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底辺おっさん、配信アプリで「TS聖女」に進化する ~最強の美貌で配信界の天使をざまぁします~【全11話完結済】  作者: duckman


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7/11

天使の罠と、路地裏の真実

『天使りりか』からのコラボの誘いを受けてから数日。

 俺は彼女のマネージャーと名乗る人物と事務的なやり取りを重ねていた。


 日時の調整、企画内容の確認。外堀は完全に埋まった。

 もう、配信者としての仁義上、ドタキャンは不可能な段階だ。


 そして、そのタイミングを見計らったように、りりか本人からメッセージが届いた。


『言い忘れてたけど、今回は「リアル対面」でのコラボだから!

 都内のスタジオ借りたから、そこで会おうね♡

 まさか、来れない……なんてこと、ないよね?』


 俺はスマホの画面を見て、思わず吹き出した。

 なるほど、そう来たか。


 散々話を詰めて逃げられなくしてから、後出しで「リアル」を突きつける。

 俺が加工アプリやマスクで顔を隠している「偽物」だと踏んで、高画質カメラの前で晒し者にする気だ。あるいは、ビビってキャンセルすれば「聖羅ちゃんに逃げられた」と吹聴して潰すつもりだろう。


(残念だったな、りりか)

 俺はスマホの黒い画面に映る、自分の顔を見つめた。

 加工なんて必要ない。

 少し口角を上げるだけで、誰もが卒倒するほどの可憐さだ。

 今の俺は細胞レベルで作り変えられた本物の怪物。

 お前の想像する「リアル社会に顔を出せないブス」ではない。


『もちろん! 楽しみにしています♡』

 迷わず送信。

 現物の俺の姿を見て驚く姿が目に浮かぶぜ。


 ◇


 その日の午後。

 俺は「聖羅」の姿で、気晴らしに街を歩いていた。

 最近はコンビニバイト以外でも、こうして外に出ることが増えた。

 視線を集める快感もあるが、単純にこの身体で歩くのが楽しいのだ。


 繁華街の路地裏に差し掛かった時、ヒステリックな女の声が聞こえた。


「はぁ? どこ見て歩いてんだよジジイ! キモいんだよ!」

「服に触れたんだけど! 弁償しろよ!」

 派手なメイクをした若い女二人組が、背の低い中年男性を取り囲んでいた。

 男性は安物のスーツを着て、小さくなりながら「す、すみません、すみません」と頭を下げ続けている。


 おそらく、少し肩が当たったとか、そんな些細なことだろう。

 だが、女たちは相手が反撃してこない「弱者」だと見て、ストレス発散のように罵詈雑言を浴びせている。


(……ああ、嫌なもんを見たな)

