第2話 見える経絡、流れない魔力
男が完全に意識を取り戻したのは、それからしばらく後だった。
「……俺、生きてるのか?」
そう呟いた声を聞いて、周囲から一斉に安堵の息が漏れる。
誰かが泣き、誰かが笑い、誰かが俺を見る。
――期待と、不安が混じった目だ。
「一応な。今はまだ無理するな」
「いや、でも……回復魔法が、あれだけ効かなかったのに……」
鎧の男――この村を守ってきた冒険者らしい――は、信じられないものを見るように自分の体を触っていた。
当然だろう。
この世界では、回復魔法は“万能”とされている。
なのに、その常識が今、目の前で否定された。
「お前……本当に、何をした?」
村長が恐る恐る尋ねてくる。
俺は少し考えてから、できるだけ噛み砕いて説明した。
「魔法は、壊れたところを“塞ぐ”力だ。でもこの人の場合、問題はそこじゃなかった」
指先で、冒険者の胸のあたりを示す。
「中の流れが詰まってた。だから、流しただけ」
「流れ……?」
困惑する村人たち。
――まあ、そうなる。
前世でもそうだった。
目に見えないものを説明するのは、いつだって難しい。
(でも、この世界では……)
俺は冒険者の体を、もう一度よく見る。
視界に、淡い線が浮かび上がる。
人によって太さも色も違う、生命の循環。
(やっぱり、はっきり視えるな)
前世では、触診と経験で“感じ取って”いたものが、今は完全に可視化されている。
しかも――
(魔力と、別系統だ)
回復魔法使いの少女を見ると、彼女の体には別の光が巡っている。
強いが、どこか荒い。
「……ねえ」
その少女が、恐る恐る声をかけてきた。
「さっきの治療、私にも……できる?」
俺は首を横に振った。
「無理だと思う」
「え……」
「魔法の才能がある人ほど、逆に向いてない」
少しきつい言い方だったかもしれない。
だが、事実だった。
「これは感覚の技術だ。力で押すんじゃない。流れを読む」
村長が、ぽつりと呟く。
「……つまり、お前にしかできない?」
その問いに、俺は即答できなかった。
前世の俺は、鍼灸師だった。
国家資格もあったし、経験もあった。
でも――
(ここでは、その“前提”がない)
「正確には……」
俺は自分の手を見る。
「俺と、同じ感覚を持つ人間がいれば、できる」
ただし、いるかどうかは分からない。
そのとき、別の村人が慌てて駆け込んできた。
「大変だ! 隣の家の婆さんが、倒れた!」
「胸を押さえて、息が……!」
空気が一気に張り詰める。
俺は立ち上がった。
「案内して」
「え、またやるのか!?」
「今度は、もっと分かりやすい例だ」
走りながら、頭を切り替える。
(いい機会だ)
ここで偶然じゃないと、示す。
家の中では、年老いた女性が浅い呼吸を繰り返していた。
視界に映る経絡は、複数箇所で滞っている。
(慢性。長年の蓄積だな)
俺は鍼を取り出し、間を置かずに打ち始めた。
一箇所、二箇所、三箇所。
さっきより、時間はかかる。
だが――
「……楽に、なってきた……」
婆さんの声が、確かにそう告げた。
ざわめきが、歓声に変わる。
「奇跡だ……」
「魔法じゃないのに……」
俺は深く息を吐いた。
奇跡じゃない。
これは、技術だ。
そして同時に、理解する。
(この力、目立つ)
――間違いなく、面倒事を呼ぶ。
だが。
「それでも……」
俺は、婆さんに微笑みかけた。
「ちゃんと治せるなら、使わない理由はない」
前世で救えなかった分まで。
この世界では、治療師として生きる。
その覚悟だけは、もう決まっていた。
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