第44話 秘匿三銃士
『よい、しょ……っ!』
満身創痍のオルカの背中を壁に寄り掛かせ、あたしは慎重に座らせる。
コツ、コツッ。コツ、コツッ──ベチンッ!
こちらの耳に入るよう靴音を鳴らす人物は、わざとらしく何かを床に叩き付けていた。
『……ざーこっ』
コ──ッ、カッカッカッカッ──!!
能力で向上させられた地獄耳すら超える聴力は、あたしの言葉を挑発と捉えたようで、スピードを加速させてこちらに迫った。
ドーーーーーンっ!
猛スピードからの急停止により土煙が上がる。
『────先、越されたようね。あたいの獲物を取るだなんて、ほんっと……いい趣味持ってるわ。
……もう1回言ってごらん?』
『……いや』
『あら素っ気ない。……まあ、そ・れ・よ・り────っ!!』
ボスッ
『…………』
あたしに全身を預ける形で、彼女は後ろからスルッと肩に腕を回してきた。
顔を覆う密閉型マスクに付着した返り血を失念しているのか、あたしのほっぺにべっとりと付けられた。
ちゃっかり、W1(半獣化の通称)解除してるし。
『いいじゃないっ。あたいとアンタの仲でしょ? 同族同士険悪ムードなのも、アレだしーっ』
リーダーのジョーちゃんとオーちゃん、そしてあたしを含めた3人は少々訳あり。
『……あたしの、何がそんなに──』
完成作、その第1号と周りを欺く“リーダー”。
表面上は、表情エラーで欠陥品の“あたし”。
日本から組織に拉致され連れて来られた、ヤクザの組長の娘“オーちゃん”。
オーちゃんに白羽の矢が立ったのは、戦後日本の本土復興に貢献した裏の立役者であるヤクザ一家──オーちゃんはそのヤクザの家系で、連合国軍最高司令官総司令部(GHQ)の政策から逃れていた貴重な優秀個体と、組織に認知されたためだ。
…………今でも思う。
科学者や研究者含む国家とは、自分勝手で何でもかんでも要望を突き通そうとする、Dr.狂人だと────。
『…………っ』
当初のあたしは、他のチームメンバーとは異質の存在として扱われ、どこか疎外感を感じていた。
でも────
『素直になれないところとかも、か・わ・い・い♡』
『……別に、そんなんじゃっ』
1stシリーズ天罰を下す者第1号であり、神罰の捕食者のメンバーを統率せし、リーダーでもあるジョーズ。
しかし今はその立派な面影を微塵も感じさせず、あたしの胸に顔を埋めていた。
『そんなことないわ……あたいには分かる。前より口数が増えてるじゃない』
埋めた顔を上げてあたしを見つめる瞳は、妹の成長を心から喜ぶまさにお姉ちゃん。
それにリーダーの言葉は紛れもない事実で。
実際メンバーとも上手く馴染めるようになったのだって、彼女が仲を取り持ってくれたかげ。
何より──あたしと似た境遇を持っている、数少ない仲間って意識も────あるにはある。
『…………そろそろ、キレますよ?』
『はいはいっ。じゃあ、最適解は切腹ね。彼女には武士らしく、切腹させましょう。あたいもこの目で見てみたいしっ』
密着させていた体を離し話題を変える様は、しっかり者の妹の意識を逸らす、計算高い姉の図ね。
彼女はイチャつくのを気まぐれで控えたりはしない。
絶妙な加減であたしに接するのは、布石を打つため──つまり、今後もボディタッチでダイレクトに戯れれるよう、機嫌を操作することにある。
毛ほども感じさせず自然に誘導するし、機嫌を損ねずあたしを誤魔化すあたり…………とても扱いづらい。
『……ダメよ。切腹は、サムラーイの……尊厳を守る死に方。……この場合は、そうね……打首の方がマシなパターン──って、彼女は──んっ?!』
言葉の続きを言おうとして、彼女に静止させられる。
『しーっ……ボスたちが来るわっ』
吐息がかかる距離でリーダーの弾力ある人差し指が、あたしの唇にそっと押し当てられた。




