召喚主、王国……。腐った臭いがぷんぷんするの巻
今からおよそ200年前。妖精族が住まう平和な森に、邪悪な魔王が現れた。
魔王が従えるのは、醜い姿の邪妖族。
森から出てきた邪妖族は、近くの人間の町を襲った。
ファズマ王国はその森と隣接しており、幾度も邪妖族に脅かされてきた。
魔王を討伐するため、兵士を森へ突入させたが、手も足も出なかったらしい。
そんな王国民を救うかのように、妖精族からもたらされた知識。それが召喚術だった。
王国はこの召喚術で勇者を招き、邪妖族に対抗してきた。
召喚した勇者たちは、国に攻め込んできた邪妖族を退けてくれた。
しかし諸悪の根源である魔王を討つには至らなかった。
王国の魔法使いは召喚術の研究に心血を注いだ。
より効率的に最大の効果を得られるように。
同じ地域で召喚術を頻回に行えば、魔素の枯渇が起きることが分かった。
大地がひび割れ、水が濁り、動植物が弱り死んでいった。
研究を重ねるうちに、最大の成果を得られる最短の期間は30年とされた。
「それで今回は私たちが呼ばれたのですか。この召喚術は他の国に協力していただくことはできないのでしょうか?」
メンバーを代表して朝香が訊ねる。その問いに、魔法使いたちは沈痛な表情を見せる。
「邪妖族の森と接しているのはここファズマ王国だけでして、他の国には被害がないのです。ですから――」
あとは察してほしい。そんな風に老魔法使いは首を振った。
「そうですか。では、元々森に住んでいたという妖精たちはどうなったのでしょうか?」
「文献によりますと、邪妖族に追い立てられ、森から逃げたようです。その時にファズマ王国に召喚術をもたらしたそうです。しかし、それ以降王国内で妖精を見かけたという話は聞かれません。妖精族は魔素の豊かな場所でしか暮らせませんから、人間によって切り拓かれた土地は住処としては不向きだったのでしょう」
「邪妖族がいなくなれば、妖精族も帰って来るかもしれません。妖精族のためにも、そのような日が訪れることを切に願っているのです」
プリンセスは夢見るように、きらきらとした瞳で戦士たちを見つめる。
「変身すれば『スクウンジャー』の力で戦えると思います。できるだけお役に立ちたいとは思っていますが、私たちには実戦の経験はありません。生活の拠点や訓練施設などは用意してもらえるのでしょうか?」
老齢の魔法使いは自信たっぷりの笑顔でうなずく。
「もちろんですとも。訓練は王家の騎士団に協力させます。衣食住の保障はもちろんのこと、興味をもたれたものは可能な限りご用意いたしますぞ」
あまりの優遇アピールに、逆にうさん臭さを覚える。
昨今のライトノベルやアニメなどで異世界召喚ものに触れている日本人の感覚では、召喚主に不信感を抱いてしまうのはしょうがない。
しかも相手は「王国」だ。異世界ものの作品では、腐敗率ナンバーワンだ(偏見)。
とはいえ警戒心をあらわにしていては、その後脱出する必要が生じた場合都合が悪い。今のところは協力的な態度をとっておくべきだ。
まさに今日智也が語っていた「異世界召喚された際の対応術」だ。
「もしも私たちが邪妖族やその背後にいる魔王を撃退した場合、元の世界に戻していただけるのでしょうか?」
老魔法使いは無念そうに首を振る。
「召喚術というものは一方通行のものでして、元の世界へ戻す手段はないのです」
「そんな。もう、家に帰れないの? 家族や友達にも会えないの?」
祥子は目をうるませる。
「祥子……」
呼びかけた朝香に、祥子は抱きつく。
(ウソ泣きだよ~ん)
朝香にだけ聞こえるように、ささやく。
しゃくりあげ、肩を震わせる姿は、どう見ても悲しみに暮れる乙女なのだが、彼女も演技派だ。
「皆様がたの今までの生活や将来を奪ってしまったことは申し訳なく感じております。ですが我が国も邪妖族の脅威にさらされ、民の犠牲が絶えないのです。なにとぞご協力のほどを。どうか、どうかお願いします……っ」
プリンセスが祈るように胸の前で両手を組み合わせ、幼さの残る顔にうっすらと涙を浮かべる。
朝香たちにはかけるべき言葉もなく、しばし沈黙が訪れた。
「僕たちには気持ちの整理が必要ですが、それには時間がかかるでしょう。まずは邪妖族と戦うための力をつけないといけませんね」
それまでずっと足元に目を落としていた光希が、顔を上げる。日英のハーフである光希は、サラサラの金髪に深みのある青い瞳、長身でモデルのような体型をしている。
よく「王子様」と称される整った顔を微笑ませると、プリンセスが何やら顔を赤らめる。
「まあ、ありがとうございます! それでは国王陛下の下へ案内いたします。詳しい話はそちらでいたしましょう」
胸の前で両手をそろえ、彼女は満面の笑みを浮かべた。
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