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狂氣の果て〜クルーエル・デッドエンド〜  作者: クロス
序章:It is Bonkers

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第7話 女神を信じろ

 トーマスとデイヴィッド2人を乗せたパトカーは、サイレンの音を道路に響かせながら、現場へ向け猛スピードで国道を駆け抜けていた。

「見ろ、あれだ。ドンパチやってやがるな?! 急いで合流するぞっ!」

「はい……っ!」

 目的地付近はすでに騒然としており、あちこちでパトカーに火の手が上がっているのを、2人は遠くから確認した。

 炎上したパトカーの少し後方に、数台のパトカーと数人の警官たちが警戒態勢を取っていた。

 トーマスは事態が想定をはるかに上回っていると悟る。

「……新入り、足元の武器を取りな」

 デイヴィッドに銃を持つようにトーマスは指示を飛ばす。

「は、はいっ」

 言われた通りにデイヴィッドが助手席の下から取り出した瞬間────


「──おいっ、新入りっ!」


 トーマスの怒号が突如車内に響き渡った。


「な、なんでしょーーっ!!!!」


「お前な〜〜、あれほど銃はケースに仕舞えって、言ったじゃなねぇかよ──っ!!」

 ため息混じりに呆れながらトーマスは言った。


「す、すみませーーーーーん────っ!!」


 ─────────────────────────


「──ユニット666現着。ただちに合流する」

 トーマスが無線で本部に連絡──するも、ジリジリと音がなるだけで応答がなかった。

「ジャミングか……? おい、デイヴィッド! 後ろのトランクからも銃を出せ! ()()と連絡が取れない。周りの警戒を怠るなよっ!」

 事件現場付近に到着したトーマスとデイヴィッドの2人。

「先輩……っ! トランクが固くて開きませーん!」

「ちょっとそこ代われ──」

 トーマスはそう言い、力を込めてトランクを無理やりこじ開けた。

 すると──姿を現したのは黒い縦長の銃ケースだった。

 ケースの中身はレミントンM870やモスバーグM500などのポンプアクション式SG(ショットガン)。他にも、M16や最近配備されたばかりのM4カービン(M16の短縮版)などのAR(アサルトライフル)があった。

「見るのは初めてか?」

「訓練では何度も触れました」

「実践は……初めてってことか──」

「はい。ですが心配ご無用です! これでも弾は当たる方ですからっ!」

「若いやつは皆そう言う。初の実践でまともに動けたやつを、俺は見たことがねぇ」

 心配なトーマスは自信満々なデイヴィッドに「抜かりがないように」と最後に釘を刺した。

 武器を装備したデイヴィッドとトーマスは現場の4人の警官たちと合流。

「応援感謝する」

 対応したのは小太りの男性警官だった。

「──こりゃあひでぇな……被害状況は?」

 破壊され炎と煙が道に広がる何台ものパトカー……それだけではない。立ち上る煙に紛れてガソリンが漏れ出ていた。

 万が一、火花でも散って引火なんてすれば、辺り一帯が一瞬で吹き飛ぶことは避けられない。

 危険な状況を目にしたトーマスとデイヴィッドは一層気を引き締める。

 車窓が全て破壊され、電柱にぶつかり炎上するS.W.A.T.の装甲車両に、道の外に側面が大きく凹み横転したS.W.A.T.の人員輸送車。

 その側のアスファルトには、ガラスの破片の他に、防弾盾や銃器も散乱している。

 相当数の戦力をここに投入したと見受けられた。

 また大量の血痕が道路にはへばりつき、現場での壮絶さを物語っており、一目見ただけでも現状の悲惨さを把握するのに、2人はそう時間は掛からなかった。

「我々も到着したばかりで、まだ把握出来ておりません。ですが、見ての通り最悪の有り様です。恐らく、到着した応援部隊とS.W.A.T.隊は壊滅したと思われます。増援を呼ぼうにも、通信妨害に阻まれているため、一度ジャミング圏外へ出ようと思っています」

 碧眼で金髪の男性警官はそう言った。

「ダメだ、まだ犯人が息を潜めているかもしれない。ここを離れたら取り逃すことになる。俺たちでやるしかない」

 トーマスはそれには同意しかねる、といった態度を見せた。

「正気ですか──っ!? 応援部隊とS.W.A.T.もやられたんですよっ!」

 眼鏡を掛けた若手警官は取り乱していた。

「もちろんっ! ここにはいるのは俺たちだけだからなっ……!」

「無駄死にする気ですか……?」


「無駄死にするんじゃない……死ぬ覚悟でやるんだ──ッ!!」


 4人の警官をサングラス越しに見据えたトーマスは、胸ポケットからタバコ1本とライターを取り出す。

 タバコを口に咥え、ライターで先端に火をつけ一服。

「すぅ~〜〜はぁーーー……そんな心配なら、しゅに祈ろうじゃねぇかっ──。国民の味方であり、正義のヒーローである俺たち警官が、悪党から無事五体満足で生還することを。高望みはしねぇ……1人だけでいい。託した正義のバトンが、俺たち六人の誰かに渡る。それ以上を欲するのは、傲慢であり、しゅに対する冒涜ぼうとくだ。だがな……今の俺は──すこぶる機嫌が悪いんだ」

