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赤犬の仔を飼い馴らす 7

 甘い百合の香りがGINの鼻をくすぐった。少しだけ、息苦しい。重くてなかなか上げられなかった瞼が、ようやく少しずつ開けるようになっていく。

「……零」

 解放された唇が、香りの主の名を呼んだ。

「もう少し巧くやってくれるものと思ってましたが、今思えばあなたにいきなりパーフェクトを求めること自体が酷なことでしたね。すみませんでした」

 尖った小声に答える言葉を失い、GINは聞こえなかった振りをした。

「遼は?」

 おぼろげに見えた不愉快な顔に、恐る恐る尋ねてみる。

「内臓に損傷はありません。肋骨にひびが入ったとは思いますが」

「まだ戻って来てないのか」

「……遼の《熱》は、私と逢う前から発動していたのですね」

 彼女はそう言って、苦しげに瞼を閉じた。

「せっかく封印していたのに、解いてしまったのは私です。彼にも謝らなくてはなりませんね」

「お前が呼べば、戻るさ」

 そう答えたGINの言葉は、慰めではなく本心だった。彼女は「何があった」とは訊かなかった。恐らく接触を介して、RIOの意識へダイブした先でのやり取りも解っているのだろう。

「了解です」

 零はそれだけを口にすると、冷たいくらいにあっさりと身を退き、仰向けに倒れているRIOを抱き起こした。

 零がRIOに《育》を施している間、部屋の中をぐるりと見渡す。目のやり場に困ったというよりも、オリエの状態が気掛かりだったためだ。

「うふふ」

 壊されたリビングテーブル、引き裂かれたカーテン、そんな乱れ切ったリビングの光景にそぐわない笑い声が、キッチンの方から不気味に響いた。声の方へ視線をやれば、オリエがキッチンで何かを作っていた。

「伸二さん、早く帰って来ないかしら」

 楽しげに呟かれたその言葉は、聴いている方が気恥ずかしくなるほどの、若く弾んだイントネーションで紡がれた。GINはまな板の上で高らかにリズムを刻む、何かを切る音を聴きながらオリエに近づいた。

「きっと、喜んでくれる、よね?」

 甘ったるい声が、突然不安げな低さに沈む。リズミカルな音が消え失せる。

「……うそつき。ずっと傍にいたいから結婚しよう、なんて」

 そっと彼女の背後から手許を覗くと、手にした包丁で何も切っていないことに気づかされた。

「仕事ばかりで、ちっとも帰って来ないじゃないの」

 ダン! と嫌な音が響く。オリエの手にした包丁が、まな板の上に突き刺さっていた。

「お金なんか、要らない。赤ちゃんも、こんなくらいだったら、要らない」

 GINの足許にオリエが崩れ落ちた。彼女はおもむろに顔を覆って肩を震わせた。

「解ってるもの……私が家を欲しいなんて言ったから、伸二さんが頑張ってるんだ、って。わがままを言っちゃいけないんだ、って」

 ――でも、寂しい……。

 オリエはそう呟いたかと思うと、またいきなり立ち上がった。GINは思わず数歩ほどあとずさった。

「うふふ」

 オリエは自分の頬が涙で濡れていることにも気づいていない。なんの違和感も抱かずに、突き刺さった包丁をまた握りしめる。

「絵里ったら、私の作ったハンバーグじゃないと食べないんだから。タマネギのみじん切りって大変なのよ」

 そんな文句を零すくせに、幸せそうな笑みを浮かべている。

(この人には、タマネギが見えてるんだろうな)

 でたらめに撮った記録をリピート再生するように、幸せだと感じた事柄だけが、オリエの中で再現される。GINは彼女が不倫に走った理由がどこにあるのか、その心境に理解は出来ないものの、なんとなく察することは出来た――ような気がした。


「……ってぇ……」

 リビングから聞こえたその声が、GINをそちらへ振り返らせた。上体を起こしたRIOが、頭を軽く押さえながら首を横に振っているのが見えた。その傍らで膝をついた零が、初めて安堵の笑みを浮かべた。

