第48話 違えた約束
「お願いねぇ〜。それってぇ〜、今後は手伝わないでって、ことかしら?」
「……リーダー自ら、危ない橋を渡ることはない。……ここらで、手を引いて欲しい」
膝上に乗せた彼女の両手には力が入り、真剣な眼差しが本物であることを物語っていた。
「……あたいに後ろめたいキモチはないの?」
クルクスは黙り込み視線を下げてしまう。
「冗談よ……真に受けないで。──そうそう、後ろにアンタの愛車とアレがあるわ」
後ろに映る圧縮空気砲と1台のバイクを窓越しから少女は覗く。
周囲に溶け込む漆黒のボディと側面に馴染むように刻まれた黒雷のイナビカリマーク。
そして太い車輪は、それらに負けず劣らずの異彩を放っていた。
「どこに行こうがあたいはアンタの味方。それだけは忘れないでちょうだい。たとえその身を──『狂氣』に侵されたとしてもね。これはあたいとの『約束』よ」
心底驚いた様子で少女は目を見開いた。
「…………気づいて、たんですね。……バレるとは微塵も、思いませんでした」
スーッと彼女の頬に亀裂が浮かび上がり、彼女は隠していた秘密を顕わにする。
「表情を作れるか作れないかの違いなだけで、あたいとアンタは感情を持った『同族』なんだから──当然でしょ……?」
「……はい、感謝してます。……おかげでこの子の計画が、始められます」
クルクスのほっぺたに犯人は片方の手の指を食い込ませ、
「顔、よく見せて────広がってるわね。あとどれくらい保ちそう?」
視線が逃げ出さないよう挟み、ぷにぷにとイジる。
「……キツイ、です。……それも、かなりギリギリ。……だから、リーダーには──ケホッ、ケホッケホッ! ゴホッゴホッ!」
刹那、少女は苦しそうに咳き込み出した。
「──ほらっ、これ吸って!」
リーダーは背中を擦りながら、急ぎクルクスに携帯型吸入ステロイド薬を喉奥へと流す。
ピシュウー──
「ハァ……ハァっ……ハァっ──」
彼女から溢れ出る汗は額を、首筋を、背中を、全身を──伝う。
「今後の喘息発作──アナタはどうするつもりなの……?」
そうリーダーが尋ねた時である。
ドスッ!
「へ……っ? ──かはっ!」
理由が分からず、地面へと吐血した。
誘拐犯は状況を整理しようと、痛みを感じる自身の腹部へと視線を落とす。
「エヘヘへへ」
すると────少女の赤い触手が胴体を貫いていることに気づいた。
「クル……クスッ────」
下げていた視線を上げ、目線をクルクスに合わせる犯人。
「……あはっ!」
少女の明る気な声色がリーダーの頭に鮮明に響く。
「あぁ、そうか……これ、は──」
視界には日光を遮るドン曇りの空が広がり、激しい戦闘が繰り広げられ散乱した、数々の瓦礫を雨が叩く景色へと早変わりする。
「そうまっ……とう」
この瞬間、共犯者は現実に引き戻され思い出したのだ。
今日もまた────彼女に必要であろう『それ』を持って、味方の目を掻い潜り、秘密裏に会いに来ていたことを。
そして悟った──もうすぐ死ぬということを。
「……満身創痍、ですね。今までご苦労さまです、リーダー」
彼女の表情は悦に浸るも、振り向き際どこか悲しげな……そんな雰囲気を醸し出していた。
ドスドスッ、ドスッ!
これでもかと追い打ちをかけるようにして、触手がグサグサと突き刺さる。
「……初めは、スティーブンが敵だと……そう思っていました。ですが……元凶は憎き悪鬼である、神だったと。……彼は操られていた被害者で、認識がテコ入れされていただけ。……これ以上の被害者を、出さないためにも。……確実に大地へ叩き落とし、破滅させます。……その命。あの子の糧となってもらいます──」
触手で体内をエグリながら、クルクスは背を向けた体を反転させた。
「────ナミダなんて、クダラナイ……っ! 流すなら血の涙を降らさないと、ねっ?!」
昔の空虚だった頃とは打って変わる父親恍惚とした表情で、彼女は幸福感に浸り身をよじる。
「ふっふっふっ、ふはははははっ! イイわ、イイね、いい感じよ。そうそう、これこれぇっ! この暗くて味の足らない閉じ込められた世界を彩る、退屈しない刺激的な殺戮に満ちるお遊戯会っ。はぁ、たまらないわ……っ!!」
分泌されたアドレナリンが体内を駆け巡り、クルクスは快楽へと溺れた。




