さようならと、もうひとつ
それぞれが充実した時間を過ごし、妖精城に帰還した。
仕事を終えた聖獣たちも戻ってきて、幼体バージョンで地上に降り立った。
「皆、お疲れ様。子どもたちを怖がらせる役なんてやらせて、ごめんなさいね」
6人は自分の聖獣と向き合い、ねぎらいと謝罪の言葉をかける。
『なんのなんの。これも異世界召喚を二度と行わせないための大事な仕事じゃわい』
おそらく一番精神的ダメージを受けているであろうアースドラゴンが、けなげにも明るく答える。
「アースドラゴン、えらいえらい」
祥子がアースドラゴンの頭を撫でる。
『サチコー、ボクも天変地異エフェクトで頑張ったッポ♪』
「うん。皆も頑張った。えらいえらい。よーしよしよし」
聖獣をモフりながら、途中から違うキャラになる祥子だった。
『私たちは明日あなたたちを見送ったら、それぞれに別れて時空を旅することにします』
ファイヤーバードが口調を改め、朝香たちに告げる。
「そう。聖獣の皆で話し合って決めたことなの?」
『ええ。異世界召喚が行われるのは、この世界に限らないでしょう。召喚されて困っているひとを助けたるつもりです』
『魔王殿が発案し、ミツキが完成させたシステムを利用すれば、彼らを元の世界に戻すことは可能ですから』
クリスタルオウルが誇らしげに説明する。
「うわー、かっこいいなあ。世界を飛び越えての大活躍か」
智也の目はヒーローを見つめるようにキラキラしている。
「自力で異世界間の移動ができるなら、私たちの世界にも遊びに来てね? たまにでいいから」
ホーリーピジョンのふかふかの羽毛に指をうずめながら、祥子が微笑みかける。
その言葉に、聖獣たちは『もちろん!』と請け合ってくれた。
*
お城の前の広場には魔法の明かりが灯されていて、大小さまざまなテーブルが並び、料理や飲み物が用意されている。
まるでお祭り会場だ。
「女王様、お帰りなさい! えっと魔王……様と勇者様たちも」
妖精たちが口々に声をかけてくる。魔王のことはまだ怖いようだ。
「よしよし、ちゃんと宴の用意を整えてくれたようじゃの」
妖精女王はそう言って妖精たちをねぎらい、魔王と勇者たちを振り返った。
「フィアード殿、勇者殿と聖獣たちよ、本当に感謝しておる。もしも召喚されたのがフィアード殿でなければ、この森も妖精も無事では済まなかったやもしれぬ。そして勇者としてお主たちが召喚されなければ、わらわはずっと石のままであったであろう」
妖精女王は深々と頭を下げる。
「あ、頭を上げてください女王様~。私たちみたいな普通の人間にそんなことしちゃ駄目ですよ~」
あわあわと祥子が制止の言葉をかける。他の面々も同様の行動をとる。
「スクウンジャーの諸君には、私も感謝している。君たちが現れなければ、私は未だに元の世界に戻る方法を探し続けていただろう」
そして魔王も美しいお辞儀を見せる。
「ぎゃあー、フィアード様まで。これは絶対確信犯(誤用)のお辞儀!」
「感謝しているのは本心からだ。君たちのおかげで妹も魔族の国も守られたのだから」
「うむうむ。ではこれからは宴と行こう。妖精たちの食事が口にあえばよいのじゃが。酒もあるから、飲めぬ者は気を付けるようにな」
妖精女王が仕切り直し、「魔王と勇者への感謝の宴」が始まった。
テーブルに並んでいるのは木の実や果物、豆や芋など、森で手に入る食材が主に使われている。濃い味付けはなく、素材そのままの味を生かしつつ絶妙な風味付けをしてある。
「すごーい、おいしーい。なんだか元気が出てくるような気がするわ」
「さっきたっぷり使ったMPがどんどん回復するような気がするよ」
不思議がりつつも料理を食べる手は休めない。
「それは魔素が濃い土地でとれた食材を利用しているからじゃ。われら妖精族は魔素を摂取して生きておるからの。それを少しでも楽しく美味しくいただけるよう、工夫を重ねたのじゃ」
「素晴らしい知識ですね。畑は作らず、自然に実った食物を採取されるのですか?」
朝香の質問に妖精女王は「うむ」とうなずく。
「妖精たちの中には、植物の成長を早めたり、収穫量を増やしたりできるものがおるのでな。大量に収穫したとしても、食料がなくなることはないのじゃ。他にも水を酒やミルクに変える能力を持つものもおるぞ」
ちょうどよい、と妖精女王が招き寄せたのは、朝香たちが最初に戦った牛型妖精だった。
「こやつは水をミルクに変えたり、ヨーグルトやチーズを作ったりできるのじゃ」
「えへ。僕すごいでしょー」
牛型妖精は愛くるしい瞳で見上げてくる。
ちょっと和んだ空気に、3幹部が割り込んでくる。
「女王様、モー・ムーの奴は勇者殿の力で元の姿に戻してもらったのに、礼も言わずに立ち去ったのですよ」
モー・ムーと呼ばれた妖精は、ビクッと肩をはねさせる。
(OH! 超ヤなタイミングでの告げ口きたよ~)
(あの子だけ皆より先に元の姿に戻ったことで、やっかまれていたのかな?)
