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十二人の夜

作者: 澄音/Sumine
掲載日:2026/05/15

その出会いは偶然か…それとも必然か…

その時彼等は何を想い、何を感じたのか。

そんな仲間の物語です。

潮の匂いを含んだ夜風が、古びた倉庫街を静かに吹き抜けていた。


海沿いの町は昼間こそ人通りも多いが、夜になると別の顔を見せる。

人気のなくなった岸壁。

錆びたコンテナ。

薄暗い街灯。

そして、遠くで繰り返される波の音。


二十歳になったばかりの六人は、そんな夜の町を笑いながら歩いていた。


「だから絶対あの店のラーメンの方が美味いって」


「いや、あの店は味が濃いだろ」


「お前味覚終わってんな」


笑い声が夜道へ溶けていく。


六人は昔からずっと一緒だった。


高校を卒業してからも、なんだかんだで毎日のように集まっている。


周囲からも知られる六人組だ。


黒木 海斗かいと(仮)

浅野 悠真ゆうま(仮)

れん(仮)

白石 みなと(仮)

藤崎 玲央れお(仮)

高瀬 はる(仮)


性格も趣味も違う。


それでも、不思議なくらい気が合った。


そんな彼らには秘密の場所がある。


海沿いの倉庫街の奥。


今はもう使われていない古い倉庫。


拾ってきたソファ。

壊れかけたスピーカー。

壁際に転がるバレーボール。

落書きだらけのテーブル。


そこは六人だけの“居場所”だった。


嫌なことがあった時も。


進路に悩んだ時も。


恋愛で盛り上がった時も。


気づけば、みんなそこに集まっていた。


その日も、いつものように溜まり場へ向かっていた。


海の近くということもあり、風は少し冷たい。


倉庫街の横には、海へと繋がる水路がある。


昼間はただの川みたいに見えるそこも、夜になると底知れない黒い海のようだった。


「今日、潮の匂い強くね?」


湊が呟く。


その時だった。


先頭を歩いていた海斗が突然足を止める。


「……なんだあれ」


全員の視線が水面へ向く。


黒い何かが浮いている。


最初はゴミかと思った。


だが。


「待って……人じゃないか?」


悠真の声が強張る。


街灯に照らされた水面。


そこには、人影が浮いていた。


しかも一人じゃない。


「六人……?」


誰かが呟く。


黒い水面に揺られながら、六人の人間が静かに流れていた。


「おい!!」


海斗が駆け出す。


次の瞬間には全員が動いていた。


岸壁へ身を乗り出し、腕を掴み、必死に引き上げる。


濡れた服は異常に重かった。


冷たい水が全身へ跳ねる。


それでも誰も止まらなかった。


「そっち支えろ!」


「頭ぶつけんな!!」


「急げ!!」


ようやく全員を引き上げた頃には、六人とも息を切らしていた。


倒れている六人は、まるで死体みたいだった。


青白い顔。


色のない唇。


動かない身体。


「……嘘だろ」


陽の声が震える。


だが蓮が、一人の胸元へ耳を当てた。


静寂。


波の音だけが響く。


そして。


「……生きてる!!」


微かだった。


本当に微かだった。


それでも確かに鼓動があった。


「倉庫に連れて行くぞ!!」


六人は倒れている彼らを抱え、倉庫街の奥へ走った。


古びた倉庫の扉を開ける。


冷えた空気。


雑然とした室内。


秘密基地みたいなその場所へ、六人が運び込まれる。


海斗がすぐさま心臓マッサージをする。


陽はその間ストーブをつけ、毛布をかける準備をした。


「戻ってこい……!」


玲央が必死に声をかける。


しばらくして。


「……っ、ごほっ!!」


一人が激しく咳き込んだ。


続けて、また一人。


さらに一人。


六人全員が、深い海の底から浮かび上がるように意識を取り戻していく。


その瞬間、全員が床へ座り込んだ。


「よかった……」


それが誰の声だったのかは分からなかった。


しばらくして助けられた六人は、何が起こったのか全く状況がわからなかったが、自分達の状態を見て彼等に助けられたのだと気付いた。


神崎 あおい(仮)

三雲 かなで(仮)

伊吹 晴翔はると(仮)

九条 理人りひと(仮)

朝比奈 いつき(仮)

如月 なぎ(仮)


