第19話 勝っているはずなのに
戦闘は、王国軍の優勢で終わった。
――数字上は。
「被害報告を上げろ!」
指揮官の声が、戦場に響く。
俺は、担架の列の横で立ち尽くしていた。
視界に映る循環は、どれも限界に近い。
(……多すぎる)
致命傷は減った。
死者数も、前回の戦闘より明らかに少ない。
それなのに。
(“壊れかけ”が増えている)
鍼で繋ぎ止めた流れ。
無理やり前線に戻った体。
生きてはいる。
だが、消耗が積み上がっている。
「レン!」
カナンが、戦況図を抱えてやって来た。
「やったな。被害は、想定以下だ」
彼女の声には、確かな達成感がある。
「……そうだな」
俺は、曖昧に頷いた。
「どうした」
鋭い指摘。
隠せない。
「戦線が、下がらなかった」
「それが問題か?」
「……長引く」
カナンは、一瞬言葉に詰まる。
「それは――」
「分かってる」
俺は、先に言った。
「勝つためには、必要だ」
彼女の部隊は、俺の治療で踏みとどまった。
それは、事実だ。
「でも」
言葉が、重い。
「終わらない戦いになりかけてる」
カナンは、視線を戦場跡に向けた。
「……死者が減った」
「その代わり、“帰れない人間”が増えてる」
脚を引きずる兵。
虚ろな目をした者。
彼らは、生きている。
だが、戦争から戻れない。
「レン」
カナンの声が、低くなる。
「それでも、現場は助かっている」
正論だ。
「お前がいなければ、ここは崩れていた」
胸に刺さる。
「分かってる」
だからこそ、逃げられない。
そこへ、伝令が駆け込んできた。
「副長! 敵軍、後退!」
歓声が上がる。
勝利だ。
だが、俺の胸は晴れなかった。
(……これで、また次が来る)
勝てると分かれば、戦争は続く。
夜、簡易天幕の中で、俺は鍼を整えていた。
そこへ、リリアが現れる。
「……勝ったのですね」
「数字上は」
彼女は、少し黙ってから言った。
「私、報告を受けました」
聖女としての顔。
「王都では……あなたの治療が“戦力”として評価されています」
嫌な予感。
「量産化の話も、出ているそうです」
来たか。
「鍼を、規格化して……」
彼女の声が、震える。
「治療師を、前線に配置する計画が」
俺は、深く息を吐いた。
「……兵器扱いだな」
リリアは、目を伏せる。
「止められません」
聖女でも。
「……レン」
彼女が、意を決したように顔を上げる。
「あなたは、正しいと思いますか」
核心だった。
俺は、すぐには答えられなかった。
しばらくして、正直に言う。
「……分からない」
リリアは、少しだけ安堵したように微笑んだ。
「分からないまま、使われるのが一番怖いですね」
その通りだ。
俺は、鍼を握りしめる。
(治すことで、殺しているかもしれない)
そんな考えが、頭を離れない。
その夜、夢を見た。
前世の診療所。
治ったはずの患者が、
また壊れて戻ってくる夢。
目が覚めても、胸の奥が重いままだった。
――勝っているはずなのに。
この戦いは、
どこか、間違っている。
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