第15話 王都召喚
翌朝、倉庫の前に馬車が止まった。
昨日とは違う。
紋章付き――正式なものだ。
「……今度は、何だ」
カナンが低く呟く。
馬車から降りてきたのは、昨日の役人とは別の男だった。
年配で、どこか疲れた顔。
「治療師レン」
名前を、正しく呼んだ。
「王城より、召喚だ」
周囲が、ざわつく。
王都の外れに、小さな部屋を借りた。
倉庫よりは、少しだけましな場所。
机と椅子。
簡易の寝台。
看板は、出していない。
それでも。
「……ここですか」
最初の患者は、昨日の倉庫にいた男だった。
「来ていい」
俺は、そう答えた。
噂は、早い。
回復魔法では届かない人間が、少しずつ集まる。
俺は、淡々と診る。
治る人。
楽になる人。
どうしても、救えない人。
全部だ。
ある日、リリアが訪ねてきた。
聖女の装いではない。
「……患者として、来ました」
俺は、頷く。
「どうぞ」
彼女は、静かに横になる。
循環は、以前よりずっと安定していた。
「無理は、してませんか」
「少しだけ」
正直だ。
「それでいい」
治療は、続く。
また別の日、カナンが顔を出す。
「……兵が、助かった」
それだけ言って、帰っていった。
俺は、鍼を片付けながら思う。
(派手じゃない)
英雄でもない。
でも。
この部屋には、確かに“流れ”がある。
治すための場所。
諦めないための場所。
夜、灯りを落とす前に、ふと前世を思い出した。
救えなかった人。
届かなかった手。
それでも、今は――
「……続けられる」
小さく呟く。
治療師として。
この世界で。
静かに、確かに。
「処分ではない」
その一言に、空気が変わる。
「王族会議で、あなたの治療記録が話題に上がった」
――記録。
ヴァルドが言っていた“証明”。
「王子殿下の容体に、変化があった」
俺の胸が、わずかに跳ねた。
「改善……ですか」
「劇的ではない」
役人は、正直に言う。
「だが、確実だ」
それで、十分だった。
「同行を」
俺は、鍼を仕舞いながら頷く。
「行きます」
リリアが、不安そうに言った。
「……気をつけてください」
「分かってる」
王城の会議室は、重苦しかった。
円卓に並ぶのは、貴族、治療師団、騎士団代表。
ヴァルドも、そこにいた。
「治療師レン」
王族の一人が、口を開く。
「君の行為は、規定違反だ」
「承知しています」
「だが」
一拍置いて。
「結果が出ている」
ざわめき。
「王子の循環は、悪化が止まった」
俺は、静かに言う。
「まだ、治っていません」
「分かっている」
王族は、頷いた。
「だからこそ、聞きたい」
視線が、集まる。
「君は、何者だ」
俺は、少しだけ考えた。
治療師。
異端。
無許可。
だが――
「治療師です」
それだけで、十分だった。
沈黙の後、ヴァルドが口を開く。
「……正式な治療師としての承認は、まだできん」
予想通りだ。
「だが」
彼は、俺を見る。
「“実地治療顧問”として、限定的な活動を許可する」
完全な勝利じゃない。
だが、追放でもない。
絶妙な妥協点。
「条件がある」
王族が続ける。
「治療の記録を残すこと。
そして――」
視線が、リリアに向く。
「聖女と、対立しないこと」
リリアが、静かに頷く。
俺も、頷いた。
「十分です」
会議は、それで終わった。
派手な拍手も、称賛もない。
だが。
(……通った)
細い道だが、確かに。
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