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底辺おっさん、配信アプリで「TS聖女」に進化する ~最強の美貌で配信界の天使をざまぁします~【全11話完結済】  作者: duckman


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11/11

10 その微笑みは、もう嘘じゃない

 『天使りりか』の配信画面は、もはや配信と呼べる代物ではなかった。


『なんで……なんでよ! 行かないで!』

『私を見なさいよ! 私が一番可愛いのよ!』


 画面の中で、かつての女王が泣き叫んでいる。

 だが、その声は誰にも届かない。

 右肩下がりだった同接数は、ついに底が抜けたように垂直落下を始めた。


 【現在の視聴者数:12,050人】


 【現在の視聴者数:8,400人】


 【現在の視聴者数:3,200人】


 まるで砂時計の砂が落ちるように、人が消えていく。

 コメント欄は、別れの言葉ですらなく、ただ機械的な『登録解除しました』というシステムログだけが高速で流れていく墓場と化した。


『待って、待ってよぉ……! 私が悪かったから! 謝るから!』

 りりかがカメラにしがみつき、厚塗りのメイクを涙で溶かしながら懇願する。

 だが、止まらない。


 俺がかけた「呪い」は絶対だ。

 彼らはもう、りりかの声など聞こえていない。ただ「聖羅おれ」の命令に従い、過去の女を切り捨てていく。


 【現在の視聴者数:50人】


 【現在の視聴者数:5人】


 そして、ついに。


 【現在の視聴者数:1人】


 広いスタジオのような配信部屋に、静寂が訪れた。

 りりかが、虚ろな目で画面を見つめる。


 数字は「1」。

 ゼロではない。まだ、誰か一人が見ている。


『……誰?』

 りりかが、(すが)るように呟いた。

 最後のファン。私を見捨てなかった、たった一人の理解者。


 そんな希望が、彼女の表情に微かに灯る。


『ねえ、誰なの? コメントしてよ……私、頑張るから……』


 俺は、コンビニコーヒーを飲み干し、キーボードに手を置いた。

 ああ、りりか。

 お前は最後まで、ピエロだったな。


 俺は、最後のコメントを打ち込み、エンターキーを叩いた。


 聖羅:『りりかちゃん、バイバイ。ゆっくり休んでね』


 画面に表示された名前に、りりかの目が限界まで見開かれる。


 希望が、絶望へと反転する瞬間。

 俺はマウスを操作し、画面上の「登録済み」ボタンをクリックした。


 【聖羅 さんが登録を解除しました】

 配信者用の管理画面に、その通知が冷酷に表示されたはずだ。


 最後の1人は、ファンではなかった。

 お前の死に様を見届けるための、死神だったんだよ。


『あ…………あぁ…………』

 りりかの口から、空気の抜けるような音が漏れた。


 そして。

『いやぁああああああああああああああああ!!!』

 耳をつんざくような絶叫と共に、りりかが発狂し、カメラを殴り倒した。

 ガゴッ、という不快な音と共に、配信が途切れる。


 画面が暗転し、「配信は終了しました」の文字が浮かんだ。


「……お疲れ様」

 俺は静かにブラウザを閉じた。


 胸の奥にあるのは、空虚さなどではない。

 腹の底から湧き上がる、極上の達成感と優越感だ。

 勝った。

 底辺だった俺が、頂点を食い殺したのだ。


 ◇ ◇ ◇


 それから、半年が経った。

「いらっしゃいませー! あ、山下さん! 今日もお疲れ様ですっ!」


 昼下がりのコンビニ。

 俺――聖羅は、常連のくたびれたサラリーマンに、心からの笑顔を向けていた。


 今の俺は、この街で知らぬ者のいない「伝説の看板娘」だ。


「聖羅ちゃんに会うと、元気が出るよ……ありがとう」

「えへへ、こちらこそ! この温かいお茶で、午後も無理せず頑張ってくださいね」


 お釣りと一緒に、そっと手を添えて渡す。

 おじさんの顔に、ぽっと赤みが差し、疲れ切っていた表情が柔らかく緩んだ。


 その背中を見送りながら、俺はふと思う。

(……昔の俺も、こんなふうに誰かに笑いかけてほしかったんだな)