勇者たちはひそひそと話しながら成り行きを見守る。
「ほう。今バ・クーたちが申したことはまことか、モー・ムー?」
妖精女王のまとう気配がピリッと厳しくなる。
「は、はい女王様」
びしっと「気を付け」の体勢になる。
「わらわはお主たちに教えたはずじゃぞ? 親切にしてもらった時は、どのようにするのじゃったかな?」
諭すように優しい声なのに、なぜか不穏な空気が漂いだす。
「お礼を言います! あと、お返しもします!」
モー・ムーは直立不動の姿勢で返答する。
「お話し中失礼します。あの時は私たち敵対していましたから、何も言わずに去っても仕方なかったと思います」
思わず朝香たちは牛型妖精の肩を持つ。
「勇者殿はほんに優しいのう。しかし礼を失する行いは、妖精族の恥じゃ。かばいだて無用じゃ」
ほんわりといつもの笑顔で妖精女王が言う。
「勇者の諸君。妖精たちの問題については、彼女に任せよう。かくいう私は、この広場に整列させられた妖精たち全員から一斉に謝罪の言葉を受け取ったのだがな」
その光景は、さぞかし迫力があっただろう。
とはいえ、妖精たちが魔王に対して行ったのは、確かにひどいことばかりだ。
魔王を異世界召喚したこと。魔王は言われたとおりに妖精女王を奪還したのに、礼をしなかったこと。その後魔王を亡きものにしようと、ファズマ王国に魔王は悪であると嘘の情報を告げたこと。
「フィアード様がされたのは、確かに全力謝罪をしないといけないレベルでひどい行いだよね……」
人間と魔王がひそひそやっている間に、妖精女王のお話も終わったようだ。
3幹部たちは告げ口の件で「ちょっと」苦言を呈されていたが。
モー・ムーがとことこと進み出ると、
「勇者の皆さん、あの時はお礼を言わずに帰ってしまって、ごめんなさい。それから、元の姿に戻してくれて、ありがとう。お礼に僕の特技で出せるもの、あげるね」
と、丁寧に頭を下げた。
なかなかに心のこもった礼だ。
「丁寧なお詫びとお礼の言葉をありがとう。私たちもあなたに痛いことして、ごめんなさいね」
女性3人は腰をかがめてモー・ムーと視線を合わせる。
祥子にいたってはまた「よーしよしよし」を始めてしまった。
「ボクなんて麻痺攻撃しちゃったもんね。あの時はごめんね」
「手加減していたとはいえ、他の妖精たちには攻撃して撃退していたからな。俺たちも謝罪するべきだな」
勇者たちは妖精たちに向かって深々と頭を下げた。
「よしよし。これでお互いに禍根はなしじゃ」
妖精女王が笑顔で宣言し、人間、妖精、魔王、聖獣が思い思いに楽しんだ。
宴の後は男女別れて温泉を楽しみ、盛り上がったテンションのまま夜更けまでおしゃべりに興じた。
*
明けて朝。
「えっ。まさかの温泉イベントスルー!?」
ツッコミなのかボケなのかよくわからないことを叫ぶ光希には、祥子が笑顔でハリセンチョップをお見舞いする。
元の世界に戻るため、今は魔王の研究室に勇者たちとその聖獣、魔王と妖精女王が集まっている。
「昨日の宴も温泉もとても素敵でした。お部屋も可愛くて。女王様、本当にお世話になりました。他の妖精たちにもよろしくお伝えください」
「うむ。必ず伝えよう」
名残は尽きないが、いつまでも話しているわけにもいかない。
ほんの少し、寂しい空気が漂う。
「では、そろそろ帰るか?」
魔王があえてその空気を断った。
勇者と聖獣たちは顔を見合わせ合い、うなずく。
「じゃあ、皆で変身ね」
「オッケー! 最後の『本当の変身』だから、気合い入れちゃうよ!」
帰還の段取りを話し合った際に、戻るべき場所、時間だけでなく、服装についても検討した。
ヒーローショーの戦闘服を着た状態で異世界召喚されたら、本物の戦闘服に変化していた。
ということは、その逆を行えばよいのだろう。
例によって智也の発案だが、もう他のメンバーもそれが妥当だと納得できた。
「勇敢チェンジ!」
