第13話 異端
王都の空気が、変わった。
それを感じたのは、朝の治療棟だった。
廊下を歩くと、視線が刺さる。
昨日まで挨拶をしていた治療師たちが、目を逸らす。
(……来たな)
俺が部屋に入ると、机の上に書状が置かれていた。
封蝋は、宮廷の紋章。
開かなくても分かる。
――処分通知だ。
「治療師レン」
背後から、硬い声。
振り返ると、役人と治療師団の一部が立っていた。
「本日付けで、王都における治療行為の停止を命じる」
淡々と、事務的に。
「理由は」
分かっていて、聞いた。
「王子殿下への無許可治療、
回復魔法の使用妨害、
および――」
役人が、一瞬だけ言葉を選ぶ。
「死者を出した件」
来たか。
「“救わないという判断”は、王国の治療理念に反する」
治療理念。
便利な言葉だ。
「なお、今後は聖女様への接触も禁じる」
その瞬間、胸の奥が、ひやりとした。
(……そこか)
俺個人の問題じゃない。
リリアを守るための排除だ。
「異議は?」
役人が、形式的に聞く。
「ありません」
即答だった。
ざわめきが、走る。
「いいのか」
「弁明もしないのか」
弁明して、何が変わる。
俺は、静かに言った。
「患者が、目の前にいない」
それだけだ。
役人たちは、拍子抜けした顔で去っていく。
部屋に残ったのは、俺一人。
(……追い出されるか)
前世と、同じ展開だ。
違うのは――今回は、守りたい人がいること。
そこへ、ノックもなしに扉が開いた。
「レン!」
リリアだった。
顔色が、明らかに悪い。
「聞きました……本当なんですね」
「ああ」
「私の……せい、ですか」
違う。
だが、そう言っても、彼女は納得しない。
「違う」
俺は、はっきり言った。
「“治せない現実”を、隠したい人間がいるだけだ」
リリアは、拳を握る。
「……私、何もできない」
その声が、震える。
俺は、少し考えてから言った。
「できることがある」
「え?」
「“聖女”としてじゃない」
彼女を見る。
「一人の患者として、立つことだ」
リリアは、目を見開いた。
「でも……」
「今は、それでいい」
俺は、微笑む。
「治療は、続ける」
「え……?」
「公式じゃなくてもな」
それは、反抗だ。
だが、逃げじゃない。
「俺は、治療師だ」
資格を奪われても、
許可を失っても。
その時、また別の足音。
「……やっぱりな」
カナンだった。
険しい顔で、状況を見渡す。
「処分が出たな」
「早かった」
「王都は、都合の悪い現実が嫌いだ」
カナンは、短く息を吐く。
「……来い」
「?」
「表の治療棟じゃない場所がある」
低い声。
「公式じゃ救われない連中が、集まる場所だ」
それは――
「裏か」
「言い方はどうでもいい」
カナンは、真っ直ぐ俺を見る。
「お前の判断が必要な場所だ」
俺は、少しだけ迷い――頷いた。
「案内してくれ」
リリアが、不安そうに言う。
「……危険です」
「分かってる」
だからこそ。
「治療師は、そこに行く」
王都の光の裏側へ。
――異端として。
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