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枕返しの証言

作者: 楠田圭吉
掲載日:2026/04/20

枕返しの証言

——望月楼奇譚——


序章 白戸という女


 白戸と知り合ったのは、三年前の秋のことだ。

 当時の私——桐野冬二は、探偵事務所を開いて二年目だった。前職は出版社の編集者で、雑誌の取材で探偵事務所に出入りするうちに「自分でやれる」という根拠の薄い自信を持ち、三十二歳で独立した。仕事といえば不倫調査か、ペットの捜索か、近所のトラブルの仲裁か——そういうものばかりで、事務所は金沢市片町の繁華街の一角にある雑居ビルの一室だった。

 その夜、私はコンビニの缶チューハイを二本空けて、事務所の椅子で半分眠りかけていた。仕事が十日なかった。家賃の見通しが立たないまま夜が来て、それでもどうにかなるだろうという根拠のない楽観で生きていた。

 そのとき、ドアをノックする音がした。

入ってきたのは、白い着物の少女だった。

 夜の片町に着物。それだけで十分に異様だったが、私がもっと驚いたのはその瞳の色だった。薄い金色をしている。暗い部屋の中でその目だけが燃えるように光っていた。

「桐野冬二」と彼女は言った。それも名乗りもせず初対面で。

「そうだが」

「探偵だな」

「一応」

「では頼む」

 彼女がトートバッグから取り出したのは、見慣れない形の小瓶が三本。液体の色が橙、濃紺、乳白色——どれも市販の薬とは明らかに異なる。

「盗まれた。三日前に、私の薬の幾つかが」

「警察に行けばいい」

「行けない」

「なぜ」

「私が何者か、警察に説明できないから」

 私はその瞳を見た。金色の目が、真っ直ぐ私を見返した。

「あなたは何者だ」と私は聞いた。

「魔女だ」と彼女は答えた。

 私は缶チューハイを一口飲んだ。

「——報酬は?」

「困ったときに助ける。私は時の中を見ることができる。過去に起きたことを、その場にいたように見られる。探偵の仕事に役立つはずだ」

 十日、仕事がなかった。目の前の相手が嘘をついているとは思えなかった。

「わかった。受けよう」

 それが始まりだった。

  *****

盗まれた小瓶の件は、半日で解決した。近所の中学生が、光る瓶を面白がって持ち出したのだった。私が話をつけて返却させると、白戸は瓶を一本ずつ確かめ、「全部ある。よかった」とだけ言った。

「大事なものか」と私は聞いた。

「私が時を見るとき、消耗する」と白戸はさらに続けた。

「遠い時代を見るほど、激しく消耗する。この薬は、その回復を助けるものだ。私が自分で調合する。失うと、遠い過去が見えにくくなる」

「つまり、それがないと遠くには届かない」

「そうだ」

 礼はなかったが、翌朝、事務所の机に見慣れない和菓子が一つ置いてあった。うまかった。白戸に聞いたが、どこで買ったのかは教えてくれなかった。

 白戸はそれ以来、事務所に居ついた。

 毎日のように現れては窓辺に座り、外を見ている。話しかければ答えるが、自分からはほとんど話さない。追い出そうとしても聞かない。家賃は払わないが、事務所の掃除だけは黙ってやっていた。

 連絡手段について言っておく。白戸は携帯電話を持っていない。スマートフォンも、ガラケーも。しかし白戸から私への連絡は、不思議となんとかなる。

「なぜ私の居場所がわかるんだ」とある日聞いた。

「においでわかる」と白戸は言った。

「あなたのにおいは、どこにいてもだいたいわかる」

「だいたい、というのが気になるが」

「だいたいだ」

 以来、私が白戸に用があるときは事務所に戻る。白戸が私に用があるときは、白戸が現れる。それで特に問題は起きていない。

    *****

 白戸について、私が知っていることをまとめておく。

 年齢は「数えるのをやめた」と言う。いつからかやめたのかと聞いたら「二百年ほど前から」と答えた。この国に古くから棲みついた種族で、人とも幽霊とも異なる存在だという。「魔女」という言葉は自分で使うが、詳しく聞こうとするたびに「説明が難しい」と言って黙る。

 能力は三つある。一つ、時を「見る」。過去の出来事を、その場にいたように目撃することができる。近い過去ほど楽で、遠い時代になるほど消耗が激しい。消耗を回復させる薬を自ら調合しており、それがなければ遠い過去には届かない。時を「変える」ことは、できない。あくまで、見るだけだ。二つ、嘘のにおいがわかる。三つ、死の気配を察知できる。

 食事はほとんどしない。ただし甘いものだけは別で、和菓子と羊羹には目がない。寒さを非常に嫌う。「寒い」という言葉を、この三年で何百回聞いたかわからない。

 私のことを「桐野」と呼ぶ。苗字を、呼び捨てで。三年経っても変わらない。

 私が白戸を「変な助手」と説明するのは、他に言葉がないからだ。ただ——手詰まりになるたびに、彼女がいてよかったと思う。それだけは確かだ。


第一章 雪の旅館


 二〇二四年二月の初旬、新潟県十日町市の山間にある温泉地・朽葉湯くちはゆから、メールが届いた。

 送り主は旅館「望月楼もちづきろう」の女将、望月糸もちづきいと。文面は短かった。

 「人が死にました。殺されたと思います。すぐ来てください。——糸」

 糸さん、と私は声に出した。

 望月糸とは、私がまだ編集者だった十数年前に知り合った。旅館の歴史を特集する記事の取材で望月楼を訪れ、当時まだ若女将だった糸に話を聞いた。誠実で、しかし芯の強い人という印象が残り、その後も折々の連絡が続いた。

 五年前、糸から依頼が来た。旅館の帳簿から金が消えている、しかし証拠がなく警察に言えない状態だ、と。私はすでに探偵をしていた。調査の結果、経理を任せていた親戚の男が着服していたことが判明し、穏便に解決した。糸には深く感謝された。

 その糸が「すぐ来て」と言っている。

 私は白戸のいる事務所に戻り、メールを見せた。白戸は一読して言った。

「行く」

「消耗が激しい可能性がある。薬は足りているか」

白戸は棚の小瓶を確かめ「足りている」と言った。

    *****

 新幹線と在来線を乗り継いで四時間。駅からタクシーで四十分。山道を上がるにつれて雪が深くなり、旅館に着いた時分にはもう日が暮れていた。

 望月楼は、木造三階建ての老舗旅館。外観は明治か大正か、という風格だが、玄関には自動ドアがある。改修と維持を繰り返しながら生き延びてきた建物の、特有の気配があった。