「動かないで。肋骨にひびが入っていると思います。折れたら肺に傷が」

「RIO」

 GINは零の制する言葉を遮り、彼の成すべきことを伝えた。

「自分のやらかしたことは、自分で始末をつけろ。この家を《熱》で消せ」

「何を考えているんですか」

 GINの命令を聞いて声を荒げたのは、RIOではなく零だった。

「こいつは、個人的な感情でオリエに《滅》を食らわせて、彼女の正気を失わせた。報酬を得て依頼を引き受けたプロのやることじゃない」

 その言葉に、零だけでなくRIOも言葉を詰まらせる。決して視線を合わせないRIOに、GINは具体的な指示をした。

「キッチンからの出火ってことにする。俺がガス栓を開けたら、適度な量の《熱》をそれに当てろ」

 説明をしながら、GINは一人芝居を続けるオリエに背を向け、ふたりのいるリビングへ戻った。

「目安は、この間お前が俺の前髪ごとコイツを焼き切ったときの感覚だ。思い出せ」

 そう言ってポケットから煙草を取り出し、一本を燻らせた。

「どうせ消すんだから、何回かやってみろ。俺はその間に、オリエの中へ現在の桜井伸二と絵里の姿を《送》る。家族を置き去りにして来た伸二次第で、オリエの中にある壊れた記憶が真っ当に動けば御の字、っていう程度のことにしかならないだろうけどな」

 言葉とともに吐き出した紫煙が、自嘲の溜息と混じって消えた。

「そんなことをして、騒ぎにはなりませんか?」

 零の言う“騒ぎ”とは、火事のことではなく、世間にサレンダーや自分たちのことが露見する懸念を示唆しているのだろう。

「だから、消すんだよ。ここにはRIOや俺の痕跡が山ほどついてる。俺とRIOが直接関わったのは当事者及び紀由の紹介で絡んだ弁護士一名のみ。弁護士の方は紀由のお墨付きだ、問題ない。坂口がこれだけのリスクを抱え込んでまでオリエに接触しようとは考えないだろう。由有が勝手な行動を取ったのは想定外だったが、それは鷹野の方が巧くやるはずだ」

 割れたガラステーブルの欠片に、煙草を押しつけて火を消した。

「ローン返済中ってことは、火災保険の加入が義務付けられているから家の借金もそれで消える。オリエの実家はここから近い一戸建だ。次の住まいにありつくことも可能。その前に入院コースだとは思うけどな」

 GINは締めとばかりに立ち上がり、首を押さえて俯いたままのRIOを見下ろした。

「信じろっつったからには、まずこっちがお前を信用しないとな。そうだろ? 遼」

 コードネームではなく、名前を呼ぶ。伏せた顔をぎこちなく上げて目を見開いたRIOへ、皮肉な笑みをくれてやった。

「お前の《熱》は、雑念混じりで丁度いいくらい、強いってことだ。ガキはガキらしく、“俺、強え”って自信持ってやればいいじゃん?」

 かっと頬を紅く染めたRIOに背を向ける。

「零、遼を甘やかすなよ」

 それだけを言い残し、GINは再びキッチンへ戻った。


 オリエの背後にそっと佇み、意識を彼女に集中させる。練り込む思念は、ただひとつ。オリエの狂気の中に点在する、彼女の身に起きた数年前の出来事。彼女が伸二を待つ日々を諦めた日。

 そのときも、彼女はやはりキッチンに立っていた。それはこの家ではなく、燃えてしまった以前のマイホーム。

 足許に絵里が這って来ていたのに気づかなかったオリエは、揚げ物をしていたてんぷら油をひっくり返してしまった。彼女は咄嗟に絵里の上に被さり、彼女を熱された油からを守った。動転した彼女は身を屈めることもせず、赤ん坊の絵里を抱きながら煙に巻かれていった。オリエは遠のいていく意識の中、滑りやすいシルク素材のブラウスを脱いだ。油を被って火傷を負った腕に皮膚の剥がれる激痛が走り、彼女は絶叫した。それでも彼女は、絵里の命を守りたかった。たっぷり水を含ませたブラウスで包まれた絵里は、オリエの「少しでも発見されやすい玄関口まで」という願いをこめられ、廊下に小さな体を滑らせた。

