自分を滑稽に見下ろす、もうひとりの自分がいた。

『……信用しません。あなたにとって、由良がその程度の存在ではないことくらい、私は知っています』

「二年前まではな」

 慣れない嘘をつく前に、ひとつ深呼吸してから言葉を紡ぐ。

「零。覚えてるか?」

『何をですか』

「組織殲滅のミッションが済んだら、紀由が俺らの仲人をしてやるって言ってた、って話」

 零に言外で命令する。由良への罪悪感やGINの犠牲になることで自身を粗末にする零に、これ以上は自分がそれを許さないと意思表示する。

『いきなりどうしたんですか。何をごまかそうとしてます?』

 零らしくもないうろたえた声が、珍しくまくし立てるような早口で逆に問い返して来た。

「実際の内訳がどうであれ、そういう形を取っておけば、何かあったとき最初に連絡をもらえる立場になれるってことじゃん? 本間に戸籍の件をどうにかしてもらって籍を入れてさ、そんでもって遼を未成年のうちに養子にして、なんちゃって家族作ろうぜ」

 彼女がこのミッションを自分の“出世の本懐”と勘違いしないよう、次の夢へと導きいざなう。今度は報われない夢物語ではなく、実現出来そうな未来を語る。ありふれた平凡な夢は、語るGINにも一瞬だけ笑みを浮かばせた。

「なっ。そうしよう」

『……とにかく、明日にはそちらへ着きますから。勝手な行動は慎んでください』

 零はそれだけ言うと、GINの申し出には一切触れないまま一方的に通話を切った。すでに空港にいるのだろう。搭乗案内のアナウンスが彼女の怒声に混じってGINの耳に届いていた。

「勝手な行動をしてるのは、お前らだろう。若い子らがみんな混乱してるじゃん」

 トーン信号だけを紡ぐ受話器に向かい、GINはぽつりと呟いた。

 GINを省いたラストミッションまであと二週間。紀由の構築したそれを凌ぐストラテジーとなるかどうかは、まだ解らない。

「けど……やるしかないじゃん」

 それは、逃げ続けて来た自分に課せられるべき役回りだとしか思えなかった。紀由と零の手を汚させることは、GINが許せなかった。

 紀由と零抜きでそれを成し遂げるため、GINはこれまでにない迫真の演技を、あと二週間も続けなくてはならない。

「……はぁ……」

 GINの深い溜息が、無人と化した風間事務所にいつまでも居座っていた。

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