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澄音の“詩的変換”
澄音は、拍手と歓声の渦の中で、ひとりノートを開いた。
ライトの白が紙に跳ね返り、文字がかすかに震える。
最初は半ば冗談だった。
“ボディービル大会を見ながら詩を書く”なんて、あまりに詩的でない試み。
しかしペンを走らせるうちに、笑いが消え、代わりに指先が熱を帯びていく。
筋肉は、沈黙の代謝である。
信じることの形状。
言葉が失敗しても、身体が覚えている真実。
書きながら、自分でも何を書いているのかわからなかった。
ただ、彼の動きが、彼の呼吸が、ページの上に滲みこんでくる。
坂井が腕を伸ばし、光を受け止めるたび、
澄音の中の言葉たちも伸びをした。
動と静が、筋肉と詩が、同じリズムで呼吸を始める。
彼の筋肉は、うるさいのではなく、
静けさを食べて生きている。
あれは、沈黙の進化形だ。
そう思った瞬間、胸の奥で、何かが音を立てて溶けた。
それは熱でも羞恥でもなく――
言葉が初めて、現実に負けたときの、奇妙に甘い敗北感だった。




