坂井の追走(光の中の誠実)
体育館の裏手は、歓声の余韻が遠くでくぐもって聞こえるだけだった。
夕方の風が吹き抜け、澄音の髪を揺らす。
頬にはまだ熱が残っていた。胸の鼓動が、ようやく現実の速さに追いつき始める。
そのとき、背後から足音。
軽やかで、真っすぐなリズム。
「なあ、見た? 約束、果たしたぞ!」
振り向くと、坂井が笑いながら駆け寄ってきた。
額の汗がオレンジ色の光に反射して、まるで太陽の欠片みたいに輝いている。
彼の肩は上下し、息は荒いのに、笑顔は崩れない。
「……本当に優勝するなんて思わなかったわ。」
澄音は息を整えながら言った。
まだ信じきれないような声だった。
「俺、信じるタイプだから。」
あっけらかんとした言葉。
けれど、その響きは冗談ではなかった。
その瞬間、澄音は言葉をなくした。
風の音が間を満たす。
彼の目の中に、嘘も照れもない“まっすぐ”があった。
それは、光の中の誠実――眩しすぎて、まっすぐ見られない。
冗談ではなく、誠実がそこにあった。
それを直視するのが、こんなに眩しいとは思わなかった。
澄音は小さく笑った。
うまく笑えている自信はなかったが、それでも。
「……おめでとう。」
ただ、それだけを言った。
風が二人の間をすり抜け、落ち葉を巻き上げる。
坂井は「ありがとう」と笑い、空を仰いだ。
沈みかけた光が、二人の影を長く伸ばしていた。