 タクシーを降りると、隣で白戸が言った。

「寒い」

「旅館に入れば暖かい」

「わかっている。寒いと言っただけだ」

 白戸は白い着物の上に分厚いダウンコートを羽織っていた。この組み合わせにはもう慣れた。

「においがする」と白戸が言った。

「雪か」

「死のにおいだ。それも——古いものと、新しいものと、二種類」

 私は足を止めた。

「古い死のにおい、とは?」

「この建物に染みついている。何十年も——いや、もっと前のものだ。古い血と、古い恐怖と、古い嘆きのにおいがする」

「新しい方が今回の事件か」

「そうだ。それと——」白戸は少し間を置いてから「同じにおいが、建物の中から漂ってくる。人から」

「人から? 古い血のにおいが」

「そうだ。建物と、同じ血のにおいがする人間が、中にいる」

「何の?」

 白戸は旅館の入り口をじっと見た。

「本物のにおいがする」と白戸は言った。それきり、黙って中に入った。


第二章 望月楼の人々


 女将の望月糸は、私たちをフロント奥の小部屋に通した。火鉢が一つ置かれており、白戸はそれに向かって両手を伸ばした。

「桐野さん」と糸は言った。いつもより声が低い。「わざわざ——ありがとうございます」

「五年前のお礼はとっくに済んでいます。何があったか話してください」

 糸は少し間を置いた。

「被害者の加納邦彦様は、この旅館の経営に深く関わっておられました。表向きは後見人ですが、実態は旅館を安値で買い叩こうとされていた。今回の集まりも、加納様が主導した売買の話し合いです。買収に関係する方々を集めて、条件を詰めるつもりだったようです」

「旅館の買収をめぐる利害関係者が、被害者を含めて複数いる」

「はい。警察が入れば旅館の内情がすべて明るみに出ます。それを望まない方が複数おられる。それでまず桐野さんに。五年前のように」

「わかりました。宿泊客のことを詳しく教えてください」

 糸が、タブレットを操作しながら読み上げた。

 一人目、加納邦彦。六十三歳。被害者。軽度の心房細動があり、抗不整脈薬を常用。さらに——と糸は声を低くした——睡眠に問題があり、専門医にかかっていると、秘書の中村から聞いていたという。

「松の間だけはご案内しないようにしていたのです」と糸は続けた。

「なぜ松の間を?」

「円山応挙の描いた『お菊様』と言われる女の幽霊画の掛軸があるからです。夜中に目が覚めた方があの絵を見てひどく驚かれたことが過去に何度かあって。加納様は睡眠が安定しないとお聞きしていましたので——でも今回は加納様ご自身が松の間を強くご希望で。『あの部屋でないと泊まらない』と」

「加納様はお菊の怪異を怖れていたのではなく?」

「逆です」と糸は静かに言った。「加納様はお菊様を深く信じておられました。お菊様が守ってくださると。身の危険を感じることがあるとおっしゃっていて——そういうときこそ、お菊様の前で眠りたいと」

 白戸が、わずかに眉を動かした。私も同じものを感じていた。

 守護を求めた部屋で、その人は死んだ。

 糸は少し間を置いてから、言いにくそうに続けた。

「桐野さん。『お菊様』についてはどこまでご存知ですか」

「旅館に伝わる怪異の名前だということは聞いています。詳しいことはこれから」

「そうですか」と糸は言った。その声に、何か決意のようなものが滲んだ。

「では後ほど蔵をご覧になってください。先祖代々からの記録が、全部残っています。先祖が何をしたか。お菊様が何者だったか。それを知った上で、この事件を見ていただきたい」

「糸さん。あなたはその話をご存知なのですか」

「生まれたときから、知っています」と糸は言った。「望月の家の女は、みんな知っています。知らされます。逃げられないように」

 その言葉の重さに、私はしばらく何も言えなかった。

 二人目、中村義郎。三十五歳。加納の秘書。痩せた、目の鋭い男。七年間、加納に仕えてきたという。

 三人目、堂島貢。四十八歳。不動産会社の社長。加納とは旧知だが、買収額をめぐって対立していた。

 四人目、堂島芳江。四十三歳。堂島の妻。

 五人目、礒貝朔。二十九歳。建築士。

 六人目、永田誠一ながたせいいち。五十七歳。内科医。加納の主治医であり、今回は個人的な付き合いから同行していた。

「旅館のスタッフは」

「支配人の田代と、仲居が二名です。昨夜の館内の動きは記録しています」

「ありがとうございます。現場を見せてください」


第三章 松の間


 被害者・加納邦彦が泊まっていた一階奥の「松の間」に通された。主治医である永田医師も同席した。

 廊下の突き当たり、旅館で最も格の高い部屋だ。引き戸を開けると、八畳の和室に広縁がついている。庭に面した窓は二枚。天井は高く、柱は黒光りしている。

 私はまず、床の間に目をやった。

掛軸のフックだけが、そこにあった。 掛軸本体は布団の足元に、横倒しになっていた。

 いや。

私は足を止めた。

 掛軸だけではなかった。

布団が、半回転していた。枕が足元にある。掛け布団の柄が逆を向いている。本来、頭があるべき位置に足が、足があるべき位置に頭が——加納邦彦が、そこに倒れていた。布団ごと半回転した状態で、仰向けに。顔色は蒼白で、表情は穏やかだ。苦悶の形跡はない。眠るような死に顔だが、頭と足が完全に逆になっている。

 そして、その足元に、横倒しの掛軸。

 巻き軸が半分解けて、白い幽霊の裾が畳にだらりと広がっている。

 床の間の台の上に、蝋燭台があった。蝋燭は根元まで燃え尽きていた。蝋が白く固まり台の上に垂れて冷えていた。

「また出た」と仲居の一人が震える声で言った。「お菊様がまた、この部屋に…… お菊様の枕返しだ!」もう一人の仲居は腰を抜かしてそう言った

 また、という言葉を私は頭に留めた。

 永田が、遺体の傍らに膝をついた。しばらく確認してから静かに立ち上がった。

「外傷はありません」と永田は言った。「心停止と思われます。詳しくは解剖を待たなければなりませんが、加納さんには以前から心房細動がありましたから」

 永田の顔に、複雑な色があった。主治医として、患者の死を目の前にした悲痛な男の顔だった。

「仲居さん」と私は聞いた。「発見時、まだ息がありましたか」

「はい。ドアを叩いても返事がなくて。補助錠がかかっていたので、支配人に内側から開けてもらいました。まだかすかに胸が動いておりまして。耳を近づけましたら、一言だけ……」

「何と?」

 仲居は着物の袖を握りしめた。

「『おきく、が——』と。それきり、お息が絶えました」

 おきく。

 私はその言葉を、頭の中に深く仕舞った。

 白戸は部屋の入り口に立ち、床の間の蝋燭台を見ていた。金色の瞳が、燃え尽きた蝋燭の上で静止している。

 密室の構造を確認した。

 松の間は引き戸だが、内側に後付けの補助錠がある。引き戸の框に取り付けられた掛け金式で、内側からかけると引き戸が動かなくなる構造だ。外からは開けられない。

「発見時、支配人に内側から開けてもらったと言っていましたが」と私は糸に確認した。

「はい。田代が細い棒状の工具を使いまして——引き戸の框の隙間から、掛け金を上げることができるんです。旅館の改修前の古い補助錠の構造で、スタッフだけが知っている方法です」

