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エピローグ

「皆さんお疲れ様でした。乾杯!」

 ジュースの入ったグラスを掲げ、スーツ姿の男が乾杯の音頭をとる。

 この遊園地のオーナー、吉崎である。


 夕暮れの近づく遊園地。

 レストランの2階を貸し切りにして、スクウンジャーショーの出演者とスタッフが集まっていた。

 窓からはパレードの様子がよく見える。


 ヒーローショーは好評のうちに最終日を迎えることができた。

 打ち上げをするからと事前に連絡をもらっていたので、6人はいつもよりちょっとだけおめかしをしている。


 オーナーの挨拶と乾杯が終わったので、各自好みの食べ物を取りに行ったりおしゃべりを始めたりしている。

「このレストランのバイキング、種類がたくさんあってすごくおいしいって評判なんだよね~」

 智也はウキウキで料理の並んでいるコーナーに向かう。


「私たちも行きましょ。デザート類も一度では制覇しきれないくらい種類があるそうよ?」

 祥子の言葉に、女性陣が期待に瞳を輝かせる。


「そうだな。せっかくだから、ごちそうになろう」

 結局6人はそろって食事を調達して、一緒のテーブルで食べ始める。


 おいしい食事に、皆の顔がほころぶ。

「ここのバイトって、食べ物関係充実してたよね~。お弁当もおいしかったし」

「うん。僕も何気に毎回楽しみにしてた」

「お給料もすごくいいしね。時給につられてバイトに応募した人も多かったみたいよ?」

「あー、そうそう。面接の時にそういうことをズバッと言った人いたよ~」

 光希の話を聞いて、「マジかー」という顔になる一同。


「ボクはスクウンジャー含めて特撮ヒーローへの愛を語ったよ。ボクのセールスポイントってそこしかないからね。記念みたいな気持ちで応募しただけだから落ちてもいいやって思ってたのに、採用の通知が来てビックリしたよ」


「それは私もだわ。スクウンジャーもコスプレも大好きだから、チャレンジしただけだもの。演技は素人、アクション経験もないしね」

「凛太郎さんや舞ちゃんみたいに、アクション面で即戦力の人が採用されたのはわかるんだけどね」

 そう言う朝香は、志望の動機に「友人に誘われたから」と正直に書いていた。書類選考で落ちるだろうと思っていたのにまさかの採用。


「僕なんかも、どうして採用されたんだろうって自分でも思っちゃうよ。友達がシャレで勧めてきたんだよねー。賢者のキャラクターが銀髪だから、金髪の僕でもいけるか試してこい、って。ステージでは顔なんか出さないから、関係ないのにね」

 光希はアハハ、と軽い調子で笑う。


「君たち、長い間お疲れ様。暑い中大変だっただろう?」

 オーナーの吉崎が笑顔で声をかけてくる。

「吉崎オーナー、お疲れ様です」

 6人は一斉に立ち上がる。

「ああ、座って座って。これは出演者とスタッフを慰労するためのパーティー、私は感謝の意をささげる立場だよ」

 オーナーはにこやかに着席を促した。


「毎年夏休み時期にはヒーローショーを開催しているけれど、今年は特に好評だったよ。ヒーロー役の動きが、回を重ねるごとに良くなっていると。まさか本物が入っているのでは、なんて言う人も出てきたくらいだったよ」

 オーナーは冗談めかして笑っているが、朝香たちはドキッとしてしまう。

「ダンスや殺陣のレッスンも受けさせていただきましたし、6人で自主練めいたこともしていましたから、そのせいではないでしょうか」

 代表して朝香が無難な答えをする。


「君たちが積極的に取り組んでくれていたことは、スタッフや出演者たちからも聞いているよ。このままうちで雇いたいくらいだよ。もし進路に迷ったら、ここも選択肢のうちの一つに入れておいてほしいな」

「ありがとうございます」

 6人は頭を下げ、オーナーと少し会話を楽しんだ。

 やがて他の出演者に挨拶をするため、オーナーは離れていった。


「遊園地の職員。アリかもね~。大人も子どもも笑顔にできる職場って、いいよね」

 光希は前向きに検討しているようだ。

「ヲタ活に支障がなければ、確かにいい職場っぽいわね。私の家からはちょっと遠いけど」


「吉崎オーナーって、学生時代は苦労したそうよ。母子家庭で育って、家計を支えるためにアルバイトをして。高校の進学もあきらめて就職しようと考えていたけれど、それはお母様に思いとどまるよう説得されて……」

