番外編(後編)
『じゃあこれからデミトリア帝国の真実を暴くショーをやるから、大きなスクリーンで見てみてね~』
陽気な声が通信機を通して聞こえてくる。
二人は了解した旨を告げて通信を切る。
レッドさんは何もないところ(アイテムボックスというらしい)から水晶玉のようなものを取り出すと、砂の上に置いた。
「これは受信した映像を大型スクリーンに映しだす魔道具なの。お互いの姿を見ながら通話することもあるから、念のためにまた変身するわね」
準備が整ったところで魔道具のスイッチを入れる。すると、水晶玉の上に大きなスクリーンが現れた。
広々とした部屋に椅子が並べられ、召喚された日本人たちとこの世界の人たちとが左右に分かれて座っていた。
戦隊ヒーローの人たちは中央正面のスクリーンの脇に立っている。彼らの肩や足元に、聖獣らしき動物がいる。
「それじゃあ聖獣ちゃんたちが調査した内容を教えてあげるからね~」
司会を務めるのは銀色の人だ。
魔道具を操作したようで、スクリーンに映像が流れ始める。
映し出されたのは、大きな地図を囲むようにして立つ男性たち。皆、豪華な服を身にまとっている。
本人たちは撮影されている意識がないみたいだから、聖獣の誰かが隠密状態で撮ったのだろう。
「まずはこの国の偉い人たちの会議の様子からだね。皇帝陛下に神官長、軍務大臣。今ちょうどここにそろってるね」
銀色の人が愉快そうに指摘する。
映像は会議の様子を映し出す。
『此度の召還では、強そうなスキルを得た者が多かったようだな』
『はい、皇帝陛下。これでにっくきユナルス王国を攻め滅ぼすことも可能となりましょう』
『召喚者どもをおだてあげつつ鍛え上げ、戦では最前線で戦わせよ』
『はい。召喚者たちにはすでに”隷属の腕輪”を装着済みです。どんな魔法や武器をもってしても破壊できない魔法金属で作っており、私どもの解錠の呪文がなければ外すことは不可能です。これで我らの命令には絶対に逆らえません』
『これで我が国の兵の犠牲を減らすことができる。素晴らしいな、異世界召喚は』
男たちは笑い声をあげる。
映像を見ていた日本人たちから、悲鳴やブーイングがわき起こる。
「あたし、日本に帰る! 戦争に行くなんて聞いてない!」
「俺も命のやり取りなんて、ごめんだ」
「腕輪っ! この腕輪誰か外してよーッ!」
一方、この国の人たちは、開き直ったように大笑いする。
「馬鹿どもめが。貴様らなんぞ、使い捨ての駒でしかないわ」
「我らに逆らえば、その腕輪を通して魔力の雷が体中を駆け巡るぞ?」
挑発するような笑い声を浴びせられ、何人かの男の人たちは我慢できなかったようだ。
「ふ、ふざけるなーッ! 人をなんだと思ってるんだ」
殴りかかろうと腕を振りあげたとたん、その人たちは悲鳴を上げた。
「ぎゃあああ。いてっ、いてえーッ」
彼らは涙を流しながら床を転げ回り始めた。
「うそ。何よこれ。帰りたいっ。今すぐ家に帰りたーい!」
目の前で起きている惨状に、周りにいた女性たちは泣き出してしまった。
辺りはすっかりパニック状態になっている。
「さすがにこれは、傍観できんな」
黄色の人が低くつぶやくと、床でうめいている人のそばにかがみこんだ。片手の親指と人差し指で腕輪をつまむと、パキッと音を立ててそれは壊れた。
「え」
「うそ」
部屋にいた人たちは、デミトリア帝国の人も日本人も皆、目が点になっている。
「お、俺のも外してくれ」
「あたしのも!」
黄色の人に、日本人たちが殺到する。
手際よく腕輪を破壊していると、デミトリア帝国の人たちが我に返ったようだ。
「おい、衛兵ども。こやつらをどうにかせんか!」
皇帝が怒鳴ると、背後に控えていたらしい衛兵たちが武器を構え動き出す。