 燃え盛る炎の中、誰も助けに来なかった。何度も伸二を呼ぶオリエの声が、GINに訴えているようにさえ聞こえた過去の思念。

 狂気の中で垣間見た記憶を、少しだけ改ざんする。

「明日は伸二さんが昇進出来るかどうかがわかる日。カツで勝つ、なんてね」

 過去という夢を見ながら、鼻歌混じりで独り言を口にする。GINはそんなオリエの背後からいきなり羽交い絞めにした。同時にガスコンロのコックを空押しして、ガスだけを漏れ出させた。

「ひっ」

 素手の左手で口を塞ぐ。むき出しの右手で彼女の額を強く抱え込む。

 彼女は流し込まれる《送》を味わいながら、GINの腕の中でゆっくりと力を抜いていった。

「……伸二、さん……」

 オリエの瞼を覆ったGINの右手が、しっとりと濡れていく。彼女の口許に微笑が浮かんだ。

「助けに、来てくれた、のね」

 じわりと少しずつ、溶けていく。GINの中に、オリエの心が。

「助け、て……絵里ちゃん……」

 そう呟く彼女の耳許へ、GINはそっと囁いた。

「絵里はもう大丈夫だ。消防の人が連れ出してくれた」

「伸二さん、絵里より私を先に……?」

 GINの腕の中で、彼女がくるりと身を翻す。彼女は締めつける勢いで、GINに力いっぱいしがみついた。

「遅くなってごめん。もう大丈夫」

 オリエにそう囁きながら、GINは背後のリビングへ合図を送った。

 目の前に火柱が立つ。丁度天井を火の先がチラチラと焼く程度の火力で燃え盛る。

「――ッッッ!!」

 オリエがその火を見た途端、声にならない悲鳴を上げた。ほどなくGINの両腕にずしりとした重みが加わった。

 すぐ脇に身を滑らせる気配を感じた。零がガスコンロの下を手早く漁り、てんぷら鍋と油を取り出した。続いて冷蔵庫を漁り、手頃な食材をキッチンの調理台へ次々とそれらしく並べていく。鍋に注がれた油があっという間に発火する。RIOの《熱》はあくまでも燃焼を早める格好とし、実際に油の出す赤黒い火が天井を焦がす。不自然さのまったくない、“調理中の火事”という演出が、その瞬間ようやく完成した。どこまでも抜かりのない零の冷静な判断力に、呆れ混じりの苦笑が漏れた。

「遼は自力で動くと言ってます。急いでZを回して来ます」

 と言うが早いか、零はGINのコートからZのキーを抜き取った。

 気を失ったオリエを抱えたまま、勝手口からそっと外へ出る。RIOが痛みに顔をゆがめながら、そのあとをゆっくりついて来た。

「おい、零のアレは俺を甘やかしたわけじゃないからな。怒ってやるなよ」

「解ってるさ。遼、上出来だ。やれば出来るじゃん」

 それについての答えがGINの耳に届けられることはなかった。

 隣家との境界壁が、GINやRIOを隠していた。火元から離れたそこの壁に、そっとオリエを下ろしてもたれさせた。

「ほら。肩を貸すから、ちっと屈んでここから出るぞ」

 GINはそう言ってRIOの腕を取り、自分の首の後ろへ回させた。

「いって。もっと丁寧に扱えよ。首もやっちまってるっつうの」

 彼はそんな毒を吐いたが、GINが触れても怒らなかった。

 表で急ブレーキの音がする。聞き慣れたエキゾースト音が、Zの到着をGINに知らせた。桜井家の表口へ回って見ると、Zの前に零が乗って来たと思われる紀由のFDも停まっていた。