 アルバイトをするにあたり、朝香は遊園地の公式サイトや企業の情報を調べていた。

 オーナーの成功譚についてのインタビュー記事もあり、それも読んでいる。


「高校に進学した後、母親が再婚して、バイト漬けの日々から解放された。その後猛勉強して社会に出て成功を重ねたが、あの頃の苦労を忘れるわけにはいかない。だからやる気のある若者たちには、成功をつかむ機会を与えたい。と話していたな」

 凛太郎も同じ記事を読んでいたようで、続きを語ってくれる。


「それでここのバイトの条件がすごく良かったんだ」

 ほへー、と智也がため息をつく。


「オーナーがああやって声をかけてくれたのは、私たちの頑張りを評価してくれたから、なのかな」

 他のスタッフたちと話しているオーナーの後姿を、6人は感謝のまなざしで見つめるのだった。


「ところでバイトも終わったことだし、今度6人でどこか行かない?」

「おっ。『朝香の夢中になれるもの探しの集い』ね?」

 光希の提案に、祥子はその意図をくみ取る。


「じゃあ自然が豊かなところへ行こうよ。充電充電♪」

 智也が弾んだ声を出す。


「オッケー。日帰りで行けそうな場所を探してみるね。ヘイ、シリル先生」

 光希が自分のスマートフォンに話しかける。

 スマートフォンのアプリに偽装して、「シルバーの魔法書」を格納しているのだ。


 いくつかの候補地が表示され、6人でその画面をのぞき込む。

「山がいいわねー。この山には滝もあるって。マイナスイオン浴びに行こ?」

「最寄りの駅から少し距離はあるけれど、今の私たちなら徒歩で十分行けるわね」


 *


 元の世界に戻った時に、ステータスの確認を行った。

 自動翻訳機能は、オフになっていた。本人が所属している世界のため、その必要がないからだろう。

 魔法、スキル、アイテムボックスなどは消えずに残っていた。

 変身するためのブレスレットは、アイテムボックスに収納されていた。


 6人は今後の方針を話し合った。

「先に言っておくが、力を持つがゆえに社会のために奉仕しないといけない、などという義務感を抱く必要はないからな?」

 凛太郎がずばりと釘を刺してきた。


「うんうん。真面目な子はそういった義務感にとらわれがちだけど、異能持ちだとばれたら何をされるかわからないのが人間の世界の恐ろしさだものね。特に、世界中いたるところに防犯カメラがあるから、本人特定される危険も大きいものね」

 祥子も凛太郎の発言に同意する。


「そうだね。本人特定からのネット上での情報拡散、挙句には『こんなすごい力持ってるなら~~すべき!』という押しつけ。断ったら『人でなし』呼ばわりからの総叩き。うん、今の地球では普通にありそうだね」

