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底辺おっさん、配信アプリで「TS聖女」に進化する ~最強の美貌で配信界の天使をざまぁします~【全11話完結済】  作者: duckman


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5/11

コンビニの聖女と、微笑む毒天使

 聖羅が誕生してから、俺の世界は一変した。


 朝、目が覚めると、そこには見慣れたボロアパートの天井がある。

 だが、布団の中に横たわっているのは、加齢臭漂う中年男ではない。

 絹のように滑らかな肌と、華奢な手足を持つ美少女だ。


「……んっ、ふわぁ」

 無意識に漏れたあくびの声すら、アニメの一場面を切り取ったかのようだ。

 俺は布団をまくり、自分の身体を見下ろした。

 白い。細い。そして、柔らかい。


 鏡の前に立つと、そこにはこの世の奇跡のような美少女が映っている。

 男だった頃の記憶が嘘のように、今の俺は「聖羅」として完成されていた。

 小首をかしげ、伏し目がちに肩にかかる黒髪をサラリとかきあげる。

 鏡に映った美少女は吸い込まれるような微笑を浮かべながら、その動作を行った。


(これは……最高かよ)


 あまりの完成度に、一瞬、底辺おっさんだった過去の方が悪夢だったんじゃないかと錯覚しそうになる。

 だが、脳内で響く一人称は相変わらず「俺」だ。

 中身は汚いおっさんのまま、ガワだけが聖女になった。……最高じゃないか。


 着替え一つとっても、新鮮な快感がある。

 通販で買った安物のワンピースですら、俺が着ればブランド品のように輝いて見える。

 街を歩けば、すれ違う男たちが例外なく振り返り、女たちは羨望と嫉妬の眼差しを向ける。

 世界が俺に対して優しすぎる。これが「強者」の景色か。


 だが、浮かれてばかりもいられない。

 俺には解決しなければならない「現実的な問題」があった。


 バイトだ。

 コンビニの深夜シフト。このままバックレるのは簡単だが、それは俺の流儀じゃない。

 俺は底辺だが、社会人としての筋は通す。それに、急に収入が途絶えるのも困るし、何より「聖羅」としての社会的地位(隠れ蓑)も確保しておきたい。

 だから俺は、その日の昼、バイト先のコンビニへと向かった。

 もちろん、「聖羅」の姿で。


 ◇


「いらっしゃいませー……って、え?」

 カウンターの中にいた店長――いつも俺を怒鳴り散らしていた30代後半のハゲ親父――が、俺を見るなり口を半開きにして固まった。


 俺は清楚なワンピースの裾を少し摘んで、ペコリと頭を下げた。

「あの、はじめまして。佐藤健二の親戚の、聖羅と申します」

 店長の目が点になる。

 無理もない。あのむさ苦しいおっさんの親戚が、こんな深窓の令嬢のような美少女だとは思うまい。


「さ、佐藤の……? えっ、あいつにこんな可愛い姪っ子が……?」

「はい。実は叔父さん、急に体調を崩してしまって……しばらく働けそうにないんです」

 俺は伏し目がちに、悲しげな嘘をつく。


「でも、叔父さんが『店長に迷惑はかけられない』って泣いてて……。だから、私が代わりに働かせてもらえないでしょうか?」

 上目遣いで、魅了スキルを乗せた視線を送る。

 効果はてきめんだった。

 店長の顔がみるみる赤くなり、鼻の下が伸びる。


「い、いやいや! そんな、佐藤のやつの代わりなんてとんでもない! こんな華奢な子に、深夜のワンオペなんてさせられないよ!」


 店長はカウンターから飛び出してくると、揉み手をして言った。