「通報された模様です。急いでください」

 Zから降りるよりも早く、零の険しい声が撤退を強く訴える。

「遼は」

「私が帝都医大へ連れて行きます。FDから本間とリアルタイムでのやり取りが可能です」

 それにはGINに担がれているRIOの方がぴくりと反応した。

「……いい。事務所に、戻る」

 ――GINと話の続きがあるから。

 RIOが初めてコードネームでGINを呼んだ。

「遼、大丈夫ですよ。GINも同行しますから」

 そう紡ぐワインレッドの唇が、ゆるやかに微笑をかたどった。

「喋くってる暇はないんだろ。さっさと乗るっ」

 却ってこちらの方が気恥ずかしい。GINは乱暴にRIOをFDへ押し込むと、何かを訴えてがなっているRIOを無視し、自分もZへ乗り込んでアクセルを踏み込んだ。




 諸々の検査や診察を終え、RIOにも昨年のGINと同じように、東棟の個室が与えられた。RIOの負った怪我は、幸い肋骨の下部二本のヒビとむち打ちだけに留まった。《熱》を帯びたRIOと接触したGINの右手も「真皮熱傷」との診断だった。かなり痛むが、「軽い方だ」とインテリな外科医に鼻で笑われた。

 柄にもなく、しおらしい態度でベッドに横たわるRIOを見ると、つい口許がゆるんでしまう。

「……笑うな、おっさん」

「や、悪い。どっかの種族みたいだな、と思って。首のギプス、っていうのか? それ」

 RIOが首を動かせないのをよいことに、GINは彼の死角でまたくつくつと笑いを漏らした。

「遼、まずはゆっくりおやすみなさい」

 零の言葉があまりにも柔らかかったのが意外だった。思わずふたりをしげしげと見つめてしまう。

「残念ですが、次のミッションは来月です。そこにあなたを加えることは出来ません。体調不備はもちろんですが、まずは《能力》以上に、心のコントロールが必要です」

 小さな舌打ちが室内に響く。だが、それだけのことだった。

「わぁってるよ。自業自得だし。文句はねえよ」

「割り切りが早くなりましたね。よい傾向だと思います」

 零はそう言ってくすりと声を漏らし、そっとRIOの前髪を掻きあげた。

「大事に至らなくてよかった……もう私にこんな想いをさせないでくださいね」

 ひと回りと少ししか違わない年齢差のはずなのに。RIOを案じる零の横顔が、GINの目には、母親が子を案じる表情に見えた。

「おい、おっさん」

 部屋を出ようと踵を返したところで、相変わらずの憎たらしい呼び方でRIOに呼び止められた。

「あ? 何?」

 取り敢えず返した声が、思っていた以上に拗ねたものになった。振り返った先には、零の介助を受けて無理やりこちらへ身を傾け、かなり仏頂面をした吊り目がこちらを睨んでいる。

「この借りはいつか絶対、返してやるからな。覚えとけよ」


 ――あんたに助けが要るようなときは、俺が名乗りを上げてやる。


「……あ?」

 面食らった末に取ったリアクションは、RIOの顔全部を赤く染めさせた。

「て……めっ、耳まで遠いのかよ、クソじじい! あとでがっつりケリつけようじゃねえかオイ!」

 だから、ミッションが済んだら速攻で帰って来い。そう言ったときだけ声のトーンが下がった。そんな憎まれ口とうらはらに向けられた瞳は、零を見つめるときの瞳とよく似ていた。

「……おう」

 慣れない居心地の悪さに、一瞬の間が開いた。RIOもそう感じたのだろうか。苦笑というには、ゆがみ過ぎるほど口角を片方だけ上げ、そして瞼を閉じてしまった。




 ひと足先に、病院を後にする。駐車場でZに乗り込み、いざエンジンを掛けようとしたときに、携帯電話が着信を告げた。

(由有? あのバカっ娘、また飛び出したのか)

