表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
回復魔法が効かない世界で、元鍼灸師の俺が経絡チートで無双する ~治せないと言われた命を、鍼一本で救ってみせる~  作者: 夜凪レン


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

31/39

第31話 人が集まる場所

 灰の谷に、朝霧が降りていた。


 いつからだろう。

 この場所で、鳥の声を聞くようになったのは。


(……人が増えたな)


 霧の向こうに、いくつもの人影が見える。

 王国の兵、魔族、民間人。

 武装の有無も、立場も、ばらばらだ。


 だが、誰も剣を抜いていない。


 それが、異常だった。


 俺は、焚き火のそばで鍼を整えながら、列を見渡す。


 昨日より、明らかに長い。


「……また増えましたね」


 隣で、リリアが小さく言った。


「減る理由がない」


 正直な答えだ。


 戦場で壊れ、

 戻れず、

 行き場を失った人間は、必ずここに辿り着く。


 ――治療師がいる場所。


 それだけで、十分すぎる理由になる。


「おはようございます……」


 列の先頭にいたのは、年配の男だった。

 民間人だろう。

 肩を庇うように立っている。


「診ていただけますか」


 視る。


 重傷ではない。

 だが、慢性的な損耗。

 今すぐ戦場に戻れる状態でもない。


(……戻せるが)


「座って」


 俺は、そう言って、鍼を一本打つ。


 男の肩が、わずかに緩んだ。


「……ああ」


 息を吐く。


「楽になりました」


 それだけで、胸が軽くなる。


 ――ここまでは、いつも通りだ。


 問題は、その後だった。


「次は、俺だ」


「いや、私が先だ」


 列の後方で、声が上がる。


 小さな言い争い。

 だが、確実に昨日より荒い。


「順番を守ってください」


 リリアが、間に入る。


「全員、診ますから」


 その言葉に、何人かが顔を上げる。


 期待。

 安堵。

 そして――依存。


(……全員、か)


 胸の奥が、わずかに重くなる。


 昼近くになっても、列は途切れなかった。


 いや。

 途切れないどころか、増えている。


「……レン」


 リリアが、声を潜める。


「食糧の配給が、足りません」


「……分かってる」


 視界の端で、炊き出しの鍋が空になっている。


 治療はできる。

 だが、治療だけでは、人は生きられない。


 午後、王国兵が二人、訪ねてきた。


 正式な伝令ではない。

 だが、用件は明白だ。


「……ここに、人が集まりすぎている」


「戦力が、戻っていません」


 責める口調ではない。

 だが、責任を測る声だ。


「把握している」


 俺は、短く答える。


 彼らは、それ以上言わなかった。


 だが、視線が言っている。


 ――いつまで、放置するつもりだ。


 夕方。


 診療を終え、鍼を拭く。


 腕が、重い。


 だが、それ以上に、胸が重い。


(……ここは)


 守る場所か。

 戻る場所か。

 それとも――溜まる場所か。


 焚き火の向こうで、人々が肩を寄せ合っている。


 誰もが、安心した顔をしている。


 ここにいれば、壊れなくて済む。

 ここにいれば、戦わなくていい。


 そう思っている。


(……それは)


 俺が、与えた幻想かもしれない。


 夜。


 リリアが、ぽつりと言った。


「……良い場所になりましたね」


 俺は、すぐに答えられなかった。


「……人が集まる場所は」


 ゆっくりと言葉を選ぶ。


「壊れやすい」


 リリアは、黙って頷いた。


 灰の谷の灯りが、また一つ増える。


 戦争の外にできた場所。


 それは同時に、

 責任が集まる場所でもあった。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


少しでも続きが気になる、と感じていただけましたら、

ブックマーク や 評価 をお願いします。


応援が励みになります!


これからもどうぞよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