 息を呑むような緊迫した空気が漂った。

「こちとら大事な国民と仲間が大勢犠牲になったんだ。やられっぱなしは示しがつかねぇ。だから──本日に限り、俺はかみを信じない」

 この場にいた警官は全員目を見開いた。

「その代わりに──勝利の女神を信じることにする。運命はほほ笑む女神のみぞ知る……ってな。気を引き締めて行くぞ」

 

「──先輩見て下さいっ! これ、おかしいと思いませんか……?」


 神妙な雰囲気を晴らすように、デイヴィッドが話に割って入った。

「どうした……?」

 デイヴィッドの近くにトーマスを含める警官全員が集まった。

「少し不思議……というより不可解なんです」

 デイヴィッドは続ける。

「このアスファルトの血痕を見たところ、さっきまで人が倒れていた痕跡があります」

「なに……?」

「これだけじゃないです。見える範囲だけでも複数あります。それほど時間も経過していません。引きずった跡がないか付近を確認しましたが、何も見当たりませんでした。一体どうやって運んだんでしょうか……」

「でかしたぞ、デイヴィッド。これで犯人の潜伏がはっきりしたな──」

 

 ドゴオオオオオン──ッ!!!!


 直後、大爆発が起こった。

 辺りは瞬時に火薬の臭いと煙に包まれた。

「ゴホッゴホッ、全員大丈夫かー!!」

 トーマスの声にデイヴィッド含める警官全員が反応し、みな無事であることを確認する。

「──おい……誰かいるぞ!」

 小太りの男性警官の言葉に反応し、全員銃を構えた。

 目を凝らすと小さな人影がそこにはあった。

 トーマスたちは拳銃の引き金を引かず、相手の出方を伺う。

 爆発によって発生した煙が薄まり、だんだんと視界が晴れていく。

 そこに佇んでいたのは──うさ耳フードを被る1人の幼い少女だった。

 右頬と左頬にはそれぞれ『燃える十字架』、『翼を閉じた逆さの鳩』のマークが、右左の目尻には、『大砲から飛び出す砲弾』と『鮮やかなピンクのハート』が描かれていた。

 頭頂部から縦一直線にくっきりと分断された、左右で色味と長さがまったく異なる髪。

 右半分は長く伸ばされてウェーブした熱狂と破滅。もう半分は短く切り揃えられ愛と無垢で染められていた。

 彼女を一言で表すなら──まさに天使と悪魔のハーフ。


「──子どもだ、みんな銃を下ろせ。保護するんだ」


 警官全員安堵し、幼女に向けていた銃口を下げ、警官2人が幼女に歩を進めようとした。


 しかし──


「待てっ! 背中に何か持ってるぞっ!」


 1人の警官の叫びで、トーマス以外の全員が再び拳銃を即座に構えた。

 幼い少女の背後には、ビッグな武器が背負われていた。

「お嬢ちゃん、その背中に背負ったものはとても危険だ。ゆっくりと下ろすんだ」

 トーマスは小さな少女に優しい声色でそう呼び掛ける。

「きけん? 何も危険じゃないよーっ!」

 そう無邪気に幼女は距離を縮めてきた。

「お嬢ちゃん、止まるんだッ! そこで止まるんだッ!」

 幼い少女はトーマスの制止を無視して走る。


 その瞬間──色とりどりの小さな紙片が紙吹雪として、数十枚空中に舞ったのが視界に飛び込できた。

 駆け寄ってきた少女は、痛みに耐える唸るような声を漏らし、地面に倒れる。

 それが何であるかを察したトーマスは、咄嗟に仲間へ怒鳴った。


「オイッ、テーザーガンはやり過ぎだッ! 相手はまだ子どもだぞッ!」

「子どもとは言え、警告を無視しました。当然の対処であり結果です。自分は撃ったことに、後悔は微塵もありません」

 うつ伏せのまま、幼い少女はピクリとも動かない。

 碧眼の金髪男性警官の胸ぐらに、トーマスは摑み掛かった。

「これで本当に、良かったのかッ?!」

「我々に損害が出る方が問題です。あなたも仰りましたよね? 五体満足で生きて帰る、と……」

「1人でもとは言った。全員とは言ってな──」


「ねぇねぇっ! 今の、なあに、なあに──っ?!」





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