第43話 差し伸べる手で鉄槌を
『オルカァー、オルカァー。どこオル──』
ドスンドスンドスンドスンドスンッ!
『カァ──?!』
『ガアアアアアアア──ッ!!』
助走したオルカが、後ろを向いたトーマスの息の根を止めにかかった。
『うああああああああっ!!』
コロンッ
胸に抱える大量の炭酸飲料の1つが、彼の腕から転げ落ちる。
『……秘密兵器: No.93────神の臨界稼働領域、発動っ』
神の臨界稼働領域──それは、一時的に全身の液体と意識の親和性を向上させ、心身を共有し一体となることで、身体の連動性を最大まで高めている状態のことである。
『ひいいいいいいっ!』
思わずトーマスは反射的に目を瞑る。
──ガギンッ!
『…………へっ?』
……しかし、いくら時間が経てども、オルカの攻撃がトーマスに届くことはなかった。
何故なら────
『…………おいたは、ダメよ──』
両手に握られクロスされた、何者かの二挺拳銃で防がれていたからだ。
『クル、クスか……?』
『……きょう……かん……っ?』
その時──2人の声は重なった。
そして、我を忘れたオルカの意識が辛うじて引き戻される。
『……まだそこに……いるのね』
一挺ずつ両手に構えた拳銃から力を抜き、ぐいっと手前に引いた。
『────がっ?!』
肌に万能スーツを一体化させて纏う、教官と呼ばれたクルクスは、体勢を大きく崩したオルカの懐に瞬時に入り込んだ。
『……様子見、1段っ』
教官の使用するメイン武装のエネルギー銃は、バッテリー駆動のエネルギー拳銃。
最大3段階まで備わっており、出力やその特性を変更することが可能である。
キュイイイイイイイ、ズドン──ッ!
『うっ、がはッ!?』
「通常1段」の銃口より発射された風圧弾により、装甲は破損しオルカの体が壁へめり込み地面に沈む。
チャリチャリンッ、カチャッ
使用済みの弾を排莢し、銃本体に新たな弾薬を補充する。
『……ぼーっと、してないで……離れて』
『あ……ああっ』
トーマスが走り出し、距離を少し置いたところで幼い少女は戦闘を再開する。
ダンダンッ
『……させないっ! ……2段、解放っ』
立ち上がろうとする彼女の動きをスライムの触手で封じつつ、クルクスはすぐさま再装填する。
ガチャ、ガチャッ──
キュイイイイイイイ、ズドンズドン──ッ!!
『アガガガガガガガッ』
紫の閃光がオルカの身体中に電撃として奔る。
「雷撃2段」で放たれた弾丸は、衝撃弾。
「通常1段」では、相手を殺傷せずに気絶させる程度の威力しかない弾……だが2段の「雷撃」に変わればあら不思議、なんと殺傷兵器に早変わり。
だが、天罰を下す者シリーズの後継としてイジられる彼女が、この程度のことで死ぬことはまずない。
そして──今回クルクスが最優先すべきなのは、いち早くオルカの暴走を「鎮圧」することだった。
ところがどっこい──弾薬は用途に応じたお誂え向きの小型専用弾で、バッテリー容量も長寿命かつ使い切りの単電池式だ。
手を加えずそのエネルギーを使ったとしても、本来長期戦向きに設計されたエネルギー二挺拳銃では、射撃モードがフルオート時に発射速度毎分1万発になれども火力が低く、オルカの分厚い装甲を貫通させるために必要なパワーが明らかに不足していた。
そこで────
彼女はそれを手動の単発に切り替え、限界まで弾丸を圧縮させた。
これにより1つの専用弾で撃てる回数を極限まで減らした代わりに──不足したパワーが補われ、専用弾の威力を底上げし、彼女の誇る重装甲を撃ち破る、貫通力を宿した強烈なパンチとなったのだ。
『……3段、解放──っ』
チャリンチャリン──ッ
充電切れバッテリーは、後方に弾薬筒を適時排出する中折れ式。
────カチャッ
腰に巻いたポーチから、次のバッテリーを交換し────
キュイイイイイイイイ────ンッ!!!!
銃口の先に白光りの輝きが収束して行く。
『……鎮まりなさい』
ドガァアアアアアアアアアン────ッ!!
凄まじい爆風が通路の床と天井、両脇の壁を破壊。
「爆裂3段」より──炸裂弾の着弾する。
爆発による途轍もない衝撃が、オルカの腹部へと伝わり、翠と紫の瞳が揺れた。
『がはッ……ゴホ……ッ。きょう……か──』
……ドスンッ……ドスンッ
オルカは血反吐をばら撒き、膝から地面に崩れ落ちる。
不幸中の幸いか、目立つような傷は1つだけ。
その刻まれた生々しい傷痕を引き摺らないよう、記憶から完全に切り離すことが今後の課題となると──クルクスは感じた。
パスっ
倒れ込む寸前──自身の胸で彼女を抱き留めた。
『……オーちゃん、リラーックス……そう、リラーックス』
押し殺された表情で背中を擦りながら、穏やかな声色でオルカを宥めるクルクス。
『……敵じゃない。……あたしは味方で、敵じゃない。……慌てないで。……ゆっくりと息を、吸って……そう、身を委ねて──』
『……あり、が……と──』
一筋の涙が頬を伝い、やがてスースーと静かな寝息を立て始める。
この一件の騒動におけるオルカの暴走は、クルクスによって鎮められることとなった。




