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底辺おっさん、配信アプリで「TS聖女」に進化する ~最強の美貌で配信界の天使をざまぁします~【全11話完結済】  作者: duckman


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2/11

イケボおじさん、弱者たちの教祖になる

 深夜3時。コンビニバイトの休憩中、俺はバックヤードの薄暗い片隅でスマホを睨んでいた。


 画面には、昨日の配信のアーカイブと、増え続けるコメント。


『この声で底辺とか嘘だろ』

『なんか聞いてると落ち着くわ』

『もっと愚痴ってくれ』


 登録者数は、あの一夜で「38人」になっていた。

 たかが38人。だが、昨日の俺にとってはゼロだった数字だ。

 喉の奥が熱い。アプリの報酬で手に入れた「イケボ」は、俺の肉体に完全に馴染んでいた。


「……ふん、チョロいもんだな」

 休憩室の誰もいない空間で、わざと独り言を呟いてみる。

 低く、甘く、鼓膜を直接撫でるようなバリトンボイス。

 鏡に映る姿は、相変わらず油ぎったハゲかけのチビデブおやじだが、口を開けばそこには「別の誰か」がいる。


 俺はニヤリと笑い、次の作戦を練った。

 次の報酬目標は「登録者50人」。

 報酬は『代謝機能向上(脂肪燃焼・体臭除去)』。

 喉から手が出るほど欲しい。この醜い腹肉と、染みついた加齢臭と決別できるなら、何だってやる。


 ――ターゲットは決まっている。

 俺と同じ、「持たざる者」たちだ。


 ◇


 深夜4時。バイトから帰宅した俺は、即座に配信を開始した。

 タイトルは変更する。


 『眠れない夜に。社会に殺されかけている底辺たちへ』


 画面は真っ暗。音声のみ。

 開始と同時に、通知を受け取った昨日の視聴者たちがパラパラと集まってくる。同接15人。


「ようこそ。……今日も生き延びて、偉かったな」

 第一声。

 俺は意識して、昨日のような卑屈さを消し、包容力のある「兄貴分」のようなトーンを出した。


 これは俺が一番欲しかった言葉だ。誰にも言ってもらえなかった言葉だ。だからこそ、こいつらに何が刺さるか痛いほど分かる。


『うわ、やっぱいい声』

『今日も仕事でミスって死にたかったけど、なんか泣けてきた』

『主も底辺なの?』


「ああ、底辺だよ。さっきまでコンビニで、年下のガキ店長に怒鳴られてたところさ」


 嘘ではない事実を、イケボというフィルターを通して語るだけで、それは「哀愁漂う物語」に変わる。

 コメント欄が加速する。

 社会への不満、上司への殺意、女への怨嗟。

 吹き溜まりのようなコメントの一つ一つを、俺は丁寧に拾い上げ、肯定し、そして扇動した。


「分かるよ。お前は悪くない。悪いのは、何も分かってない世の中だ」

「あいつらは上から目線で綺麗事を言うだけだ。俺たち痛みを知る人間だけが、本物なんだよ」

 俺の言葉に、視聴者たちが酔いしれていくのが分かる。

 彼らは、俺に自分自身を重ねているのだ。

 そして、この「いい声」に肯定されることで、自分が救われたような気になっている。


(……馬鹿な連中だ。俺はお前らと同じゴミだが、今は「飼い主」だぞ?)


 優越感が背筋を駆け上がる。

 今まで誰かに見下され、踏みつけられるだけだった俺が、今は数十人の感情をコントロールしている。

 これが、「承認欲求」というやつか。

 いや、もっとドス黒い、「支配欲」だ。

 その時、画面に派手なエフェクトが飛んだ。


 【スパッチャ:¥500】


 『缶ビール代にしてくれ。あんたの話、もっと聞きたい』

 初めてのスパッチャ。500円。

 時給の半分にも満たない額だが、俺の全身に電流が走った。


 金だ。他人が、俺の喋りに価値を感じて、金を払った。


「……ありがとう。この500円は、俺の命綱だ」

 感極まったような演技をして見せると、それに釣られるように少額の投げ銭が続く。


 ¥200、¥100、¥1000。

 画面の向こうの負け犬たちが、なけなしの小遣いを俺に捧げている。


 その時、アプリの通知音が鳴り響いた。

 【登録者数:50人 達成】

 【報酬「代謝機能向上」がアンロックされました】


 来た。

 配信中だが、構うものか。俺はマイクをミュートにし、震える指で『Yes』をタップした。


 ドクン!!


