(体育館の喧騒と異世界感)
体育館の空気は、詩には向かない。
そのことを、澄音は入場して三秒で悟った。
ステージを照らすスポットライトはやたらと眩しく、スピーカーから流れるBGMは陽気すぎた。観客席ではクラスメイトたちが声を張り上げ、笑いと汗と紙吹雪のような熱気が、言葉の隙間を埋め尽くしている。
彼女は端の席に腰を下ろし、膝の上にノートを置いた。
開いたページの白さが、この喧騒の中ではやけに無防備に見える。筆箱からペンを取り出す手が、少し震えているのは――緊張ではなく、場違いな意識のせいだ。
体育館の空気は、詩には向かない。
汗と笑いが、言葉よりも先に飛び交っている。
けれど、私はここにいる。
軽口ひとつで、言葉に責任を持つ羽目になった詩人として。
観客席のあちこちから、坂井の名前が叫ばれるたび、澄音の胸が微妙に揺れた。
その振動はまるで、詩行のあいだに無理やり差し込まれた感嘆符のようで――音と熱の渦の中、彼女だけが静かに息を呑んでいた。
ノートの片隅に、ふと小さく書く。
「筋肉という言葉が、こんなに響く日が来るとは。」
書いて、自分で苦笑した。
今日の空気は、どこまでも現実的で、どこまでも不詩的だった。
だがその現実の只中に、なぜか目を離せない何かが、いま光を放とうとしていた。




