第51話 対異端姉妹特殊作戦群
「なっ──?! 生物を殺めると、命の残存数が増えるだとォオオオオオッ!?!?」
「……その通りです」
肯定するヴァレンタインに絶望が隠せるわけもなく、
「なっ……なっ、どうりで──」
ドスンと重力に従って陸軍元帥は椅子に落ちた。
「──どうりで、おかしいわけだ。致命傷を与ええて死なないと。理解し難い報告が上がっておったから、もしやとは思ったが…………散ってた兵士に、私は……どう顔向けすればいい? 彼らは無駄な犠牲だっただけでなく、あまつさえ敵の残機を増やしてしまっていたと。我らの損害は計り知れないものだぞ。なぜ黙っていた……?」
項垂れ床に視線を落としながら、彼はそう言った。
「お伝えしようとして突っぱねたのは──どこのドナタだったか」
「うっ…………」
彼女に何も言い返せず押し黙る陸軍元帥。
「戦闘において手腕があっても、情報はからっきし。海軍元帥を見習っては?」
「うぬぬぬぬぬぬぬっ! ならば核戦力だっ! 核戦力の投入を検討すべきだっ!」
謎の対抗心を燃やしてか、名案だと言わんばかりな提案内容にヴァレンタインは呆れる。
「兵を退避させるよりも先に、目標のスピードの方が遥かに上です」
「ぐぬぬぬぬぬっ──なら貴様はっ! この落とし前、どう責任取るつもりでいるんだッ!!」
ダメ出しされ続けた陸軍元帥は、とうとう堪忍袋の緒が切れてしまった。
「……ご安心を。既に準備を済ませております。────こちらをご覧ください」
ポケットに入れられたリモコンを取り出し、ヴァレンタインがボタンをポチッと押し込む。
すると映像がモニターに映し出された。
「なっ?!」
「────これは」
「|対異端《Counter-Crazy》姉妹特殊作戦群《 Special Operations Command》──。その頭文字を取り、“|C-C.Sis.SOCOM”。通称名はC-C.Sis.です」
「C-C.Sis.……対特化部隊、ということかな……?」
「はい、その通りです」
海軍元帥の質問に対して、ヴァレンタインは頭を縦に振る。
「では詳細を────」
「……待て」
陸軍元帥は説明しようとした彼女の言葉を遮り、待ったをかけてきた。
「何か質問でも?」
「────こちらからも部隊を出す。出来る限りのサポートはするつもりだ。無いよりは、ある方が幾分マシだろう」
彼の心強いその言葉に「感謝申し上げます」とヴァレンタインはそう返す。
「それでは続きを────目標の1人は、天罰を下す者シリーズの神罰の捕食者の一員として鍛えられた元メンバーのクルクス。もう1人は、圧縮空気砲に選ばれた妹のニナニナ。勝負は短期決戦が望ましいでしょう。選抜メンバーは、天罰を下す者シリーズ神罰の捕食者の最終兵器のオルカと戦闘狂のジョーズの2名含める、この場にいるアーサー博士とトーマス博士を現場に向かわせます。即席のチームではありますが、連携は申し分ないと判断しています。また目標の体内には、既に“能力減退薬”を打ち込み能力の大半が抑制されている状態です。通常兵器による攻撃にも、一定の効果が期待できるかと思われます。作戦名は────“正義の神風アタック夜明け作戦”とさせて頂きます」
バン──ッ!!
「ほ〜うっ……カミカゼか。何ともまあ……腹立たしい作戦名なことだな、ヴァレンタイン──?」
陸軍元帥の口から放たれる言葉が、場の空気を一瞬で凍り付かせるにはあまりに十分すぎた。
「私もあれを、当時聞かされた時は度肝う抜かされた。それでだ……そのジャップの真似事を、軍人である我々にやれと。そんな酷なことは……言うまいな──?」
カミカゼ──この単語を耳にした途端、陸軍元帥は目の前の女を今すぐにでもブチ殺したい衝動に駆られていた。
それは彼のアメリカンファースト思想が、他と比べて強いことにある。
かつて──合衆国は|第二次世界大戦《World War II》(略称:第二次大戦、WWII)のアジア・太平洋戦線(以降「対日戦争」とする)で勝利するも、開戦当初における対日戦争への認識は侮りで満ちていた。
その侮りが対日戦争における一部戦地で熾烈な戦いを繰り広げ、少なくない痛手を被ることになりそれ以後──彼らを恐れた合衆国上層部は、日本人の強さの源が何なのか、徹底的に調べ上げ突き止めさせた。
連合国軍最高司令官総司令部(以降「GHQ」とする)は、大日本帝國の「軍事力」の完全解体及び戰爭放棄による軍隊の解散、武装解除を行い、
「勝てば官軍負ければ賊軍」の言葉通り、GHQは戦後の占領並べに愚民化政策で日本を大幅に弱体化させ、日本の政府や自衛隊の上層部をリードに繋がれた合衆国支配下の狗にした。
「貴様、我々を侮辱しておるのか? それもあの黄猿と同類だと?! ほざけっ! それは屈辱以外の何ものでもないぞ──ッ! 恥を知れっ!!」
だからこそ、陸軍元帥は同じ狗に成り下がることに憤りを覚えたのだ。
「残念ですが、時間は待ってはくれません。作戦名はこのままでいかせて頂きます」
「黙れッ! それと確か、目を通した資料によればこの2人はトーマス──彼の娘だったな?」
陸軍元帥から飛ばされる鋭い眼光が、ヴァレンタインの横で今も沈黙を続けているトーマスを射抜く。
「妻だけでなく、自分の娘も実験材料に使うとはな。妻の意識はバイクへ、娘1人は記憶を改竄し殺戮兵器。研究者の神経はどいつもこいつも、トチ狂ってる。あぁそう言えば、3人のうち1人は──アーサー博士も関与していたなぁ。軽蔑せずにはおれんよ、ったく」
感情の収まらない彼に海軍元帥は痺れを切らし、
「おいそれ以上は────」
プルルルルルッ……プルルルルルッ……
止めに入ろうとしたところで、部屋に設置される内線電話の着信音が部屋に響いた。
「──失礼……電話に出る。……少し静かに頼む」
そう言って海軍元帥は受話器に手を掛ける。
話はすぐに終わり受話器を戻すと、彼は重苦しい様子で口を開く。
「……悪い報せだ。たった今──前線が崩壊した」
表情を崩さず淡々とありのままに起こった事実を伝える海軍元帥。
しかしその額には、焦りの汗が滲んでいた。
「な──っ!?」
溢れ出ていた衝動は瞬時に衝撃で塗り替えられ、陸軍元帥は戦慄する。
「S.W.A.T.と我が精鋭部隊の壊滅に伴い、以前とは比較にならない速度で進攻が進むことになる。犠牲者が加速の一途をたどるのは、何としても避けねばなるまい。ヴァレンタイン、対特化部隊C-C.Sis.を急ぎ現場へ出撃させろ。我々の威信を賭けて、残存するあらゆる戦力を投入し──あれを撃滅する。 休む暇を与えず、一気にケリをつけるんだ!」
そして正義の神風アタック夜明け作戦は、現刻より開始されるのだった。