 窓は二枚。木製の框に、内側から木の閂がかかっていた。発見時、両方とも施錠されていた。窓の外は新雪で、足跡はない。

 完全な密室だった。

 その夜、全員から話を聞いた。

 中村義郎は落ち着いていた。感情を見せない男で「昨夜は加納が松の間に戻るのを見送り、自室で資料を読んでいました」と淡々と言った。

「加納様が松の間を希望されたのは、あなたが勧めたのですか」と私は聞いた。

「いいえ」と中村は言った。「加納が自分で希望しました。毎回そうです」

「就寝前に蝋燭を灯す習慣があったようですが」

「旅館の慣習だと聞いていました。私は特に何も」

 淡々と、揺るがず。

 堂島貢は饒舌だった。「夫婦で晩酌して九時には寝ました」と言い、加納の死を悼む言葉はほとんどなかった。礒貝朔は率直に「加納さんとは今回初めて会ってほとんど話もしていない」と言った。

 私は全員の話を聞きながら、二つの疑問を抱えていた。

 一つ、誰も部屋に入っていない密室で何が起きたか。

 二つ、おきく、とは何か。そして——燃え尽きた蝋燭が、なぜ気になるのか。


第四章 蔵の記録


 翌朝、白戸が「蔵を見せてもらえ」と言った。

「においか」

「そうだ。紙と墨と古い木のにおいだ。それと昨夜から気になっていることがある。おきく、という言葉と、あの蝋燭だ」

「蝋燭が何か」

「松の間に蝋燭台が置かれていた。燃え尽きていた。あれは誰が灯した?」

「旅館の慣習だと中村は言っていた」

「慣習ではない」と白戸は言った。「においが違う。あの蝋燭は、意図を持って灯されている」

 女将に頼んで蔵の鍵を借りた。

旅館の母屋の裏手に、土蔵が一棟あった。中には古い調度品や帳簿類が整理して保管されていた。白戸は迷わず奥の棚に向かい、最も古い年代の帳場日誌を引き抜いた。

「明治三十八年を見ろ」

開くと、二月の記録にこんな記述があった。


 「松の間・吉田氏、朝刻にて急逝。布団逆向きに、応挙の掛軸足元に倒れあり。蝋燭燃え尽き。お菊の枕返しか。医師の見立て、心臓の発作。享年六十。合掌」


「蝋燭が燃え尽きている」と私は言った。「今回と同じだ」

「そうだ」と白戸は言った。「お菊の枕返しが起きる夜には、必ず蝋燭が燃え尽きているのだ。これが記録に何度も出てくる」

 さらに古い記録を探した。最も古い帳場日誌は明治六年のものだった。創業当時の記録の中に、こんな一節があった。


 「松の間の掛軸につき。応挙先生の幽霊画は、お菊様の姿を写したものと伝わる。お菊様は光に導かれて現れ、眠れる者の頭と足を逆になさる——北枕、死者の向き——にて、その者に死の準備をさせるという。蝋燭の灯りはお菊様を呼ぶ。ゆえに松の間では、蝋燭を灯して眠ることを慎むべし」


「蝋燭を灯すとお菊が現れるのだな。これが旅館の古い言い伝えだった」

「そして」と白戸は言った。「その言い伝えを逆手に取った者がいる」

 白戸はさらに奥の棚を探り、一冊の古い和綴じの書物を引き出した。表紙に薄く墨で書かれた文字——「お菊始末記」。

「これだ」と白戸は言った。「においがしたんだ、この書物から」

 二人で読んだ。

 文体は江戸後期のものだった。内容を要約すると、こういうことだった。

 天保年間(一八三〇年代)、朽葉湯の村は数年続きの凶作に苦しんでいた。村人たちが飢えに喘ぐ中、村娘の一人——お菊——が代官所へ向かった。年貢の減免を訴えるために、一人で。

 当時の代官は、望月源右衛門。この地を治める幕府の代官であり、かつ望月楼の前身となる宿の主人でもあった。

 お菊が代官所の門をくぐり、年貢の減免を訴え出たとき、望月源右衛門は、「おー、聞く」と言った。聞く、と言いながらお菊を奥の間に連れ込んだ。

 「聞く」は、嘘だった。

 源右衛門はお菊を手籠めにした。そして口封じのために、お菊を死なせた。

 村に戻らないお菊を村人たちが探したが、遺体すら見つからなかった。

 その後、源右衛門の夢にお菊が現れるようになった。夜ごと、足のない白い影が枕元に立つ。やがて源右衛門は廃人同然となり、代官の職を解かれた。

 死の床で源右衛門は息子に遺言した。「お菊の魂を鎮めよ。さもなければ望月の家は絶える」と。

 息子は名のある絵師——円山応挙——にお菊の霊を描かせ、菩提を弔うための掛軸を作らせた。応挙はお菊の姿を「足のない幽霊」として描いた。現世に足をつけられない魂——まだ成仏できていない証として。

 掛軸は望月楼の松の間に飾られた。

 しかし、お菊の魂は完全には鎮まらなかった。松の間で眠る者の頭と足を逆にする怪異が、以来ずっと続いた。

 北枕——死者の向き——を作ること。それがお菊の枕返しだった。

 書物の末尾に、こう記されていた。


 「お菊様は蝋燭の灯りに導かれて現れる。闇の中に灯る一点の光を目印に、この世に帰ってこられる。蝋燭が燃え尽きるまで、お菊様はこの部屋におられる。ゆえに松の間では蝋燭を灯してはならぬ。これは望月の家の戒め」


 私は書物を閉じかけて——最後のページに、もう一つ記述があることに気づいた。


 「お菊様の亡骸につき源右衛門は密かに、松の間の軒下の土中に埋めたり。誰にも知らせず、墓石もなく。お菊様は今も、松の間の床の下に眠る。掛軸はその魂の依り代なり。軒下に眠りながら、絵の中にもおわす。それゆえ、お菊様は松の間を離れられぬのだ」


 私は書物を持ったまま、しばらく立っていた。

 松の間の、軒下。

 私たちが現場を検分したとき、床の間の前に立っていた。その真下の土の中にお菊が眠っている。

「白戸」と私は言った。「知っていたか」

「においがした」と白戸は静かに言った。

「旅館に着いたとき古い血と、古い嘆きのにおいが、松の間の床の下から特に強くした。しかし……」

「しかし?」

「もう一つ、記述がある」と白戸は言った。「次のページだ」


 私はページをめくった。


 「源右衛門には嫡男のほか、お菊様を死なせた天保十年に、側室との間にも子が生まれたり。この子の血筋は望月の家を離れ、江戸へ下り、後に加納の姓を名乗る。源右衛門の罪は、望月の家のみならず、加納の家にも流れたり。いつか両家の血が再び交わるとき、お菊様の怒りは完成すると——古老は言う」


