第14話 刺客襲来ッ!
遡ること、数十分前のモーテルにて────
連続的な発砲音と弾倉が回転する軽い音が、モーテルの2階の客室に鳴り響く。
通報を受け現場に到着したS.W.A.T.隊は現在交戦状態にあった。
「──うーん……やっぱり痛いって、よくわかんなーいっ!」
うさ耳フードを被った可愛らしい幼女は、むくりと起き上がり、その元気溌剌な言葉が客室中に響き渡る。
「嘘、だろ──ッ!?」
「何発撃ち込んだと思ってるんだよッ!」
「何故まだピンピンしてやがるんだッ!?」
S.W.A.T.隊の幾重にもおよぶ、MP5短機関銃の銃弾が幼い少女を襲った──されど銃弾を何発受けて倒れても、なお平然と立ち上がる信じられない光景に、S.W.A.T.隊員たちはその幼い少女に恐怖した。
S.W.A.T.隊が年端もいかない子どもに発砲しているのには理由があった。
……小柄な体で背負うには似合わない、身長の倍以上ある圧縮空気砲。その高圧力で圧縮して繰り出された空気圧で彼女が、仲間の隊員の胴体を吹き飛ばし、部屋中にその肉塊が飛び散る現場を目撃してしまったからだ。
「熱ッ! ゴーバック──ッ!!」
部屋付近の温度は圧縮熱により急激に上昇。
S.W.A.T.隊は廊下を駆け抜け、階段までの後退を余儀なくされる。
「えー? まだまだ撃ち足りないよねー? ニナニナまだ満足ぅ、してない、してなぁいーっ!」
圧縮空気砲から水滴をポタポタ垂らしながら、客室から廊下に飛び出すニナニナ。
飛び出した勢いで壁の一部が破壊され、廊下に破片が飛び散った。
そこにからんっ、ころんっ、と音を立て、ニナニナの足元に何か転がった──閃光手榴弾だ。
「んっ……?」
──刹那、廊下は大爆音と閃光に包まれた。
「うぉっ!」
幼い少女の動きが止まった一瞬の隙を、彼らは見逃さない。弾幕を──止めてはならない。
「ゴーゴー、ゴーゴーッ!!」
S.W.A.T.隊員のポイントマンは防弾盾を構え、素早く幼い少女との距離を一気に詰める。
そのまま前進し、MP5短機関銃で弾丸をニナニナの胴体に容赦なく撃ち込んでいく。
他のS.W.A.T.隊員も後に続き、先頭のポイントマンは防弾盾で彼女に突進し、強く床に押し倒す。
「あっはははっ! すごい、すごーいっ! ニナニナ、びっくりっ!」
S.W.A.T.隊員たちは幼い少女に銃口を突きつけ、彼女の身体状況を確認する。
「俺たちの方がびっくりだよ……お嬢ちゃんっ」
ニナニナの身体は大怪我どころか、傷一つ付いていなかった。
「おい──この子ブリッてるぞっ」
S.W.A.T.隊員の1人がそう言葉を溢した。
ブリッてる……とは、ドラッグ用語でマリファナ成分が体内に入っている状態を指す。
「増援と護送車の手配を急げ。医療班にも連絡を」
「分かりました」
「あと……背中にある武器を没収しろ」
「……ダメです。この子の身体に引っ付いて引き剥がせません」
「やむを得ないか……このまま移動する。時間が惜しいからな。いいか、生きて帰りたきゃその子から絶対目を離すんじゃないぞ。全員蜂の巣どころか──欠片も残らないぞ?」
隊長の一言で場の空気は重くなり、S.W.A.T.隊員たちは息を呑んだ。
「お前たち2人は1階に生きている民間人がいないか、再度チェックしろ。それから──」
「隊長、ジャミングです。本部と連絡が取れません」
仲間からそう伝えられ、隊長自身も一度本部との通信を試みるも、返ってくるのは断続的なノイズ音だけだった。
「……まだ敵がハイドしている可能性がある。2人は先に行って表に車を回せ。俺たちが1階をチェックする。警戒を怠るなッ」
2人のS.W.A.T.隊員は静かに頷き、1階へと下りて行った。
その後ニナニナは手錠をかけられ、S.W.A.T.隊の隊長と隊員の二人による、1階の確認が済み次第モーテルの出口へと向かうことになった。
「ねぇねぇ、ニナニナにもっと銃声、聞かせて──っ!」
「…………ッ!」
「────ッ!」
幼い少女の言葉を無視して先行していたS.W.A.T.の隊長はもう1人の仲間に、階段手前で手信号で止まるよう合図する。
ピッ……ピッ……ピッ……ピッ……
S.W.A.T.の隊長は音が微かに鳴る、近くの部屋まで足を忍ばせながら移動し──
ドガッ!