 光希の例えは、実際にありえそうだ。

「あとは秘密組織に捕まって人体実験とか、家族や友達を人質にとられて破壊活動を強要されるとかね」

 智也の例えも、ありえるかもしれない。


 基本方針としては、今まで通りの生活をする。

 魔法やスキルは周りに感知されないように使う。使わないのが一番いいが。

 自分たちの能力は、他の人間に口外しない。


「人間の域を出ない程度の社会貢献なら、いいんでしょ? 被災地の復興ボランティアとか」

 智也が具体例を挙げる。

「本人のこれまでの身体能力を著しく超えた動きをしなければな」

「この夏のアルバイトで体力がついた、って言い訳が通じる程度にしておくよ」


「観光地のお寺や教会で世界平和をお祈りするのは、アリよね?」

 祥子がニヤニヤしながら確認を取ってくる。

「祈る際に発光するようなエフェクトが出なければ大丈夫だろう」


「空港や駅に『悪事を自白したくなる魔法陣』を魔力で刻むのは?」

 光希が挙手しながら聞いてくる。

「いや……、公共の施設内に魔法陣が現れたら、妙な注目を集めないか?」

 凛太郎が返答に困り、常識人枠の2人に目線を送る。


「魔法陣が目視できない状態なら、セーフかしら」

 朝香が首を傾けながら舞に確認する。

「うん。空港や駅なら待ち合わせしている人が多いから、黙って座っているだけなら不自然ではないと思う。おかしな挙動さえしなければ」


 そこで光希は「許可した者にしか見えない魔法陣」を考案することになった。


 *


 6人は山道を歩んでいる。

 周辺に他の人間はいないが、万が一に備えて「何気ない雑談をかわしている」という幻影をまとわせている。


「あー、空気がおいしいわ」

「魔素もほどよく濃くて、体中に魔力がみなぎってくるね~」


 この世界にも、魔素はあった。

 人が多い場所、人の手が加わった土地などでは希薄だが、あまり人の訪れない自然豊かな場所では、魔法が使えるほどの魔素が存在している。

 もちろん、妖精の森や魔族の国のそれとは比べ物にならないが。


 魔王や妖精女王と「文通」するための魔素は、本人の体内にある魔力を消費すれば問題ない。本人自身が保有する魔力は、食事や睡眠で回復可能だ。

 1通の手紙を複数の宛先に同時送信する方法まで編み出したので、労力はさらに減った。薄くて軽い便箋を数枚送信したところで、負担はない。


 ちなみに手紙の送受信にはA4サイズのクリアファイルを使っている。

 クリアファイルの内側に送受信用の魔法陣が刻んであり、手紙を入れて魔力を注げば送信することができる。魔王や妖精女王の手紙を受信したときは、クリアファイルの中に手紙が現れる仕組みとなっている。

 光希が魔力で刻んだこの魔法陣は、6人以外には目視不可能となっている。

 クリアファイルの色に6人のイメージカラーをわざわざチョイスしたのは、お約束だ。


「妖精たちの間では、ファズマ王国の定点観測が人気の娯楽になっちゃったみたいだね。聖獣ちゃんたちが刻んだ魔法陣の周辺で起きる『ざまあ』劇が、時々すごく笑えるみたいで」


「昨日女王様から届いた手紙にあったわね。複数の女性に愛をささやいて利用していたクズ男が、魔法陣の近くでその女性たち全員と鉢合わせして、彼女たちからもれなくビンタもらって前歯全損したとか」


 あの魔法陣はファズマ王国の人々から忌避されるかと思ったが、時折「小さな幸運」に恵まれる人物もいるため、「自分も」と思った者が足を運ぶようだ。


「フィアード様のほうは、人間の国と友好を深めるために、色々始めたみたいね」

「ルールが覚えやすいオセロが人気みたいだね」

「あとは、『同人誌即売会』ね」

 祥子がふふっと笑いながら言う。


 自分の研究を発表する場所を得て、研究熱心な魔族は張り切った。

 そして「同人誌即売会」ではコスプレをするもの、という誤った認識を持った魔王が、参加する者は何かになりきった衣装を身に着ける、というルールを作ってしまった。


「イベントが終わったら、ぜひその時の写真を送ってほしいよねえ」

 のんびりとそんな話をしていたその時。


 時空のゆがみと接近してくる強力な魔力。

「えっ、何!?」

 身構える6人の前に現れたのは、緑色のぽってりした鳩――ホーリーピジョンだった。


『事件だッポ―! 出番だッポ―』

「え、どういうこと? 何が起こっているの?」

 祥子が差し出した手に、ホーリーピジョンが留まる。


『異世界召喚が起きた世界に行ってみたら、召喚された人間たちが日本語をしゃべってたッポ! しかも10人ぐらい呼ばれたうちの一人が”ハズレスキル持ち”だからって追放されたッポ!』


「おお! ラノベの王道ネタ!」

 智也と祥子の目がキラキラと輝いている。


 異世界召喚された人物を元の世界に戻すのは、聖獣たちだけで可能なはず。

 わざわざそれを言いに来たということは……。

 朝香、凛太郎、舞は同じ予感を胸に抱く。


『勇敢戦隊スクウンジャー、出動だッポ!』

(やっぱりかー!)

 朝香たちは心の中で突っ込む。


「オッケー。見学……じゃないや助けに行くぞー、オー!」

 智也が一人で右手を高々と挙げる。


「でも、異世界間の移動には大量の魔素が必要でしょう?」

 朝香の素朴な疑問に、智也の笑顔が固まる。


『そこは抜かりないッポ』

 ホーリーピジョンは胸をそらす。

『フィアード様から魔竜のフ……魔貴石を往復分もらってきたッポ!』

 その手回しの良さにあぜんとする。


「やったね! 冒険から帰ったら、フィアード様にお礼の手紙書かないとね♪」

 智也と祥子がキャッキャとハイタッチをかわす。


「さあさあリーダー、出発の号令よろしく」

 祥子が可愛くウインクしながら朝香を促す。


 5人と1羽の視線を受け、朝香は小さく咳払いする。

「異世界召喚された日本人救出のため、スクウンジャー出動よ!」


 6人のヒーローたちは、新たな冒険へ飛び込んでいくのだった。

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