 私は、その一節を二度読み返した。

「加納邦彦は——」

「源右衛門の子孫だ」と白戸は言った。「望月糸様と、同じ先祖を持つ。源右衛門の血が旅館の側と、買収しようとした側と——両方に流れていた」

「だから加納はこの旅館に引き寄せられた」

「そうかもしれない」と白戸は言った。「そして松の間をどうしても、と望んだ」

 私は、加納が松の間を強く希望した場面を思い出した。「あの部屋でなければ泊まらない」と言ったと、糸は言っていた。

 自分の先祖が埋めた娘の眠る場所に。

「望月家の先祖が、お菊を殺した」と私は言った。「女将の糸さんは、これを知っているのか?」

「知っているはずだ」と白戸は言った。「この書物のにおいは、何度も読まれた紙のにおいがする。最近も、誰かが手に取っている」

 私は糸の顔を思い出した。旅館を守ることへの、あの静かな使命感。先祖への贖罪——その意味が、今わかった気がした。

「それから」と白戸は言った。「この書物には、中村家についての記述もある」

 私は再び開いた。中ほどのページに、こんな一節があった。

 「天保の昔より、中村の家は望月家と契約を結ぶ。中村家は望月家の秘事を守る代わりに、望月楼松の間にまつわる一切の記録を閲覧する権を持つ。これは両家の誓約なり」

「中村義郎の祖先が、お菊始末記を読んでいた」

「そうだ」と白戸は言った。「蝋燭を灯すとお菊が現れるという言い伝えも。中村家は代々その知識を受け継いできた」

 女将を呼んで確認した。

 糸は、「お菊始末記」の表紙を見た。見た瞬間、表情は変わらなかった。ただ、手が微かに震えた。それだけだった。

「知っています」と糸は静かに言った。「全部知っています」

「先祖・望月源右衛門がお菊様を死なせたことも?」

「はい」

 糸は、しばらく黙っていた。窓の外の雪を見るでもなく、どこか遠いところを見ていた。やがて、ゆっくりと話し始めた。

「私の母から聞きました。十二のときです。母はその母から、そのまた母から…… ずっと受け継いで来た話だと言っていました。望月の家に生まれた女は、必ずこの話を聞く。先祖がお菊様を死なせた。訴えを聞くと言いながら聞かなかった。その罪は消えない。だから、旅館を守り続けなければならない。お菊様の前から逃げてはならない、と」

「代々、女将がその話を娘に伝えてきた」

「はい」と糸は言った。「私が五代目ですが——初代から変わらず。望月源右衛門の血を引く者として、せめてこの場所を守り続けることだけが、できることだから、と。母はそう言っていました」

 私は何も言えなかった。

 何百年もの間、母から娘へ、罪の記憶が手渡されてきた。逃げることも、忘れることも許されないまま。旅館を守り続けることが贖罪だと信じながら…… その重さが、糸の背筋の真っ直ぐさの中に、ずっと宿っていたのだと気がついた。

「だから」と糸は続けた。「今回、この旅館でお菊様が——利用されたと聞いて。桐野さん私は……」

 糸は、そこで言葉を止めた。

「糸さん」と私は言った。「あなたのせいではない」

「わかっています」と糸は言った。「それでも源右衛門の血が、私にも流れている。その血を引く家の旅館で、またお菊様が使われた。それが……」

 糸は一度、深く息を吐いた。

「申し訳ない、という言葉しか、出てきません」

 白戸が、糸の顔をじっと見ていた。何も言わなかった。ただ、見ていた。

「中村義郎の祖先が、この書物を読んでいたことも知っていましたか」と私は聞いた。

 糸は頷いた。

「昭和の頃の契約書に残っています。中村様の祖父様が資金を援助してくださった際の条件として、お菊様の記録の閲覧権を持つと。その後も、中村様のお父様が一度、蔵においでになったと聞いています。当時の女将だった私の祖母は、それをひどく嫌がっていたと、母から聞きました。望月家の秘事を、外の血が知ることへの怖れがあったと」

「その怖れは、正しかった」

「そうですね」と糸は静かに言った。「祖母が怖れた通りのことが、七十年後に起きました」

「今回の内覧会を、中村が望月楼に指定したのは?」

「中村様からのご提案でした。加納様のご意向だとおっしゃっていましたが、今思えば」と糸は言った。「最初から、ここで、と決めていたのかもしれません。松の間を加納様の部屋にするようにとのご指定も、中村様からでした」

 私は少し間を置いた。

「糸さん。もう一つ聞かせてください。お菊始末記の最後に、松の間の軒下に、お菊の遺体が埋められたとありました」

 糸は、長い間黙っていた。

「知っています」とやがて言った。「その事も母から聞きました。お菊様は今も、松の間の床の下にいらっしゃると。だから松の間は特別な部屋なのだ、と。お菊様が眠る場所に掛軸が飾られている。軒下と絵の中に、同時におられる、それがお菊様だと」

「それから加納邦彦が、源右衛門の子孫だという記述もありました」

 糸の顔が、わずかに変わった。

「……それも」と糸は静かに言った。「知っています。加納様が初めてこの旅館に来られたときに顔立ちに、どこか見覚えがあると思いました。先祖の肖像画に、似ていると。でもまさか、と思っていました」

「源右衛門の罪が、旅館側と買収側、両方の子孫に流れていた」

「そうです」と糸は言った。「お菊様は源右衛門の血を引く者を、ずっと待っておられたのかもしれません。松の間に眠りながら」

 私は白戸を見た。白戸は静かに頷いた。

「白戸」と私は言った。「時を遡ってもらう必要がある。昨夜の松の間とできれば、もう一つ」

「もう一つ?」と白戸は言った。

「お菊が死んだ夜だ。天保年間の、代官所」

 白戸はしばらく黙っていた。

「遠い」とやがて言った。「江戸の中期より後だが…… 消耗する。薬があるから、できないことはない」

「無理はしなくていい」私は言った。

「する」と白戸は言った。「見なければならないものがある。お菊のにおいが、この書物からする。ずっと、ここにいる」


第五章 時の目撃者


 白戸が時を遡るとき、彼女はいつも同じことをする。

 部屋の中央に立ち、目を閉じる。

 それだけだ。外から見れば、ただ立っているだけにしか見えない。だが彼女の内側で何かが動き、時の流れが別の層を晒す。近い過去なら三十分ほどで戻ってくる。遠い時代を見るときは、もっと時間がかかる。

 白戸は蔵の中に残り、私は外で待った。

 一時間が過ぎた。

 一時間半が過ぎた。

 雪が細かく降り続けていた。蔵の前に積もった雪を、私は黙って眺めた。

 二時間が過ぎた頃、蔵の扉が開いた。

 白戸の顔を見て私は思わず立ち上がった。

いつもより血の気が引いていて白く、金色の瞳が、どこか遠い場所を見ているような焦点の定まらない目をしていた。壁に片手をついている。

「大丈夫か」

「座りたい」

 旅館の小部屋に連れていき、火鉢の前に座らせた。白戸は黙って火に手をかざした。私は湯を沸かし、茶を淹れて渡した。彼女は両手で湯呑みを包み、しばらく黙っていた。

「遠かった」とやがて口を開いて呟くように言った。

「天保年間まで遡ったか」

「そうだ」と白戸は言った。「お菊を見た」

 その声が、わずかに変わっていた。感情を抑えた平坦な声が、わずかだが揺れていた。

「どんな女だった」

「若かった」と白戸は言った。「二十にもなっていなかったかもしれない。痩せていて、着物が擦り切れていた。代官所の門をくぐるとき——怖かったと思う。それでも、まっすぐ歩いていた」

