第13話 極秘組織NSTF機関
「ミス・クルクスをお連れしました」
扉前でノックと同時に声をかけ、相手側の返事を待つカラスマスク兵。
「──入れ」
「どうぞ、お入り下さい」
カラスマスクの兵士は、正面扉を横にスライドさせ、クルクスに入るように促す。
クルクスの入室を確認し、「失礼しました」と言いながらカラスマスクの兵士は扉を閉め、来た道を戻って行った。
クルクスが入った部屋には、横長のソファが2つ相対するようにあり、中央には横長の机が1つ置かれている。
机の上には、吸い殻でパンパンの灰皿があった。
他にも、車内とは思えないほど豪華に彩られている。
「──クルクス、座れ」
「……はい」
言われるがまま、クルクスは対面する形でソファに腰を下ろす。
彼女の目の前にいるのは、足を組みソファに腰掛ける1人の女性。
高身長で緩やかなウェーブのかかった金髪。
ラウンド型サングラスでも隠し切れない、顔半分を覆う生々しい大きな火傷痕は、見る者の恐怖を増幅させる。
軍用コートにとても似通った、組織特注の幹部のみが着ることを許される、専用コートをスーツの上から羽織っていた。
その両サイドには、肌がこんがりと焼けた屈強な男が護衛として立っていた。
「……ミス・ヴァレンタイン──」
クルクスが話を切り出そうとした所に、ヴァレンタインは手で待ったをかける。
スーツのポケットから何かを取り出した──タバコだ。
葉巻を彼女が咥えると、箱を仕舞う前に先端に火が付けられる。
「……動きが早いじゃないか──クルクス」
赤い液体を手足同然に扱い、クルクスは座った状態で、彼女にライターを差し出していた。
「……それが、務めですから」
「務め、ねぇ…………お前たちは下がりなさい。この子と2人きりで話がある」
「「はっ!!」」
彼女の命令で護衛2人はそそくさと部屋を後にした。
護衛が出て行ったのを確認し、ヴァレンタインは口を開く。
「クルクス。よもや忘れたわけじゃないだろうな……? 米国極秘研究組織、“国家《N》科学《S》技術《T》財団《F》”の目的を────」
米国極秘研究組織、国家科学技術財団《National Science and Technology Foundation》────通称“NSTF”機関。
冷戦時代に米国政府によって、秘密裏に認可及び設置された、クルクスが所属する秘密組織。
世界中から「最高峰の頭脳」と称される科学者、技術者、研究者をこの一箇所に集約。
これにより、米国は人類全体の技術発展を意図的に抑制し、水面下で技術的優位性を確立。
世界の技術的な総取り状態を密かに作り上げることに成功した。
──結果、組織の技術力は既存の世界水準を遥かに凌駕し、その確固たる地位はもはや誰にも揺るがすことのできない、絶対的なものとなっていた。
冷戦終結後も組織は解体されることなく、現在も驚異的な速さで、進化を続けている。
「⋯⋯もちろんです。⋯⋯片時も忘れたことは、ありません」
「なら一言一句言ってみろ」
「……はい。……あたしたち、NSTFの使命は――大いなる神の御名のもとに、侵略者、異分子……国家の安寧を脅かす、その全ての脅威を断罪し……排除することです」
「その通りだ。『神の御心』に従い、母なる祖国とその民に、一切の穢れなき永劫の夜明けをもたらす──それこそが、我々NSTFの存在意義だ。我々の技術は、世界中から選りすぐり結集した精鋭たちの賜物だ。従順な犬には『慈悲の免罪符』を、歯向かう愚者には、神の代行者として『冒涜者の烙印』をくれてやった。我々の玉座は、万の屍の上に築かれる神意そのものだ。その血塗られた礎を忘れるなど、決してあってはならない……だからこそ──ッ!!」
ヴァレンタインは、束になった写真を力任せに、ドスンッと机に叩き付けた。
机一面に広げられたのは、ニナニナに翻弄されるクルクスの様子を収めた無数の写真だった。
「『慈悲の免罪符』ではなく、『冒涜者の烙印』がお望みか……クルクス? 神意の礎にその若さでなるつもりか……? 答えろッ──!!!!」
拳が凄まじい勢いで振り下ろされ、机を激しく揺らし、乾いた衝撃音を響かせた。
サングラスから覗く、煮えたぎるような鋭い眼差しは、一瞬たりともクルクスから視線を外さない。
「…………何か、誤解されています」
「誤解……?」
「……これは姉役の、演技に過ぎません」
「それにしても、随分とまあ親しい雰囲気そうだが……?」
ヴァレンタインは一枚の写真を手に取り、クルクスへ突き出す。
「……普段と変わりがないように、見えます」
表情が皆無なクルクスが、自由奔放のニナニナの世話を焼いている、一見問題がなさそうな写真。
「誤魔化せると思ったら大間違いだ。ここをよく見てみろ」
そう言ってヴァレンタインは、写真に写ったクルクスの表情に指を当てる。
「ここ、反射的に表情筋が動いた跡があるだろう? 見慣れないものだから、正直見間違いだと思った──異論は?」
「……表情は──人を欺く道具です。……敵を騙すなら、まずは味方からとも言います」
「──何が言いたい?」
「……それは、あなたがよくご存知のはず。……ミス・ヴァレンタイン」
「フッフッフッ、クックックッ──フハハハハッ!!」
ヴァレンタインは思わず吹き出した。
「言うじゃないか、クルクス! 良いだろう。その度胸を認めて、今回は不問とする。だが、次はない」
ヴァレンタインが空中に放おった物を、クルクスは触手を伸ばしてキャッチした。
「そろそろ切れる頃だと思ってな」
それは携帯型吸入ステロイド薬だった。
「……感謝します」
「さてと……話はこの辺にして。現場で起きたことについて、報告を聞くとしようか」
「……了解」
そしてクルクスは話し始めた。