 あれは、かつての俺だ。

 若くて綺麗な女というだけで「強者」になり、俺のような冴えないおっさんは存在しているだけで「害悪」扱いされる。

 無視して通り過ぎることもできた。だが、俺の足は勝手に動いていた。


「……あの、大丈夫ですか?」

 俺は身体を斜めに滑り込ませ、女たちとおっさんの間に割って入った。

 自分より背の高い女たちを、下から少し覗き込むように見上げる。

 威圧するのではなく、あくまで控えめに。


「あ? なんだあんた……っ」


 食って掛かろうと振り返った女たちが、俺の顔を見た瞬間に絶句する。

 圧倒的な「美」の前では、半端な自尊心など消し飛ぶのだ。


 さっきまでのヒステリックな毒気が、彼女たちの顔から嘘のように抜けていくのが見て取れた。


 俺は魅了スキルを乗せた瞳で、彼女たちを静かに見つめる。

「おじさん、謝ってるじゃないですか。それ以上いじめると……それに、周りの人も見てますよ?」


 ニッコリと微笑むが、目は笑っていない。

 女たちは気まずそうに視線を泳がせ、「……チッ、行こ」と、捨て台詞を吐いて逃げるように去っていった。


 残されたおっさんは、呆然と立ち尽くしている。

 俺はハンカチを取り出し、脂汗の浮いたおっさんの額をそっと拭ってやった。


「災難でしたね。……お怪我はないですか?」

「あ、あぁ……ありがとう、ございます……。こんな、汚いおっさんに……」


 おっさんが涙目で俺を拝むように見ている。

 俺は後で飲もうとコンビニで買っておいた缶コーヒーをおっさんに差し出した。


「はい。お仕事、頑張ってくださいね。……応援してますから」


 突然目の前に出されたコーヒー。

 一瞬わけがわからないという表情で、おっさんの視線が俺の顔とコーヒーを何度か往復する。

 まさか自分のような人間に、こんな美少女が施しをしてくれるはずがない――そんな卑屈な思いが見て取れる。

 だが、俺が笑顔を崩さずにいると、彼はそれが自分に向けられたものだということにようやく気付き、おずおずと手を伸ばしてきた。


 おっさんが震える手でコーヒーを受け取ろうとした瞬間、俺は空いている左手を、横からそっと彼の手に添えた。

 缶を渡す右手と、支えるような左手。

 俺の両手で、おっさんの震える手をサンドイッチにする。


 柔らかく、温かい感触。

 このほんの少しの接触が、孤独な男の心をどれほど激しく揺さぶるか、俺は知っている。


(なんの偶然か、この「強者」の身体を手に入れた俺としては、こうやって「持たざる者」に与えることが必要なんじゃないかな? ……初心忘れるべからずってことだ)


 せっかく最高の身体を手に入れたんだ。

 害意のない虐げられているおっさんくらい、幸せな夢を見せてやったってバチは当たらないだろう。

 俺の手のぬくもりに、おっさんは感極まったように口元を震わせ、うっすらと涙さえ浮かべながら何度も何度も頭を下げた。

 俺はもう一度微笑みかけ、その場を離れた。


 ◇

 その夜の配信。


 俺は自宅のデスクに座り、ハイスペックPCのモニターに向き合っていた。

 以前はスマホ一台で済ませていたが、今は高画質カメラと照明、コンデンサーマイクを完備した完全な配信環境だ。


 もちろん、分割払いなんかじゃない。「聖羅」として顔出しした後、プロフィールの『欲しいものリスト』にこれらを入れておいたら、翌日にはすべて届いていたのだ。

 それをなんとか調べながら設定し、ついに今夜PCでの初配信となった。


 画面には、完璧な「聖羅」の顔が映し出されている。

 今日はこのハイスペックPCのお礼とお披露目記念も兼ねて、新しい企画を試すことにしていた。


「今日は新コーナー! 『聖羅と3分間お電話』のコーナーですっ!」

 聖羅の独断で選んだリスナー一人と、配信アプリの通話機能を使って直接話すという企画だ。


 コメント欄は『当ててくれ!』『課金するから!』と阿鼻叫喚だ。

 滝のように流れる文字の列。その中で、俺の目を一瞬引いたコメントがあった。


『ほんとうに、ほんとうに今日話したいことがあります。お願いします!』


 漢字変換する余裕すらないほどの、必死な訴え。

 今日話したい……その切羽詰まった様子が、妙に気になった。

 俺はマウスを操作し、そのIDをクリックした。


「じゃあ……この人! もしもし、こんばんは~」

『あ、あ、あ……! もしもし!? 聖羅ちゃん!? うわああ本物だ!』

 繋がったのは、興奮気味の男性リスナー。

 俺はカメラに向かって、満面の笑顔で対応する。


「ふふ、落ち着いて。今日はどんなお話してくれるの?」

『あのっ、俺、今日見たんです! 昼間、繁華街の裏で!』


 俺の心臓が少し跳ねた。

 まさか、昼間のあれか?


『聖羅ちゃんですよね!? 若い女に絡まれてるサラリーマンのおじさんを助けてたの! 俺、遠くから見てて震えました!』


 男性は興奮のあまり、早口でまくし立てる。

『正直……俺、聖羅ちゃんのこと疑ってたんです。こんなに可愛いのは、最新の加工アプリかCGなんじゃないかって。画面の中だけの存在だって』

 その言葉に、コメント欄が一瞬静まる。それは、多くの視聴者が抱いていた密かな疑念でもあったからだ。


『でも、違った! 聖羅ちゃんは現実にいたんです! 加工なんてレベルじゃない、圧倒的なオーラでした! あんな冴えないおっさんに、自分のハンカチで汗を拭いてあげて、優しく手を握ってあげて……! あのおじさん、泣いてましたよ! ……まるで女神みたいで……俺、腰抜けちゃって声かけられなくて……!』


