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回復魔法が効かない世界で、元鍼灸師の俺が経絡チートで無双する ~治せないと言われた命を、鍼一本で救ってみせる~  作者: 夜凪レン


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第29話 限定停戦

 灰の谷に、旗が立った。


 王国の紋章でも、魔族の印でもない。

 白い布に、ただ一本の線。


 ――境界の印。


 それだけで、空気が変わった。


 武器を構えた兵はいない。

 互いを警戒しながらも、刃を向けない。


 戦争は、終わっていない。

 だが、この場所だけは違う。


(……止まったな)


 俺は、谷の中央で深く息を吸った。


 最初に運ばれてきたのは、王国兵だった。


 脚を失い、前線から外された男。

 目は、どこか空を見ている。


「……もう、戻れないそうです」


 付き添いの兵が、気まずそうに言う。


「戻らなくていい」


 俺は、静かに答えた。


 鍼を打つ。


 戦うためではない。

 痛みを終わらせるための流れ。


 男の呼吸が、ゆっくりと整う。


「……楽だ」


 それだけ言って、目を閉じた。


 次は、魔族だった。


 肩を砕かれ、戦えなくなった若い個体。


 以前なら、ここで処分されていた存在だ。


 だが。


「……治療を、頼む」


 ぎこちない言葉。


 俺は、何も言わず頷いた。


 同じだ。


 壊れた流れは、

 種族で変わらない。


 日が傾く頃、リリアが現れた。


 聖女としてではない。

 ここでは、ただの一人の人間だ。


「……本当に、始まりましたね」


「ああ」


 俺は、鍼を拭きながら答える。


「戦争が終わるわけじゃない」


「でも」


 彼女は、谷を見渡す。


「戻れる人が、できた」


 それだけで、十分だ。


 遠くで、魔族の一団が立ち止まる。


 その先に、王国の兵。


 互いに、視線を交わす。


 だが、進まない。


 進めない。


 そこへ、一人の影が現れた。


 エルシアだ。


 護衛はいない。

 鎧も、軽装。


 彼女は、俺の前で足を止める。


「……成立したな」


「限定的にな」


「それでいい」


 彼女は、視線を逸らす。


「これ以上は、持たない」


 将としての、正確な判断だ。


「兵は?」


「不満だ」


 即答だった。


「だが、命令には従う」


 それも、事実だろう。


 エルシアは、少しだけ間を置いて言った。


「戻らなかった者が、増えた」


「……何人だ」


「数えきれないほどではない」


 だが、無視できる数でもない。


「それでいい」


 俺は、静かに言う。


「壊れなかった分だけだ」


 エルシアは、俺を見る。


「……あなたは、英雄にはならない」


「知ってる」


「救世主にもならない」


「そのつもりもない」


 彼女は、ふっと息を吐いた。


「厄介だな、本当に」


 褒め言葉だろう。


「だが」


 エルシアは、谷を見渡す。


「この場所は、残る」


 それは、将としての宣言だった。


 彼女は、踵を返す。


「次に会う時は……」


 一瞬、言葉を探す。


「まだ、戦争の中だろう」


「だろうな」


 だが。


「ここは、戦場じゃない」


 俺は、そう言った。


 エルシアは、振り返らなかったが、

 歩調が、ほんの少しだけ緩んだ。


 夜。


 谷に、灯りが点る。


 王国の兵も、魔族も、同じ火を囲むことはない。

 だが、互いに背を向けて休んでいる。


 それだけで、奇跡だ。


 リリアが、隣で言った。


「……怒られるでしょうね」


「当然だ」


「それでも」


 彼女は、微笑む。


「後悔はありません」


「俺もだ」


 完全な平和ではない。

 だが、確かに世界は変わった。


 戦争の中に、

 止まる場所ができた。


 俺は、鍼をしまう。


 ――治療師ができることは、

 これで十分だ。


 今は、そう思えた。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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