思い切りドアを蹴り破った。
S.W.A.T.の隊長は部屋に入り、音の出処を探った。
そして──ベッド横の引き出しの上に置かれた、1つの小さな人形から音が鳴っていることが分かった。
ぽつんと静かに佇んでおり、S.W.A.T.の隊長は人形がまるでこちらを見つめているかのような錯覚さえ覚えた。
「──S.W.A.T.に告ぐ。今すぐその子を解放し、ここから立ち去りなさい」
機械音じみた声で突如喋り始めた人形から、S.W.A.T.の隊長は反射的に後退りした。
「要求を呑まない場合、あなたたちは全員──ここで死ぬことになるわ。S.W.A.T.に告ぐ。今すぐその子を──」
バンッバンッバンッバンッ!
S.W.A.T.の隊長は躊躇なく引き金を引き、喋る不気味な人形を徹底的に破壊した。
「よ、きゅ……あ、な……こ、こおぉ…………」
人形はどさりと音を立て床に落ちた。
「……あまりペラペラ喋りすぎると嫌われるって、ママに教わらなかったのかよ……?」
室内は床へ落下する薬莢の余韻と硝煙の臭いで満たされる。
「──隊長ッ! ご無事ですかッ!?」
「すごい音だけどなになにぃー? ニナニナも、混ぜて混ぜてぇーっ!」
「おい、はしゃぐな──っ!」
突然の銃声にS.W.A.T.隊員が部屋へ駆けつける。
「嗚呼、心配無用だ。それと1階のチェックは無しだ。不測の事態に備えろ、近くに伏兵が潜んでいる。一刻も早くここから離脱するぞッ」
「えっ? あっ、はいッ!!」
そして2人がモーテルの外に出ると、S.W.A.T.の装甲車両1台がこちらに走って来ていた。
「走れ──ッ!」
隊長の掛け声でニナニナを連れた隊員も駆け出した。
しかし、それを阻むように──アスファルトに白い煙幕が焚かれた。
「──ッ!! 敵襲──ッ! スモークだッ、警戒しろッ!」
隊長がそう叫んだ刹那──スモークの中へ何かが轟音を立てて突っ込んで行った。
「あ、ロケットランチャー──っ!?」
そう叫んだ数秒後、前部エンジンを炎上させたS.W.A.T.の装甲車両が隊長のすぐ真横を通り過ぎた。
「なっ……!」
壁にぶつかることで勢いを殺し、S.W.A.T.の装甲車両は停車した。
「クソ──ッ!」
RPGは自分たちとは逆の方向から飛来して来た──つまり、S.W.A.T.の装甲車両の前方からということになる。
それを加味した上でS.W.A.T.の隊長は弾道を計算し、おおよその犯人の位置を割り出す。
そして猛スピードでこちらに接近している、バイクに乗った全身黒ずくめの人物が目に入った。
目をつけられれば逃げられないであろう、異彩を放つ太い車輪。キャンバス一面を一瞬で塗りつぶすような──漆黒に染められたボディ。
そのボディの側面に刻まれるイナビカリマークは、黒雷を彷彿とさせる。
ヘルメットで顔は覆われていたため、性別の判別は不可能だった。




