愛に飢えた精霊の子たち~シルフのキースとウンディーネのレイン~ 1
一方、そのころのGINは、ウンディーネのレインが感情のままに垂れ流す思念の欠片を頼りに、あてどなく逃げ続けるふたりを追っていた。
零と別れる直前のことを考えながら、という散漫な状態でターゲットを探す。
『生半可な覚悟など、要らない』
零の言い放ったそれは、仲間を見捨てることが人としてあるまじき行為だと思うGINにとって、理解に苦しむ反応だった。この非常時にくだらない闘争心やプライドから意地を張っているのかとさえ思った。だが、
『たとえ味方でも無能なら邪魔だ、撃つ』
そう叫んだ彼女の目が、本気の殺意を孕んでいた。
『風間ァ! 行け――ッ!!』
常に冷静沈着な姿勢を崩さない零に、そんな汚い言葉を吐き出させた。それがGINの強硬な姿勢にブレーキを掛けた。
『私に今すぐ蜂の巣にされるか任務を果たすか、今すぐに選べっ!』
と叫びながら頭上に跳んだGINに向かって銃口を構えた彼女は、まとった黄金のオーラの向こうで今にも泣きそうな顔をしていた。それが次第にゆるんでいき、同時に潤んだ瞳が虚空に変わっていった。
『零……』
GINは、自分が彼女をそこまで追い込んだと覚った。同時に、「すべて自分がどうにかしないと」というどっちつかずで欲張りな思いが、一時の感情に振り回された短絡的な衝動でしかないことにも、ようやく気がついた。
零は始まる前から、すでに万死の覚悟でこのミッションに臨んでいた。紀由の、如いては多くの人が望む“本当の意味での平穏”を実現する、という目的のために。
世界中に散らばるサレンダーを始めとした闇の組織が裏で糸を引き続け、善良で無知な一般人ばかりが犠牲になっている現実。それを突き崩す足がかりがサレンダーの解体だ。自分たちが司令塔である紀由を失えば、その突破口すら失ってしまう。
(だから、零は――)
自分の甘さに唇を噛む。逆ピラミッドの陣形が脳裏に描かれた。その突端に立ち、たった独りで敵と対峙する零の姿が浮かんだ。
パンという弾けた音が、GINを現実に向かわせた。放たれた実弾に、思考よりもGINの体がすばやく反応する。銃声の起きた足許からわずかに身をそらすまで、コンマゼロ一秒。なびいたGINの前髪が火薬に焼かれた弾の熱で、ジ、と嫌な音を立てた。その焦げた臭いがGINの鼻を突いた。
(間に合うか……零、戻って来い)
彼女の思念が、触れなくても空気を伝って来るほどの強い感情を放ち始めていた。それは過去の彼女が辛うじて生きるよすがとしていた、たったひとつの感情――憎悪。今の彼女に、自分が彼女の同志として認識されていなかった。
零からも数メートル離れ、ほんの一瞬だけ足をつける。すぐに、跳躍。更に向こう、キースとレインが逃げた方向へ。
『十分!』
旋回する傍らで、GINは零に向かって叫んだ。
『十分だけ持ち堪えろッ! 必ず戻るッ』
真の意味で、彼女が独りではないと、そして、自分たちに課せられたものの重みを思い出したと訴える。目先のことばかり考えた自分を、そんな形で撤回する。
『お前が手を穢す必要なんかない! 解ったなっ!』
思いの丈を、零に向かって、叫ぶ。喉に痛みを覚えるほどの声を張り上げた。触れるまでもなく伝わって来る零の心の温度が、慣れ親しんだものへと戻っていくのを感じた。目指す場所へ体を向けつつ、ほんの刹那、振り返る。三発目は襲って来なかった。そして拳銃を握っている零の両腕は、胸の前に戻されていた。
『くっそ……ッ、どいつもこいつも、人を要らん呼ばわりしやがって』