「深夜はワシが入るから! 聖羅ちゃんは、そうだな……昼間の、一番客が多い時間帯に入ってくれないかな? レジに立っててくれるだけでいいから!」


「えっ、でも……」

「いいんだいいんだ! 時給も色付けとくから! ねっ?」


 チョロい。

 俺は内心で舌を出しながら、花が咲くような笑顔で頷いた。


「ありがとうございます、店長さん! 私、頑張りますっ!」

 こうして俺は、「深夜の冴えないおっさん」から「昼間の看板娘」へとジョブチェンジした。


 効果は凄まじかった。

 『駅前のコンビニに、とんでもない美少女がいる』という噂は瞬く間に広がり、店は連日大盛況。

 用もないのに男たちが押し寄せ、俺がレジを打つだけで「ありがとうございます!」と感謝して帰っていく。

 リアルでのファン獲得活動も順調だ。


 ◇


 リアルが充実すればするほど、ネット世界での欲求も高まっていく。

 その夜、俺はいつものように『天使りりか』の配信をチェックしていた。

 この「StarCast」通称スタキャスという配信プラットフォーム内において、彼女は登録者10万人を誇るトップ層の一人だ。

 某有名動画サイトなどの世界規模で見れば小粒かもしれないが、この界隈では間違いなく「女王」として君臨している。


 だが、その玉座が今、揺らぎ始めていた。

『最近、聖羅ちゃんって子の配信が面白いよ』

『コンビニで働いてるって噂の子かな? リアルでも聖女らしいぞ』


 コメント欄に流れる「聖羅」の文字。

 りりかの表情が、一瞬ピクリと引きつるのを俺は見逃さなかった。


 だが、さすがはトップ配信者だ。彼女は決して不機嫌な顔を見せたりしない。

 代わりに、とびきりの「天使の笑顔」を浮かべ、心配そうに首を傾げてみせた。

『あ、聖羅ちゃんの話? うんうん、私も知ってるよ! すごく可愛い子だよね~』

 りりかは声を弾ませ、聖羅を褒める。


 だが、その直後に声を潜め、さも「視聴者のためを思って」というトーンで続けた。

『でもね、私ちょっと心配なんだぁ。その子、「男の人が怖い」って言いながら、接客業をしてるんでしょ? ……それって、ちょっと矛盾してないかな?』


 コメント欄がざわつく。

 『確かに』『言われてみれば』という空気が流れる。

『もしかして、無理してキャラを作ってるんじゃないかなって。……嘘をついて配信してると、いつか自分が傷ついちゃうから。聖羅ちゃんが、悪い大人に「そういう設定でやれ」って言わされてないか、私、心配で……』


 うまい。

 俺は思わず感心した。

 彼女は決して聖羅を悪く言っていない。「心配している」という体裁を取りながら、「聖羅の設定は嘘だ」「裏に男がいる」という疑惑の種を、視聴者の心に植え付けたのだ。

「聖女」の仮面を、「嘘つき」のレッテルで剥がしにかかったわけだ。


(……やるじゃないか)

 俺はスマホの前で、ニヤリと笑った。

 同じ穴のムジナだ。彼女もまた、清廉潔白な天使の皮を被った、計算高い「女」だった。

 だが、その攻撃こそが、俺が待ち望んでいた最高のパスだ。


 俺はすぐに自分の配信枠を立てた。

 タイトルは『ごめんなさい、私が悪いの』。


 画面に映った聖羅は、目を赤く腫らし、今にも泣き出しそうな顔をしていた。

 もちろん、目薬だが。

「……みんな、ごめんね。私の名前が出たせいで、りりかちゃんに心配かけちゃったみたい」

 震える声で、俺は語りだす。


「りりかちゃんの言う通りかも。私なんて、キャラを作ってるだけの偽物に見えるよね……。コンビニのお仕事も、病気の叔父さんの代わりに頑張らなきゃって思っただけなんだけど……私が表に出るのが、いけなかったのかな……うっ、ぐすっ……」

