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底辺おっさん、配信アプリで「TS聖女」に進化する ~最強の美貌で配信界の天使をざまぁします~【全11話完結済】  作者: duckman


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終わっている日常と、悪魔のアプリ

 コンビニの廃棄弁当の油の臭いが、染みついた作業着から漂ってくる。


 俺、佐藤健二、42歳。独身。

 派遣切りに遭ってから半年、今は深夜のコンビニバイトで食いつないでいる、正真正銘の「底辺」だ。

 築40年のボロアパートに帰り、重い足取りで万年床に座り込む。

 楽しみと言えば、半額の発泡酒をあおりながら、スマホで動画配信を見ることだけ。


「みんな~! 今日もスパッチャありがとう~! 大好きだよっ♡」

 画面の中で、加工フィルター全開の女が愛想を振りまいている。


 『天使りりか』。最近流行りの配信者だ。

 中身のない雑談をして、たまに谷間を強調するだけで、画面の右側には滝のように金が流れていく。


(……くだらねぇ)

 俺が時給1100円で、酔っ払いに怒鳴られながら稼いだ金。

 こいつは、「大好き」の一言で、俺の月収分を数分で稼ぎ出す。

 マイナーな配信アプリ界隈とはいえ、そこのトップ層となればそのくらい余裕だ。


「ありがとう~! えっ、一万円!? すごーい!」

 配信には配信者に金を投げる――いわゆる投げ銭システムがあり、このプラットフォームではその行為を「スパッとチャット」略してスパッチャと呼んでいる。

 画面の向こうの男たち――おそらく俺と同じような冴えない日常を送っている連中が、なけなしの金を貢いでいるんだろう。

 馬鹿な奴らだ。養分にされているとも気づかずに。


 だが、それ以上に腹が立つのは、この女だ。

 生まれつき顔が良いというだけで、人生イージーモード。

 俺だって、もし……もし俺が、こんな風に可愛くて、若い女だったら。

 こんな油とカビの臭いがする部屋で、惨めに死んでいく未来に怯えることもなかったはずだ。

 完全に逆恨みだとは自覚しているが、そう思ってもみたくなるものだ。


「……死にたくなるな」

 独り言をつぶやき、画面を閉じようとした時だった。


 不意に、スマホの画面が暗転した。

(えっ? ……壊れたのか? まだ分割払い終わってないんだぞっ……)

 焦って画面をタップしたり、電源ボタンを押したりしてみる。


 ……すると、漆黒の画面に深紅の文字が浮かび上がった。

『あなたの人生に、価値はありますか?』


 怪しい広告か。

 普段なら無視するが、酔いと絶望が混ざった今の俺には、その問いかけが妙に刺さった。


「……あるわけ、ねぇだろ」

 投げやりに画面をタップする。

 すると、文字が書き換わった。


『ならば、作り変えましょう。あなたの望む姿へ』

『アプリ "Evolution Live" をインストールしますか?』


 イエスもノーも押していないのに、勝手にダウンロードバーが進んでいく。

 ウイルスか? と思ったが、今の俺には抜き取られるような個人情報も、失うような金もない。

 数秒後、見たこともないアイコンがホーム画面に鎮座していた。


 禍々しい、蛇が絡みついたようなデザイン。

 俺は魔が差したように、そのアイコンをタップした。

 起動と同時に表示されたのは、いわゆる「ライブ配信アプリ」の画面だった。


 だが、普通のアプリと違うのは、画面上部に表示された「ミッション」と「報酬リスト」だ。


 《任意の配信プラットフォームを選択できます》

 【現在のステータス:ゴミ(Lv.1)】

 【登録者数:0人】


 <報酬リスト>

 ・登録者 10人:声帯改造(イケボ・カワボ・その他から選択可)

 ・登録者 50人:代謝機能向上(脂肪燃焼・体臭除去)

 ・登録者 100人:骨格矯正(身長・小顔化)

 ・登録者 500人:細胞若返り

 ・登録者 1,000人:性転換(TS)・絶世の美貌



(は……? なんだこれ、ゲームか?)

 俺は鼻で笑った。

 登録者を増やせば、整形できるってことか?

 いや、「声帯改造」だの「若返り」だの、現実離れしすぎている。

 特に最後のやつ。「性転換」って……男が女になれるとでも言うのか?


「馬鹿馬鹿しい……」

 そう言い捨てて、アプリを閉じようとした指が止まる。

 鏡に映った、自分の顔が見えたからだ。

 たるんだ頬、薄くなった頭髪、死んだ魚のような目。

 42歳。人生の折り返し地点を過ぎて、下り坂を転げ落ちているだけの汚いおっさん。


(もし……もし、これが本当だったら?)

 千人の登録者を集めれば、俺は「絶世の美少女」になれるのか?

