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狂氣の果て〜クルーエル・デッドエンド〜  作者: クロス
最終章:狂依存。その果て、

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最終話 狂氣の果てはいつまでも


「……ぐっ。まっ、だ……おわって──」


 指で、ツンと弾けば──。


 微かでも、風に煽られれば──。


 簡単に……倒れてしまう──。


 そんなふらふらとした状態の中、貫かれた胸のキズを押さえ、最期の力を振り絞り足場の悪い大地(がれき)へと立ち上がるクルクス。


「……ニ、ナを、幸せに……する、ために……。あの、子に……償う、ため……だかっ、らっ……邪神(クズ)っ、を……殺さ、ないと……っ。お姉、ちゃん……と、して……どの(つら)、下げ……て、会えば……いい、の……? あたし、は……あ、たしは────」


 少女の頬に刻まれた亀裂の模様は……瞬く間に消え失せた。


 カランッ、カランコロンッ


 チェーンの外れたロケットペンダントは、少女の首先から音を立てて地面に転がり落ち、そこへ入れられたニナニナとクルクス、2人のツーショット写真が(あら)わとなる。

 それを拾い上げて娘の前まで来ると、トーマスはその足を止めた。


「…………えっ?」


 キズを痛めぬよう注意し、そっとクルクスを抱き留め────


「こんな不甲斐ない父親で──申し訳ない!」


 精一杯の謝罪の言葉をトーマスは言った。


「なに、よ……冗談、は……ズラだけに、して。いま、さらっ……父親ヅラ、なんか──」

「母さんも……お前たちも────守ってやれなかった。父さんはそのことを…………ずっと悔やんできた」

「抱えてきたお前の……これまで出せなかったその鬱憤を! 全部お父さんが──受け止めてやる……っ! その覚悟が俺にはある! 遠慮するな……!」

 そしてクルクスの目尻からは、ボトボトと──大粒の涙が滝のように流れ始める。

「……世界、は、あたしたち……を、理解し、なかった……追い詰め、否定した……! ……追い、出した……っ! ……差別、した……! 優れて、る……? はっ、笑わせ……ないで、よ。劣ってるとこ、ろを……ひけ、らかして……なに、がっ……まさって、るって……言うの? 一度、でも……鏡に映った自分たちの、顔、見て……考えたこ、と、ある……? ヒドく、醜い……バケッ、モノ──でしょう、ね。……陳腐の装飾、ノン……デリ……スペース(アース)、だかっら……どーせ、何がダメかも──分からないで、ぼーっと……してるのよ。……移民で成り立った国の、くせに……他を否定する、なんて……何が人種のるつぼよ……! ……何が人種の、サラダボウル、よ……! 何が……何が、何がっ、世界の合衆国(アメリカ)様よぉ……?!」

 奥底に閉じ込めていた少女の抱える感情は濁流の如く止まらない。

「人種差別の、オンパレード……少尊(しょうそん)多卑(たひ)の、全体偽善主義……迫害国家以外の──何ものでも、ないわっ……。かつて──思想下に置かれ、賛美された……第三帝國(ナチス)と──なんら変わり、ないじゃ……ない。……ハァ……ハァ……。それも……これも、全部……おかしな、ことを……無理に、押し付けて……常識化する──世界がッ! 世界がぁッ、悪いのよ────ッ!!」

 クルクスの溜まりに溜まった、歪曲され続けた狂氣の叫びが、空高く、そして周囲に木霊する。


「んぐ……っ。あった、かい……ね。温もりって、ゴホ……ッ、はぁ……はぁ……。こんなに、ゲホ……ッ、いいん、だねぇ──お父さん」


 ひとしきり、何もかも吐き出し終えてクルクスは吐血する。


「あたし……思い出した、いま……全部。……アーサー、さんに……ヴァレンタイン、さん。あの子のこと、そして──お父さんの……こと。……あり、がとう。……おとう、さん。昔みたい、に……あたしをまた、ぎゅっ……と、この腕で包み、込んで……くれて────」

「バカなこと言うな! これからはずっと、ずっとしてやる。お前とニナニナの側に居てやる! 必ずだ、約束だ! だから、だから──っ!」


「お姉ちゃんの……特権、お父さんに……あげる。今度こそあの子の、こと──幸せに……して」


 クルクスの瞳からだんだんと力が抜けていく。


「ダメだ……ダメだ! クルクス、目を閉じるんじゃないっ!」


「……ほんとは、もっと──」


 しかし、すんでのところで口は噤まれる。

 クルクスは自身の限界を悟り、父親へ……最後の言葉を紡いだ。


「……愛して、くれて……ありがとう……っ!」


 妹以外には見せたことない、にこやかな笑みを浮かべたクルクスの目頭からは、ほろほろと頬を伝う甘え汁が(こぼ)れ落ちた。


──────────────────────


「────どうやら、そっちも上手くやったようね……?」


 声のした積み上がった瓦礫の方へ、全員の視線が注がれる。

 そこに現れたのは──1人の少女だった。


「「「ジョーズ……っ!」」」


 健康的な小麦色の肌と特徴的なギザ歯を一目見て、一行は一斉に声を上げた。

「なになにぃ〜? みんなして、『終わった』と思ってたの〜? あたい、すっごく悲しくなっちゃうじゃ、ない……っ!」

 ジョーズは瓦礫の山から着地し、よろけないよう自身の太しっぽで体のバランスを保つ。


「ジョーズ……あれは──圧縮空気砲(フュレアーブラスター)は、どうした?」


 陰鬱としたこの空気を良くしようとする彼女の思いを汲み取り、トーマスは尋ねた。


()()()()(ほうむ)ったわ。……先に謝っておくと、ごめんなさい。手加減する余裕は……なくて」


 ジョーズから語られる内容は、皮肉なことに彼の心を真正面から叩き壊すには十分過ぎた。


「そうか……よくやった。──戻るぞ」


 トーマスはそれだけ言い残し、1人歩き出す。


「“まだ”やることがあるから──あたいは残るわ」


 アーサーとオルカはジョーズの言葉に頷くと、トーマスの後を追うようにして駆け出した。

 すると、その彼らの背後でギザ歯のサメっ子娘は



「さて…………【お掃除】、始めましょうか──」



 と怪しく不敵に微笑んだ。


「……来なさい」


 褐色ギザ歯の少女の呼び掛けに応じ、瓦礫で隠れていた圧縮空気砲(フュレアーブラスター)が姿を現す。

 それをジョーズは片手で摑み取る。


「寄生する宿主を失うと、狂氣を浴びていた時間の長い者を次の宿主とする……あの子たちの傍に長く居た、あたいが。……ヒドイ皮肉も──あったものね」


 …………ピキッ


 ジョーズの頬が突如────ひび割れた。


(しゅ)に愛されし(あたい)に──祝福を」


 慣れ親しんだセリフと共に圧縮空気砲(フュレアーブラスター)のトリガーを、彼女は引くのだった。





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