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言葉と光の境界)
坂井が去ったあと、体育館裏には静けさが戻った。
夕陽は校舎の窓に反射して、割れたガラスのような光を地面に散らしている。
澄音はその中に立ち尽くし、しばらく空を見上げていた。
風がやみ、代わりに遠くの拍手がかすかに聞こえた。
まるで現実がゆっくりと幕を下ろしていくようだった。
やがて、澄音はポケットからノートを取り出す。
ページの隙間に、昼間の喧騒の名残――少し折れた角と、汗ばむ指の跡。
彼女はペンを走らせ、静かに一行を書き加える。
光は、沈黙を鍛える。
その文字を見つめながら、澄音は小さく息を吐いた。
意味はまだ、霧の向こうにある。
けれど、確かに何かが生まれた。
胸の奥で、見えない“筋肉”が脈打っている。
信じることの痛みと優しさが、そこに宿っている。
夕陽が傾き、ノートの白が金色に染まる。
澄音はそっとそれを閉じた。
そして思う――言葉はまだ負けていない。
光の中にも、静けさは生きている。




