ヒーローたちの内緒話(2)
それまで静かにしていた光希が右手を挙げる。
「それ関係で報告したいことがあるんだ」
「さすが知恵袋のシルバー。何か分かった?」
仲間たちの期待の視線を集め、光希が口を開く。
「召喚された部屋の足元に、魔法陣があっただろ? 絵や幾何学模様みたいに見えたけど、文字だった。
『我らは願う。悪の魔王を倒しうる、正義の心に燃える勇敢な戦士たちを。差し出すはこの国に満ちる魔素、我らが魔力、祈りの力。戦士たちへ枷は設けず。ただ彼らが我らに好意的であらんことを』
サークル内に大きく書かれた文句は、だいたいこんなところ」
「すごーい。書いてあった文字を記憶している上に、解読もできるなんて」
仲間たちは手放しでほめたたえるが、光希は居心地悪そうに訂正を加える。
「僕じゃなくて、シルバーが超天才っていうキャラ設定のおかげだよ。視界に入れただけで魔法陣に書き込まれた文字や記号を記憶できちゃった。魔法陣に刻んだ文言について魔法使いが話していたから、それに該当する文字を当てはめて……。あとは解読作業だけだったから。頭良すぎて、自分でドン引きしちゃうよ」
肩をすくめる光希に、仲間たちから笑いが起きる。
「そういえば、地図に書いてあった文字には、カタカナでルビが振ってあるように見えたわよね? 魔法陣のは文字だか絵だか分からない状態だったのに」
「魔法陣で使われているのは特殊な言語なんじゃないかな。妖精族からもたらされた知識とか言ってたから、妖精の言葉とか」
仲間たちがわいわい意見をぶつけていると、光希が「もうちょっと続きがあるんだ」と手を挙げる。
「サークルの周辺に小さめの文字で、『年齢18から25歳相当、見目麗しく健康な人族の男性求む。身長165センチ以上2メートル以下、身分は問わないが一定以上の教養はあること』なんてことも書いてあった」
「え、何その求人募集みたいな文言。しかも一部キモいし」
一同の目が点になる。
「これは結婚相手にされるパターンも考えておかないといけないね。特にミッキーはお姫様にロックオンされてるっぽいし」
智也はにやにや顔を光希に向ける。
「え。彼女中学生くらいの年齢じゃない? 無理無理。僕、捕まりたくないし」
「こういう世界では成人年齢が低いのがテンプレ。それに合法ロリというパターンもある」
「僕の意思を無視して結婚させようとするなら、断罪からの婚約破棄だ!」
よく分からない言葉の応酬をする2人に挟まれ、凛太郎は黙って耳を傾けている。
救援になるかは分からないが、朝香は話題を切り替える。
「とりあえず枷がつけられてないのには安心したね」
「でも、好意的っていうのはちょっと……。精神操作されているみたいで気持ち悪い」
舞が眉をひそめる。
「大丈夫、大丈夫。アミュレットが守ってくれるわよ。後は『ハニトラなんかに引っかからないわよ!』って気を張っておけば、どうにかなるって」
祥子が朗らかに言い切り、舞は表情を和らげる。
「ということで、アミュレットの機能も確認しておいたほうが良さそうね」
「じゃあボクが皆にスリープの魔法をかけるから、2人ほどブレスレットを外してくれない? サチコさんには後で《リフレッシュ》かけてもらうから、アミュレットつけといてね」
スリープの魔法がちゃんと働くのか、それをアミュレットが無効化できるのかを同時に試すのだろう。
朝香と凛太郎がすっと右手を挙げて意思表示する。
「あ、ちょっと待って。朝香も凛太郎さんも眠気くらいは気合で跳ね返しそうだから、凛太郎さんの代わりに光希君がやってみてよ」
「えっ、僕!? よ~し。智っちには負けないぞ」
指名された光希は、謎のやる気を見せる。
「え、勝負なの? 最強魔法使いとして負けられないな」
「いやいや、勝負じゃないから!」
祥子は一応ツッコミを入れたが、この2人には効いていないようだ。
そんなわけで、朝香と光希がブレスレットを外し、テーブルに置く。
「協力感謝! じゃあ行くよ~。《スリープ》」
呪文の後、わずかに空気が揺らいだ。
ブレスレットの宝石の一つが赤く光る。状態異常の魔法を感知して、それを無効化したのだ。
一方ブレスレットを外していた2人は……。
「猛烈に眠くなってきたけれど、頑張ればどうにか」
朝香は歯を食いしばったり頬や足を叩いて刺激を与えたりして、どうにか睡魔に抗ってみせた。
一方、光希はゆすっても起きないレベルで爆睡していた。
「智っちに負けた……」
リフレッシュの魔法で目を覚ました光希は、肩を落とし、どんよりとした空気をまとう。
「ボクは1勝1敗かぁ」
「いいじゃない、2人とも。スリープとリフレッシュの効果とアミュレットの動作確認がいっぺんにできたんだし」
と、軽い調子で祥子が締めた。
毒やまひなどのダメージを与える魔法に関しては、仲間に使うのは気が引けて、テストは見送った。
「とりあえずの方針としては、王国の人たちには友好的な態度をとっておく。切り札となる魔法やスキルは伏せておく。邪妖族とは対話を試みる。情報収集をする。いざという時には逃げる。こんなところでいい?」
凛太郎が挙手する。
「今のところ脅威度の高い人物とは出会っていないが、俺たちには想像も及ばない魔法や魔道具が存在しているかもしれない。安全のため、できるだけ単独行動は避けよう」
賛同と了解の声が上がる。
「他に話しておくことはある?」
「えっと、皆に聞いておきたいんだけど」
と、舞はおずおずと口を開く。
仲間たちは続きを促すようにうなずく。
「元の世界に戻るのを、諦めてないよね?」
「もちろん!」
力強い肯定が返ってくる。
「早く帰らないと、レコーダーの容量オーバーしちゃうもんね。今期のアニメは面白いのばっかりでさ~」
「私も来月のイベントで新衣装お披露目するんだから、絶対に帰る!」
「お前ら本当にブレないな」
マイペースな智也と祥子に凛太郎が突っ込む。そして仲間たちが笑う。
異世界に来てもそこは変わらなかった。
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