 心臓が早鐘を打つ。

 全身の血管に、熱湯が流し込まれたような感覚。

 全身から玉のような汗が噴き出し、皮膚の下で脂肪が燃える音が聞こえるようだった。

 シャツが汗でびしょ濡れになる。

 だが、その汗はいつものベたついた不快なものではなく、老廃物を全て吐き出すようなサラサラとしたものだった。


「はぁ……はぁ……ッ!」

 1分ほど続いた激痛と熱が引くと、身体が羽が生えたように軽い。

 腹を触る。

 ベルトの上にだらしなく乗っていた贅肉が、明らかに減っている。

 腕の皮膚をつまむ。弾力が違う。

 そして何より、部屋に充満していた加齢臭とゴミの臭いの中に、微かに爽やかな……石鹸のような匂いが混じり始めていた。俺自身の体臭だ。


(すげぇ……本物だ……!)

 鏡を見るまでもない。あのぶよぶよとした汚らしい脂肪が無くなっている。


 俺はミュートを解除し、興奮を隠してマイクに向かった。

「……すまない、ちょっと席を外していた。水が美味くてな」


 声に、先ほどまでとは違う「張り」が出ている。

 肉体が活性化したことで、声の響きも良くなっているのだ。


『なんか声、さらに良くなってない?』

『色気が増した気がする』

『主、絶対イケメンだろ。顔出ししてくれよ』


 コメント欄の熱量が一段階上がった。

 俺はマスクの下で、歪んだ笑みを深める。


 顔出し? まだだ。

 今、この豚のような顔を晒せば、こいつらは一瞬で掌を返して離れていくだろう。

 だが、待っていろ。

 このまま登録者を増やし、報酬を獲得し続ければ……。

 俺は、お前らがひれ伏すような「本物」になってやる。


「顔出しは……そうだな。登録者がもっと増えて、俺が自分を好きになれたら、考えてもいいかな」

 思わせぶりな言葉を残し、俺は配信を切った。


 登録者数、72人。

 投げ銭の合計、3,800円。

 俺はコンビニの制服を脱ぎ捨て、汗ばんだシャツの匂いを嗅いだ。

 臭くない。


 42歳、底辺おっさんの夜明けだ。

 次の目標は登録者100人。

 報酬は『骨格矯正』。


 チビで猫背の俺が、モデルのようなスタイルを手に入れる。

(……もっとだ。もっと養分を集めろ)


 俺はスマホを握りしめ、次の獲物を探すために『天使りりか』の配信アーカイブを開いた。

 この女に群がる数万人の信者。

 あの中から、不満を持っていそうな「予備軍」を見つけ出し、俺の沼に引きずり込んでやる。

 復讐の準備は、まだ始まったばかりだ。



 ◇ ◇ ◇

【底辺】Kenの配信について語るスレ Part1【イケボ】

 1 名無しさん@配信中:202X/XX/XX(金) 04:15:00

 最近出てきたKenって奴、見たことある?

 底辺アピールすごいけど、声だけ異常に良くね?


 2 名無しさん@配信中:202X/XX/XX(金) 04:16:23

 >>1

 見た見た

 おっさんの愚痴かと思ったら、声が深夜ラジオのパーソナリティで草

 機材何使ってんだろ


 3 名無しさん@配信中:202X/XX/XX(金) 04:18:45

 どうせ「設定」だろ

 中身は売れない声優とかじゃね?

 一般人であの声は出せんわ


 4 名無しさん@配信中:202X/XX/XX(金) 04:22:10

 でも言ってる内容はガチっぽかったぞ

 コンビニの廃棄弁当の話とかリアルすぎて泣いた

 俺も社畜だから刺さるわ……


 5 名無しさん@配信中:202X/XX/XX(金) 04:25:33

 りりかの配信が金の話ばっかで冷めてたから、こっち見てる

 なんか妙なカリスマ性あるよなこの主

 宗教始まりそうw


 6 名無しさん@配信中:202X/XX/XX(金) 04:28:00

 >>5

 わかる

 傷の舐め合い最高

 飽きるまではしばらくここ通うわ

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