第7話 王都へ
村を発つのは、思ったより早かった。
「……本当に、行くのか」
村長が、名残惜しそうに言う。
「ああ」
俺は、最低限の荷物を背負いながら答えた。
理由は一つじゃない。
聖女リリアの治療を継続する必要がある。
そして――宮廷治療師団に目を付けられた以上、この村に留まるのは危険だった。
「俺たちだけじゃ、守りきれないからな」
ガルドが苦笑する。
「王都の連中、面倒そうだ」
「慣れてる」
「だろうな」
短い会話だが、十分だった。
村人たちが、少し距離を取って並んでいる。
尊敬と、不安が入り混じった目。
前世でも、何度も見た視線だ。
「……レン」
声をかけてきたのは、例の回復魔法使いの少女だった。
「教えてもらったこと、忘れません」
「無理に真似するな」
「はい。でも……」
彼女は、胸に手を当てる。
「“流れを感じる”って言葉、覚えておきます」
それでいい。
才能があるかどうかは分からない。
だが、視点を変えるだけで救える命もある。
「行こう」
俺がそう言うと、馬車の扉が閉まった。
王都への道中、リリアはほとんど喋らなかった。
馬車の揺れの中で、静かに目を閉じている。
(……安定してるな)
完全ではない。
だが、礼拝堂での治療以降、急激な乱れは見られない。
「無理してないか」
声をかけると、彼女は目を開けた。
「……少し、怖いです」
「何が」
「王都に戻ったら、私はまた“聖女”に戻る」
その言葉は、重かった。
「昨夜みたいに……弱音を吐ける場所は、ありません」
俺は、少し考えてから答える。
「なら、治療室を作る」
「え?」
「肩書き関係なしで、患者として来れる場所」
リリアは、驚いたように俺を見る。
「そんなこと……許されますか?」
「さあな」
正直な答えだ。
「でも、必要だろ」
彼女は、しばらく黙っていたが――
やがて、小さく笑った。
「……ありがとうございます」
その笑顔は、聖女のものじゃなかった。
王都が見えたのは、夕暮れ時だった。
高い城壁。
無数の塔。
行き交う人々。
「……でかいな」
思わず、そんな感想が漏れる。
ここが、回復魔法至上主義の中心。
(つまり)
俺にとっては、一番やりにくい場所だ。
門をくぐると、すぐに役人が現れた。
「治療師レンだな。こちらへ」
有無を言わせない口調。
案内された先は、宮廷の一角。
豪奢だが、どこか息が詰まる。
「王都では、勝手な治療行為は禁止されている」
役人が淡々と言う。
「特に、魔法を用いない方法は――」
「危険視されている、だろ」
俺が言うと、彼は一瞬だけ言葉に詰まった。
「……分かっているなら話が早い」
部屋の扉が開く。
中にいたのは――ヴァルドだった。
「ようこそ、王都へ」
その笑みは、穏やかで。
だが、明らかに試す目だった。
「君の“治療”が、本物かどうか」
俺は、静かに答える。
「患者次第です」
「ほう?」
「治したい人がいれば、治す」
ヴァルドは、細く目を眇めた。
「……面白い」
その言葉が、何を意味するか。
(歓迎じゃないな)
俺は、内心で苦笑する。
それでも。
(逃げない)
この街には、治されていない“病”が山ほどある。
回復魔法では届かない場所が。
「ここからだな」
小さく呟いた俺の声は、
喧騒に紛れて、誰にも届かなかった。
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