 熱のこもった証言。

「実在する」という事実と、「裏表のない聖女」という証明。

 それが、第三者の口から、しかも「加工を疑っていた人間」の口から語られたことの意味は大きい。


 コメント欄がピタリと止まり、次の瞬間、爆発した。


 『マジかよ』『加工じゃなかったのか!』『リアル聖女確定』『疑っててごめん』『尊すぎて泣いた』。


 俺は一瞬言葉に詰まったふりをして、困ったように笑った。


「あはは……見られちゃってたんだ。恥ずかしいな」


 肯定も否定もしない。だが、その反応こそが真実の証明だ。

 俺が自ら語った武勇伝ではない。

 俺の「勘」が引き当てたリスナーが勝手に目撃し、勝手に拡散してくれた「真実」。

 これ以上のプロモーションはない。


『俺、感動しました! やっぱ聖羅ちゃんは中身も天使だ! 一生ついていきます!』


「ありがとう。でもね……」

 俺は少し声を落とし、優しく諭すように言った。


「あんまり詳しい場所は言わないでね? もしみんなが集まっちゃったら、あのおじさんが怖がっちゃうかもしれないから。……私との約束だよ?」


『は、はい! すみません! 一生秘密にします!』


 通話が切れる。

 画面の向こうで、俺への信仰度が限界突破していくのが分かる。

 特に、この配信を見ている「冴えない男たち」にとって、今のエピソードは心臓を鷲掴みにされるような衝撃だったはずだ。


「聖羅ちゃんだけは、本物だ。俺たち(おっさん)の味方なんだ」という確信。

 この空気があれば、りりかが「リアル対面」で俺を潰そうとしても、逆に返り討ちにできる。

 俺は「加工」じゃないからだ。


 これで、準備は万端だ。

 俺には、リアルでの「美貌」と、ネットでの「狂信者たち」がいる。

 りりか。お前がどんな罠を仕掛けてこようと、今の俺は無敵だ。


 週末。決戦の日が来る。


 ◇ ◇ ◇


【リアル聖女】聖羅の目撃情報について語るスレ【実在確定】

 25 名無しさん@配信中:202X/XX/XX(土) 22:30:00

 今日の通話コーナーやばかったな

 ギャルに詰められてる弱そうなおっさん助けたとか、ガチ聖女すぎて泣いた


 26 名無しさん@配信中:202X/XX/XX(土) 22:31:15

 >>25

 でもさ、ちょっと出来すぎじゃね?

 数千あるコメントの中から、ピンポイントで目撃者選ぶとか無理だろ

 仕込み(サクラ)疑うわ


 27 名無しさん@配信中:202X/XX/XX(土) 22:33:40

 >>26

 これ

「今日話したい」ってコメだけで選んだんだろ?

 偶然にしては神がかりすぎてる

 運営が裏で糸引いてる説


 28 名無しさん@配信中:202X/XX/XX(土) 22:35:22

 は? 疑う奴はアーカイブ見直してこいよ

 あの電話の男の声、マジで震えてたぞ

 演技であんな声出せるかよ


 29 名無しさん@配信中:202X/XX/XX(土) 22:38:00

 俺も最初は疑ってたけど、聖羅ちゃんの「おじさんが怖がっちゃうから場所は秘密」って配慮聞いて信じたわ

 あんな優しい嘘つける子が、自作自演なんてするわけない(洗脳済)


 30 名無しさん@配信中:202X/XX/XX(土) 22:40:55

 まあ仕込みだろうが何だろうが、実在は確定したな

 りりかの配信で言ってたけど、今週末に「リアル対面コラボ」やるらしいぞ

 そこで白黒つくだろ


 31 名無しさん@配信中:202X/XX/XX(土) 22:42:10

 >>30

 は? お前なんであっち(敵)の配信見てんの?

 スパイかよ、失せろ


 32 名無しさん@配信中:202X/XX/XX(土) 22:43:00

 >>31

 偵察だよ偵察

 向こうは「聖羅ちゃんが逃げないか心配~」とか煽り散らかしてたぞ

 マジで一回潰したほうがいいなあの女

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