 白戸は茶を一口飲んだ。少し間があった。いつもより長い間だった。

「源右衛門が『おー、聞く』と言った。お菊は頭を下げた。奥に連れていかれて——」

「もうそれ以上は言わなくていい」と私は言った。

「——わかった」

 しばらく、二人とも黙っていた。

 白戸が湯呑みを置く音がした。それから、窓の外の雪を見た。その横顔に、何か…… いつもとは違う何かがあった。感情を持たない顔のはずなのに、その輪郭が、かすかに揺れているように見えた。

「白戸」と私は言った。「天保年間を遡ったときそれだけを見たのか」

 白戸は少し間を置いた。

「……いや」とやがて言った。「もう一つ、あった」

「何が」

「お菊が…… こちらを見た」

 私は息を止めた。

「見た? 過去の人間が、お前を見たのか」

「そうだ」と白戸は言った。「私が時を遡るとき、過去の者には見えないはずだ。私はただの目撃者で、その場にいない。しかしお菊だけは見えていた。私の方を向いて、まっすぐ見た」

「その目は…… どんな目だった」

 白戸は、少し間を置いた。

「驚いていなかった」とやがて言った。「初めて見る者を見る目ではなかった。知っている者を見る目だった」

「知っている者を?」

「そうだ」と白戸は言った。「まるで久しぶりに会った、というような。そういう目だった」

 私はそれ以上聞かなかった。白戸の横顔に何か聞いてはいけないものがある気がして。

「昨夜の松の間も見たのか」と私はやがて聞いた。

「見た」と白戸は言った。「そちらから話そう」

 白戸は続けた。

「加納は九時過ぎに松の間に戻り、床の間のお菊の掛軸に向かって手を合わせた。それから就寝の準備をしていると、しばらくして中村が入ってきた」

「中村が部屋に入った?」

「加納が施錠する前だ。『今夜は特別にご用意しました』と言いながら、蝋燭台を持ってきた。そして自分で火を灯した。『松の間の古い習わしです。お菊様を呼ぶ灯りです。今夜は加納さんを、お菊様がきっとお守りになる』と言って」

「——加納は喜んだか」

「深く頷いていた。ありがとうと言って、中村を見送った。そして、自分で補助錠をかけた」

 私は茶を啜り再び白戸の話に集中した。

「中村は旅館の古い言い伝えを知っていた。蝋燭を灯すとお菊が現れると。加納がお菊を信じていることも知っていた。だから加納自身が喜んで蝋燭を受け入れるように、言葉を選んだ」

「そうだ」と白戸は言った。「中村は何も仕込んでいない。薬も、毒も、装置も。ただ蝋燭を一本、灯しただけだ」

「それで、そのあと何が起きた?」

 白戸は少し間を置いた。

「深夜、蝋燭の炎が揺れた。松の間の空気が動いた。窓の外で風が吹いたからだと思う。炎が揺れると、掛軸のお菊の影が壁に大きく映った。揺れて、伸びて、縮んで、暗い部屋の中で、白い幽霊がまるで生きているように動いた」

「加納のレム睡眠行動障害は、光の刺激で発作が誘発されることがある」

「……レム睡眠行動障害?」

「夢を見ながら身体が動いてしまう障害だ。今回も、永田先生が、一緒に同行しているように、加納は専門医の管理下にあった。夜中に起き上がり、歩き回ることがある。中村は七年間秘書として加納に付き添い、その発作の様子を何度も見ていた。どういう刺激が引き金になるか——光、音、温度の変化——熟知していたはずだ」

「そうか。それで…… 加納が起き上がったのだな」

「そのあとどうなった?」

「加納は、目は開いているが、夢の中にいる顔だった。布団の上で身体を動かし、向きが変わった。頭と足が逆になった。そのまま、掛軸の方向に向いた」

「そしてお菊と向き合った」

「そうだ、向き合った」と白戸は言った。「そしてそこで、本物のお菊を見た」

 私は息を止めた。

「本物の?」

「白い影が、部屋にいた。足がなかった。加納が掛軸に向き直ったとき、影は掛軸の前に立っていた。加納と向き合っていた」

「加納はそれを見た」

「見た。夢の中で、本物のお菊を見た。加納の顔が——変わった。恐怖ではなかった。私には、あの顔が何だったか、うまく言えない。ただそのまま心臓が止まった。そして、倒れた。掛軸を道連れに」

 部屋に、静寂が落ちた。

「中村は」と私はやがて言った。「お菊が本当に現れるとは、思っていなかったはずだ。蝋燭の光が揺れて、掛軸の影が動く。それがレム発作を誘発して、心臓に負担をかけると計算した。お菊は道具のつもりだった」

「そうだ」と白戸は言った。「しかし、お菊は来た。本物が」

 白戸は湯呑みを置いた。

「加納の最後の言葉が『おきく、が——』だったのは、お菊を見たからだ。夢の中で、掛軸の前に立つ白い影を見て、その名を呼んだ。それが最後になった」


第六章 お菊の枕返し


 我々が、全員をロビーの一室に集めたのは翌朝だった。

 白戸が部屋の中央に立った。私は脇に控えるように立つ。

「加納様の最後の言葉について、申し上げます」

 全員が押し黙った。中村は隅の席に座り、膝の上で手を組んでいた。

「『おきく、が——』。仲居さんが聞いたのはそこまでです。お菊とは、この旅館に伝わる怪異の名前です。江戸の昔、望月楼の先祖によって理不尽に死なせられた女性の魂が、応挙の幽霊画に宿り、松の間で眠る者の頭と足を逆にする——北枕、死者の向きにする——怪異です」

「加納様は死の間際に目を覚まし、自分が布団ごと逆を向いていること、足元に掛軸が倒れていることに気づいた。お菊に枕返しをされた——死者の向きにされた——と悟り、その名を呼んだのだと思います」

「……しかし」と白戸は続けた。「今夜、松の間でお菊の枕返しが起きた原因は、怪異だけではありません」

 誰も口を開かなかった。

「加納様はレム睡眠行動障害という睡眠障害をお持ちでした。夢を見ながら身体が動いてしまう、夜中に起き上がり、歩き回ることがある障害です。加納様の主治医の永田先生はそれを知っていた。そして七年間、加納様の傍に付き添ってきた中村様も、当然、知っていた」

「夢の中で身体を動かし、布団の上で回転し頭と足が逆になった。掛軸を足元に引き倒したのも、加納様ご自身が夢の中で動いた結果です。そしてその発作の引き金になったものがあります。蝋燭です」

 白戸は一度、床の間の方向を見た。

「昨夜、就寝前に松の間で蝋燭が灯されました。この旅館の古い記録に、こう記されています——蝋燭の灯りはお菊を呼ぶ。ゆえに松の間では蝋燭を灯して眠ることを慎むべしと。それを知っていた者が、加納様に蝋燭を勧めた」白戸は続けた。「深夜、風が窓を揺らし炎が揺れた。暗い部屋に、お菊の影が大きく揺れて動いた。その光の刺激がレム発作を誘発した。起き上がった加納様が向き合ったのは、揺れる掛軸の影と……そして」

