第3話 治療師は、戦場を知らない?
婆さんの治療が終わった頃、外がやけに騒がしくなった。
「おい! 東の森から魔物だ!」
「数が多い、十……いや、もっといる!」
一瞬で、村の空気が凍りつく。
――来たか。
(分かりやすいな。この世界)
俺が外に出ると、さっき治療した鎧の男――ガルドと呼ばれていた冒険者が、剣を手に立っていた。
「お前は下がってろ」
有無を言わせない声。
「治療師だろ。戦場を知らない奴が出る場所じゃない」
周囲の冒険者たちも、同意するように頷く。
まあ、当然の反応だ。
前世でも、似たような視線は何度も浴びた。
「……一つ、いいか」
俺は静かに言った。
「さっきの戦いで、右脚、違和感なかったか?」
「は?」
ガルドが眉をひそめる。
「古傷だ。気にするほどじゃない」
――やっぱり。
俺の視界では、彼の右脚の経絡が、明らかに歪んでいる。
さっきの重傷で、さらに悪化していた。
「そのまま前に出たら、五分ももたない」
「脅しか?」
「事実だ」
俺は、一本の鍼を取り出した。
「三十秒くれ」
ガルドは迷った。
だが、直後に魔物の咆哮が森から響く。
「……三十秒だ」
俺は膝をつかせ、迷いなく打った。
一本。
二本。
三本。
流れを繋ぐように、詰まりをほどく。
ガルドが、息を呑んだ。
「……軽い」
「今なら、全力で踏み込める」
「何をした」
「後で説明する。今は――」
俺は、彼の目を見る。
「死ぬな」
次の瞬間、魔物が姿を現した。
牙を剥いた狼型の魔物が、群れで突っ込んでくる。
「前に出るぞ!」
ガルドが叫び、地面を蹴った。
――速い。
さっきまでの動きとは、明らかに違う。
「なんだ、あの踏み込み……」
「さっきまで重そうだったのに」
俺は、後方に下がりながら、周囲を見る。
(他にもいるな)
前衛の冒険者たち。
それぞれに、微妙な歪みがある。
「次、俺だ!」
「俺も脚が――」
声が飛んでくる。
「順番に来い! 刺す場所を間違えたら逆効果だ!」
怒鳴りながら、俺は手を止めない。
鍼を打つたび、前線の動きが変わる。
踏み込みが鋭くなる。
剣が重くならない。
息が乱れない。
「なんだこれ……」
「回復魔法より、戦いやすいぞ!」
ガルドが魔物を斬り伏せながら、叫んだ。
戦闘は、想像以上に早く終わった。
最後の一体が倒れ、静寂が戻る。
冒険者たちが、信じられないものを見るように俺を見る。
「……お前、何者だ」
さっきとは、意味が違う声だった。
俺は鍼を拭きながら答える。
「治療師だよ」
「いや、そうじゃない」
ガルドが、真剣な顔で言う。
「戦況を変える治療師なんて、聞いたことがない」
俺は少しだけ、苦笑した。
「俺も、この世界では初めてだろうな」
だからこそ――
(確実に、目を付けられる)
期待も、警戒も、両方だ。
遠くで、誰かが呟く。
「……王都に、知らせるべきじゃないか?」
その言葉を聞いた瞬間、胸の奥が、静かに冷えた。
(ああ)
――ここからが、本番だ。
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