6人の声が重なり、彼らを象徴する色が輝く。
赤、青、緑、黄、黒、銀。
いつも通り気合いの入った名乗りの後、渾身の決めポーズまでしっかりやりきる。
『何回見てもかっこいい~』
聖獣たちには大うけだ。飛んだり跳ねたりして喝采を送る。
しかし妖精女王には気になることがあったらしい。
「レッドは炎をモチーフにしているようじゃが、使う攻撃魔法は雷属性だけじゃったような。攻撃魔法を使わないグリーン、イエロー、ブラックや、複数種類の魔法を使うブルーやシルバーはまあ分かるのじゃが……」
思わぬ指摘に、6人+聖獣の動きが止まる。
「さすが女王様。素晴らしい目の付け所だよ。それについては、視聴者の間でも考察がされていて……」
と、智也が代表して語る。
スクウンレッドは登場当時、魔法は使えなかった。ただ炎の聖獣ファイヤーバードと契約済みの剣士ということで勇者パーティーに組み込まれたのだ。
ストーリーが進むにつれ、回復魔法や転移魔法も覚えていった。
「それで雷魔法を習得したきっかけがまたアツいんだよ。敵の卑怯な罠にかかって大勢の人質とともにブルーが捕らえられていてね、抵抗できないブルーがボッコボコにやられた姿を見て、助けに来たレッドが怒りの広範囲スタン技を放つんだよ。アステリア王国で朝香さんがやったヤツね。で、その回からレッドとブルーが打ち解けた仲になるんだよ」
「長い、長いから」
だいぶ端折っているとはいえ、智也の話では未だに考察を語る域まで来ていない。
祥子が隣で智也の肩をゆさゆさしている。
「ドラマが後半に入りますので、そろそろキャラクターが強化されるのでは、と予想されています。その際に炎の魔法を覚えるか、ファイヤーバードの能力を活用した炎の技を使えるようになるのでは、という考察です」
凛太郎が代わって結論を述べた。
智也が不完全燃焼ぎみに表情を失っている。
妖精女王は感心しつつも、ドラマの続きが気になるようだ。
しかし残念ながら、視聴済みの話しか語ることはできない。
「手紙程度なら少量の魔力で送れるぞ」
魔王がそんな助言をしてくれる。
「もし地球に魔素がなくても、自分の体内にある魔力を使えばいいんだね。MPは時間経過や食事、睡眠なんかで回復するはずだから……。うん、アリだね!」
光希が目をきらめかせる。
(あの二人、もしかしてもしかしなくても、女王様と文通するつもり?)
(智也君と光希君なら、喜んでやると思う)
(害のある行動でもないし、好きなようにやらせてやろう)
残りの人間たちがひそひそやっていたが、ふと視線を感じる。
魔王も文通したそうにこちらを見ていた。
「もしよろしかったら、フィアード様も手紙のやりとりをされますか?」
朝香が遠慮ぎみにきいてみると、魔王は顔をほころばせた。それが確たる返事だった。
「完全に縁が切れるわけじゃなくて、うれしいわね」
「うんうん。聖獣ちゃんたちもたまに遊びに来てくれることだし、心置きなく帰れるわ」
6人は魔法陣の上に立つ。
「本当にお世話になりました」
「向こうに帰ったら手紙書きますね」
「お元気で」
「さようなら」
口々に送られる別れの言葉に、魔王も妖精女王もうなずいてくれる。
「アサカ、トモヤ、サチコ、リンタロウ、マイ、ミツキ。さらばだ。それから、魔王フィアードより君たちに祝福を。『よき出会いに恵まれるように』」
温かな光に包まれたと思った時には、目の前の景色はかすんでいた。
*
子どもたちの声が聞こえる。
「たすけてー、スクウンジャー」
「声が小さいよー。もっと大きな声で!」
司会のお姉さんの声まで聞こえてくる。
「たすけてー! スクウンジャー!」
出番だ。
6人のヒーローたちは、ステージへと飛び出していく。
本編はこれにて終了です。
あとエピローグと番外編があります。
完結の印をつけるのは最後の話をアップする時にします。