しかし――。
「はい、氷の壁ー」
銀色の人がのんきな声とともに氷の壁を出現させる。ちょうどデミトリア帝国の人たちだけを隔てるような位置だ。
「氷の壁なんぞ、炎の魔法ですぐに融かしてやるぜ」
帝国の兵士が魔法の炎をぶつけるけれど、氷の壁には炎が当たった跡すらついていない。
「こんなもの、殴れば割れるだろ。ハァッ!」
縦にも横にも大きな人が、拳で殴りつける。
が。
「いでえええー! なんだこれ!?」
拳をさすりながら自分が殴った辺りをしげしげと見つめる。
壁にはひび割れ一つ見当たらない。
「フフフフフ。”水色”相手なら超級魔法なしでも無双できるんだよ。……ハァ。自分で言っててむなしくなってきた」
銀色の人が得意げにしゃべりだしたかと思えば、後半急にしょぼくれてしまった。
「シルバー……。あなたは賢者なんだから、突出した頭脳があるでしょ?」
黒い人がフォローしてあげている。
帝国の兵士たちはいろいろな攻撃を繰り返しているが、氷の壁はびくともしない。
「じゃあ今のうちに回復しておくわね。『ヒール』!」
緑色の人が祈るようなポーズをとると、床に転がっていた人たちが元気に立ち上がった。
「全然痛くない! しかもけがまで治ってる!」
「あっ。俺も訓練中についた傷が消えてるぞ」
日本人たちの間に活気が満ちる。
「なっ!? あれは、聖女の治癒魔法か? あんな短時間で複数人にこれほどの回復効果を出せるなんて」
帝国の人たちにとっても、それは驚嘆するほどの能力だったようだ。
ざわざわする空気を切り替えるように、銀色の人がパンパンと手をたたいた。
「はいはいーい。次は、邪神について報告するよ」
中央のスクリーンに、また映像が流れだす。
聖獣たちが小さな姿で文献を調べている。小さい姿で人間のように本を開いたり読んだりしていると、なんだか可愛い。
この映像は、どうやらオオカミの聖獣の視点でとらえたもののようだ。時々黒い前足が見えるから。
この中にアイスタイガーがいないのは、僕を護衛するために別行動していたからなんだな。
彼らが調べた文献によると、およそ千年前、国境付近に突如”邪神”が現れたそうだ。
山ほどの大きさ、背中には銀色の翼。手にした槍は、天をも衝く。などと記されていた。
人々は未知の巨人におののいた。
魔法も武器も、その巨人には全然通じない。
その巨人の槍のひと薙ぎで、大地がえぐれ山が砕けた。
兵たちは直撃をくらわなくても、風圧で遠くまでふき飛ばされた。
人々はそれを邪神と呼ぶことにした。
背中にある大きな翼。それは神の証であると言い伝えられてきた。それが人間に対して牙をむいてきたので”邪”神なのだそうだ。
邪神を倒すため、周辺諸国は手を取り合い、戦った。
絶望的な戦いであったが、人類の存続のため人々は抗い続けた。
およそ3年後。ついに邪神は動きを止め、眠りについた。
その巨体は長年の風雨にさらされ、岩山と同化しているという。
緑色の鳩型聖獣は、スクウンジャーを連れてくる、と言って離脱。
ファイヤーバードは連絡係としてこの場に残ることになった。
文献に載っていた場所には、フクロウ、オオカミ、龍の聖獣たちが向かった。
岩山にうずもれるようにしてそこにいたのは、まるで巨大なロボットだった。
片膝をついた状態でうつむいていて、右手には立てた槍を握りしめている。
聖獣たちは次に、その巨大ロボットの体を調べた。
彼らは本来の大きさに戻り、魔法や特殊な能力を使った。
結果として分かったのは、動きが止まったのはエネルギー切れ、長期間野ざらしだったため一部故障している、だから動かないのだ、ということ。
