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極貧孤児に転生したので、親を探して文句を言おうと思う~  作者: 安野 吽


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3・聖女選別の儀②

「神よ、本日もあなたを慕う若き娘らが聖なる力を授からんとここにまかり越しました。どうか、この敬虔な信徒たちになにとぞご加護を賜りますよう。では唱和を――どうか奇跡を(オーリア)」

「「奇跡を(オーリア)」」

「……おほん、ではここに今期の聖女選別の儀を開催することといたします――」


 お決まりの文句の合唱が、儀式の始まりを告げた。

 詰めれば百人座れる長椅子は埋まり切り、通路や壁際に佇んでいる人もいて堂内は息苦しい。


 しかしこれも田舎町では数少ないイベントのひとつなので、結果を知らず帰ろうとする人もまずいない。


「右端のそちらの方から順番に前へ。さあ、この聖杖に祈りを捧げるのです」


 こんな時だけいつもの乱暴な口調を引っ込めたシスター・ラミニが教壇に立ち、厳かに宣告する。ひとりの娘が従うと、おずおずと進み出て両手を合わせた。私はふるぼけた懐中時計を手にその秒数を計る係だ。各自、持ち時間は一分間。


「では、始めてください」

「え、ええと……どうすれば」

「心のままに祈るのです。さすれば聖杖はあなたの資質を見極め、神に仕えるべき聖女であれば確かな輝きをもって応えるでしょう」

「は、はあ……」


 神妙な顔で適当なことを言うシスターに促され、少女は聖杖の前で一心に祈りを捧げた。だが時は無情に過ぎ……。


「そこまで」


 時計を握る私が持ち時間の終了を告げ、少女はがっかりと肩を落とし席に戻る。恨みがましい目で見るのはやめてちょうだいな。私だってこんな役目、好きで引き受けたわけじゃないんだから。


「次の方」


 それらを堅い表情で見守るシスターの鼻の穴ったら、密かに膨らんでる。えげつな……この人ったら、純粋無垢な少女の夢が打ち砕かれるのを見て楽しんでるんだ。なんと性格の悪いこと。


(ああ、やだやだ。頭が痛くなってきた)


 総勢百人はいる娘たちの選別はそうスムーズには進まない。二時間が過ぎ、いい加減秒針を見つめすぎて目がぐるぐる回って来たところ。ようやくあちこちに突っ立っていたかわいそうな子たちの順番が回ってくる。壁際は寒かっただろうに、唇が真っ青だ。


 参加者の中にはなんの根拠があるのか、「この杖壊れてる! 私に聖女の資格がないはずない!」なんてわめき散らす人や、掴みかかってくる人もいる。

 だがそれもシスターの年季の入ったひと睨みに即刻蹴散らされていった。あの性悪婆さんが怒った時の迫力ってば、本当におっかないんだ。


 そうして、コチ、コチ、コチ……懐中時計の硬い音が耳から離れなくなった頃。ようやく選別が終わりに近づき、堂内に重たい空気が立ち込めてくる。


(この子で最後ね)


 最後尾の女の子も、奇跡を信じてそれはもう真摯に祈る。


 だが聖杖は反応を示さず……秒針が一周すると、うなだれた少女が席に戻るのを見届けたシスターが笑顔で粛々と報告した。


「残念なことですが、今期、どなたかに聖女のご加護が与えられることはありませんでした。しかしそれは、未だ聖女の力を必要とする危機がこの世界に訪れていない証。このまま平和を尊び、清貧を貫いて粛々と暮らしなさい――私には、神がそのようにお伝えくださったように思えます。では各々、くれぐれも身のために合った生活を心がけますように……解散」


 途端がっかりな溜め息があちこちで放たれ。ひとり、ひとりと少女たちが席を立ち始める。


 例年通り……つつがなく聖女選別の儀は終わりを告げた。

 この様子なら陽の落ちる前には後片付けも済みそう。夕食を用意し、残っている作業を片付けたら本日は終了。寄付金の勘定を報告したら、明日シスターは売り上げを手に嬉々として街に向かうだろう。そうなればこっちのもの。


(よっしゃ。こっちはこっちで子供たちとホットケーキパーティだ……!)


 私としても、千載一遇の甘味を食せるこの機会、逃す手はない。明日が待ち遠しいと、内心浮かれて口元を抑えていた時。


「シーねえちゃん! 助けて!」


 バンと聖堂の扉が開き、何事かと一斉に注目が向いた。

 飛び込んできたのは、赤毛のアミの涙塗れのそばかす顔。うんともすんとも言わなかった聖杖を古びた箱に戻していたシスターが、たちまち顔を真っ赤にして怒鳴る。


「なにごとだい! 儀式の最中は入ってくるなってきつく言っただろ! すっこんでな!」

「そんな場合じゃないの! 魔物が現れて……リオン兄が!」

「魔物だと⁉」

「「きゃぁぁぁぁっ‼」」


 “魔物”――その言葉に悲鳴が堂内を満たし……選別に来ていた少女たちが我先にと逃げ出してゆく。

 どうして……いきなりこんな辺境なんかに⁉



 『魔物』と聞いて、前世にいた頃の私だったら、真っ先に異形の怪物の姿を想像しただろう。


 けれど、この世界の魔物はゲームやアニメでお馴染みのゴブリンだのドラゴンだのじゃない。形ある存在とは違った不定形の化け物。実際に見たことはないけど、いつか誰かが言ってたのを聞いた……腐った油と水飴を混ぜたようなやつだったって。