助けられた六人はそれぞれ名乗った。


偶然にも、彼らも全員二十歳だった。


蒼が静かに話し始める。


「あの日、海が荒れてたんだ」


始まりは、一人だった。


仲間の一人が高波へさらわれた。


助けようとして、また一人飛び込む。


さらにもう一人。


気づけば全員海にいた。


だが波は想像以上に強かった。


冷たい海。


荒れる風。


暗闇。


「このままじゃ全員死ぬって思った」


だから六人は手を繋いだ。


せめて離れないように。


誰か一人だけにならないように。


だが体力は限界だった。


無駄に暴れれば、その分だけ消耗する。


だから彼らは決めた。


少しでも呼吸を抑え、体力を残すこと。


半ば仮死状態のようになりながら、波へ身を任せた。


普通なら助からない。


それでも六人は、この町へ流れ着いた。


聞けば、彼らが海へ流された場所は、この町から遥か遠くだった。


電車でも何時間とかかるほど離れた海。


地図で見れば、とても人が漂流して辿り着ける距離じゃない。


「……よく生きてたな」


湊が呟く。


蒼は少し困ったように笑った。


「俺らも、そう思ってる」


静かな沈黙が落ちる。


波の音だけが、遠くから聞こえていた。


まるで最初から、この町へ辿り着くことが決まっていたみたいだった。


話を聞き終えた後、誰もすぐには口を開かなかった。


不思議だった。


初対面のはずなのに。


まるで、自分たちを見ているみたいだった。


自分たちもまた、ずっと六人で生きてきた。


喧嘩もした。


馬鹿みたいに笑った。


何度も支え合った。


だから分かる。


“離れたくない相手”がいる感覚を。


気づけば、その夜は朝まで話し込んでいた。


好きな音楽。


昔の失敗。


バイトの愚痴。


恋愛の話。


倉庫の中には、何度も笑い声が響いた。


まるで昔から友達だったみたいに。


やがて空が白み始めた頃。


蓮が、隅に転がっていたバレーボールを拾い上げる。


「なぁ」


全員が顔を上げる。


蓮は笑っていた。


「落ち着いたら、今度勝負しようぜ」


「勝負?」


「俺ら六人と、お前ら六人」


数秒の沈黙。


その後、凪が吹き出した。


「なんでバレーなんだよ」


「なんとなく」


「適当すぎるだろ」


笑い声が広がる。


そして、その場の空気のまま約束が決まった。


試合の日。


助けられた一人が、助けた一人を迎えに行くこと。


二人で並んで会場へ向かうこと。


理由なんてない。


でも、なぜかそれが自然な気がした。


──そして数日後。


勝負の日。


十二人は、あの海が見える町へ再び集まっていた。


その数時間前。

電車を降りた六人は、駅前で立ち止まる。


海風が吹く。


遠くで電車の発車ベルが鳴っていた。


「じゃあ、あとでな」


蒼がそう言う。


「遅れんなよ」


「お前がな」


軽く笑い合うと、六人はそれぞれ別の方向へ歩き始めた。


向かう先は決まっている。


自分を助けた、“あの日の相手”の家だ。


住宅街を抜ける。


潮の匂いが混じる風。


空はよく晴れていた。


蒼は、小さな一軒家の前で立ち止まる。


インターホンを押す。


数秒後。


扉が開いた。


「……よっ」


そこに立っていたのは海斗だった。


少し眠そうな顔。


ラフな服装。


けれど、笑っていた。


蒼もつられて笑う。


「準備できてる?」


「とっくに」


「じゃ、行くか」


たったそれだけだった。


でも、不思議とそのやり取りが心地よかった。


別の場所でも。


別の家でも。


同じように扉が開いていた。


「よっ」


「おう」


短い言葉。


軽い笑い声。


そして二人並んで歩き出す。


まるで昔から友達だったみたいに。


十二人がそれぞれの道を歩き、少しずつ同じ場所へ集まっていく。


潮風が吹く町。


笑い声。


青空。


遠くから聞こえる勝負を告げる笛の音。


――その後、試合がどうなったのかは覚えていない。


どちらが勝ったのか。


どんな試合だったのか。


そこまでは分からない。


なぜならこれは、私が見た夢の話だからだ。


ただ、不思議と今でも覚えている。


潮の匂いと。


波の音と。


あの十二人の、楽しそうな笑い声だけは。

この夢は書き残す価値のあるものでしたので夢で見たものをそのまま物語にしました。

内容は短いですが、少しでも楽しんでいただけたなら嬉しいです。

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