安堵の気持ちが憎まれ口となって零れ出た。それ以降は、キースとレインの追跡に意識を集中させようと努めていた。
「あれから、どれくらい時間が経ったんだ?」
照明すら届かない距離まで跳んだここは、空港の敷地と一般道を隔てる塀を越え、ターミナルビルから一キロ以上遠のいた場所だ。真っ暗闇で何も見えないが、空港の搭乗口で感知した、YOUの放つ色合いとは異なる青いオーラが瞬いては消える。ウンディーネは水の精霊だ。不規則な点滅が、「レインの《能力》は不安定だ」と語っていたキースの証言と一致する。恐らくあのくすんだ青が、レインのオーラだろう。それがGINの追跡を可能にする唯一の手掛かりとなっていた。
(あれ? まただ。でもこれ、なんか違う)
レインとキースが慌てて逃げたせいだろう、何かしらを落としてしまうらしい。そのアイテムがレインやキースの残留思念を漂わせ、GINを時折着地させた。それまではダイブするほど彼らと密接ではないアイテムだったのだが、今足許で感じたものは、これまで触れて来たものとは違う思念の強さを放っていた。
ぼやけたオーラという形で感知するので、そのアイテムが何かというのは、触れてみないと解らない。グローブをしたまま、手探りでそっとそれを掴む。突起などの危険な形状でないことがおおよそ解ると、GINはグローブを外してそのアイテムを確認した。
「白バッジ、か?」
質感が、GINのラベルホールに留められているそれとよく似ている。形状も。
(げ、やばい)
GINはそれを慌てて足許の路面に置き、急いでグローブをつけ直した。キースの思念が、素手で触れるGINをアイテムへ引き込もうとするのを感知したせいだ。このバッジを身につけてから、それだけ強い思いが写り込むほどの何かがあったらしい。ダイブする価値がありそうだと踏んだ。
「けど、ここじゃあんまりにも無謀過ぎるな」
一般道の裏寂しい一本道。ここでアイテムにダイブしたら、体がいろんな意味で無防備にさらされるのは確実だ。GINは取り敢えず拾った白バッジをポケットへ収め、道の両脇に広がる植林地を飛び移りながら人目につかない手ごろな場所を探した。
「めっけ」
うっそうとした森の中に、小さな神社を見つけた。枝に隠された石畳の参道。そこは人目につきにくく、敷地内に人の気配もなかった。GINはその境内に着地すると、植えられているシンボルらしき大杉の根元に腰を落ち着けた。その間に青のオーラが不意に消えた。理性ではその状況を自分の不利だと伝えるが、感情は少しだけ解放感を味わっていた。それが溜息という形でGINの口から零れ出た。
(はあ……キツかった……)
レインの放つ淋しい青は、GINにそう思わせるほどの痛みを伴う、哀しみのディープ・ブルーだった。
「急がば回れ、って言うしな。キースの思念を読めば、具体的な目的地へ先回り出来る可能性もあるんだし」
言い訳なのか、自分に言い聞かせているのか。GINは自分でもそのどちらかなのかが解らないまま、キースの落とした白バッジを素手の両手で包み、拝むように額へ近づけた。
「イッちゃってる間、どうか誰にも見られませんように」
手にしたそれを、強く目を瞑って額へ直接押し当てる。GINは意識を白バッジへダイブさせた。
気泡に包まれた形で雑多に点在するキースの思念の中から、自分が胡劉傑主席の狙撃に気づいた時間軸を探した。目標の時間軸をイメージしながら気泡に触れる。《送》が効率よくGINをその時間軸へといざなう。
(あ、これか?)