 彼女は渋谷から自宅へ帰ったはずだ。自宅からは加入電話で掛けて来る子なのに、通知番号は携帯のナンバーになっている。GINは軽い舌打ちをしながら通話ボタンを押した。

「こら、お前、今どこに」

『桜井オリエさんの入院した病院前。GINは今どこ? 桜井さんのお宅が火事で大変だったの!』

「あそこへ行ったのかよ……このバカ」

 一気に全身から力が抜けた。由有の口振りから察するに、こちらとのバッティングはなかったようだ。目撃されていなかったのが不幸中の幸いだった。

『だって、絵里ちゃんのことが気になって』

 しゅんとした声でそう言われると、嫌でも彼女の拘る理由を連想させられ、押し黙ってしまう。

『あのまま家族がバラバラになっちゃうなんて、そんなの……哀しいもの』

 でもね、と続いた声が、意外にも明るさを取り戻していた。

『この火事をきっかけに、オリエさんの気持ちがすごく変わったみたい』

 そんな切り出しで由有から語られたのは、彼女が打った一芝居の顛末だった。

 風間事務所の助手として病室へ赴いたらしい。「実はオリエがストーカーに悩まされてGINに依頼をしていた」という言い方で、桜井伸二にGINとのアポイントを代行で打診したそうだ。

『その依頼はキャンセルさせてくれ、って。キャンセル料として、前金はお納めください、って言ってた』

「え、なんで」

 大胆不敵な行動に呆れつつ、説教の前に問い掛ける。

『目の覚めたオリエさんと話し合ったんですって。もうマイホームは要らないから、絵里ちゃんとオリエさんと、三人で過ごす時間をもっと増やそうって。自分が家族を守るから、もう大丈夫だ、って』

 家族がどの部屋にいても目の行き届く、手頃な間取りのマンションに移り住むつもりらしい。

『妻が目を開けてまず言ったのが、“最初に伸二さんの顔が見れて嬉しい”って、泣かれてしまいましてね。これまでのほったらかしを、ひどく反省させられるひと言でした』

 少しでも一緒にいられるよう、必要以上に仕事を引き受けないようにする、と、伸二は照れ臭そうに話したそうだ。

『オリエさんね、幼稚園を早引けして駆けつけた絵里ちゃんを見て、ビックリしてた。前にも火事で家が燃えてしまったことがあるんですって。その記憶とごちゃ混ぜになっちゃってたらしくって。でも、家にいないでくれてよかった、って、すっごいボロボロ泣き出しちゃって。絵里ちゃんが一生懸命お母さんを慰めていたよ』

 由有の喜びが電話越しでもよく解る。直接会ってみれば、あのいちごみるく色をしたオーラが元気よく四方へ揺らめいているのだろう。

『それでね、落ち着いてからオリエさんが、ふたりで話したいんだけど、って言っていろいろと』

「由有」

 彼女の笑顔を直接この目で見たくなった。我慢できないほど、無性に。

『なに? あ、もしかして今、忙しかった?』

「いや。今から迎えに行く。話の続きを聴きたいから」

『ホント? 会えるの?』

 彼女の機転と絵里視点の話を聞かなかったら、誰を最優先にまとめればいいかを見誤りそうな案件だった。彼女の口振りでは、限りなく低い可能性でしかなかった“オリエの引き戻し”が叶ったらしい。その予測を確信に変えたいだけだ。

 GINは自分の中で由有の顔が見たくなった理由に納得すると、今度はためらう間をおかずに提案を口にすることが出来た。

「アシストの報酬に、晩飯くらいおごってやる」

 会いたいのは自分の方なのに、高飛車な物言いをしてしまう。

『やったー! 今日はフレンズでやってるキャンペーンの最終日なの!』

「フレンズ? って、ファミレスじゃん。そんなんでいいのか?」

『安上がりな、いい女でしょっ』

「かわ、いい女、の子、だな」

『何、それ。なんで“かわ”と“の子”を強調するのよ』

「さあ?」

『さあ、じゃなーいッ』

「かわいいは否定しないのな」

『解ってるもん』

「バカだろ、お前」

『バカ探偵にバカって言われたくない!』

 GINはSPを巻いたことに対する説教も忘れ、ハンズフリーで会話を続けながら、由有の待つ病院を目指して慌しくZを走らせた。

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