 言葉を詰まらせ、大粒の涙をこぼす。


「健気に頑張っているのに、尊敬する先輩から『嘘つき』扱いされた悲劇のヒロイン」。

 その姿は、魅了スキルによって何倍にも美化され、視聴者の脳髄を刺激する。

 りりかの「巧妙な心配」は、俺の「純粋な涙」の前では、「陰湿なイジメ」へと変換される。

 コメント欄が、怒号で埋め尽くされた。


『はあ!? りりかふざけんなよ!』

『叔父さんのために働いてる聖羅ちゃんを、嘘つき呼ばわりしたのか!?』

『心配するフリして潰しに来たんだろ、あの女!』

『俺たちが守るから! 泣かないで!』


 男たちの「庇護欲」が「攻撃衝動」に変わる瞬間だ。

 俺は何もしなくていい。ただ泣いていれば、彼らが勝手に武器を取り、りりかへ向かっていく。


「みんな、やめて……! りりかちゃんを責めないで……私が配信やめればいいだけの話だから……」

 俺は制止の言葉という名の「燃料」を注ぐ。

 これで、彼らの正義感はさらに暴走するはず。


 その時、スマホが震えた。

 アプリの通知だ。

 【登録者数:2,000人 達成】

 【報酬「催眠音声ヒプノボイス」スキルがアンロックされました】

 りりかへの反感と同情票で、一気に二千人を超えたのだ。


 俺の喉の奥が、カッと熱くなる。

 声帯が、さらなる「進化」を遂げる感覚。


「……ふふっ」

 涙を拭うふりをして、俺は腕で顔を隠しつつ、口元を醜く歪めた。

 腕の影で隠されたその表情は、聖女とは程遠い、欲望に満ちたおっさんの笑みだった。


 ありがとう、りりか。

 お前が「天使」の仮面を被ってくれたおかげで、俺の「聖女」の仮面がより輝いたよ。


 俺はマイクに唇を寄せ、新しいスキルを試すように、涙声混じりの甘い声で囁いた。

「ねえ、みんな……。私、怖いの。一人じゃ戦えないよ……。ずっと、味方でいてくれるよね?」


 【スキル「催眠音声ヒプノボイス」発動】


 その声は、電波に乗って数千人の男たちの脳を揺らした。

 コメント欄の速度が、異常なほど加速する。


 『命にかえても』『一生守る』『聖羅様のために』。

 依存は崇拝へ、そして狂信へ。

 俺は、ただのアイドルから「教祖」へと進化した。


 さあ、反撃の時間だ。

 売られた喧嘩は、骨の髄までしゃぶり尽くして買うのが、底辺おっさんの流儀だぞ。


 ◇ ◇ ◇

【聖戦】聖羅ちゃんを泣かせた天使りりかを許すな【突撃】

 1 名無しさん@配信中:202X/XX/XX(水) 22:15:00

 りりかマジで許さん

 あんな健気な子を「嘘つき」呼ばわりとか何様のつもりだ


 2 名無しさん@配信中:202X/XX/XX(水) 22:15:30

 聖羅ちゃん泣いてたぞ……

「私がやめればいい」とか言わせてんじゃねえよクソが

 俺たちが守らないでどうすんだ


 3 名無しさん@配信中:202X/XX/XX(水) 22:16:10

 さっき聖羅ちゃんの最後の言葉聞いたか?

「味方でいてくれるよね?」って震える声で……

 あんなん聞かされたら、命賭けるしかねえだろ


 4 名無しさん@配信中:202X/XX/XX(水) 22:18:45

 >>3

 ああ、脳に響いたわ

 俺、りりかのサブスク解約してきた

 今のりりかのコメ欄、地獄になってて草


 5 名無しさん@配信中:202X/XX/XX(水) 22:20:00

 これは聖戦だ

 聖羅ちゃんを傷つける奴は、全員俺たちの敵だ

 徹底的にやるぞ


 6 名無しさん@配信中:202X/XX/XX(水) 22:22:12

 しかし聖羅ちゃんのあの声……

 なんか聞いてると頭がボーッとして、

「彼女のために何かしたい」って気持ちが止まらなくなるな

 これがカリスマってやつか?

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