そんな意識が言語化されるよりも早く、GINの手が勝手に気泡へ溶け込み、その時間軸の中へ潜らせた。
(嘘だろ……)
キースの視点で眺めながら、GINは映画を見ている錯覚に陥った。
(あいつがたった半年で《送》をここまでコントロール出来るはずない。俺にだって、まだ無理だ)
つまり今GINがキースの視点で見ている光景は、彼がGINからラーニングした《送》で捏造したものではなく、事実と判断するしかないものだ。GINが胡主席の盾となっている間にセスナの外で起きていたその現象は、《送》で捏造された架空の思念だと思いたくなるほど非現実的な光景だった。
ことの発端となった狙撃を示す赤い丸。それにGINが気づいて飛び込んだあの時、キースはエアステップの手すりに手を掛け、胡主席の前から身を躍らせた。キースの視点が、GINにその後をまざまざと見せる。キースがエアステップから飛び降りてジェットの反対側へ滑り込んだ先には、溶けたアスファルトの路面が広がっていた。その始点で両手をついているのは、先ほど零に戦闘を預けた《ノーム》の男、マッド・タイロンだ。その後ろに待ち構えていたのは、場違いな漆黒のカクテルドレスに身を包んだブロンドの美女。彼女は“溶けたアスファルトの中”から人の手を引き上げていた。
キースの視覚を介して視えるその光景がGINを戦慄させる。
(いや、俺たちは連れて来ることを予測していた。こいつは、キースの感情か)
手しか見えていなかったその人物が腕まで引き上げられ、そして少しずつその面差しをGINの視覚にも認知させた。腕を掴まれた人物の全身がアスファルトから引き出されると、路面が元の硬質を取り戻した。目の前に現れたもうひとりの人物は、戦場と化したこの場に強い違和感を覚える存在――顔にまだあどけなさを残している、十数歳くらいの少女だった。
(やっぱり、連れて来たか)
GINにそう思わせた少女の肌はキースとよく似た褐色で、その肌色を白いシャツと淡いブルーのデニムスカートの色でより鮮やかに際立たせていた。その肌はアスファルトによる火傷や汚れも負わされておらず、綺麗なまま瑞々しい張りを保っていた。どんよりと曇る青い瞳は、彼女の放つくすんだ青いオーラとまったく同じ色をしていた。その少女がキースの最も守りたい存在――レイン・ストームだと彼の思念が告げていた。
無傷という不可思議な現象は、少女の《ウンディーネ》による力ではないらしい。彼女と同時に現れた、無駄に露出の高い場違いな格好をしている白人の女にも、これといった負傷は見られなかった。《溶》と名づけたくなるその《能力》を操るタイロンが、彼女たちを包む周辺のアスファルトだけを再結晶化によって冷却させていたのだろう。
『(サラマンダ、離して。痛いから)』
子供特有の甲高い声のくせに、妙に落ち着き払った口調でその少女が女に命令した。
『(イヤよ、大事な取引材料だもの。放して欲しいのならシルフを説得することね)』
女が視線をキースに向けたまま、これみよがしの微笑を湛えてレインに答えた。それを受けて、キースの感情がざらりと波打った。レインの傷んだ赤毛が、セスナからの強い風であおられる。ゆるいウェイブが乱れ舞うたびに、GINの胸が甘酸っぱく軋んだ。それはキースの残留思念とのシンクロ現象だ。元々同じ属性を持つだけあって馴染みやすいのか、シンクロしていく速度がやたらと早く感じられる。GINは彼の思念に囚われる危険性を考え、視点をキースそのものから俯瞰へと移動させた。
《サラマンダ》と呼ばれた女――リザ・フレイムはレインの手首をひねり、見せしめるように悲鳴を上げさせた。それがキースの右手に固い拳を作らせた。彼の瞳が翡翠に輝き始め、憎々しげに奥歯をかみ締める。
『(あら、随分とご挨拶な顔つきね、シルフ。李淘世の暗殺が続行中って話らしいけど、それの経過報告もないまま余所事にかまけていた自分の自業自得じゃないかしら?)』
『(裏切ったわけじゃねえぞ。裏切るつもりで依頼を受けたなら、報酬にレインの保護なんて言うわけねえだろう。上は何を考えている。話せ)』
『(さあ? あたし、自分に関心のないことはすぐ忘れる主義だから。上からの伝言よ。あんたが戻らない場合はコレを使え、ですって。どうする? コレってまだ自分の《能力》をコントロール出来ないんでしょ?)』