 白戸は、ここで一度止まった。

「本物のお菊でした」

 堂島が「は?」と言いかけた。白戸はそちらを見なかった。

「まさか」一同が白戸の言葉にざわめいた。

「加納様が見たものが何であれ心房細動を抱えた心臓が、限界を超えた。加納様は倒れ、掛軸を道連れにした。蝋燭は夜明けまでに燃え尽き、証拠は灰になった。密室は最初から破られていません」私が付け加えた。

「蝋燭を加納様に勧めたのは?」と白戸は中村を見た。「あなたです、中村様」

 中村は動じなかった。

「証拠は?」と彼は言った。「私が蝋燭を持っていったとしてそれがなぜ犯罪になるのですか。旅館の慣習だと思って持参した、それでは駄目ですか」中村は反論した。

「この旅館に蝋燭を松の間に持ち込む慣習はありません」と白戸は言った。「女将に確認しています。それとは逆に、松の間では蝋燭を灯してはならないという戒めが、江戸からの記録に残っている。中村様はその記録を、祖父の代から閲覧する権利をお持ちでした。蔵の契約書に残っています。それに昨夜、加納様が補助錠をかける前に、あなたが松の間に入り、蝋燭に火を灯したことを、私は目撃しています」

 中村が、初めてはっきりと動じた。

「目撃? あの時間帯に?」

「私は過去を見ることができます」

 沈黙。

 中村は白戸の金色の瞳を見た。

「……そんな証言がなんの証拠になるというのですか」と低く言った。

「認められなくてもかまいません」と白戸は言った。「加納様の睡眠障害に関する診断記録は、永田先生がお持ちです。中村様が七年間の付き添いでその発症条件を熟知していた事実、蔵の記録との照合——警察が立証します。あなたがこの旅館の怪異の記録を知っていた経緯は、契約書が示しています」

 白戸はここで永田を見た。

「永田先生。加納様のレム睡眠行動障害は、光の刺激で発作が誘発されることがありましたね?」

 永田は静かに頷いた。「……そうです。蝋燭のような揺れる光は、特に注意が必要な刺激でした。私が加納さんに、就寝前の開放的な光源を避けるよう指導していた理由はそこにあります」

「中村様はそれを知っていたのですよね?」

「はい。……七年間、傍にいましたから」と永田は低く言った。その声に、複雑なものが混じっていた。

 白戸は床の間を指した。

「お菊の枕返しについて、最後に申し上げます」

 全員が掛軸の方向を見た。まだ足元の畳に横倒しになったままだった。

「応挙の幽霊画に足がないのは、現世に足をつけられない魂を示します。足のない者は、地を踏まない。足を持たないお菊に、自らの意思で枕返しを行う力があるとすれば、それは頭と足を逆にすることだけです。布団ごと半回転させること。北枕を作ること。足元に何かを運ぶことは、足のない者にはできません。掛軸が足元に倒れていたのは、加納様が自分の手で引き倒したからです。それは人間の行為です。お菊の枕返しを完成させたのは加納様ご自身だった。しかし」と白戸は続けた。「お菊が松の間にいたことは本当のことです。蝋燭の光に導かれて現れた。加納様の枕返しを、お菊様は見届けたのです」

 部屋が静まり返った。

 中村は長い間、倒れた掛軸を見ていた。

 やがて、静かに言った。

「……おかしなことを言うようですが」と中村は言った。「私はお菊が本当に現れるとは、思っていませんでした。ただ、蝋燭の光が揺れれば、あの絵の影が動く。暗い部屋で目が覚めた加納が幽霊の影を見れば、心臓に負担がかかる、そう計算しただけで」

「わかっています」と白戸は言った。「あなたはお菊を道具として使った。しかしお菊は本物でした」

「では私は」と中村は言った。「お菊の力を借りて、加納を殺したということになりますか」

「あなたが引き金を引いた。お菊は、自分の意思で松の間に来た」

 中村は、それきり黙った。

 倒れた掛軸の中で、お菊が伏し目のまま、ただそこにいた。


終章 雪とお菊と贖罪と


 警察が来るまでの間、私と白戸は廊下の突き当たりの窓辺に並んで立った。窓の外は雪が細かく静かに降り続いていた。

「消耗は」と私は聞いた。

「ある」と白戸は言った。「天保は遠い。薬を飲んだが、まだ少し残っている」

「それでも寒そうだ」

「寒い」

 私はポケットからカイロを取り出して渡した。白戸は受け取り、両手で包んだ。礼は言わなかったが手がしっかりカイロを握った。

 しばらく沈黙が続いた。

「白戸」と私はやがて言った。「お菊を、江戸の時代に見た。どんな目をしていた」

 白戸は窓の外を見たまま、少し考えた。

「代官所に入るとき」とやがて言った。「怖かったと思う。それでも、まっすぐ歩いていた。村の人たちのために来たから——その顔をしていた」

「そして死んで、何百年も松の間にいる」

「そうだ」

「お菊は、怒っているのか」

 白戸はしばらく黙った。

「わからない」とやがて言った。「昨夜の松の間で、加納と向き合っていたお菊を見た。あの顔はそう怒りではなかった。何だったか、私にはうまく言えない。悲しみとも違う。ただ長い時間をかけて、何かを待っていた顔だった」

「何を待っていたと思う?」

 白戸は、少し間を置いた。

「……私だと思う」

 私は白戸を見た。

「お菊が、お前を待っていた?」

「天保年間を遡ったとき、お菊と目が合ったと話しただろう」と白戸は言った。「あのとき、お菊は驚かなかった。驚くどころか、待っていたような顔をしていた。まるで、いつか来ると知っていたように」

「どういうことだ?」

 白戸は雪を見たまま、静かに話した。

「私は時を見る。過去を遡って、目撃する。それが私にできることだ。しかし——」

 白戸は一度、言葉を止めた。

「今回、私はお菊に声をかけた」

 私は息を止めた。

「声を……かけた?」

「天保年間の蔵の中で、時を遡りながら、お菊の姿が見えたとき、私は声をかけた。『もう行っていい』と」

「それは……」と私は言った。「時を変えたことになるんじゃないか。お前は『時を変えられない』はずだろう」

「そうだ」と白戸は言った。「二百年以上、そう思ってきた。時を見ることはできる。しかし干渉はできない。変えることはできないそれが私の限界だと……」

 白戸は、少し間を置いた。

「しかし今回、声が届いた。お菊の声が聞こえていた」

 廊下に、静寂が落ちた。

「お菊が去ったのは、糸さんの謝罪があったからだけではないのか」

「それもある。しかし……お菊はすでに、私が来ると知っていた。天保のあの日、死ぬ前から知っていた。だから驚かなかった」

「どうして知っていた」

 白戸はゆっくりと、私の方を向いた。金色の瞳が、静かに光っている。

「お菊は……私と同じ種族だったのかもしれない」

 私は言葉を失った。

「同じ……?」

「人でも幽霊でもない、何か別の存在。私が時を見るようにお菊は、未来を見ることができた。だから代官所に行く前から知っていたんだ。自分が死ぬことも。何百年も松の間に留まることも。そして…… いつか、私がここに来ることも」