彼らは魔法を用いて「ちょちょいのちょい」で巨大ロボットを修理して、最低限の動作ができるだけのエネルギーを補充した。
目に光が宿った巨大ロボットに、聖獣たちが尋ねる。
『あなたは何の目的でこの場所に来て、ここで何をしていたか思い出せますか?』
『私は女神様より遣わされた存在。美しき箱庭を我が物顔で汚し、同族同士で殺し合うばかりの人間たちに制裁を加えるために地上へ降り立ちました』
『あなたはこれからどうしたいのですか?』
聖獣たちに問いかけられて、巨大ロボットは即答した。
『私の意思は関係ありません。女神様からの次の指示があるまで待機いたします』
『では次の指示がないか、女神様に聞いてみましょう』
白銀色のフクロウが、上品に宣言する。
『巨人ちゃんが来た場所を特定できましたので、そこへお手紙を送ってみましょう。突然うかがうのは、不躾ですものね。ホホホホ』
そしてどこからともなく取り出した紙に、ペンも使わずに(魔力を使ったらしい)手紙を書きあげた。
手紙を魔法で送信してしばらく後。
聖獣たちは、この世界の女神様と対面していた。
大きな聖獣とほぼ同じサイズということは、ものすごく大きな神様なんだ。
彼女はとてもまぶしい光をまとっていて、シルエットだけがかろうじてわかる。
『この世界のものが私の姿を見てしまうと、目がつぶれてしまうのだ』
そのために自身の周囲を光で覆っているそうだ。
映像を見ている帝国の人たちの中には、拝みながら感涙にむせぶ人たちまでいる。
映像は続く。
女神様は、千年前に巨人を遣わせた後、この世界のことは放置していたらしい。一度人間に汚されたことで興味を失ったそうだ。
『私が作った箱庭は、ここだけではない。手紙を読んでも、はてどこの箱庭のことであったか……と、しばらく考え込んでしまった』
帝国の人たちは、それを聞いてショックを受けている。
デミトリア帝国は他国との戦争のために、異世界から人間を召喚して戦わせている。と聖獣が今回調べたことを話すと、女神様は心底呆れたようなため息をついた。
『自らの手を汚すこともせず、また傷つくことをいとい、異世界の人間に戦を肩代わりさせるとは。つくづく見下げ果てた人間どもよな』
女神様はしばらく何か考えているようだった。
『フム。こういうのはどうだ? 戦をしたいという意見を表明した者は、その瞬間に最も危険な戦場へ転移される。誰かを脅して、戦いたいと無理やり言わせるのは無効とする。この世界の理をそのように書き換えれば、戦いたい者だけが存分に殺し合い、最後には戦をしたい者はいなくなってしまうのではないか?』
女神様の声は、楽しげだ。
『もしもそれが一方的な侵略で、相手側に戦う意思がない場合は、どのような場所へ転移されるのでしょうか?』
代表してフクロウの聖獣が質問する。
『そうだな……。異空間に転移させ、戦意を喪失するまでそこで本人のコピーと戦わせるとしよう』
女神様はまるで今すぐそれを実行しそうな雰囲気だった。
『世界の理を書き換える前に、神託を下しておいたほうが良いのではないでしょうか? 事情を知らない他国の人間は、さすがに混乱するでしょう』
『ウム、一理あるな』
女神様は納得してくれたようだ。
神託は今日の日没時に行い、日付が翌日に変わった瞬間に世界の理を書き換えるらしい。
そうして女神様は、自らが作った巨人をともない一瞬で姿をかき消した。
「はーい、上映会は以上で終了で~す。じゃあ帰宅を希望する人たちは、こちらへどうぞ。おっと、その格好で戻るわけにはいかないね。元の世界の服があるなら、着替えてこようか。じゃ、この世界の人たちは勝手にどうぞ~」
「平和を維持する限りなんの問題もないんだから、平気よね?」
