第49話 戦略的撤退
ドドドドドドド──ッ!!
「────? なに……?」
鉛玉による掃射を浴びせられ、にこやかな笑みが一瞬にして消える。
瞬間火力であたしの身体を貫通する……しかし、弾丸で空けられた穴は即座に塞がった。
(……誰? あたしのお遊戯を邪魔するのは……?)
あたしの視線は空へと向けられる。
同軸反転式ローター(上下2枚の回転翼が逆回転する仕組み)に組み込まれる、ダクテッドファン──プロペラやファンを円筒形のダクトで囲んだ推進器──を大小それぞれ前2基後ろ2基、計4基を装備した汎用ヘリコプターがそこにはいた。
「ガンシップ? それも新型がたったの1基なん──」
ヒューーン──ドカーンッ!
振り向いた直後、台詞を言い終える前にあたしの頭は吹き飛ぶ。
武装ヘリコプターに搭載されるミサイルが直撃したのだ。
「そんなの効かな──」
ダンダンッ!
頭部を再生するタイミングで銃声音が響き渡る。
そしてあたしの触手に2か所、何かが引っ付くと次の瞬間────爆発が起こった。
ドゴーン──ッ!!!!
「────ッ!?」
さっきとは打って変わり、あたしにダメージが入る。
同時にリーダーを突き刺した触手が辺りに四散した。
「っ……クッ! ……再生、できない」
(これは──“特殊炸裂粘着弾”ね)
あたしは潰された視界を回復させ、目の前のヘリと伏兵の警戒を強める。
「────昔からニガテでしたよね、コレ。……そうでしょ教官? 」
空中のNSTF製の武装ヘリから飛び下りた1つの影。
長い髪はやや赤よりで、少し白の混じる淡いピンクベージュがかっており、異色のリボンで左右をツインテールにした1人の少女だった。
「ほっ──よっと!」
地面に着地する瞬間、赤髪ツインテールはふわりと風に撫ぜられる。
頭にはヘッドホンらしきものを装着し、腰辺りには片手に収まるほどのポーチを携帯していた。
そこからディスクを1枚取り出し、
ドゥチャンッ
ヘッドホンの挿入口にそれを直接差し込んだ。
スムーズにセットを完了させると、堂々と露出させた古傷のお腹を掻いた。
「『あたし』、変わったんですよ。まあ……教官も随分と、変わられたようですけどねぇ〜」
翠と紫のオッドアイは逃さないと言わんばかりに釘付けで、あたしとの距離を詰めて来る。
彼女の瞳の奥が数秒だけ、悲壮で揺らいだように感じられた。
されどあたしは視線を外さない。
相手の一挙手一投足を見逃さないために──。
「昔は『オレ』だったのに──今はマイルドな言い方になったのね、オーちゃん?」
あたしの指摘にオルカは僅かに目を見開く。
「っ……さぁ〜? 強いて言うならぁ、敬意を表すため、ですかねぇ? あたしはぁ〜、聳え立つ1本の木にしか──興味ないのでぇ〜」
ハッタリか本心か、はたまた時間稼ぎか──あたしは頭をフル回転させる。
「オーちゃんにいい事教えて上げる。追撃を仕掛けず相手に再生の時間を与えたのは悪手よ。殺るなら短時間で攻め切らないと。あの子なら、会話すらしてくれないでしょうしね」
あたしのアドバイスにオーちゃんは口で風船ガムを噛みながら、変わらず余裕そうな表情を浮かべていた。
「教官は優しいですねぇ〜。あたしに成長を促す言葉を掛けてくれるところとかぁ〜、全っ然変わってないですよねぇ〜っ! っ……そういう所が好きなんですけどぉ〜」
左右の人差し指同士を押し付け、オーちゃんの甘い声が漏れる。
(最後の方が聞き取れなかったけど、彼女の頬が紅潮してるのは何でかしら……)
弱まることを知らない雨は、相変わらず両者の身体をひんやりと強く打ち付ける。
そして──ぷく〜っと膨らませていたピンクの風船ガムは、気づけば気球近い大きさに膨れ上がり、
「ひょうは〜ん(教官)っ──まったねぇ〜っ!」
それを彼女は思い切り地に押し付けて爆散させた。
「っ──煙幕?!」
ピンク色に着色された煙が物凄い風圧であたしに襲い掛かる。
(……っ?! これ、ただの煙幕じゃないわね。触手が上手く動かせないし、索敵も行えないよう何か細工されてる……)
煙幕が晴れるとこの場にはあたしだけが残されていた。
「……対策が進んでいるわね、やるじゃないっ。でも……きっと大丈夫。だって──」
あたしは握り締めた左拳を前に突き出し、
「この思いが、あの子への愛が……っ! 負けるだなんてこと──あるはずないんだからっ」
そんな不確定な未来に光を見出そうとした。
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「──起きましたか、リーダー」
戦線を離脱して約10分──上空でジョーズが仰向けで目を覚ました。
「────オー……ちゃっ……」
途切れ掠れ声のジョーズに「あまり喋らない方が懸命ですよ。傷口が開きますから」とオーちゃんは穏やかな声色で言うも、「伝えたいことがある」と言われ──
「か……っ」
「か?」
「かわ……い」
「かわい? 推し活ですか……?」
彼女の言葉を反復し何を言いたいか推測するオルカ。
「した……ぎね」
「かわい、したぎね? ……あっ」
彼女に思い当たる節があったのか。
オルカはまさかと思いつつ、自分の下半身に目を向けた。
「……って────こんな時になに悠長なこと言ってるんですか〜っ!! バカなの!? アンタバカなの!? 最期に見る景色が下着姿でいいんですかぁ〜っ!?」
ビチョビチョになったうさぎのキャラパンを慌てて隠すオルカ。
「グッド……ラッ、ク……っ!」
それがむしろジョーズを喜ばせたようで、寝込みサムズアップしたサメちゃんはそのまま意識を手放した。
「チョイ待てごらああああああああ!! 逝かせてたまるかああぁぁああああああ!! リーダーには死なれちゃ困るんです、よぉっ!!」
その後オルカの人工呼吸でジョーズは息を吹き返した。