リザとキースがそんなやり取りをしている間にも、溶けていた地面が再び凝固し始めていた。タイロンは、仲間であるはずの彼らが見えていないかのように、ひとりその場に背を向けた。運び屋が彼の仕事のひとつだったのか、あっけないほどその場を離れ、勝手に空港内の作業車を拝借してエンジンをふかし始めた。
『(ノームッ、逃げんなッ! てめえもこの女の言いなりかよ!)』
彼らが音もなくこの場に近づけたのは、タイロンの《溶》を利用して地中を抜けて来たからだ。キースがそう責めるのはGINにも納得出来た。
『(我は我の神のみに従っているに過ぎぬ。嘆きの鷹とは初めてまみえるが、我のことはそこの嘆きの水蛇の娘から聞いておるはずだろう)』
淡々としたタイロンの答えに、キースの頬がかぁっと赤く染まった。俯瞰、というクッションを挟んでキースの思念が伝えて来るのは、市街地へ赴いたときにレインと連絡を取って聞いた近況報告の内容。
“タイロンってね、すっごいマイペースなんだよ。自分の守護精霊の声しか聞かないの”
レインのころころと笑う声が、彼への信頼をキースに告げていた。
“組織のほかの人と違って、陰謀とかそういうのに関心がないみたい”
滅多に人を信用しないレインがそう評することにキースが嫉妬を覚えるほど、タイロンという人間は嘘を言わない人柄らしい。タイロンのひと言がキースにそれを思い出させ、それが一層キースの怒りを煽った。
『(てめぇ、レインをだましやがったな! 何が守護精霊だ、クソ野郎どもの泥に染まりやがってッ!)』
タイロンは哀しげに目を細め、罵声を浴びせたキースにたったひと言だけを残し、その場を立ち去った。
『(では主は、何の導きに従い、そして動くのだ?)』
問いつつも答えを聞かずに次の任務へ向かったタイロンの意図することは、ただひとつ。キースの思念を介してGINが察したものは、キースの解釈と一致した。
『俺は、俺自身で自分を導く。そして、それに従う。ただ、それだけだ』
まるでその場に残されたリザやレインの耳には入れたくないとでも言うのか、彼は日本語でそう呟いた。同時に巻き起こる、つむじ風。それはとてもとても小さく、人ふたり分もないほどの規模。
『(きゃッ?!)』
リザが頓狂な声を上げたときには、すでにレインが彼女の隣から消えていた。
キースの見る景色が、ついさっきまでGINが辿って来た風景と重なる。
『(離せバカっ! キースなんか、大ッ嫌いだ! うそつきッ! 裏切り者ッ!)』
キースの腕の中でレインが暴れる。彼女の瞳の青が、みるみる眼球すべてを侵蝕していく。
『(サラマンダが言った。さっきセスナへ飛び込んだヤツ……カザマジンスケと手を組んだから、もうキースはあたしが要らなくなった、って)』
途端、気道が塞がれる。その息苦しさの原因は、とろりとした粘りを感じる澱んだ青。同じものがレインの双眸からも溢れ出す。それがきっと彼女の《能力》。それがどんな状態のときにどう発動し、相手にどんな形で影響するのか、GINはキースの残留思念を介して思い知る破目になった。
(く……っそ、でも、まだ出るわけには……欲しい情報が、まだ……)
遠のき掛けた意識は、キースの残留思念とシンクロし過ぎているせいだ。GINは意識を自身に集中させ、更にこの時間軸を包む気泡との境界線まで浮上させた。
(あっぶね、取り込まれるところだった)
少しだけ感度が悪くなるものの、アイテムの中で死ぬよりはマシだと割り切ろうと自分に言い聞かせる。どこまで彼らを理解できるか。ふとそんな不安がよぎると、知らず小さな溜息が漏れた。
『(GINと、手を組む、って……つうか、それが、どう……してレイン……お前、を、裏切るって、話……つか、《泡》を、とめ、ろ……ッ)』
『(ノームは黙ってた。あいつは嘘だけはつかないから。それでもキースに会うまでは、サラマンダの言ったこと、信じらなかった)』
――あたしよりも大事なモノが出来たから、あたしを組織に押し付けて姿をくらましたんでしょう。
響く声が次第にこもった音に変わり、遠のいていく。水中から聴いている感覚に囚われる。既にキースの全身が青いスライム状の半凝固物質に包まれていた。
『(さっき、カザマのこと、ハニーって呼んだ)』
それをGINの意識が認識した途端、緊張感が突き崩される。
(ば、バカか、このガキッ?!)