「お菊は最初から、お前が来るのを待っていた」

「そう思う」と白戸は言った。「お菊が松の間に留まり続けたのは、恨みだけではなかったのかもしれない。私が来て、声をかけるのを待っていた」

 私はしばらく、何も言えなかった。

「それと……」と白戸は続けた。「もう一つある」

「何だ」

「旅館に着いたとき、私は『本物のにおいがする』と言った」

「覚えている。お菊のにおいだと思っていたが」

「違う」と白戸は言った。「お菊のにおいは古い死のにおいと一緒にしていた。本物のにおい、というのは別のものだ」

「何の」

 白戸は、少し黙ってから言った。

「私自身のにおいだ」

 私は白戸を見た。

「どういうことだ」

「私はこの旅館に、来たことがある」と白戸は言った。「今回が初めてではない」

「いつ」

「未来だ」

 私は、もう一度白戸を見た。金色の瞳が、雪の光を受けて静かに揺れている。

「未来……?」

「私は時を遡って過去を見る。しかし、時の流れには、逆もある。私は時折、まだ来ていない場所を、先に見ることがある。意図してではなく、夢のように」

「つまり…… お前は、この旅館に来る前から、ここに来ることを知っていた」

「そうだ。だから迷わず『行く』と言った」

 私は、三年前のことを思い出した。白戸が「行く」と言ったとき、一瞬の躊躇もなかった。薬の確認だけして、すぐに支度をした。あの迷いのなさが、今になって意味を持ったのだ。

「白戸」と私は言った。「お前が未来を先に見ていたなら加納が死ぬことも、見えていたのか」

 白戸は答えなかった。

 その沈黙が、答えだった。

「……知っていたのか。加納が助からないことを」

「見えていた」と白戸はやがて言った。「しかし、時を変えることはできないと思っていた。だから……」

「だから、何も言わなかった」

「そうだ」

 私は深く息を吐いた。

「今回、お菊に声をかけた。時に干渉した。それはできないはずのことだった」

「そうだ」

「つまりお前の『限界』は、今回初めて破れた」

「そうかもしれないな」と白戸は静かに言った。「それが何を意味するのか、私にはまだわからない。二百年以上生きてきて初めて自分が何者なのかが、わからなくなった」

 廊下に、静寂が戻った。

 雪が窓に当たるかすかな音だけがあった。

 廊下の向こうから、女将・望月糸の足音が近づいてきた。糸は私たちの隣に立ち、窓の外を見た。雪を見ているのか、その向こうを見ているのか、わからなかった。

「警察の方が来られる前に」と糸は静かに言った。「一つだけ、言わせてください」

「どうぞ」

「この旅館で、また人が死にました。先祖がお菊様を死なせたことへの…… その因果がまだ続いているのかと。私が女将である限り続くのかと」

「糸さん」と私は言った。「あなたのせいではない」

「わかっています」と糸は言った。「頭ではわかっています。でも…… 源右衛門の血が私にも流れている。その血を引く家の旅館で、お菊様がまた道具にされた。それを、私は止められなかった」

 糸は一度、唇を結んだ。

「母が言っていました。お菊様はいつか、この家に決着をつけに来るかもしれない、と。それが怖ろしいことであっても、逃げてはいけない。望月の家が受けるべきものを、受けなければならない、と」

「しかし今夜、お菊様は——誰かを傷つけるために来たわけではなかったのです」と白戸が言った。

 糸は白戸を見た。

「お菊は昨夜、松の間にいました。私が見ました。加納様が逝くのを見届けていた」

「……はい」

「お菊のにおいは」と白戸は続けた。「怒りのにおいではありませんでした。長い時間の疲れのにおいと少しだけ、安堵のにおいがした」

 糸は、目を閉じた。

「安堵」と糸は繰り返した。声が微かに揺れた。

「中村が裁かれる。お菊の怪異を利用した者が、明るみに出た。お菊の話が、初めて人の言葉で語られた。そういうことが、重なったのかもしれない」

 糸は長い間、目を閉じていた。

 やがて、ゆっくりと床の間の方向に向き直った。松の間の引き戸の向こうに、応挙の幽霊画がある。今は横倒しになったまま、足元の畳に。

 糸は、深く頭を下げた。真っ直ぐに、深く。

「お菊様」と糸は言った。「望月源右衛門の末裔として、申し上げます」

 声が、震えていた。

「先祖があなたに、してはならないことをした。訴えを聞くと言いながら、聞かなかったばかりかあなたの命を、奪った。それはとても許されないことでした。何百年が経っても許されることではない」

 糸は頭を下げたまま、続けた。

「謝っても、戻らない。わかっています。でもこの言葉を、一度だけ、言わなければならないと思っていました。ずっと」

 廊下が、静まり返った。雪が窓に当たる、かすかな音だけがあった。

「長い間ありがとうございました。この旅館にいてくださって。逃げずにずっといてくださって。どうか……」

 糸は、そこで声が詰まった。

 しばらく、誰も何も言わなかった。

 松の間の引き戸の向こうから、かすかに何かが動く気配がした——ような気がした。空気が、わずかに変わった。

 見直すとただの廊下の空気の流れだった。

 しかし白戸は、その方向をしばらく、じっと見ていた。そして——かすかに、頷いた。

 帰りのタクシーの中で、白戸が言った。

「桐野」

「何だ」

「お菊は—— 行った」

「行った、とは」

「松の間を出た。さっき、感じた」

 私は窓の外の雪を見た。

「どこへ?」

「わからない」と白戸は言った。「ただ長い時間、ここにいた。もういない」

 タクシーは山道を下った。

「よかったのか」と私は聞いた。

「わからない」と白戸は言った。「ただ、あの安堵のにおいが、帰る間際に少し強くなった。それだけだ」

 私はしばらく、窓の外を見ていた。

 雪は降り続けた。山道が続く。望月楼の灯りが、山の上で小さくなっていった。

 そのとき、頭の中で、いくつかのことが繋がった。

 白戸は旅館に着いたとき、言っていた。「建物と同じ血のにおいがする人間が、中にいる」と。それは加納だった。源右衛門の血を引く者が、今回初めてこの旅館に——松の間に——泊まった。

