第6話 警官にドーナツを添えて
「やっぱ、母国アメリカの曲はシビれるな。アメリカの歴史ある遺伝子が、体の細胞隅々まで染み渡るのをヒシヒシと感じる。これぞ俺たちアメリカ──って感じだっ! そう思わないか、新入りっ?!」
車内で【Are You Gonna Go My Way】を流しながら、助手席に座った若者の白人新人警察官であるデイヴィッドに、サングラスをかけた黒人の先輩警察官──トーマスは話を振った。
「そ……そう……ですね……」
「なんだぁ、その素っ気ねぇ感じは。お前もいちアメリカ人なら、もっとアメリカンな曲を知って、聴いて、歌わないとなっ!」
あははっと苦笑いし受け流すデイヴィッド。
そんな彼にトーマスは「そうだ、デイヴィッド。後ろのあれ、取ってくれっ」っと後部座席に置いてあった、ドーナツとコーヒーが入った紙袋を取らせる。
「──先輩、ホントにいいんですか……?」
「いいんだよっ。みんなドーナツなんて四六時中食ってるよっ」
紙袋に入っていたドーナツの箱をトーマスと自分用に分けながら、デイヴィッドは言った。
「そうじゃなくてですね……はむっ、運転中に食事するのは……はむっ、如何なものかと自分は思うんですよ……はむっ、ゴクゴクッ」
いちごでコーティングされスプリンクルの乗った、ふわふわのドーナツを相棒のコーヒーと共に、もぐもぐと食べ始めた後輩を横目にトーマスは言った。
「そう言うお前はいいご身分だな、新入り?」
「へふにほふはふほひはひふへふほ(別にそんなつもりないですよ)?」
「あーもう、食べながら喋るな。何言ってんのかさっぱりだっ、とりまコーヒーよこせっ」
「ふぁい、ほうほっ(はい、どうぞっ)」
トーマスは横から差し出されたコーヒーをデイヴィッドから素早く奪い取った。
「ゴクゴクゴクゴクッ──」
「そんなに焦らなくても、コーヒーは逃げたりしませんよ? はむっ──」
「気にするな、ただドーナツが食べられなくてムシャクシャしてるんだよっ。あぁー、車を路肩に止めて、今すぐにでも貪りたい」
運転中でドーナツを食べられない鬱憤を晴らすかのように、トーマスは荒々しくドリンクホルダーにコーヒーを置いた。
「ムシャクシャしてても、ルールを守るあたり真面目っていうか、先輩らしいというか、なんというか──」
「緊急事態で尚且つ腹が減っていたら、この限りではないがなっ」
「まあ、そこは臨機応変ってやつですね」
「あぁ、そうだ──っぶねっ!」
「ゲフッ──?!」
突然目の前に降ってきた飛来物を避けるため、トーマスは咄嗟にハンドルを思い切り左へと切った。
「ちょっ、先輩。急にハンドルを切らないで下さいよ。顔がコーヒーでびちゃびちゃじゃないですか……先輩……?」
「おい、後ろを見てみろ」
デイヴィッドはトーマスに促されるまま、サイドミラーでこちらに吹き飛んできた飛来物を確認する。
「今のは……パトカーっ!?」
「あぁ、そうだ。パトカーだ」
「しかし何故パトカーが──って、それよりも、早く助けないと──」
「安心しろ新入り。誰も乗っちゃいなかったよ」
「そ、そうですか。それは幸いですね」
ふぅっと息を吐いて安堵するデイヴィッド。
対極にトーマスは先ほどの出来事に思考を巡らせていた。
そんな2人の元にとある1つの連絡が警察無線へ入った。
『──各局へ、至急連絡。国道ネオ・ルート66、モーテル付近にて10-30、発砲事案発生。繰り返す、国道ネオ・ルート66、モーテル付近にて10-30──』
「ルート66……って今自分たちがいる所じゃないですかっ!」
「デイヴィッド、ランプ点灯」
「はいッ!」
ランプが点灯すると同時にサイレンが空気を振動し鳴り響く。
『──現時点での容疑者情報は皆無。多数の死傷者がいるとの通報あり。付近の警官及び全車両は、警戒して現場へ急行せよ。現着報告を求める。繰り返す、付近の警官及びパトカーは──』
「指令部、こちらユニット666。国道ネオ・ルート66、モーテル付近へ今向かっている。到着予定時刻18分。容疑者または死傷者の状況について追加情報求む」
ハンドル片手に慣れた手つきでトーマスは無線機を手に取った。
『ユニット666に連絡。通報者は軽傷、対応した地元警察官4名の内1人が重傷、もう1人は殉職。容疑者が現場にいるか、徒歩または車両で逃走したかは現在不明。増援として現場にはS.W.A.T.隊を派遣──』
「了解、指令部。最大限の警戒を持って現場に急行する。応援部隊の要請を願う──」
『ユニット666、了解。応援部隊を直ちに現場へ向かわせる。周辺警戒に当たっている部隊にも注意喚起。不審な人物、車両の目撃情報があれば、直ちに連絡せよ』
「新入り、今からちょいとジャジャ馬スピードになるからな。振り落とされないよう、しっかり掴まってろよっ……!」
「一刻を争うとはいえ、安全運転でお願いしますよ」
デイヴィッドの言葉を合図にトーマスはアクセルを思い切り踏み込むのだった。




