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噂の影と澄音の小さな変化
昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴った。
笑い声と椅子の軋みが、少しずつ遠のいていく。
喧騒の熱を残したまま、教室はゆっくりと午後の静けさに沈んでいった。
澄音は、窓際の光の下でノートを開く。
昨日まで書いていた詩のページ――タイトルは「沈黙」。
白い余白が、まだどこか居心地の悪そうに広がっている。
彼女はしばらくペン先を宙に浮かせたまま、ためらうように呼吸をした。
そして、ひと息で一行を書き足す。
> 沈黙とは、信じることの筋肉である。
書き終えてから、自分でも思わず眉を寄せた。
何を書いたのか、正直わからない。
詩として成立しているのかも怪しい。
けれど、意味のわからなさの中に、
微かに心が動いた感触があった。
誰かに“信じられる”ということが、
こんなにも体温を持つとは思わなかった。
窓の外では、午後の風が校庭を横切っていく。
澄音はその音を聞きながら、そっとノートを閉じた。
その指先に、わずかに力がこもっている。
詩を書くという行為が、
今日だけは少し――
筋肉的に感じられた。




