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『筋肉の詩(うた)を、君に。』 ――笑われる勇気を、青春と呼ぶなら。  作者: 南蛇井


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14/40

(優勝と逃走)

優勝の瞬間、体育館は爆発したような歓声に包まれた。

拍手と笑いが混じり合い、天井の鉄骨が震える。紙吹雪のように叫びが舞い、澄音の耳にはそれが遠い雷鳴のように響いた。


ステージの上、坂井が両手を高く掲げていた。

胸を張り、笑いながら、あのまっすぐな目で観客席を見渡す。

その視線が、ふと、澄音のところで止まった。


一瞬、目が合った。


光の中の坂井は、まるで少年でも詩でもなく、“信じる”という行為そのものだった。

そして次の瞬間――

彼は笑顔のまま、ゆっくりと腕を曲げた。


――「ダブルバイセップス!」


会場がどっと湧いた。

それは冗談の再現であり、約束の履行であり、なぜか胸の奥をくすぐる儀式のようでもあった。


澄音は、息が詰まるのを感じた。

頬が一気に熱を帯び、ペン先が指から滑り落ちる。

ノートを閉じる音が、歓声の中でやけに小さく響いた。


どうして、そんなふうに、まっすぐに信じられるの。


自分でもよくわからない感情が、胸の奥で暴れた。

そして気づけば、澄音は立ち上がっていた。

観客たちの間をすり抜け、出口へ向かう。


光の残像が瞼に焼きつく。

その光を直視するのが、いまはまだ怖かった。


体育館の扉を押し開けると、冷たい空気が頬を撫でた。

外の世界は静かで、太陽が少し傾き始めていた。

澄音は立ち止まり、胸に手を当てた。


――鼓動が、まだ拍手のリズムを刻んでいた。

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