皇帝たちは、その言葉に言い返すことはできなかった。
*
その後僕たちはお城の前で他のスクウンジャーたちと合流した。
僕と一緒に召喚された人たちは、すでに日本に戻っている。
シルバーさんたちが鑑定したところ、彼らのスキルは「人間レベルのすごさ」なので、普通に生活する分には問題ない、とのことだった。
簡単な挨拶を交わした後、ブルーさんが早速僕のステータス画面について話してくれた。
「なるほどなるほど。これはシリル先生の出番だね」
「『僕の』って言わないんだ……」
ブラックさんがつぶやく。顔は見えないけれど、なんだか遠い目をしているような気がする。
シルバーさんが大きな本を取り出すと、そこに不思議な力(魔力らしい)をこめた。
やがて本がひとりでに開く。
「どうやら古いバージョンのシステムみたいだね。プログラムの書き換えをすると改善されるって」
僕が自分のステータス画面を表示させて、それに対してシルバーさんが魔法で文字のようなものを書き込んでいく。
魔法の光はすごくきれいで、思わず見とれてしまう。
「よし、終わったよ。自分で設定をいじれるようにしたから、やってみようか。まずは右上の『設定』って書いてあるところに指で触れてみてね」
――と、指示されたとおりに動かして、僕のステータス画面は他の人たちから見えないようになった。
「これで日本に戻っても大丈夫だね」
顔は見えなくても、ブルーさんのにこにこした顔は想像できる。
「はい、皆さんありがとうございました」
僕は小さくなった聖獣たちを撫でさせてもらい、スクウンジャーの皆とは握手を交わした。
「健太君、身体に気を付けてね」
「お母さんと仲良くね」
「なんちゃって聖女の私からは、良いことがあるおまじない☆」
「一人で抱え込もうとするなよ。つらい時には正直に声を上げろ」
「健太君には相手が安全かどうか見極める力があるんだから、信用できる相手には相談してもいいと思うよ」
「生活の時間に余裕ができたら、特撮ヒーローものも見てみてね☆」
6人のヒーローたちから、順番に言葉をかけてもらう。
彼らにそれぞれ返事をして、お別れの時を迎えた。
*
そうして僕は日本に帰ってきた。
事前に聞いていた通り、召喚された直後の時間に戻れたため、アルバイトに遅刻することはなかった。
すぐに調べたのは、テレビ番組表だった。
だけど現在放送している戦隊ヒーローは、スクウンジャーではなかった。
あの人たちはもしかして、僕がいるのとは違う時代から来たのかもしれないな。
そのうち会えるかもしれない。そんな気がした。
鑑定眼のスキルは確かに有用で、生きていくうえでかなり助けられた。
お母さんに再婚を考えている相手ができた時、その人が「安全」だから僕はためらわずに背中を押せた。
そして僕は吉崎健太になった。
新しいお父さんは堅実な人で、小さな不動産会社を営んでいた。
おかげで僕は大学まで行かせてもらい、お父さんの会社を手伝うようになった。
会社は少しずつ大きくなり、郊外の遊園地を手に入れることができた。
連休時期などはヒーローショーを開催し、その都度彼らのことを思い出した。
どうにかして恩返しできないだろうかと、まずはヒーローショーのスタッフたちの待遇を改善することから始めた。
異世界から戻ってきて40年あまりが過ぎたけど、僕はずっと戦隊ヒーローの番組を見続けている。
そして、次年度から放送される戦隊ヒーローのタイトルを聞いて鳥肌が立った。
「勇敢戦隊スクウンジャー」
ヒーローたちのキャラクターは、僕が出会った彼らとはずいぶん違うようだけど。
その年のヒーローショーのアルバイトを募集した時、予感があった。
彼らにまた会えると。