アメリカの組織に加担する類の理由からでない、という意味では緊張が薄れたものの、彼女がGINを敵視していることに変わりはない。誤解を解くことがレインの懐柔に繋がると見た。
思案に意識が傾いたことにより、キースとの著しい乖離が生じていたらしい。キースの残留思念がGINを“異物”と判断した。強い力に引き上げられるように、キースの体感した光景がぼやけていく。
(やっべ。ちょ、待てッ)
動揺が悪循環させる。キースがレインの《泡》によって感じていた息苦しさが和らぐ一方で、次第に情報が途切れがちになていく。
『(レイン……違、う……)』
途切れ途切れに呟くキースの想いがかすかにGINの心に触れた。それを足掛かりに、再び距離を縮めようと試みる。手を伸ばす。キースの頭上に手を翳し、《送》で彼と自分を結びつける。
(見捨てた訳、じゃ……)
レインを抱えていられなくなり、キースが地面へ落下していく。吐き出す息が、もう肺に残っていない。取り込みたいのに、空気が、ない。それでもキースの体は、レインを路面に叩きつけないよう自分の体で衝撃を防ぎ、背中から勢いよく落ちた。
最後の気泡が青い視界の前を、ごぽり、とゆっくり上っていった。その感覚が、GINに二度目のシンクロが成功したと伝えていた。
『(あたし、言ったよね。今日、サラマンダとノームが行くよ、って。戻って来ないと消されるよ、って。あたしが日本へは行くなって言ったのに。カザマを味方につけておけば《能力》をもらえるとか、安全な場所で暮らすための担保だとか。それって、結局カザマを庇う言い訳だったってだけじゃない。もう、帰って来ないつもりだったんでしょう?)』
届かない、キースが何度も唱える心の声。「大嫌い」と叫ぶ彼女の悲痛な声が、鋭利な刃物となってキースを痛めつけた。その痛みがキースのものなのか自分のものなのか、GINには解らなくなっていた。
――大ッ嫌い。風間神祐の馬鹿野郎。
由有の叫びが、レインの言葉と、重なる。
(ち……がう……、ただ……、こんな世界に、巻き込み……たく、なかっ……)
そんな弁解めいた意識さえ、キースのものか自分のものかが曖昧になっていく。そんな中、キースの震える右手が少しずつ動いた。薄れていく意識を覚醒させたかったのか、それとも自分を見下ろしたまま泣きじゃくっている少女を繋ぎ止めたかったのか。彼は崩れた身を起こせもしないくせに、彼女の細い素足を弱々しく掴んだ。
『(聞、け……レ、イン)』
『(イヤ。もう聞きたくない。キースはカザマを大切な人って呼んだ。ノームは黙ってた。だからあたし、サラマンダの言った方を信じる)』
視界が更に霞んでいく。キースの見る景色がぼやけていく中、青一色に染まったレインの目から、ツ、と青い涙が頬を伝っていった。
『(あたしにはキースしかいなかったのに。だからせめて、あいつらじゃなくて、あたしが息の根を止めてあげる)』
『(話を……、頼むから……レイ、ン……)』
(嘘だろ? あいつがそう簡単に殺られるはずが……それに)
GINは巻き込まれる寸でのところで気泡から飛び出した。混乱を抱えたまま、光射す表層へ向かってジャンプした。
(ウンディーネの移動速度は、シルフの力がなければあり得ない)
GINはこの残留思念にどこか矛盾を感じた。そのことに焦りと不審を禁じ得なかった。