 お菊始末記に書かれていた。「両家の血が再び交わるとき、お菊様の怒りは完成する」と。

 加納が松の間を強く望んだのは、誰かに引き寄せられたからではなかったか。

「白戸」と私は言った。「お前はこの旅館になぜ来た」

「桐野が来ると言ったから」

「それだけか」

 白戸は答えなかった。

「加納が源右衛門の子孫だと、お前は旅館に着いた瞬間から、においでわかっていた」

「そうだ」

「加納が今夜、松の間で死ぬこともわかっていたか」

 長い沈黙があった。

「見えていた」と白戸はやがて言った。「来る前から」

「なぜ止めなかった」

「止められない」と白戸は静かに言った。「時を変えることはできない」

「できない、とお前は私に言い続けてきた」と私は言った。「しかし今回——お菊に声をかけた。それは時に干渉したのではないか」

 白戸は黙っていた。

「お前は事件を解決しに来たのではなく——」と私は言った。「復讐を、完成させに来たのではないか」

 タクシーが、山道のカーブを曲がった。

 白戸は窓の外の雪を見ていた。その横顔は、何も答えなかった。

 それが——答えだった。

 私はそれ以上、何も言えなかった。

 天保年間に死んだ娘が、何百年も待ち続けた。松の間の軒下に眠りながら。掛軸の中に宿りながら。源右衛門の血を引く者がこの部屋に来る日を。

 そして今夜、それが完成した。

中村が仕掛け、加納が死に、お菊が去った。

 白戸はその流れを、知っていた。

 しばらく沈黙が続いてから、ふと引っかかりを覚えた。

 天保年間。一八三〇年代。

 白戸が言っていた。「数えるのをやめた。二百年ほど前」と。

 二百年前——それはおよそ、天保年間と重なる。

「白戸」と私は言った。

「何だ」

「お前が数えるのをやめたのは、二百年前だと言った」

「そうだ」

「天保年間だ」

 白戸は答えなかった。

「お菊が死んだのも、天保年間だ」

 白戸は、窓の外の雪を見ていた。

「——白戸」

 私は、白戸の横顔を見た。

 白い肌。長い黒髪。目を伏せた横顔の輪郭が——どこかで見たことがある、と思った。

 床の間の、あの掛軸。

 応挙の幽霊画。

 足のない、白い女。

「お前は」と私は言った。声が少し掠れた。「お前は——」

 白戸は答えなかった。

 ただ、窓の外の雪を見ていた。その金色の瞳が、何も映さないように、静かに光っていた。

「お菊が去ったとき」と私はやがて言った。「お前は頷いていた。あれは?」

「……見送った」と白戸は静かに言った。「長い時間、同じ場所にいたものを見送った」

「同じ場所、とは」

 白戸は答えなかった。

「旅館に着いたとき『本物のにおいがする』と言っていた」

「そうだ」

「あれは何のにおいだった」

 長い沈黙があった。

「自分のにおいだ」と白戸はやがて言った。「長い時間をかけて、変わっていくものと、変わらずにいるものの、においだ」

 私はもう、何も言えなかった。

 タクシーは山道を下り続けた。

 白戸は窓の外の雪を見ていた。その横顔がずっと——応挙の幽霊画の女に、似ている気がした。

見直すたびに、ただの白戸だった。

いつもの白戸だった。

しかし私はそれ以上、何も聞かなかった。

 聞けなかった、というより——聞かなくていい、と思った。

 三年間、私の隣にいた。それだけで、十分だった。

「白戸」と私は言った。

「何だ」

「寒いか」

 白戸は少し間を置いた。

「寒い」

 私はコートの袖を、そっと差し出した。白戸はそれを、両手でつかんだ。

 雪は降り続けた。

 望月楼の灯りが、山の上でひときわ小さくなり、やがて——雪の向こうに静かに消えた。

                (了)



後記にかえて——お菊の枕返し


 枕返しとは日本各地に伝わる怪異である。眠れる者の枕を、いつの間にか逆向きにするという。

 しかし「枕を返す」とは何か。

 頭と足を逆にすること。北枕——死者の作法——の向きにすること。眠れる者に「死の準備

」をさせる行為——そう伝える地域がある。

 望月楼のお菊は、布団ごと半回転させる。掛軸を足元に引き倒す。頭があった場所に足が来て、足があった場所に頭が来る。それがこの旅館の枕返しだった。

 円山応挙が幽霊画に足を描かなかったのは「現世に足をつけていない者」を示すためだと言われる。足のない者は地を踏まない。現世に直接干渉できない。

 今回の事件で、犯人は「足のない幽霊」を道具として使った。しかし最後に看破の鍵を与えたのも、「足のない幽霊」だった。足がなければ足元に何かを運べない——その論理が、犯行を暴いた。

 お菊が代官所の門をくぐったのは、天保年間のことだ。年貢の減免を訴えるために、一人で。「おー、聞く」と言われながら、聞いてもらえなかった。

 それから何百年が過ぎた。

 望月楼の松の間では、今は何も起きない——と、白戸は言った。

 蝋燭を灯しても、布団が逆を向くことはなくなった。掛軸のお菊は床の間に静かにかかっており、夜中に何かの気配がすることも、もうないという。

 泊まった客が翌朝「よく眠れました」と言う。旅館の者は微笑んで頷く。

 誰も傷つかない夜が続いている。

 それでいい、と女将は言った。

 それでいい——と、お菊も思っているかもしれない。



登場人物


桐野冬二きりのとうじ

三十四歳。金沢市片町の繁華街の雑居ビルに事務所を構える私立探偵。元は出版社の編集者。鋭い観察眼を持つが、超自然的なものを論理で解釈しようとする癖がある。白戸を「変な助手」と呼ぶ。


白戸しらと

年齢不詳。自称・魔女。この国に古くから棲みつく種族で、人とも幽霊とも異なる存在。過去の出来事を「時の中で見る」能力を持つ

。嘘と死のにおいを察知する。時を見るたびに消耗し、遠い時代を見るほど回復に時間がかかる。その消耗を補う薬を自ら調合している。白い着物にダウンコートという変わった出で立ちで桐野の事務所に居ついている。本名は不明。


望月糸もちづきいと

五十四歳。温泉旅館「望月楼」の女将。五代目。江戸後期にお菊を死なせた代官・望月源右衛門の直系の子孫にあたる。桐野とは十数年前、編集者時代の取材で知り合い、五年前に旅館の横領事件を桐野に依頼した実績がある。先祖の罪を知りながら旅館を守り続けることが自分の贖罪だと、幼い頃から母に言い聞かせられて育った。


加納邦彦かのうくにひこ

六十三歳。東京在住の資産家。望月楼の買収を主導していた。軽度の心房細動があり、抗不整脈薬を常用。レム睡眠行動障害を持ち、専門医の管理下にある。お菊の怪異を深く信じており、松の間の掛軸の前で眠ることを己の守護と思っていた。今回の事件の被害者。


中村義郎なかむらよしろう

三十五歳。加納の秘書。七年間にわたり加納に仕え、全幅の信頼を得てきた。しかし二年前から加納の資産を横領しており、発覚寸前だった。祖父の代から望月楼と縁があり、旅館の怪異「お菊の枕返し」に関する記録を家伝として持っていた。今回の事件の犯人。


堂島貢どうじまみつぐ

四十八歳。都内の不動産会社の社長。加納とは旧知だが買収額をめぐって対立していた。


堂島芳江どうじまよしえ

四十三歳。堂島の妻。夫に同行して望月楼の旅に参加した。


礒貝朔いそがいさく

二十九歳。建築士。望月楼の改修設計の依頼を見込んで参加した。


永田誠一ながたせいいち

五十七歳。内科医。加納の主治医。個人的な付き合いから今回の内覧会に同行していた。加納の心房細動とレム睡眠行動障害を長年管理してきた。


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