第38話 1stシリーズ第1号
『ジョーズか──ッ?!』
は〜いっ、と小麦肌の幼い少女が元気よく返事を返した。
『──神の代行者。天罰を下す者シリーズ第1号──ジョーズ・E・パート。彼女の強靭な顎はどんなものも噛み砕く、神罰の捕食者きっての戦闘狂。その威力を知らないということは、ないだろう……? なにせ君の親友が作ったのだからな──』
健康的な小麦色の肌に、腰まで届くプラチナブロンドのウルフカット。
その内に秘めたネイビーブルーに紛れる、紫の前髪をふーっと息で目元の星形サングラスから退かす。
サメを彷彿とさせるノコギリ刃が特徴的な「ギザ歯」と擬似的な身体パーツとしての「ギザ歯」ヘッドドレス。
淡く不揃いなそばかすは、鼻先に点在するのを控えめにアピールするも、子どもだとにわかには信じがたい、大人顔負けの引き締まった「腹筋」がそれを押し殺す。
それと同時に強調せし眩しくもかわいらしい、凄まじい吸引力を誇る「おへそっ!!」の露出を際立てさせる。
そして力強く靭やかな、質感あるスベスベ太しっぽは撫で方1つでその感触が劇的に変化し、彼女の反応や対応も……ころっと様変わり。
紹介されたのが嬉しかったのか、ニンマリ顔でガチガチと歯噛み。
一見すると羨ましい──そんな様子にも思えるが実態は違う。
手を抜いているとはいえ、人ならざる彼女の腕力は規格外だ。
一瞬にして邪な思考を弾け飛ばしてしまうほどにはキツく、骨は軋み、痛みが走る。
『組織にいる研究者はどれも寄せ集めではない。世界屈指の腕利きだ。仲間を信じている博士と同じように、私も君らを心より信用している』
『仲間を信頼しているの間違いです。あなたのは、信用です』
『単なる言葉遊びだ。それにこれは確定事項なのだよ。腹を決めたまえ、博士』
『……考えておきます』
『賢明な判断だ、あぁ実に。────ところで博士、君は……スーザがお好きかな?』
『まあ……はい。当然です』
彼の突拍子もない質問にアーサーは渋々答える。
『それは結構──では、お聞かせしよう』
バンッ!
『なに、うおっ──!?』
突如重力を感じる銃声音が室内に鳴り響いた刹那、ジョーズちゃんはアーサーと共に床へ倒れ込んだ。
『おーこりゃあ大変だー。ご自慢の白衣に血が滲んでしまったじゃないか……っ!!』
カチャッ
散弾銃の薬室内から排出された空薬莢が、カランっと地を転がった。
『な、なんてもん部屋でぶっぱなしてんですかッ!』
書斎机の足下に立て掛け隠されていた、「NSTF SPAS-11」──ポンプアクション式SG──を手に取ったスティーブンが、彼らの背後にある扉目掛けて弾を撃ち込んだのだ。
『ジョーズ。彼の拘束を解いて…………臨戦態勢に移行しろ──』
褐色小女は幹部の命令に従い、アーサーはその細腕から解放される。
『何のつもりですか……?』
彼は立ち上がり埃を払いながら、そう質問を投げ掛けた。
『雰囲気で察せられないの〜? 空気読みくらいは──』
アーサーとの距離を詰めて同じ高さまでジャンプし、ジョーズは耳元でこう囁く。
『あたいでも、あさめしまえ……よ? ふふっ』
幼子が出してはならない、セクシーなお声が博士の脳内へ見事に直撃した。
『からかってる暇はないぞ。支度を済ませろ』
弾倉ベルトを全身に巻きつけながら、男幹部はジョーズを催促する。
『それと博士、信用たるのは己自身だ──廊下を見てみたまえ』
スティーブンはアーサーにそう促しながら、「NSTF M1992」──レバーアクションSG──と予備弾倉をセットで、褐色小女に向けて放り投げる。
『────これは』
部屋の外へ出ると、通路の壁を背にして座り込む、装甲に身を包まれた人間──に近しい奇怪な生物にアーサーは目を見開く。
ショットガンの重い一撃が効いたのか、全身の装甲一部が散弾で剥がれ、貫通弾が中身に直撃し事切れていた。
『手元が狂えば今頃君は死んでいただろうが、私はプロフェッショナルだ』
呆然と眺めるアーサーの肩にポンと、スティーブンの手が置かれる。
『そして不運なことに軍人でもある。軍人は民間人を殺せない。そう訓練されてるからな──ジョーズ』
『は〜いっ! そんなに声張り上げなくても、ちゃんと脳に響いているわ』
この場にそぐわない陽気な声が返される。
『先導し道を示せ、殿は私が務める』
『ばっちこ〜いっ、てね……!』
彼らの前に立ち、廊下を進み始める褐色小女。
『ミミ、クロエ……博士を警護しろ。何があろうと──死なすんじゃないぞ……?』
血気盛んなスティーブンが部屋を後にすると、遅れて返事が返される。
『仕方ないミャウね〜、主の右腕が手伝ってやるミャウよ〜』
『懐刀として、我が主の命に応えるにゃん』
数分前まで彼と戯れていた猫2匹が、アーサーの眼前で人型へと形態変化していた。
『ひ、人に……なったぁっ?!』
面食らった彼は目を丸くし、反射的に後退りする。
『おい、白人間。騒ぐほどのことじゃミャい。静粛にするミャウ』
『白人間じゃにゃい。アーサー博士にゃんよ』
先ほどの出来事で2人の目つきが、鋭いものへと変わったこと。
幹部の飼っているペットが化け猫だということ。
状況をまだ把握し切れなくとも、それだけは彼でも理解できた。
『説明は後だ、今は生き残ることだけ考えろ』
正義の瞳を宿す大きな背中。
アーサーを護ろうとする1人の軍人が、そこに堂々と立っていた。




