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狂氣の果て〜クルーエル・デッドエンド〜  作者: クロス
中章:過去の希望的観測

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38/50

第38話 1stシリーズ第1号


()()()()か──ッ?!』


 は〜いっ、と小麦肌の幼い少女が元気よく返事を返した。


『──神の代行者。天罰を下す者(ネメシス)シリーズ第1号──ジョーズ・E・パート。彼女の強靭な顎はどんなものも噛み砕く、神罰の捕食者プレデター・スクワッドきっての戦闘狂。その威力を知らないということは、ないだろう……? なにせ君の()()が作ったのだからな──』


 健康的な小麦色の肌に、腰まで届くプラチナブロンドのウルフカット。

 その内に秘めたネイビーブルーに紛れる、紫の前髪をふーっと息で目元の星形サングラスから退かす。

 サメを彷彿とさせるノコギリ刃が特徴的な「ギザ歯」と擬似的な身体パーツとしての「ギザ歯」ヘッドドレス。

 淡く不揃いなそばかすは、鼻先に点在するのを控えめにアピールするも、子どもだとにわかには信じがたい、大人顔負けの引き締まった「腹筋」がそれを押し殺す。

 それと同時に強調せし眩しくもかわいらしい、凄まじい吸引力(バキューム)を誇る「おへそっ!!」の露出を際立てさせる。

 そして力強く(しな)やかな、質感あるスベスベ太しっぽは撫で方1つでその感触が劇的に変化し、彼女の反応や対応も……ころっと様変わり。

 紹介されたのが嬉しかったのか、ニンマリ顔でガチガチと歯噛み。


 一見すると羨ましい──そんな様子にも思えるが実態は違う。


 手を抜いているとはいえ、人ならざる彼女の腕力は規格外だ。

 一瞬にして(よこしま)な思考を弾け飛ばしてしまうほどにはキツく、骨は軋み、痛みが走る。


『組織にいる研究者はどれも寄せ集めではない。世界屈指の腕利きだ。仲間を信じている博士と同じように、私も君らを心より信用している』

『仲間を()()しているの間違いです。あなたのは、()()です』


『単なる言葉遊びだ。それにこれは確定事項なのだよ。腹を決めたまえ、博士』


『……考えておきます』


『賢明な判断だ、あぁ実に。────ところで博士、君は……スーザがお好きかな?』


『まあ……はい。当然です』

 

 彼の突拍子もない質問にアーサーは渋々答える。


『それは結構──では、お聞かせしよう』


 バンッ!


『なに、うおっ──!?』


 突如重力を感じる銃声音が室内に鳴り響いた刹那、ジョーズちゃんはアーサーと共に床へ倒れ込んだ。


『おーこりゃあ大変だー。ご自慢の白衣に血が滲んでしまったじゃないか……っ!!』


 カチャッ


 散弾銃の薬室内から排出された空薬莢(からやっきょう)が、カランっと地を転がった。


『な、なんてもん部屋でぶっぱなしてんですかッ!』


 書斎机の足下あしもとに立て掛け隠されていた、「NSTF SPAS(スパス)-11」──ポンプアクション式SG(ショットガン)──を手に取ったスティーブンが、彼らの背後にある扉目掛けて弾を撃ち込んだのだ。


『ジョーズ。彼の拘束を解いて…………臨戦態勢に移行しろ──』


 褐色小女は幹部の命令に従い、アーサーはその細腕から解放される。


『何のつもりですか……?』


 彼は立ち上がり埃を払いながら、そう質問を投げ掛けた。


『雰囲気で察せられないの〜? 空気読みくらいは──』


 アーサーとの距離を詰めて同じ高さまでジャンプし、ジョーズは耳元でこう囁く。


『あたいでも、()()()()()()……よ? ふふっ』


 幼子(おさなご)が出してはならない、セクシーなお声が博士の脳内へ見事に直撃した。


『からかってる暇はないぞ。支度を済ませろ』


 弾倉(マガジン)ベルトを全身に巻きつけながら、男幹部はジョーズを催促する。


『それと博士、信用たるのは己自身だ──廊下を見てみたまえ』

 

 スティーブンはアーサーにそう促しながら、「NSTF M1992」──レバーアクションSG(ショットガン)──と予備(よび)弾倉(マガジン)をセットで、褐色小女に向けて放り投げる。


『────これは』


 部屋の外へ出ると、通路の壁を背にして座り込む、装甲に身を包まれた人間──に近しい奇怪な生物にアーサーは目を見開く。

 ショットガンの重い一撃が効いたのか、全身の装甲一部が散弾で剥がれ、貫通弾が中身に直撃し事切れていた。


『手元が狂えば今頃君は死んでいただろうが、私はプロフェッショナルだ』


 呆然と眺めるアーサーの肩にポンと、スティーブンの手が置かれる。


『そして不運なことに軍人でもある。軍人は民間人を殺せない。そう訓練されてるからな──ジョーズ』


『は〜いっ! そんなに声張り上げなくても、ちゃんと脳に響いているわ』


 この場にそぐわない陽気な声が返される。


『先導し道を示せ、殿は私が務める』

『ばっちこ〜いっ、てね……!』


 彼らの前に立ち、廊下を進み始める褐色小女。


『ミミ、クロエ……博士を警護しろ。何があろうと──死なすんじゃないぞ……?』


 血気盛んなスティーブンが部屋を後にすると、遅れて返事が返される。


『仕方ないミャウね〜、主の右腕が手伝ってやるミャウよ〜』

懐刀(ふところがたな)として、我が主の(めい)に応えるにゃん』


 数分前まで彼と戯れていた猫2匹が、アーサーの眼前で人型へと形態変化していた。


『ひ、人に……なったぁっ?!』

 

 面食らった彼は目を丸くし、反射的に後退りする。


『おい、白人間。騒ぐほどのことじゃミャい。静粛にするミャウ』

『白人間じゃにゃい。アーサー博士にゃんよ』


 先ほどの出来事で2人の目つきが、鋭いものへと変わったこと。

 幹部の飼っているペットが化け猫だということ。

 状況をまだ把握し切れなくとも、それだけは彼でも理解できた。


『説明は後だ、今は生き残ることだけ考えろ』


 正義(ジャスティス)の瞳を宿す大きな背中。

 アーサーを護ろうとする1人の軍人が、そこに堂々と立っていた。



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