聖女爆誕
深夜2時。
俺の部屋は、異様な熱気に包まれていた。
配信画面の同接カウンターが、狂ったように数字を上げている。
【現在の視聴者数:1,200人】
ついに、桁が変わった。
『天使りりか』の配信から流れてきたアンチ予備軍、そして俺の「イケボ」と「兄貴分ムーブ」に惹きつけられた迷える子羊たち。
彼らは今、固唾を呑んで画面を見つめている。
画面にはまだ、ピエロのマスクを被った俺の顔だけが映っている。
首から下は見せていない。
だが、マスクの隙間から覗く肌の白さと、濡れたような瞳の輝きが、視聴者をざわつかせていた。
『今日、ついに顔出しするってマ?』
『この雰囲気、絶対イケメンだろ』
『Kenさん、マスク取ってくれ!』
コメント欄が加速する。
俺はマイクに唇を寄せ、甘く、低い声で囁いた。
「ああ、約束通り、今日は全部見せるよ。……でもその前に、少しだけ昔話をさせてくれ」
俺は語り始めた。
用意していた、極上の「嘘」を。
「俺はずっと、自分が嫌いだった。この世界の競争に馴染めなくて、ずっと底辺を這いつくばってた。お前らと同じだよ」
同情と共感。
コメント欄がしん、と静まる。
「でも、気づいたんだ。俺が本当になりたかったのは、『強い人間』じゃない。……誰かに愛される、『美しい存在』だったんだって」
言いながら、俺は手元のスマホを操作した。
アプリの画面に、あのボタンが表示されている。
【登録者数:1,000人 達成】
【報酬「性転換(TS)& 初級魅了スキル」がアンロックされました】
俺は震える指で、『Yes』をタップした。
ドクンッ!!
心臓が跳ね上がる。
これまでの「痩身」や「骨格矯正」とは比にならない、魂ごと書き換えられるような衝撃。
骨が軋み、筋肉が溶け、再構築されていく。
喉仏が消え、肩幅が狭まり、骨盤が広がる。
胸の奥から、熱いものがこみ上げてくる。
「っ……あ、あぐっ……!」
マイクが、俺の苦悶の声を拾う。
だが、その声はすでに、低音のバリトンボイスではなかった。
鈴を転がすような、高く、甘く、砂糖菓子のように可愛らしい少女の声。
『え? 今の声……』
『女?』
『ボイチェン切れた?』
混乱するコメント欄。
俺は荒い息を吐きながら、自分の身体を見下ろした。
ダボダボになったシャツの隙間から見える、白く華奢な鎖骨。
胸元には、ささやかながら確かな膨らみがある。
そして何より、身体の奥底から湧き上がる、万能感。
【スキル「初級魅了」を獲得しました】
【効果:視線や声で、対象の好意を増幅させる】
(来た……!)
俺は、俺じゃなくなった。
いや、これこそが「俺」の完成形だ。
俺はゆっくりと、顔に張り付いたピエロのマスクに手をかけた。
「……驚かせて、ごめんね」
マスクを外す。
長い黒髪が、さらりと肩にこぼれ落ちた。
立てかけたスマホの隣にある鏡に映った自分の顔を見て、俺自身が息を呑んだ。
そこにいたのは、天使りりかなんぞ比較にもならない。
まだあどけなさの残る、16、7歳くらいの可憐な美少女だった。
大きな瞳は子猫のように愛らしく、透き通るような白い肌は、触れただけで壊れてしまいそうな儚さを持っている。
男なら誰もが「守ってやりたい」という庇護欲を掻き立てられる、奇跡のような造形。
まさに「聖女」と呼ぶにふさわしい。
俺はカメラを見つめ、涙を一筋、計算通りに流してみせた。
「はじめまして。……これが、本当の私」
コメント欄が、止まった。
あまりの衝撃に、言葉を失ったのだろう。
数秒の静寂の後、爆発的な勢いでコメントが流れ出した。
『は!? 女!?』
『嘘だろ、超絶美少女じゃん』
『待って、今まで男のフリしてたの?』
『ボイチェン使ってたってこと!?』
混乱する彼らに、俺は「聖女」の微笑みを向けた。
手に入れたばかりの魅了スキルを乗せて。
「ごめんなさい。……私、怖かったの。女だってバレたら、また傷つけられるんじゃないかって。だから、機械を使っておじさんの声を出して、強い男の子のフリをしてたの」
