第12話 理解者
ルークの件から、一日が過ぎた。
王都は、何事もなかったかのように動いている。
それが、妙に胸に引っかかった。
(……世界は、簡単に回る)
救えなかった命があっても、
街は止まらない。
治療棟の一室で、俺は鍼を整えていた。
手は、少しだけ重い。
そこへ、扉を叩く音。
「入るぞ」
カナンだった。
鎧は着ていない。
普段より、少しだけ疲れた顔をしている。
「時間、いいか」
「どうぞ」
彼女は椅子に腰掛け、しばらく黙っていた。
沈黙は、気まずくなかった。
むしろ――必要だった。
「……治療師団が、騒いでいる」
カナンが、ぽつりと切り出す。
「お前の判断は、独断だと」
「だろうな」
「だが」
彼女は、俺を見る。
「騎士団は、違う」
その言葉に、胸の奥が少しだけ緩む。
「現場では、“救えない”判断が一番重い」
カナンは、拳を握る。
「誰もやりたがらない。だから……」
彼女は、俺を真っ直ぐ見た。
「お前がやったことは、卑怯じゃない」
短い言葉。
だが、重かった。
「ありがとう」
それだけで、十分だった。
カナンは、少し視線を逸らす。
「……私もな」
「?」
「昔、同じ判断をした」
静かな告白。
「その時は、誰も隣にいなかった」
俺は、何も言わずに聞く。
「ずっと、自分が冷たい人間なんだと思ってた」
彼女は、苦笑した。
「お前を見て、少し楽になった」
俺は、息を吐いた。
「……俺もだ」
治療師は、判断を一人で背負いがちだ。
共有できる相手がいるだけで、救われる。
そこへ、もう一人。
「……失礼します」
リリアだった。
少し緊張した面持ちで、部屋に入ってくる。
「大丈夫……ですか」
問いは、俺に向けられている。
だが、その奥には――恐れがあった。
“同じ選択をする日が来るかもしれない”という恐れ。
「大丈夫かどうかは……分からない」
俺は、正直に答えた。
「でも、間違ってはいない」
リリアは、しばらく黙ってから、深く頭を下げた。
「……ありがとうございました」
「何の礼だ」
「命を、最後まで見捨てなかったことに」
その言葉に、胸が締めつけられる。
カナンが、立ち上がる。
「私は、持ち場に戻る」
扉の前で、振り返った。
「レン」
「?」
「次に同じ判断をする時も――」
一拍置いて。
「一人じゃない」
そう言って、出ていった。
部屋に残ったのは、俺とリリアだけ。
しばらく、何も言わなかった。
やがて、リリアが小さく呟く。
「……私、聖女です」
「知ってる」
「でも……いつか、同じ選択を迫られる」
俺は、頷く。
「その時は」
彼女を見る。
「一緒に考えよう」
聖女ではなく、治療師として。
彼女は、泣きそうな顔で笑った。
「……はい」
その笑顔を見て、思う。
(この世界で)
救えない命は、確かにある。
でも。
一人で背負わなくていい世界には、できるかもしれない。
俺は、そう信じたいと思った。
本話もお読みいただき、ありがとうございました!
少しでも続きが気になる、と感じていただけましたら、
ブックマーク や 評価 をお願いします。
応援が励みになります!
これからもどうぞよろしくお願いします!