 かつては「チョロい」「養分だ」と見下していた男たち。

 けれど今は違う。

 俺が好意を向ければ、彼らもまた、純粋な好意で返してくれる。


 「強者」の身体を手に入れたことで、俺の周りには優しい世界が広がっていた。

 その温かさが、長い間こびりついていた俺の中のルサンチマン――社会への怨嗟(えんさ)を、ゆっくりと溶かしてくれたのだ。


 そして、夜。

「みんな~! こんばんは、聖羅ですっ!」


 配信をつければ、そこには数十万人のリスナーが待機している。

 『天使りりか』が消え、名実ともにトップとなった俺のチャンネルは、以前のような殺伐とした空気が消え、不思議なほど穏やかな場所になっていた。


 配信を終えたあと、俺はスマホでとある「底辺配信者」の枠を覗きに行った。

 視聴者数は、わずか50人ほど。

 だが、画面の中の彼女――『リリー』と名を変えたりりかは、以前のような厚塗りメイクをやめ、憑き物が落ちたように楽しそうにゲーム実況をしていた。


 彼女を完膚なきまでに叩き潰した『あの日』からしばらく経ったころ。

 全てを失って絶望していた彼女に俺は匿名で連絡を取った。


 新しい機材と、少しの生活費、そして「もう一度、数字なんか気にせず、好きなことをやってみたら?」というメッセージを添えて。


 今の彼女は、10万人の時よりもずっと、幸せそうに見える。


(……これで、よかったんだよな)

 俺はそっと配信を閉じた。

 彼女もまた、この競争社会で必死にもがいていた一人だったのだから。



 【登録者数:500,000人】

 数字は増え続けている。

 だが、俺はもう、数字のためだけに彼らを利用しようとは思わない。


(俺がこの奇跡を手に入れられたのは、たまたま運が良かっただけだ)


 アプリという偶然がなければ、俺は今もあの薄暗い部屋で、誰かを呪いながら腐っていただろう。


 だからこそ、俺はこの幸運を独り占めしてはいけない気がする。

 かつての俺のような「持たざる者」たちに、少しでも夢や癒やしを与えていくこと。

 それが、この身体を手に入れた俺の役割なのかもしれない。


「……よし、明日も頑張るか」

 俺は鏡の前に立った。

 そこに映るのは、世界で一番美しい「聖女」の姿。


 その瞳は、もう濁ってはいない。

 初心忘るべからず。

 傲慢になれば、いつまたあの日々に逆戻りするか分からないのだから。


 俺は鏡の中の自分に向かって、優しく微笑んだ。

 その笑顔は、作り物ではない、心からの聖女の顔をしていた。


(完)


────────────────────

最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!


最後、投稿時間を色々と変えてみましたが、多くの方に読んでいただけて感謝の気持ちでいっぱいです。

底辺おっさんの成り上がりと救済の物語、楽しんでいただけましたでしょうか?


もし「面白かった!」「スカッとした!」「聖羅ちゃん幸せになれ!」

と少しでも思っていただけましたら、


ページの一番下にあります

【☆☆☆☆☆】の評価欄を【★★★★★】

にして応援していただけると、作者が泣いて喜びます!


皆様の応援が次の作品を書く原動力になります。

何卒よろしくお願いいたします!

────────────────────

追伸:

もし「もっと過激な物語が読みたい!」「欲望に忠実な主人公が好き!」という紳士な方がいらっしゃいましたら、

別サイト(ノクターンノベルズ)にて、

『盗賊の覆面を被った全裸忍者の俺が異世界ダンジョンで欲望の全てを満たすまで』

という作品も掲載しております。


※こちらは男性向け【R18作品】となり、本作とは毛色が大きく異なりますので、苦手な方はご注意ください。※初めの序章が終わるとしばらくマイルドになります

(興味のある方はタイトルで検索してみてください!)

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