 ともかく一度姿を現すと、身体であらゆる物質を呑み込み消滅させてしまう。物理攻撃は効果はなく、一定量の物質を呑み込むごとに、どんどん大きくなっていくんだとか。


 確か効果があるのは、聖女の持つとされる聖なる力だけ――。


「聖なる……っ! アミはここにいて!」

「シーねえ⁉」


 私は咄嗟に目に入った聖杖をシスターからぶんどると、アミを残してその場を駆けだす。


「何勝手なことしてんだいシーリ! それは大事な教会の財産だ! 壊したらどうなるか……」

「そんなの、あの子たちの命の方が大事っ!」


 シスターの怒鳴り声が背中を追うが、気にしてる場合じゃない。


 杖にどれだけ聖なる力とやらが籠っているか知らないけど、ないよりはまし。

 私は金ぴかの杖を手に、できるかぎりの速さで裏手の林へと走った。

 すると――。


『こいつ……あっちいけ! 俺達の食いものを荒らすな!』

「あのバカ……!」


 リオンがクワを構え、無謀にも魔物を――自分の倍以上もある黒ゼリーみたいなやつを威嚇している。あれが、魔物……⁉


「リオンにいちゃぁん、はやくにげようよぉ」

「姉さんのところへ行ってろ! 俺は法具を持ってる警備隊が駆けつけるまで、畑を守るんだ!」


 腰には一番年少のロロがしがみつき、わんわんと泣いている。当のリオンも半泣きで、クワを持つ手がぶるぶる震えていた。


 法具とは、聖杖のように聖女の力が少しだけ籠ったアイテムのこと。街にはこういう時のために魔物討伐用のものが配備され、通報次第警備兵が駆けつけるようになってる。騒ぎが起きたし誰かが知らせてくれただろうけど……助けを待ってたら、リオンたちが食べられちゃう!


「リオーン! 何してるの、ロロを連れて早く逃げなさい!」


 私は今すぐリオンに下がれと叫んだ。魔物に知能はないとされているけど、外部刺激には反応するみたいだし、あの子がクワで突っつきでもしたら……。


「姉さん⁉ 嫌だ、この野菜は皆で大切に育てたんだぞ! こんなやつほっといたら、俺たち、明日から水しか飲めなくなっちゃうよ! ほら、あっちいけ!」

「ダメだってば!」


 マズい……聞き分けのないリオンが魔物の身体にクワを触れさせた。

 それはじりじりと緩慢な動作で近づいてきた黒い体にずぶりと沈み込み。


「ひぃぃっ! やめろぉっ!」

「バカリオン! どいて!」


 私は無我夢中で横合いからリオンを突き飛ばすと、反射的に聖杖を魔物に叩きこむ。


「ウゥゥゥゥゥ――!」


 するとやつは奇妙な唸り声を発し、ぶるっと震え巻き取っていたクワを落とした。半分溶けた刃先が畑に刺さり、ゾッとしながらも私は子どもたちに再度叫ぶ。


「野菜守ってあんたたちが怪我したら意味ないでしょ! 私に任せてとっとと逃げなさい!」


 だが、リオンはその場から動こうとせず、震え声で伝えてくる。


「ご、ごめん姉さん……立てない。腰、抜けちゃった……」

「はぁ⁉ 根性みせてよ!」


 魔物を怯ませさっさと彼らを連れ帰る算段が一気に崩れてしまった。その間にも、やつはじりじりとこちらへにじり寄り――。


「きゃっ! 来ないで!」


 伸ばした触手で杖を絡め取ると、綱引き状態に。

 やはり、聖なる杖だから簡単に取り込まれはしないけど、一方大したダメージも与えられない。このままじゃ、どうしようも――。


「こんのっ!」

「ね、姉さんを……渡すもんか!」「んぎゅうぅっ」


 足元の柔い土が削れ、引き寄せられる私を子供たちがしがみついて止めてくれた。けど……魔物の引っ張る力の方がずっと強い。保たない……!


(く~! なんだって……いっつもこう理不尽な目にばっかり遭うかなあ!)


 目前の黒い魔物のでっぷりとした身体つきは、私をこれまで阻んだ不運を象徴するかのようで、恐怖よりも怒りが勝る。


 いつだって、運命は突然私たちを絶望のどん底へと突き落とす。生まれや事故、貧しい暮らし。今だって、いきなり魔物なんかに襲われて……。


 でも本当は、私自身に力があれば、乗り越えられたものもあったはず。


 腕力、知力、権力、人望……その他摩訶不思議な得体の知れない力でも。生まれつき何かがあれば、またはそれを手にできていたなら。私は違う人生を歩めていたのかも。


(そうだ、これは私にとって二度目の――)


 もう逃せない最後の機会。それを、こんなところで簡単に手放してたまるか。


 ここに来れたことを無駄にしたくない――懸命に魔物との綱引きに耐えながら、耐える私の手元が一瞬明るくなった。


(……これは⁉)


 記憶が走馬灯のように駆け巡り、溢れ出したのは胸の奥から汲み取られるようにして生み出された、何かの力。


 今度こそ……今回こそ私はそれを掴み取り、唱えた。


「変われ私……いや、世界っ!」


 心が渇望していた、未来を切り開くための”奇跡”。


 それは身体が吹き飛ばされそうな強い光となって、手のひらから溢れ出し。


 目の前の景色を、塗り替えて――…………。


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