嘘だ。全部嘘だ。
だが、今の俺の姿と声には、それを真実だと思わせる説得力がある。
「でも、みんなは優しかった。私の愚痴を聞いてくれて、励ましてくれた。だから……信じてみようと思ったの」
俺は画面に顔を寄せ、視聴者一人一人の目を見るように、潤んだ瞳で訴えかけた。
「ねえ、男とか女とか、関係ないよね? 貴方たちが救ってくれたのは、この『心』だもんね?」
ズドン、と。
画面の向こうの男たちの心臓を撃ち抜く手応えがあった。
「俺たちは、か弱い美少女を支えていたんだ」という、歪んだ庇護欲と優越感。
そして、「自分たちだけが彼女の真実を知っている」という秘密の共有感。
『当たり前だろ!』
『関係ない! 一生ついてく!』
『むしろ最高すぎる』
『Kenちゃん……いや、なんて呼べばいい?』
画面がスパッチャの赤色で埋め尽くされる。
1万、3万、5万……。
コンビニバイトの月収が、わずか数分で超えていく。
俺は口元を綻ばせた。
ああ、チョロい。チョロすぎる。
だが、これでいい。お前らは俺の養分だ。
「ありがとう……嬉しい。名前、変えなきゃね」
俺はキーボードを叩き、配信者名を変更した。
『Ken』の文字を消し、新たに打ち込む。
【聖羅(Seira)】
「今日から私は、聖羅。……貴方たちだけの、聖女になるわ」
俺は、花が咲くように微笑んだ。
おそらく、ここに居る視聴者は全員魅了されただろう。
その瞳の奥で、中身のおっさんが舌を出して嘲笑っているとも知らずに。
【現在の登録者数:1,850人】
【急上昇ランキング:3位】
祭りが始まる。
天使りりか、首を洗って待っていろ。
本物の「悪魔」が、今、産声を上げたぞ。
◇ ◇ ◇
【聖女降臨】聖羅(元Ken)について語るスレ Part12【神回】
1 名無しさん@配信中:202X/XX/XX(火) 02:45:00
神 が い た
2 名無しさん@配信中:202X/XX/XX(火) 02:45:10
>>1
それな
興奮して眠れねえよどうしてくれんだ
3 名無しさん@配信中:202X/XX/XX(火) 02:46:33
まさかの中身女、しかも超絶美少女とかいうラノベ展開
「男のフリしてました」って告白した時の上目遣い見たか?
あれで落ちない男いんの?
4 名無しさん@配信中:202X/XX/XX(火) 02:48:12
今まで「兄貴」って呼んでた俺、無事死亡
これからは「聖羅様」って呼んで一生ついていくわ
給料日だったから全額投げちまった
5 名無しさん@配信中:202X/XX/XX(火) 02:50:55
てか、今まで男社会で苦しんでたって話、全部ガチだったんだな
あんな可愛い子が男の声出して自衛してたとか……泣けるわ
俺たちが守ってやらなきゃダメだろこれ
6 名無しさん@配信中:202X/XX/XX(火) 02:52:10
正直、りりかより可愛くね?
あっちの加工まみれとは透明感が違うわ
今夜、歴史が変わったな
7 名無しさん@配信中:202X/XX/XX(火) 02:55:00
>>6
それ
俺もりりかの登録解除してきた
これからは聖羅一筋だわ
8 名無しさん@配信中:202X/XX/XX(火) 02:56:45
おい、SNSのトレンド見ろ
「聖羅ちゃん」「ボイチェン」が1位と2位独占してるぞwww
祭りだwwww
9 名無しさん@配信中:202X/XX/XX(火) 02:58:20
某掲示板から来ました
ここが女神の降臨地ですか?
アーカイブ見たけどガチで震えた、明日会社休みます
10 名無しさん@配信中:202X/XX/XX(火) 02:59:12
騙されんな、絶対AIか加工だ
あんな顔はこの世に存在できない
11 名無しさん@配信中:202X/XX/XX(火) 03:00:00
りりかの囲いだったけど目が覚めた
あっちが「アイドル」なら、こっちは正に「聖女」だわ
格が違う




