第1話 転生したら、鍼が魔法より効いた
※本作は、異世界転生×医療(鍼灸)ファンタジーです。
回復魔法が万能ではない世界で、
「治すとは何か」をテーマに物語が進みます。
派手な魔法よりも、
静かで確実な“治療”が好きな方に読んでいただけたら嬉しいです。
目を覚ました瞬間、俺は「やってしまった」と理解した。
視界が低い。手が小さい。肺に入る空気がやけに澄んでいる。
――ああ、これ転生だ。
そう結論づけた直後、聞き慣れない怒号が飛んできた。
「だめだ、回復魔法が効かない!」
「もう一度だ、詠唱を――」
土の匂い。血の匂い。
粗末な家の床に、鎧姿の男が横たわっている。胸が、わずかに上下していた。
回復魔法使いらしき少女が、震える手で光を放つ。
だが男の容体は、まるで変わらない。
「……内臓だな」
思わず口から出ていた。
「え?」
全員の視線が、俺に集まる。
今の俺は、どう見ても十代前半の村人だ。
「胸は治ってる。でも、奥が死にかけてる。これ、外傷じゃない」
なぜ分かるのか。
理由は単純だった。
――視えている。
男の体の上に、淡い線が走っている。
絡まり、途切れ、詰まった流れ。
(経絡……いや、気の流れか)
前世で、何千回も見た「詰まり方」だった。
「お前、何を言って――」
「鍼、あるか?」
「は?」
周囲がざわつく。
だが俺は、もう決めていた。
「細い金属でいい。縫い針でもいい」
幸い、裁縫箱はすぐに見つかった。
消毒なんて理想論は言わない。今は時間がない。
男の体に触れた瞬間、確信する。
(心包、完全に塞がってる。これ、魔法じゃ無理だ)
俺は、迷いなく一本を打った。
――刹那。
「……っ!」
男の喉から、空気が流れ込む音がした。
次に、二本。三本。
流れを繋ぐように、静かに、正確に。
周囲が息を呑む。
「脈が……戻ってる」
「嘘だろ……」
最後の一本を抜いた瞬間、男が大きく息を吸った。
「生き……てる?」
回復魔法使いの少女が、呆然と呟く。
俺は深く息を吐いた。
「助かった。あとは安静。無理に魔法は使うな」
その場に、誰も声を出せなかった。
しばらくして、誰かが震える声で言った。
「……何者だ?」
俺は少しだけ考えてから、答える。
「治療師だよ」
前世では、鍼灸師。
そして――どうやらこの世界では。
魔法より、鍼の方が効くらしい。
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