第9話 仲間を飲み込む狂気
「撃って、飛ばして、赤いお絵描きっ! ぐちゃぐちゃお肉、バラして、1つ──っ!」
「お絵描きは楽しそうだが、今回は遠慮させてもうよッ!」
トーマスは移動を挟みながら、M4カービンで心許ない弾幕を展開し、デイヴィッドを逃がすための時間を稼いでいた。
銃撃戦をして分かったのは、銃弾に効果を期待するのは諦めろということだった。
「よっと──」
「えいえいっ!」
トーマスはパトカーのボンネットを滑り、車両を盾にして、ニナニナの猛攻を一時的に凌ぐ。
サイドミラーで、デイヴィッドがこの場から逃げたことを視認し言葉をこぼす。
「お前はまだ若い。戦場で死ぬにはちょいとばかし早いぜ、デイヴィッド──」
そしてトーマスは再び走り出した。
弾倉が空になれば、それを捨てて新たな弾倉をフレームに差し込み、引き金を再びトーマスは引く。
その繰り返し。
「せめて死に場所くらいは……選ばせて欲しかったなッ!」
一切無駄のない滑らかな動作で、トーマスは小さな悪魔に弾幕を浴びせ続けた。
しかし、当然十分な効果は得られない。
「弾が通らねぇな。なんちゅう硬さしてんだよ、ったく。まるで戦車を相手にしている気分だぜ……」
もう何度言ったか分からない愚痴を、トーマスはこぼさずにいられなかった。
彼女の体は放った銃弾を全て弾き返し、見た目に反して分厚かった。
トーマスがそうしたくなるのも、無理もない話である。
「さぁ~って、どうするかなーー……クンクンッ。何だ……? この臭いは──」
異臭がする方向にトーマスは思わず目を向ける。
すると、パトカーの車体下部から道端に液体が流れ出ているのを目視した。
「死ね、死ね、死ね──ッ!!」
声がする方へ振り向くと、その近くにはモスバーグM500を幼女に乱射する、この場にいないはずのデイヴィッドの姿があった。
「あんの野郎、何で戻ってきた!? 離脱しろって言ったろうに──」
だが、すぐデイヴィッドの様子がおかしいと感じたトーマス。
その目は極度の狂気に取り憑かれ、正気を失っているような様子。
彼にはそのように映って見えた。
「デイヴィッド、止まれッ──!」
彼女を至近距離で射撃しようと、早足になるデイヴィッドに伝える。
その先にあるのは────ガソリンだ。
「それ以上は撃つなぁあああッ!」
トーマスの必死の叫びは、デイヴィッドの耳には届くことはなかった。
「はぇ……?」
銃先から発射された弾丸は大地と擦れ──小さな火花を地面に散らせた。
ドカァァアアアアアアアンッ!!!!
一瞬の出来事だった、デイヴィッドとニナニナの周囲は激しい爆発に呑み込まれる。
爆風による凄まじい衝撃波が辺り一帯を覆い尽くし、引火したガソリンの炎は空高く燃え上がった。
「チクショウォオオオオオオオオッ!!!!」
血を吐くような、トーマスの悲痛な叫び声が周囲に響き渡った。




