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回復魔法が効かない世界で、元鍼灸師の俺が経絡チートで無双する ~治せないと言われた命を、鍼一本で救ってみせる~  作者: 鍼間 ゆの


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第18話 敵を治すということ

 戦場の喧騒は、いつの間にか遠のいていた。


 俺の周囲だけが、不自然なほど静かだ。


 膝の上に横たわる魔族の少女――エルシアは、浅く息をしている。

 循環は、まだ危うい。だが、完全に壊れる直前で踏みとどまっている。


(……綱渡りだな)


 鍼を一本、慎重に追加する。


「……っ」


 彼女の指が、わずかに動いた。


「喋らなくていい」


 俺は、視線を落としたまま言う。


「今は、流れを戻す」


「……不思議だ」


 それでも、彼女は呟いた。


「魔力でも、呪術でもない……それなのに、楽になる」


 周囲では、味方も敵も動けずにいる。

 誰もが、この光景を“どう理解すればいいか”分からない。


「それは、治療だからだ」


「治療……」


 エルシアが、微かに笑う。


「魔族には、ない言葉だ」


 俺は、手を止めない。


「ない?」


「魔族は、壊れながら戦う」


 淡々とした声。


「限界まで削り、倒れる前に敵を削る。それが、生き方だ」


 視界に映る循環が、彼女の言葉を裏付けていた。

 無理やり繋がれ、引き延ばされた流れ。


(……これじゃ)


「治す、という発想がないのか」


「必要がない」


 即答だった。


「壊れる前提で、生まれている」


 俺は、息を呑む。


 価値観が、根本から違う。


「じゃあ……」


 言葉を選ぶ。


「今、俺がしていることは?」


 エルシアは、少し考えた。


「……裏切り、だな」


「誰の」


「私自身の」


 そう言って、目を閉じる。


「楽になるということは、戦えなくなるということだ」


 それは、魔将としての敗北宣言に近い。


「それでも?」


 俺が問うと、彼女は目を開けた。


「……それでも、今は」


 小さく、息を吸う。


「生きている感じがする」


 その一言が、胸に突き刺さった。


 生きている“感じ”。


 前世で、何度も聞いた言葉だ。


「レン!」


 カナンの声が、ようやく割って入る。


「戦線が、動けない」


 俺は、顔を上げる。


「少し時間をくれ」


「……敵将だぞ」


「患者だ」


 一瞬の沈黙。


 カナンは、歯噛みしてから頷いた。


「三分だ」


 十分すぎる。


 俺は、最後の一本を打つ。


 循環が、安定する。


 完全ではない。

 だが、今すぐ崩れることはない。


「……借りができたな」


 エルシアが、ゆっくりと起き上がる。


 周囲の魔族兵が、ざわめく。


「動くな!」


 騎士たちが、武器を構える。


 エルシアは、静かに手を上げた。


「下がれ」


 その一言で、魔族兵が止まる。


 彼女は、俺を見る。


「治療師」


「レンだ」


「レン」


 名前を、確かめるように口にする。


「次に会う時は……敵としてだろうな」


 俺は、即答しなかった。


「分からない」


 正直な答えだ。


「治療は、敵味方を選ばない」


 エルシアは、少しだけ困った顔をした。


「……本当に、面倒だ」


 そう言って、踵を返す。


 魔族の陣へ、ゆっくりと戻っていった。


 戦線が、動き出す。


 だが、さっきまでの“殺し合い”とは違う。

 どこか、躊躇いが混じっている。


 カナンが、低い声で言った。


「……戦争が、変わるぞ」


 俺は、鍼をしまいながら答える。


「変えた覚えはない」


「結果的に、だ」


 それが、一番厄介だ。


 戦争を止めたいわけじゃない。

 ただ、壊れているものを、放っておけなかった。


 俺は、遠ざかるエルシアの背中を見る。


(あれは……)


 敵だ。

 だが同時に――


 この戦争で、最も“治療が必要な存在”かもしれない。


 そんな考えが、頭を離れなかった。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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