 あの『天使りりか』のように、男どもから金を搾り取り、チヤホヤされる存在に。


 ゴクリ、と喉が鳴った。

 腹の底から、どす黒い欲望が湧き上がってくる。

 今の生活を捨てられるなら、悪魔に魂を売ったって構わない。


「……やってみるか」

 俺は部屋の隅にあった、量販店で買ったパーティー用のピエロのマスクを被った。

 顔出しなんてできるわけがない。

 とりあえず、音声だけでいい。

 配信プラットフォームも、『天使りりか』と同じでいいか。ってか、そこ以外あまり知らねぇ。


 配信ボタンを押す。

 タイトルは……そうだな。今の俺の惨めさを、そのまま売りにしてやる。

 『底辺40代、廃棄弁当を食べながら人生の愚痴を吐く』


 配信開始。

 視聴者数、ゼロ。


 当たり前だ。誰がこんなおっさんの愚痴を聞きたがる。

 それでも、俺は喋り始めた。

 今日あった、クソみたいな客の話。理不尽に怒鳴る年下の店長の話。

 酒の力もあって、言葉は汚く、呪詛のように溢れ出た。


 10分が経過。

 視聴者数が「1」になった。

 コメントが流れる。


『うわ、きっつ』

『声が汚い。痰が絡んでんのか?』

 見ず知らずの他人に、いきなり罵倒された。

 普段なら傷つくか、腹を立てるところだ。

 だが、俺は画面の端にあるカウンターを見て、ニヤリと笑ってしまった。


 【登録者数:1人】

 罵倒だろうが何だろうが、こいつは俺に興味を持った。

 俺という「見世物」に、石を投げに来たのだ。


「ああ、汚い声ですみませんねぇ。なにせ底辺なもんで、喉も腐ってんですよ」

 俺は自虐的に笑いながら、廃棄の唐揚げ弁当を汚らしく頬張った。

 ピエロマスクで食べにくい……

 千切れた唐揚げが分厚いマスクの唇から零れ落ち、油が垂れた。


 コメントが増える。

『汚ねえ食い方w』

『人生終わってんなー』

『もっと面白いことやれよ、踊ってみろよ底辺』


 人間というのは残酷だ。

 自分より下の人間を見て安心したいのだ。安全圏から石を投げて優越感に浸りたいのだ。


 知っている。俺も、あの配信者のコメント欄でアンチコメントを書き込んでいたからな。

 視聴者が5人に増えた。

 物珍しさか、それとも俺の惨めさが心地いいのか。


「踊れ? いいですよ、時給が発生するならね。スパッチャくれたら踊りますよ」


『乞食乙』

『じゃあ登録してやるから、そのマスク取れよ』

「マスクは勘弁してくださいよ。この顔を見たら、吐きますよ?」


 そんなやり取りを30分ほど続けただろうか。

 俺の卑屈な態度と時折混じる社会への恨み節が一部の物好きに刺さったのか、あるいは単なる暇つぶしか。


 【登録者数:10人 達成】

 ファンファーレも何もなく、無機質な通知が画面に表示された。


『報酬「声帯改造」がアンロックされました』

『ただちに適応しますか? Yes / No』


 俺の手が震える。

 本当なのか? ただのゲームの演出じゃないのか?


 だが、この高揚感は何だ。

 俺は震える指で『Yes』をタップした。


 次の瞬間、喉の奥に、焼けるような熱さが走った。

「ぐっ……あがっ……!?」

 咳き込む。喉が熱い。何かが作り変えられていくような、強烈な違和感。

 数秒後、痛みがすっと引いた。


「……あー、あー。テス、テス」

 自分の口から出た声を聞いて、俺は戦慄した。

 それは、長年の喫煙と酒焼けで濁った、あのおっさんのダミ声ではなかった。


 深夜ラジオのパーソナリティのような、深く、渋く、そしてどこか甘さを孕んだ、聞き惚れるような低音ボイス(イケボ)。


『え?』

『なんか機材変えた?』

『いきなりイケボになって草』

『ボイチェン?』


 コメント欄がざわつく。

 俺は喉仏に手を当て、もう一度、意識して喋ってみた。


「……どうやら、マイクの調子が悪かったみたいですね。お聞き苦しい声を失礼しました」

 スピーカーから響くその声は、まるで別人だった。

 いや、別人になったのだ。


(本物だ……)

 俺はマスクの下で、口元を歪めた。

 このアプリは、本物だ。


 登録者を増やせば、俺は変われる。

 声だけじゃない。体型も、顔も、そして……性別さえも。


 俺は画面の向こうにいる、俺を「底辺」と嘲笑っていた10人の視聴者たちを見つめた。

 今はまだ、俺はただの見世物小屋のピエロだ。

 だが、見ていろ。

 この力を使いこなせば、俺はお前らの欲望を掌握できる。


 金も、名声も、そしてこれまで俺を見下してきた社会への復讐も、全てが可能になる。


「さて、皆さま。今日はこれから、面白いお話をしましょうか……」


 俺は新しい「武器」である声を使い、たっぷりと湿度を含んだ甘い口調で囁いた。

 その声には、今まで抑圧されてきた俺の欲望が、どす黒く、しかし魅力的に滲み出ていた。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます!


底辺おっさんがTSして聖女配信者に……という、作者の「好き」を詰め込んだ物語です。

本作品は【全11話で完結まで書き上げてあります】ので、エタる心配はございません!

最後まで安心してお付き合いください。


もし「おっさんの今後が気になる!」と少しでも思っていただけましたら、

下の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にして応援いただけると、明日からの更新の大きな励みになります!


ブックマーク登録も、ぜひよろしくお願いいたします!

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